著者
名取 良太 岡本 哲和 石橋 章市朗 坂本 治也 山田 凱
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.31-42, 2016-08-10

地方議会は,民主主義において重要な役割を担う存在である.しかしながら,日本の地方議会は,多くの市民から信頼されず,その役割を十分に果たしていないと考えられている.ところが,「地方議会が十分に役割を果たしていない」と主張するための定量的な根拠は,ほとんど示されていない.その原因の一つは,地方議会に関する膨大な資料から,適切なデータを取得するのが困難なことにある.そこで我々は,会議の開催状況や議案の審議過程,各議員の属性・発言内容・議案への賛否態度などを,定量データとして格納した地方議会データベースを開発した.本論文では,会議録や広報紙などから,どのようにデータテーブルを作成したかを説明するとともに,データベースを活用してどのような分析が可能になるかを紹介していく.
著者
ジョンソン スコット
出版者
関西大学
雑誌
関西大学外国語教育研究 (ISSN:13467689)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.29-49, 2008-03

本論文では、日本語による重要表現の解説を伴う良質の教科書が手に入り、現代アメリカ英語による若者の生活を描いた映画Good Will Hunting(邦題『グッドウィルハンティング/旅立ち』のシナリオを利用し、場面・文脈の中で英語表現の意味合いを学習させる教育実践について、学習者からのレポートも引用しながら、その効用と限界について論じる。とりわけ、この映画で多用されるスラング(profanity)と字面の解釈にとどまらない間接的表現が伝えるメッセージの重要性に注目し、それぞれの表現を、それが用いられる様々な社会的コンテクストに結びつけて教育を行なうことの意義について論じる。
著者
伊藤 俊秀 岡田 和也
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-11, 2021-07-30

現在の地球温暖化がCO₂ などの温室効果ガスによるものだとする仮説は一般には疑う余地のない真実であると信じられている.しかし,現在の地球温暖化の主な要因が温室効果ガスであるという直接的で具体的な証拠が示されたことはない.そこで,本稿では素朴な視点で改めて地球温暖化要因論について考察した.まず,地球史における気候変動の歴史を数十万年のスケールで振り返ると地球の気候は寒冷化と温暖化を繰り返しており現代の温暖化が決して特異な現象ではないことがわかる.そこで,気候変動の要因に関する主な仮説を改めて検証した.他方で1980年代以降,CO₂ の増加が温暖化の主要因であるという仮説が生まれ,CO₂ 削減に国際的なコンセンサスが得られた経緯を検証した.確かにCO₂ には温室効果が認められるが,その増加が現在の温暖化の直接的な主要因であるという確証に結びつく証拠はない.そこで過去100年間のCO₂ の増加と温暖化の進展について改めて比較検証した結果,戦後,指数関数的に増大したCO₂ と一貫して線形的に上昇している気候との間に明確な因果関係を見出せないことがわかった.すでにCO₂ 削減問題は政治的問題に発展しており,産業構造さえ変えようとしている.現況下で,今さらCO₂ 削減に懐疑的な提言を行ったところで何ら生産性がないことは心得ているが,CO₂ 削減に向けた世界の動向は一種の狂乱状態にも思え,敢えて提言することとした.
著者
堀内 元
出版者
関西大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

野球のバッティング動作では、腹斜筋の肉離れを受傷することが多い。加えて、腹斜筋の肉離れのほとんどが投手側であることから、野球のバッティング動作中に負う腹斜筋の肉離れには共通した受傷メカニズムが存在することが推察される。また、投手側腹斜筋の肉離れは、ボールを正確にインパクトできなかったときに受傷する。このことから、フォロースルー局面においてバットを減速させる際に体幹周辺筋群が伸張性収縮することによって、肉離れが生じる可能性が考えられる。本研究では、フォロースルー局面に着目して、野球のバッティング動作中に負う投手側腹斜筋における肉離れの受傷メカニズムの解明に寄与する基礎的資料の獲得を目指す。
著者
妹尾 剛光
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.129-135, 2006-10

