著者
城山 陽宣
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、東アジアにおける儒教を考える際に、その原点と末端、中心と周縁の双方に注意を払うことによって、中国・日本における儒教の展開と伝播を考察し、その本質を究明することを目指したものである。まず、東アジア儒教の原点・中心研究では、日本中国学会大会の発表等において、董仲舒の対策文書に関する福井重雅氏の考証の方法に対する疑義を提起した。また、董仲舒対策第三策の「六藝之科・孔子之術」に対する新たな解釈を提示し、対策が当時の朝野にいかなる影響を与え、またこれがいかに漢代思想史に位置づけられるのかについても卑見を提示した。次に「周縁的研究」では、清朝文化の日本への東伝という文化交渉の現象の中でも、とりわけ特徴的な一例である清朝の木活字出版「聚珍版」の東伝が日本の近世木活字の盛行をもたらした可能性について考え、清朝で生み出された木活字による出版を「雅馴」と見なす観念が、近世日本にも受容されていたことを確認し、中国を源流とする儒教思想が日本の社会へ受容されていったことと密接な関連があることが確かめられた。また2010年からは、大阪を代表する漢学塾であった泊園書院に関する研究も行ってきた。その第一弾として、藤澤南岳の蒐書思想を自筆稿本『名士九命草』の「藏書」を中心に解き明かすことを通じて、近代日本における民間の儒学・儒者の実態を明らかにすることを試みた。次に、これまで全く手付かずであった藤澤東〓・南岳・黄鵲・黄坡先生の自筆稿本の目録の整理を行い、「関西大学泊園文庫蔵自筆稿本目録稿-その(1)-」を提出した。以後自筆稿本目録完成まで順次発表していく予定である。
著者
宇佐美 幸彦 佐藤 裕子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ベルリンの大衆と芸術について、その具体的な例として、ハインリッヒ・ツィレおよびビルダーボーゲンという大衆的芸術活動の特徴をまとめた。ツィレが生涯一貫して風刺画のテーマとして描き続けたのは、彼が「第5階級」と呼ぶ社会の底辺で生きる人々の姿である。ビルダーボーゲンに関しては、グスタフ・キューン社の出版物を中心にその特徴の推移を検討した。この絵物語が20世紀に発展する漫画の先史となっていることは、大衆的芸術研究にとっては重要である。
著者
森 仁志
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

現代社会では、スポーツのナショナル・チームが国際試合で繰り広げるパフォーマンスやプレースタイルは、国民を表象する記号として機能する。本研究の目的は、ラグビーを事例として、代表選手の身体を通じて「日本らしさ」が語られ意味づけられるプロセスを提示・分析することにある。具体的には、日本と英国の国際試合をめぐる言説を両国のメディアから収集することによって、ラグビー「母国」と「後進国」のヘゲモニックな関係性のなかで、記号としての「ジャパン」(日本代表)=国民の表象が、いかに生成・流通・消費されてきたのかを明らかにする。
著者
松下 光範
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的はテーブルを囲む少人数参加者の合議に焦点を当て、知識の非対称性を有する参加者間のコミュニケーション様態と議論結果との関連性を明らかにすること、及びその協同を円滑に支援するためのテーブル型システム実現のためのデザイン指針を明らかにすることである。そのために、対面協調作業参加者の間のコミュニケーション行為に着目し、そこで行われるインタラクションの特徴を3つの実験を用いて観察した。実験の結果、(1)反射的応答を必要とする課題では、指を用いた直示行為の利用可否が発話内容と課題達成度に影響する、(2)熟考することが求められる課題では、他の参加者の非言語モダリティの参照可否は課題達成度に大きな影響を及ぼさない、(3)発話長や発話頻度は課題のタイプや非言語モダリティの利用可否に影響を受けない、(4)結合型課題では、グループ全体の効用が参照可能な状況下、かつ全ての参加者の代替案集合に対する評価が静的である場合に、より参加者全体にとって効用の高い案で合意できる可能性がある、ということが観察された。
著者
松下 敬一郎
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.135-148, 2006-09-20

近年の日本の少子化においては、子供をもたない女子人口割合の増加が顕著にみられ、4人ないし5人に1人の女子が無子を選択している。本論では、子供をもたないことが選択される端点解が最適となるモデルを用いて、子供の養育費用が増加することにより端点を選択する割合が増加することを示している。さらに、実証研究のための含意として、端点においては子供の養育に対する補助の効果が小さいこと、経済的に自立している場合には子供をもたないことが資産所有者の資産分布に与える影響は小さいこと、子供の需要増加に結びつかない結婚の奨励は離婚を奨励することになる可能性があること、資産継承は子供の需要増加に結びついており少子化を減速させることを指摘している。
著者
小澤 自然
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、V・S・ナイポールの初期作品に含まれる文化的異種混淆性についての考察を行なった。2008年から2009年度にかけては、彼が作家としての本格的なデビューを飾る前に関わったイギリスBBCの文芸番組"Caribbean Voices"についての調査を行ない、この番組との関係が彼の事実上の処女作Miguel Streetに果たした影響について考察し、学会発表を行なった上で、論文にまとめた。また2010年度には、ナイポールの中期作品群の出発点に位置する旅行記The Middle Passageについて分析し、学会発表を行なった。
著者
小野 善生
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の成果としては、まず、フォロワーの視点に基づいて最新のリーダーシップ研究を渉猟し、その動向と課題および今後の展望について4本の研究論文を上梓した。次に、実証研究に関しては、既存のI.S.T社フィールドワークによる事例研究の論文を1本、東海バネ工業株式会社の事例研究の論文を1本。さらに、現在分析中であるが、フォロワーシップ行動とフォロワーが有する時間展望の関係性を調査した定量的研究がある。また、これらの成果を広く社会一般に普及させるために、2冊の一般書を公刊することができた。最後に、学会発表については、リーダーシップに関する共同研究によるもので海外での発表が2回、国内学会の発表を1回行った。
著者
荒木 兵一郎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

