著者
大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

昭和前期に日本の高等教育機関に学んだ台湾知識人の日本統治下における日本認識と、台湾社会での活躍や役割、さらにはその心情について、聞き取り調査によってその生の声を記録化し、当時の新聞、雑誌、公文書、手紙、手記などとの照合検討をとおして、これを社会・文化史的観点から多角的かつ具体的に解明した。その成果は『台湾と日本 激動の時代を生きた人びと』(大谷渡、東方出版、1頁-244頁、2008年)として出版した。
著者
藪田 貫 浅倉 有子 菊池 慶子 青柳 周一 桑原 恵 沢山 美果子 曽根 ひろみ 岩田 みゆき 中野 節子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では通常の分担者による研究会の積み重ねという形を取らず、日本の各地で「江戸の女性史フォーラム」を順次開催し、地域の女性史研究の成果と資料に学ぶというスタイルで3年間、進めた。その結果、大阪(2005.7)徳島(2005.12)、鳥取(2006.5)、東京(2006.7)、福岡(2006.12)、金沢(2007.9)、京都(2007.11)の7ケ所で開催することができた。その成果は、いずれも報告書の形で公表されているが、地域に蓄積された女性史の成果の掘り起こしと交流に貢献できたと確信する。とくに藩制史料の中から奥女中を含め、武家の女性の発掘が進み、菊池(柳谷)・浅倉・桑原らが中心となって「藩社会の中の女性」が一つの新しい潮流となっている。また活発な研究活動は、国内外の学会発表という形でも結実した。国内では立教大学日本学研究所の公開シンポジュウム(2006.5)に沢山と藪田が、ジェンダー史学会・女性史総合研究会共催のシンポジュムには曽根ひろみ(協力者)が、それぞれパネリストして参加した。国際的な学術交流では、鳥取と京都のフォーラムにアメリカとオーストリアから研究者を招き、また藪田が、ケンブリッジ大学での研究会「江戸から明治の女性と読書」(2006.9)、ボストンでのアメリカ・アジア学会分科会「19世紀日本の売買春と政治」に報告者として参加した。研究課題としてあげた研究者の世代交代を進め、若手研究者を養成するという点では、若い大学院生のフォーラムへの参加も少なく、残念ながら十分な成果を挙げていない。また分担者の研究の成果にもムラがあり、地域的にもまたライフコースについても、均等に成果を上げるには至らなかった。反省点であり、今後の課題である。
著者
高橋 誠一 野間 晴雄 橋本 征治 平岡 昭利 西岡 尚也 筒井 由起乃 貝柄 徹 木庭 元晴
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、南海地域における歴史地理的実体を多角的に解明することを主目的としたものであった。従来の地理学分野からの琉球研究は、都市、集落、民俗、交易活動などを個別的に扱い、かつ沖縄や奄美の一地方を対象としたものが多かった。しかしこれらの個別事例の蓄積のみでは、東シナ海や南シナ海全域にわたる琉球の実体の把握が困難であったことは言うまでもない。そこで本研究においては、中国沿海州・台湾・ベトナム・フィリピン、沖縄・奄美における現地調査を実施し、都市・集落景観、伝統的地理学観の影響と変容、伝統的農作物栽培の伝播過程、物流と交易活動、食文化の比較、過去と現在の当該地域における地理学教育に見られる地域差などに関して、立体的な分析を行った。以上の研究によって、琉球が果たしてきた重層的な歴史的役割の実態を、かなりの程度まで明らかにできたと考える。これらの成果の一部は各研究者による個別論文のほかに、2007年に沖縄県立公文書館において開催した国際研究集会報告書などにおいても公刊済みである。また全体的な成果の一部を報告書としても提示した。しかし、本研究によって解明できた点は、当初の目的からすれば、やはりまだその一部を果たしたに過ぎないと言わざるを得ない。すなわち南海地域における歴史地理的諸事象の伝播過程やその変容については、かなり解明したとはいうものの、本研究の成果は単方向的な文化事象の伝播や影響の摘出に終始したとの反省がある。文化の交流や伝播は、長い歴史的過程の中では、多方向的に複雑に錯綜することによって新しい様相を生み出すということができる。それらを明らかにすることによって、本究で対象とした地域に関する理解を深化することを今後の課題としたい。
著者
和田 安彦 菅原 正孝 三浦 浩之
出版者
関西大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

