著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.57-67, 2007-07

社会学の領域において,「身体」というパースペクティブが注目されている。そこでまず本論では特にAデiddensによるボディプロジェクト(body projects)概念を検討した.次に,アンケート調査から,一般的な身体加工に関する意識を分析し,次のことを明らかにした.一つは身体加工において準拠されているのは,「自己自身」,「他者の視線」,「社会の視線」であること((1)自己系,(2)他者系(消極)系,(3)他者(積極系),(4)社会系と命名).もう一つは一般的な身体加工は,他者のため((2)(3)),社会への配慮のため((4))だけでなく,自己満足のため,自分らしくあるため((1))に行われることが多いことである.また,そこにはジェンダー差があり,同じ「他者の視線」を意識するのでも((3)他者(積極)系),男性は不特定多数な異性を,女性は自分の好きな特定の人だけを念頭においている.さらに女性は,自己満足や自分らしさといった「自己自身」を準拠することが多い.そして,外見の良し悪しでも差異が見いだせ,外見をほめられる経験の多い人は,(1)自己系,(3)他者(積極系)の理由を挙げ,ほめられる経験が少ない人は,(2)他者(消極系)の理由を挙げる.(1)自己系の理由を多く挙げるのは,女性であり,外見をよくほめられる人であった.このような一般的身体加工に関する意識は,他の身体における現代的現象と関連している.
著者
上杉 彰紀 米田 文孝 長柄 毅一 清水 康二
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成29年度には、まず平成29年6月にバハレーン国立博物館において西暦紀元前後の時代の墳墓から出土した石製装身具のデータ化および分析を実施した。これはバハレーンを含むアラビア半島において出土する石製装身具が南アジア方面からもたらされたと考えられるためで、その可能性を実証的に検証し、南インドの社会が海洋交易にどのように関わっているか考察することを目的としたものである。調査の結果、西暦紀元前後の時代にバハレーン島の墳墓で出土する石製装身具は南アジア産である可能性が高いことが明らかとなった。今後、調査時に作成した玉の孔のシリコン型の顕微鏡観察を進め、南アジア産の可能性をより高い精度で検討する予定である。平成29年7月には、ケンブリッジ大学考古学・人類学博物館に所蔵される南インド巨石文化の墳墓から出土した石製装身具のデータ化を行った。石製装身具は、北インドと南インド、そして海洋交易を通じて西のアラビア半島や東の東南アジアとの関係を考える上で重要な資料である。南インド巨石文化の遺跡から出土する石製装身具は同時代の北インドの例との類似点が多く、北インドからの製品搬入のみならず技術移転によって南インドでも生産されるようになったと考えられる。それは南インド社会がより複雑化する過程を投影したものと評価できる。平成29年9・10月には、インド、ケーララ州およびマハーラーシュトラ州において巨石文化期の墳墓群の分布・測量調査を行った。広域に広がる墳墓群の悉皆的分布・測量調査はこれまでほとんど行われておらず、そうした調査は南インド巨石文化を研究する上での基礎資料となる。また、ハリヤーナー州に所在する青銅器時代・鉄器時代の遺物の記録化を実施し、南インドとの比較資料の蓄積を進めた。平成30年3月には同じくケーララ州およびマハーラーシュトラ州において分布・測量調査を実施した。
著者
王 勇
出版者
関西大学
雑誌
東アジア文化交渉研究 (ISSN:18827748)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.105-112, 2008-03-31

There are already many researches about Jianzhen's arrival in Japan. Therefore, this paper described his motives for going to Japan as being related to Taoism in the Tang era. Early return of Japanese dispatched priests and Jianzhen and the others' obsessive passion for going to Japan is due to the Chinese circumstances which prosperity of Taoism reached its peak in the period of Xuanzong, and as well as Japanese circumstances, "Japanese emperor did not worship principles of Taoist priest". There were no evidence that Tang era's Taoism were taken into Japan, as a religious community which had facilities, officers, and organizations; however, Taoism among the Tang cultural things which are mixed into rituals, folk beliefs, and annual events would be brought to Japan by various routes in the era of Japanese envoy to the Tang Dynasty.
著者
岩見 和彦 山本 雄二 関口 理久子 松原 一郎
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.133-184, 2007-03