精神障害者の自立生活と居住環境との関係について、一昨年度はグループホーム居住者を含む在宅精神障害者を、昨年度は自立度が最も低い入院患者と救護施設等の入所者を対象としたが、本年度はそれらと比較するため自立度が高い健常者(学生等38名、高齢者向け住宅居住者76名)を対象に同一の面接アンケート調査と行動観察調査を実施した。調査内容は、当該対象者の基本属性としてのとしての家族構成、障害程度、問題行動や特殊行動の種類と状況、日常生活動作能力(ADL)、生活歴(職歴、入院歴など)などをみたのち、各種の日常生活行為について、これに係わる空間構成との関係をみている。日常生活行為としては、就寝、食事、だんらん、接客、排泄、入浴、家事、および近隣や友人との交流状況や就労状況などについて、その自立度または介護度を3段階の評価基準を設定して尋ねている。平均自立度は想定通り、健常者・学生>高齢者向け住宅居住者>グループホーム居住者>外来患者>救護施設等入所者>入院患者(とくに高齢精神障害者)の順である。しかし健常者だからといっても満点の人はなく、それぞれの生活部面でそれぞれが役割分担したり、社会資源で補なったり、手抜きしたりしている。自分の意思で手抜きしたりするのはいいが、自立や社会参加をしたくても、それが心身の障害によってできない人たちの問題が改めて提起される。とくに高齢精神障害者の場合には、病院や施設内で無為無欲の状況に陥り、ただ死を待つような状況さえもが見られる。これに対応する環境整備の充実を痛感している。
著者
佐々木 土師二
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.197-269, 2006-03-30

観光心理学では、観光者行動だけでなく、観光地域の住民の行動も研究する必要があるが、現状では、ほとんど取り上げられていない。本稿では、外国の文献資料にもとづいて、ツーリズムが地域社会やその住民に及ぼす社会的・文化的インパクトの諸現象を概観した後、地域のツーリズム開発に対する住民の態度の実証分析にもとづく知見を通覧した。この住民態度の把握のためには、標準的態度尺度の構成の必要性が強調され、調査項目の収集が試みられた。さらに、Ap (1992)の論文に依拠して、訪問者と住民の相互作用に関する社会的交換理論による説明と仮説的命題が検討された。
著者
岡田 博美 和田 友孝 六浦 光一 大月 一弘 榎原 博之 棟安 実治
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,情報通信機器の未搭載車両を考慮した上で、衝突回避支援システム(VCASS)搭載車両が走行中の周辺状況の認識とその情報広報を自動的に行うことにより,安全な道路交通を可能とする次世代型システムの開発を行った。研究結果をまとめると以下のようになる。1)非情報化車両の搭乗者のもつ携帯端末に、VCASS機能を代行するシステムを装備し、車両間衝突回避を実現するS-VCASSを開発し、その有効性を実験で確認した。2)歩行者の動きを追尾し、位置予測を行うことにより車両との事故回避支援を行うP-VCASSを新たに開発した。3)関連要素技術として、RFIDシステムを用いた迅速で高精度の測距・位置情報獲得方式として新たにCRR方式、S-CRR方式を開発した。
著者
中谷 伸生
出版者
関西大学
雑誌
関西大学博物館紀要 (ISSN:13414895)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.94-132, 2006-03-31