平成元年度の研究においては、昭和62年度の非特定汚染源負荷の調査・解析結果と昭和63年度に開発した非特定汚染源からの流出負荷量予測モデルをもとにして、雨水流出抑制施設等による非特定汚染源負荷の制御方法を確立し、実用化を検討して、3か年の研究成果のとりまとめを行うことが主な研究内容である。非特定汚染源からの流出負荷量の抑制方法には、非特定汚染源負荷の堆積量の削減と、雨天時流出量の抑制がある。そこで、流出水量系モデルと流出負荷量系モデルで構成されている数値モデルによって、下水道に種々の雨水浸透・貯留施設を有機的に結んだ広域的な雨水流出制御システムの効果を検討した。この雨水流出制御システムは、各種対策施設をユニット化することで、様々な流出形態に対応できるものである。都市型水害が発生しているある都市の排水区(排水区画積;211.35ha、不浸透域率;63.7%)において、広域雨水流出制御システムを導入した場合の効果を検討した。制御システムは道路下の浸透連結管、貯留池、管内貯留、雨水滞水池を組み合わせたもので、排水区全域の道路下には、すべて浸透連結管を設置する場合を検討した。この結果、雨水制御システム導入により、降雨初期の汚濁物質のファ-ストフラッシュ現象の発生を防止でき、越流の発生を大幅に抑制できることが明らかとなった。また、総降雨量80mm、時間最大降雨強度10mm/hr程度の降雨時においても、広域制御システムを導入すれば、公共用水域への流出負荷量を半減できることも明らかになった。今後、都市域での非特定汚染源負荷の流出制御には、各種の雨水制御施設を効果的に運用することが重要であり、最適な運用方式の確立、適切な施設規模の選定、降雨情報や流出情報に基づく施設制御等が必要になる。
著者
坂口 聡
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

プロパルギルアミンは、有機合成上有用な中間体であることから、効率的な合成法の開発が望まれている。末端アセチレンをC=N結合へ付加する反応は、プロパルギルアミンの簡便な合成法となるが、末端アセチレンのC=O結合への付加によるプロパルギルアルコールの合成に比べ、成功例は少ない。以前、私はイリジウム錯体触媒存在下、アミン、アルデヒドおよび1-オクチンのような単純アルキンの反応により、反応中生成するイミンの窒素原子に隣接するC-H結合の活性化を経る新規な三成分カップリング反応を見出し報告している。本研究では、アミン、アルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンの反応を行ったところ、1:1:1カップリングおよび1:2:2カップリング反応が生起し、対応するプロパルギルアミン誘導体が得られることが明らかになった。触媒量の[IrCl(cod)]_2存在下、n-ブチルアミン、n-ブチルアルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンをTHF中60℃で反応させたところ、系中でアミとアルデヒドから生成したイミンへ、トリメチルシリルアセチレンが付加した1:1:1カップリング生成物が78%の収率で得られた。またこのとき、アミン、アルデヒドおよびアルキンが1:2:2の比でカップリングした生成物の副生が確認された。そこで1:2:2カップリング生成物の生成を目指し種々検討した結果、1,4-ジオキサン中75℃で反応させることにより、目的物が80%を超える収率で合成できることが明らかになった。溶媒にシクロペンチルメチルエーテルを用い100℃で反応を行うと、短時間で反応は完結した。このような、アミン、アルデヒドおよびトリメチルシリルアセチレンの1:2:2カップリング反応は報告例がなく、本反応は、新規なプロパルギルアミン誘導体の触媒的合成法として有用である。
著者
木村 俊一 澤木 勝茂 井上 昭彦 鈴木 輝好 辻村 元男 鈴木 淳生 高嶋 隆太 八木 恭子 後藤 允 中野 張
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