発展や進歩の概念はつねにアンビバレントな意味を含んでいる。というのは、それらは未来によりよい状態を想定し、人や社会に希望を与える一方で、今われわれが生きている現在を未来への単なる途上として位置づけ、未来の幸福に資する限りで有意義であるような位置に押しとどめるからである。「成熟した社会」であると言われる現代にあって、「現在」がこのような貧しい意義しか持っていないとしたら、その「成熟」はことばのまやかしである。経済の成長に希望を託すことができない時代である今こそ「社会の成熟」を考える好機である。この論文では第2章から第5章まで、4人の研究者が「成熟」に関して考察している。第2章は、現代社会と個人における「成熟」概念の困難と希望を、理論的な側面から考察している。第3章は、戦後教育思想の浸透に伴って忘れられてきたもの、すなわち「暴力」の問題を事例に基づいて考察した。第4章は自伝的エピソード記憶の再生にかかわる性差と抑うつ気分の影響を実験によって調べ、検証した。第5章は、震災復興支援の経験から、物よりも社会関係資本の構築が支援策としては重要であることを論じている。
著者
森 貴史
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

オランダの解剖学者ペトルス・カンパーの顔面角理論、ドイツの解剖学者ザムエル・トーマス・ゼメリング、おなじく比較解剖学者ヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハ、博物学者フォルスターなどの18世紀後期の人類学理論が古典主義美学の影響下にあり、その人類学理論と言説が同時代のスイスの文筆家ヨハン・カスパー・ラーヴァターの観相学、ウィーンの神経解剖学者フランツ・ヨーゼフ・ガルの骨相学、19世紀後半の犯罪人類学イタリア学派創設者チェーザレ・ロンブローゾの生来性犯罪者説、フランスの犯罪学者アルフォンス・ベルティヨンの人体測定法、ナチスドイツの反ユダヤ主義人種論まで理論的な影響を与えたことが確認された。
著者
溝井 裕一
出版者
関西大学
雑誌
関西大学東西学術研究所紀要 (ISSN:02878151)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.79-103, 2006-04-01

Since ancient times in Europe, stories have been told about heroes, gods and saints who fought with dragons. While many of them faced monsters and killed them, there are some stories of heroes and heroines who were swallowed by a dragon, killed it from inside, and emerged unhurt from its body. Some of the pictures and legends from the ancient or medieval times tell about those dragon-slayers. For example, according to a picture on a vase of the 5th century B.C., the famous Greek hero Jason was swallowed apparently by a dragon and came out again of its mouth. A legend also tells that the Irish hero Fionn Mac Cumhail entered the body of a dragon and killed it from inside. We can also find the similar motif in the medieval paintings and the legend of St. Margaret. The meaning of those pictures and legends seems difficult to understand. I analyzed the motif of the "swallowing dragon" by applying it to the scheme of rites de passage. According to Arnold van Gennep, the rites of passage consist of three steps-separation, transition, and incorporation. It is also said that they symbolize the death and rebirth of a person who moves from one state to another. I viewed that the motif of the "swallowing dragon" represents the death and rebirth at the rites of passage of heroes or saints. At the beginning of the article, the pictures and stories of the "swallowing dragon" are presented. After that, I will compare the European "swallowing dragon" stories with the notion of the "swallowing animals" in other countries (they appear at the initiation of Siberian and Eskimo shamans as well as the people of New Guinea) and examine the analogy between them. Then, I will apply the Genneps schema to "swallowing dragon" stories and consider whether we can count them among the rites of passage. With the results from those studies, I will clarify the notion of death and rebirth in the European pictures, myths and legends.
著者
松浦 章
出版者
関西大学
雑誌
東アジア文化交渉研究 (ISSN:18827748)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.327-342, 2012-02-01