小論は、ルソーにおけるコミュニケーションの主体の形成とそこにある基本的問題点、即ち、母の愛を知らずに育ったルソーの直接的コミュニケーション、「心の底からの親しい交わり」への強い欲求は、この欲求を核とする人間の本心を善、社会あるいは大人の悪を子どもの悪の原因とする人間観、及び、これと結びついた、汚れを知らない孤独の中の人間は、技術の発展とともに依存、服従関係でしかない社会に入らざるをえないという社会観をルソーに持たせ、人間がコミュニケーションの主体に成熟して作る社会を、『エミール』以前にはルソーに考えさせなかったということを、更には、それにもかかわらず、『社会契約論』、『エミール』においてルソーはロックやスミスと基本的なところでは同じ人間論、社会論に辿り着いたということを、彼の主要著作の検討を通して明らかにする。
著者
高木 修 戸口 愛泰
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.3-28, 2006-03-25

本研究では,近年増加する社会問題(e.g.,未成年による犯罪,いじめ,虐待)の原因究明と解決への手がかりを得るために,人と人との「絆」に着目した。まず,「絆」現象を深く理解するために,「絆」についてのイメージや態度に関するステートメントを自由記述法で収集し,それらの内容分析を通じて,5つのカテゴリーを確認した。つぎに,それらのカテゴリーに基づいて母子間の絆尺度を作成し,194名の母子(ペア)を対象に「絆」意識を測定し,その回答を因子分析にかけた結果,4つの「絆」因子が抽出された。これらの意識と関係満足度との関係から,肯定的な情緒的先行要因と自然発生的な安定性認識が母子関係の満足度を向上させることが明らかになった。
著者
馮 赫陽
出版者
関西大学
雑誌
東アジア文化交渉研究 (ISSN:18827748)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.447-465, 2011-03-31

The damp and mild climate of East Asia provides the ideal environment forvarnish trees, and it is no surprise that the art of lacquer originated in this region.Chinese and Japanese lacquer work represent the highest level of this art; however, whenfocusing on the interaction of lacquer technique between China and Japan, the rolevarnish played should not be ignored.Japan is famous for its lacquer work. From the Edo period, the Japanese varnishmerchants actively sought Chinese varnish from the Chinese merchants trading inNagasaki. With the expansion of the Japanese lacquer industry during Meiji period, thedemand for varnish became increasingly urgent, a result of which was the importanceattached to the importation of Chinese varnish by the Japanese lacquer industry.
著者
森田 雅也
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

成果主義の進展に伴い、評価の対象が時間から仕事の結果へとシフトしてきている。この場合、時間とは、長期的には勤続年数、短期的には仕事の遂行に費やした時間の双方を含んでいる。貢献と報酬の清算期間が短期化してきており、評価における時間の重要度は相対的に低下しつつある。また、成果主義の考え方と一致した人事施策として注目が高まってきている裁量労働制のもとでは、時間のみならず仕事の場という空間への制約も弱めることが可能である。しかし、現実には裁量労働適用者の多くは通常勤務者と同様に出社しているし、フレックスタイム制を廃止する企業も出てくるなど、仕事における時間と空間の障壁を打破する動きには一定の方向が確認されない。スタッフ部門を中心にホワイトカラーの時間-行動分析を行った結果、職位が高くなるほど、対人接触時間が増大し、個人作業時間や通信時間の割合が減少しており、時間や空間を共有しなくてもよい自己完結的な仕事をしている人はほとんどみられないことが確認された。これも、対象部署が限定されているとはいえ、時間と空間を共有しない働き方の進展には反する結果である。しかし、仕事生活と仕事を離れた生活を労働者が自律的に設計し、ワーク・ファミリー・バランスを重視した働き方を構築していくことは社会全体の重要な課題でもあり、今後組織が優秀な人材を獲得するためにも必要である。そのためにも、仕事における時間と空間の障壁を克服していくことはやはり不可欠である。職場での一体感や集団討議の強みを維持し、顔を合わせることができないことから生じる仕事の非効率化を抑えながら、この障壁克服を進めるためには、仕事の進め方そのものを再編成しなければならない。再編成のあり方は業種や部門によって異なると考えられるが、それについて何らかの類型化を行うことが今後に残された課題である。
著者
テオ ヘルマン
出版者
関西大学
雑誌
関西大学外国語教育研究 (ISSN:13467689)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.79-93, 2004-03