「OR指向ファイナンス」とは,数理ファイナンス理論をオペレーションズ・リサーチ(OR)における意思決定支援という観点からそのモデル作りを見直そうという本研究の基本概念である.この基本概念の下に,5つの研究テーマ(1) オプション価格評価;(2) 仕組債の価格評価;(3) 数理ファイナンス理論 (4) 企業ファイナンスにおける価値評価;(5) リアルオプションに対する数理モデルの開発とそれらの応用に関する研究を行い,数多くの国際的な研究成果を得た.
著者
川神 傳弘
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1940年代後半からスターリン治下のソヴィエト連邦共産主義体制内での恐怖政治の実態報告がフランスに伝わった。密告・強制収容所送り・暴力・拷問・虐殺などの全体主義体制の悲惨な実情が明るみに出て、それまでナチス・ドイツとは180度異なる理想の国家実現の夢をソ連に託していたフランス知織人を幻滅させ、共産主義支持の知織人から反-共産主義に転向する人々が続出した。しかしジャンーポール・サルトルは一貫してソ連擁護の姿勢を崩すことはなかった。理想の未来実現のために人命の犠牲はやむを得ないことを認めたのである。アルベール・カミュはあくまで人命尊重の立場をとり、サルトルと訣別した。彼ら両者がかく対蹠的な立場を表明した裏側に何が秘められているのかを詳細に分析した。
著者
水田 憲志 野入 直美 松田 良孝 松田 ヒロ子 卞 鳳奎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では以下の成果を得た。(1)日本植民地時代の台湾在住経験をもつ沖縄系移民のエスニシティの多元性について明らかにした。(2)太平洋戦争末期における沖縄県から台湾への疎開と戦争終結後の引き揚げの実態、ならびに台湾沖縄同郷連合会の存在とその役割について明らかにした。(3)戦後初期において石垣島でパインアップルと水牛が普及する過程で台湾系住民が果たした役割について明らかにした。(4)研究成果を地域社会へ還元するために、八重山の地元高校で出前授業を実践した。さらに「八重山の台湾」を学ぶ郷土学習、生涯学習の教材となる図書の出版準備作業を継続中である。
著者
堀江 悟郎
出版者
関西大学
雑誌
環境科学特別研究
巻号頁・発行日
1985

1. 資源調査ランドサット5号のデータを使用して、都市内緑地の表面温度低下の程度などについて解析を行なった。解析に使用したデータは夏秋冬の3種とし、対象は都内緑地、新宿副都心、住宅地である。緑地分布と温度分布の両図を比較すると、夏季においては緑地と低温域とがきわめてよく一致している。緑地がほとんど存在しない中野区、豊島区の一部地域では特に温度の高い傾向がみられる。秋季と冬季についての解析によれば、夏から冬へ季節が移るのに伴い、温度分布と植生の相関が次第に小さくなる。また、森林の割合が同程度の場合は一ブロックの森林面積が大きいほど温度が低く、面積が同じであれば森林割合の大きいほど温度低下の傾向がある。以上のように緑地の温度低下の実態や、季節、植生の差などの影響が明らかとなった。ランドサットデータの熱赤外バンドの分析は熱環境調査に役立つ。2. 地表が土、コンクリート、芝生の3種および街路樹のある街路を含む市街地空間で、建物、地表面、樹木の表面温度と、地上1mの空間における熱放射環境の測定を行なった。表面温度の日変化は、枯芝、土、緑芝、コンクリートの順に較差が小さくなり、樹木の葉面は気温の変化とほぼ等しい。夜間の放射温度は相対的に囲われた空間ほど高い。樹木は、日射遮蔽と低い葉温による長波ふく射温度上昇の抑制により、草地は地表面温度の上昇抑制により、熱環境緩衝機能を有することが明らかとなった。3. 緑のある住宅内坪庭の熱環境を測定して気象台データおよび高層住宅ベランダのデータと比較解析を行なった。坪庭では、気温は昼夜間ともベランダより低く、湿度は昼間高く夜はほぼ等しい。屋内は、坪庭住宅では扇風機を、高層住宅では冷房機を使用しているため比較できない。申告によれば、通風のあるときは涼しく、通風がなければ冷房または扇風機に依存せざるを得ない状態である。
著者
石川 正司
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