In the mid-19th century, many European and American ships began to appear in Southeast Asia. Some of these ships belonged to the Peninsular and Oriental and Steam Navigation Company – a company founded in London during the early 19th century and commonly known as P.&O. – as part of the company's development of the shipping industry in Asia. Soon after the European establishment of trade with Japan, the P.&O. Company founded the Shanghai, Hong Kong and Japan route, which began operating in 1864. The shipping company's activities in East Asia also contributed greatly to population movement. This thesis describes the late 19th-century East Asian Seas, the P.&O. Shipping Company's activities and the resulting regional cooperation.
著者
森部 豊
出版者
関西大学
雑誌
東アジア文化交渉研究 (ISSN:18827748)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.351-357, 2012-02-01

This paper introduces the Nestorian Stone Pillar "discovered" in Luoyang, Henan Province, China in 2006, and also introduces the present state of research on this object. Also included is a discussion of the pillar and its value in the history ofcultural negotiation. Nestorianism entered China during the Tang Dynasty, which can be interpreted as a concrete example of cultural negotiation in East Asia. Information concerning the recent discovery of this new historical source needs to bemade available to the world of Cultural Negotiation Studies and incorporated asshared knowledge. This pillar has two inscriptions ‒ Daqin jingjiao xuanyuan zhiben jing 大秦景教宣元至本経 and Jingchuangji 経幢記 ‒ the second inscription being of great value inthe fi eld of cultural negotiation. It attests to the presence of a Nestorian Temple, Nestorianism being a branch of Christianity, at the beginning of the ninth century in Luoyang: the name of the temple was Daqinsi 大秦寺. It also attests to the presence of Sogdian who served as the priests at the Luoyang Daqinsi. It also suggests that there was group of Nestorian Sogdian living in Luoyang. It fi nally attests to the presence of a settlement of Sogdian outside of Luoyang during the Tang Dynasty.
著者
高橋 大輔
出版者
関西大学
雑誌
身体運動文化フォーラム
巻号頁・発行日
vol.3, 2008-03

CiNiiでの公開を想定していなかった著者から本文削除の希望があった為。
著者
春日 淳一
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-12, 2006-06-15

ルーマン理論はその独特の「難解さ」ゆえに敬遠されがちであるが、少し時間をかけて取り組めば、限りないポテンシャルを秘めた理論であることが分かる。本稿では、比較的読みやすいルーマンの初期の著作『手続を通しての正統化』を主要素材としてこの点を示唆するとともに、彼の理論の魅力について少々述べてみた。独立峰ルーマン岳に登るには、複雑化した概念装置が障壁となって立ちはだかる後期著作側からではなく、初期著作側それも良い邦訳のある初期著作側からはいるのが推奨ルートといえよう。
著者
中尾 悠利子 石野 亜耶 國部 克彦 田中 優希 西谷 公孝 岡田 華奈 奥田 真也 Weng Yiting 増子 和起 越智 信仁 牟禮 恵美子 大西 靖 北田 皓嗣
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

既存のAI(人工知能)を活用したESG(環境・社会・ガバナンス)評価研究では,ESG投資を既存の財務投資のパラダイムの下で発展させることは可能であっても,ESG投資の本来の目的である社会や環境への貢献を目指した投資の側面を発展させることには大いに限界がある。そこで,本研究では,ESG投資の本来の目的に立ち返り,どのようにすれば,AIによって,このようなESG投資のために情報開示における多様性をさらに発展させて,社会の改善につなげることができるのかを学術的問いとし,探求する。
著者
索南 卓瑪
出版者
関西大学
巻号頁・発行日
2018-03-31
著者
飯塚 理恵
出版者
関西大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

知識の獲得に関わる善い性格を認識的な徳、知識の獲得を妨げてしまうような悪い性格を認識的な悪徳と呼ぶ。そのような知識をめぐる規範的な問いに取り組むのが徳認識論である。本研究は認識的な徳と悪徳をより明らかなものにし、いかに悪徳を回避できるのかを描くことを目指している。まず、悪徳の回避のために、社会を整備することの重要性を検討する。次に、徳認識論者はオープンマインドの徳(他人の意見を真剣に考慮すること)を推奨しているが、一方でわたしたちが親しい人々にのみ共感能力を発揮する傾向を持つという問題に取り組む。最後に、西洋社会の文脈でのみ行われてきた認識的謙遜の徳について日本の文脈における独自性を検討する。