平成十七(二〇〇五)年度妙心寺及び建仁寺の調査報告書〈論文・資料紹介等〉
著者
小西 秀樹 岡本 哲和 吉岡 至 廣川 嘉裕 脇坂 徹 窪田 好男
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小泉政権以降、中央政府および地方政府における政策形成の場で、重視される価値がどのような変容を遂げているのかを明らかにすることが本研究の目的である。事例研究のひとつの結果としては、ポピュリズム的価値の重要性の高まりが、政策の形成と実施におけるNPOの役割増大および住民投票の増加と関係している可能性があることが示唆された。一方で、2008年大阪府知事選挙時に実施したサーベイ調査では、有権者のポピュリズム的指向およびネオリベラリズム的指向のどちらもが、投票意思決定に影響を及ぼしていなかった。これら2つの価値がいまだ優勢である可能性は高いものの、一方でそれが退潮していく兆しがあることが明らかにされた。また、市町村合併や首長選挙についても政治的・政策的価値の変化をみることができた。
著者
林 直保子
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度には、平成18年度に引き続き、他者一般に対する信頼の生成プロセスを検証するための、全国調査を行った。平成18年度調査では、全国の満20歳以上の男女とし、各市町の住民基本台帳より、層化二段無作為抽出法を用いて2000サンプルを抽出し、66.3%の回収を得た。このデータを用いた分析により、一般的信頼の高低は、制度への信頼により大きく規定されていること、また制度への信頼は、格差感により強く影響されていることが明らかにされた。平成19年度には、電子住宅地図を用いた層化3段無作為抽出法を用いて全国調査を行った。社会調査を取り巻く環境の変化により、住民基本台帳等を用いたサンプリングが年々困難になっており、今後の調査の展開を見据えて、サンプリング方法の違いによるデータの偏りについて検討することも目的の一つとした。19年度調査に関しては、現在データ分析の途中ではあるが、18年度調査の結論と一貫した結果が得られている。2つの調査のデータは、今後国勢調査のメッシュ統計とマッチングした上で、個々人の社会経済的背景だけでなく、所得の地域間をも考慮に入れた上で、信頼の生成プロセスの総合的な検証に用いられる。また、平成19年度には、上記全国調査と平行して、特定の地域内における信頼と社会的ネットワークの連関構造を分析するために、兵庫県有馬町において留め置き調査を行った。その結果、強い社会的ネットワークが信頼を高めるというこれまでの知見と一貫する結果が得られたが、社会関係資本の構成要素のひとつである互酬性の規範と信頼との間には相関関係がみられなかった。
著者
増田 周子
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近現代の関西文壇や出版の状況は、まだ全貌が分からないことが多い。本研究では、関西の出版や文壇の状況を把握することを目的とし、海外文壇が関西の作家や出版状況に与えた相互影響関係や、関西の作家と中央文壇(東京)とのつながりについて研究した。明治、大正、昭和期における関西文壇や関西の出版文化が、どのような文化的背景の中で生まれ、東京などの中央文壇や、海外の文学状況と相互に関わりながら、成立し、発展していったのかを調査研究した。関西の作家は、東京の文壇にも進出し、多大な影響を及ぼした。また、海外の中でも、本研究では、とりわけ中国、台湾における関西の作家の役割が一部明らかとなったことは成果といえる。
著者
入子 文子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

19世紀の作家の例に漏れず、ホーソーンが歴史家顔負けの第一史料の読み手であったことは、コラカチオを初めとするニュー・ヒストリシズムの批評家たちも指摘する所である。17世紀アメリカを舞台とする『緋文字』においても歴史的解釈は盛んである。けれども従来の歴史的批評には(1)アメリカ性の強調は顕著だが英国への目配りが欠けている。(2)歴史的観点とはいえ、政治や宗教など理論に偏り、具体的事物である文化表象は等閑視されている。これではテクストの正確な読みはできない。当研究は、「楽しいイングランド」をひきずった「イギリス生まれの」「イギリス人」からなる、『緋文字』第一世代のピューリタンたちの持ち込んだ17世紀英国の豊かな文化表象に焦点を当てた。またアメリカの都市の歴史をヨーロッパの都市とのつながりで見ることにより、『緋文宇』解釈にこれまで気づかなかった一側面を強く意識するに至り、筆者のこれまでの研究を同じ方向へ、さらに深く進展させることとなった。特にルネッサンス人を惹きつけてやまなかった古典的<メランコリー>の図像を主要登場人物に見ることで、従来のピューリタニズム一辺倒では読みとれなかった「黒」に、新しい意味のベクトルをひらいた。従来の研究に当該研究成果を加えて『緋文字』論を世に出すことが残されている。今後は『緋文字』以後のロマンスへと研究対象を広げる。読みの方法も基本的には同じだが、イギリスだけでなくより広範な地域の文化表象に目配りし、ホーソーン言うところの「ロマンス」の本質を明らかにし、ホーソーンの望む読み手となることを目指すことになろう。
著者
犬塚 康博
出版者
関西大学
雑誌
関西大学博物館紀要 (ISSN:13414895)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.283-292, 2004-03-31
著者
松浦 章
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

清朝中国の国内沿海における海上輸送が、木造帆船即ちジャンク(Junk)によりどのように行われていたかを明らかにしたものである。中国大陸の沿海は数千キロに及んでいる。清代において優秀な航運能力があった帆船の航運活動に関して、特に山東半島を中心とする渤海・黄海沿海については山東省の青島における文献調査、華南沿海における福建省においては泉州地区における実地調査等によってその沿海航運について明らかにした。
著者
蜷川 順子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、初期ネーデルラント絵画の領域で、完成後一定期間をおいて加筆された肖像のある絵画作品を収集し、それを様々な美術史的観点から考察した。この領域は、中世以来初めての本格的な再現的自然主義を発達させたことで知られる。画面をもう一つの世界の一部として実現し、現実にはない理想や願望を投影するための仮想的な場が求められたものと思われる。加筆肖像は、そのような画面と観者との相互交流の痕跡として理解できる。