電気二重層キャパシタの性能向上を目指し,電極ならびに電解質の大幅な改善を試み,大きな成果を得ることが出来た。以下にその概要を記す。電気二重層キャパシタの電解質として,PVdF-HFPタイプのゲル電解質を適用した。この電解質を極限まで薄膜化しつつ,さらにゲル電解質と電極との界面接合の最適化を行い,これまでに無い高い性能を引き出すことに成功した。すなわち,高速の充放電を行った場合,通常の有機電解液キャパシタではキャパシタンスが減少してしまう大電流領域においても,キャパシタンスが全く低下しないゲル電解質キャパシタを構成することに成功した。このキャパシタは電解質厚みがわずか10ミクロンであり,しかも通常の活性炭シート電極を用いているにもかかわらず,このような高性能が発現したことは驚くべきことである。キャパシタの高性能化のもう一つの主要要素技術である電極の改善についても試みた。これにはフッ化物やアルコキシシランガスから発生させたコールドプラズマを電極材料の活性炭表面に照射し,細孔制御と表面官能基制御を行うことでレート特性の改善に成功した。さらに,活性炭に換え,カーボンナノチューブを一方向に配向させてそれをそのままシート状の電極とした,カーボンナノシート電極を開発し,二重層キャパシタの電極としてのテストを行った。その結果,この電極は超高速充放電に適合することが判明した。すなわち,通常の活性炭では全く充放電が不可能,つまり放電キャパシタンスがゼロになってしまうような大電流でも充放電が可能であることが明らかとなった。以上述べた技術について,可能なものはリチウム二次電池系にも適用を試みた。
著者
関屋 俊彦
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「能楽資料の調査と整理」という主目的については、ほぼ達成できた。東京はもとより佐渡島・長浜・山口・臼杵を訪れることができた。中でも佐渡島の山本修巳氏にお会いし、生田秀の多くの情報を得ることができた。『生田文庫新蔵書目録并解題』として100頁を越える冊子を近々冊子(非売品)にする予定である。これは改めて学術図書に応募したい。大蔵虎明著の間狂言本は、架蔵の大蔵虎光間狂言転写本と共に、これも学術図書に応募したい。両書ともほぼ翻刻は終えている。大蔵弥右衛門家の事情により中断しているが、再確認の依頼は取れている。
著者
鄭 潔西
出版者
関西大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、研究に関係する資料収集を行った上で、計画したいくつかの課題を遂行した。一、論文「万暦二十一年潜入日本的明朝間諜」(『学術研究』2010年第5期総306期)、「16世紀末明朝的征討日本戦略及其変遷-以万暦朝鮮之役的詔令資料為中心」(『明史研究論叢』第8輯)、「一六世紀末明朝の対日本情報システムの一環となった琉球国」(『南島史学』75・76合併号)、「万暦二十一年豐臣秀吉中毒〓命誤伝考」(王勇主編『中日美系的暦史軌迹』、上海辞書出版社)、「萬暦二十年代傳入明朝和朝鮮的日本豊臣秀吉死亡情報」(松浦章編著『明清以來的東亜海域交流史』、[台北]博揚文化事業有限公司)を発表し、学術報告「Information Networks in East Asia during the Last Decade of the 16th Century : Intercommunication and the Imperial Strategy of Ming Dynasty China」(The Fourteenth Asian Studies Conference Japan(ASCJ)、日本・東京・早稲田大学、2010年6月19日)、「16世紀末的東亜和平構建-以日本侵略朝鮮戦争期間明朝的外交集団及其活動為中心」("東亜区域合作与中日韓美系"学術研討会、中国・上海・復旦大学、2010年11月8日)、「関于隆慶万暦前期倭寇的両个問題被虜人和御倭賞格」("国際視野下的中西交通史研究"学術研討会、中国・広州・〓南大学、2010年12月20日)と「16世紀末的東亜-以中日両国向的人物往来和情報流通力中心」(広東省社会科学院広東海洋研究中心招待講演、中国・広州・広東省社会科学院、2010年12月30日)を行い、明代万暦時期における明日間の人的往来、情報ネットワーク、明朝側の対日本戦略などの諸問題に関する最新の研究成果を発表した。二、関西大学に博士論文「明代万暦時期の中日関係史の研究」を提出し、文化交渉学の博士号を取得した。上記のように、今年度の研究は計画通り遂行した。
著者
喜多 千草 出口 康夫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、コンピュータの導入によって科学的方法に変化のみられた具体的な事例に関する歴史研究から、哲学的考察に進める手順をとった。まず、1940年代に行われていたパンチカード式計算機の天文学分野での科学計算への応用、また、医学分野におけるEBMの普及の課程、全国共同利用機関としての大型計算機センターで行われた初期の科学計算などを取り上げた。このうち、初期の科学計算に関してはウェブサイトにデータを公開した
著者
山本 卓 高橋 圭一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