言語心理学とは何か。この間いに(1)若干の概念的区分と(2)言語心理学的研究諸例で答える試みがなされる。(1)言語心理学は心理言語学と幾多の問題を分かち合い、緊密な研究協力を介して結びついている。しかし、両学問分野の理論的出発点と目標設定は同じでない。言語心理学は言語行動(発話とその理解、読み書き)、この行動の条件となる心的および神経学的機能を扱う。その際重要なのは、言語機能および他の心的諸機能、例えば思考や記憶、情緒との密接な結びつきである。基礎心理学の一分野である言語心理学の対象は、正常な成人である。逆に言語科学の分野に属する心理言語学は、矛盾なく一義的、統一的でよく整ったコミュニケーションに適する文やテクストを生成するために、システムとしての言語、特に個別言語体系がどのような諸前提を与えるかを研究する。従って、心理言語学の理論的出発点は、個人を超える理念的システムとしての言語(language)である。言語心理学の出発点は話す個々人(ラテン語のhomo loqens)であり、その言語行動(speech)および心的神経学的諸条件である。本論の前半は、言語心理学で重要な若干の下位概念区分がなされる。(2)実験的な言語心理学の研究法とその結果が6つの例示により具体的に述べられる。すなわち、(i)文意の理解やその言語的、状況的文脈への埋め込みとしての言語受容、(ii)話し手・聴き手の空間的距離に応じた声量の自動的調節とその進化論的行動決定因の仮説、(山)要求表現とその状況的諸条件、(iv)話し手・聴き手に関わる対象呼称の実験的区分、(v)状況的文脈の有無による理解の文処理、(vi)言語産出における語彙検索と語形実現、プロソディーの実験的分析である。
著者
北原 聡
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.269-289, 2008-03

明治以降の電信電話の発展において道路の利用は不可欠の重要性を有しており、電信と電話の道路占用には1890年に制定された電信線電話線建設条例によって法的保護が与えられ、逓信省は道路へ自由に電柱を建設することができた。しかし、それは道路行政を管掌する内務省の道路監督権限の侵害にあたり、道路交通の障害となる電柱も多かったため、内務省は1919年に成立した道路法で電信電話の道路占用に関する優遇措置を撤廃し、1936年および42年の内務逓信両省協定によって電信線電話線建設条例の問題点を全面的に解消した。
著者
北原 聡
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.71-86, 2008-09

戦間期の日本では、外資系自動車会社である日本フォード、日本GMによる自動車製造および全国的道路改良による道路状況の改善を背景に、貨物自動車の利用が大都市圏から地方へと拡大した。迅速かつ機動的な戸口から戸口への輸送という鉄道輸送には無い特徴をもつ貨物自動車は、輸送時間と輸送費の点で鉄道より優れていたことから、鮮度の維持が欠かせない生鮮食料品の輸送などに活用され、鉄道の補助輸送のほか鉄道と並行する輸送にも進出して、短距離輸送を中心に国有鉄道と自動車の競合が発生した。貨物自動車輸送業は車両1台を所有する小規模経営が一般的で、荷主の指示により随時随所で輸送を行う貸切営業が大宗をしめ、貨物自動車の急増に伴う競争の中で、輸送業者は種々の営業努力を行いつつ経営を成り立たせていた。
著者
加戸 陽子
出版者
関西大学
雑誌
關西大學文學論集 (ISSN:04214706)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.93-106, 2007-07

注意欠陥/多動性障害や広汎性発達障害などの発達障害をともなう子どもへの適切な教育を行う特別支援教育のための個々のニーズの適切な実態把握が必要とされている。本論文では客観的な評価手法の1つとして子どもへの適用が検討されているウィスコンシンカード分類テストやストループテストなどの各種神経心理学的検査について,その諸特性と本邦での動向を概観した。わが国の各検査の子どもにおける標準化は未だ十分ではなく,臨床応用には発達的変化の検討や標準値の作成が進められることが課題と考えられた。