鳥取県立博物館(中島家文書)・国立公文書館・国文学研究資料館・関西大学図書館などに所蔵される実録を詳しく調査して、その書誌事項・目録(目次)をとり、その成果を「データベース『実録所在目録・目次』」(DVD版)に纏めて、公開した。また、『近世実録翻刻集』と題して、『厭蝕太平楽記』・『田宮物語』・『白川根笹雪』・『享保太平記』『播磨椙原』新出本の実録を翻刻して刊行した。この作業は『新編 近世実録全書』公刊の地ならしに相当する。
著者
バルティコウスキー ボリス 亀井 克之
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.63-75, 2008-02

本稿は,2007年6月16日から7月31日までの期間,外国人招へい研究者として,関西大学総合情報学部に滞在したボリス・バルティコウスキー氏が7月4日に行った総合情報学部講演会「マーケティング・ローカライゼーションの展開-地域性に基づくカスタマイゼーションの重要性-」の記録である.講演のテーマは,マーケティングの分野におけるグローバリゼーションとローカライゼーションの有効性をめぐる議論である.具体的な考察対象として,企業のWEBサイトを題材とした調査から,進出先の地域的な文化に適応させることが消費者の信頼や態度にどのような影響を及ぼしているかについて,次の諸点が明らかとなった.(1)ローカリゼーション(地域文化適応)戦略は,状況によって,異なる効果をもたらす.(2)ブランド力は,ローカリゼーション(地域文化適応)の効果をしのぐ傾向にある.(3)WEBサイトを通じたさまざまなサービス提供は,WEBサイトのローカリゼーション(地域文化適応)から大きな影響を受ける.
著者
熊野 建
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.107-153, 2006-03-30

この論文は、海外移住労働について民族誌的かつ記述的な研究を目差したものである。3セクションからなり、先ず、文献研究のセクションと、少数民族のイフガオ女性の労働状況についての記述、最後にオーストラリアのフィリピン花嫁の労働状況を記述したセクションである。第1セクションでは、統計資料からフィリピンの海外移住労働の現況を概括し、先行研究からフィリピン移民と海外移住労働の歴史や政策についてまとめた。次の節で、パレニャスによるローマとロスアンジェルスにおけるフィリピン移住労働者の比較研究を簡単に紹介し、その問題点を扱う。最後の節では、香港におけるフィリピン女性家事労働者についても、コンステーブルによる研究を要約し、問題点を取りあげた。第2セクションは、主に北部ルソン島におけるイフガオ女性の海外移住労働者とその家族についての事例と、香港とシンガポールでの労働状況について事例を記述した。同時に女性の海外移住労働が深刻な社会変化と文化変容を生じさせている現状を表した。第3セクションは、オーストラリアにおけるフィリピン花嫁の労働実態を中心に記述したが、その背後には家族呼びよせと不法就労者の実態が浮かび上がる。異なった視座から女性の移住労働者を捉えることで、各章と事例を総括することで結論とした。