著者
時岡 晴美
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

育児支援型住宅の使い方には、緩い関係で繋がろうとする現代家族のライフスタイルと家族関係が現れており、共有空間は家族の貴重なコミュニケーション機会を保持する効果がある。近隣や地域との関係は、従来の地縁ではなく、家族をサポートする制度の利用や自発的な参加による諸活動を契機として生じている。このような21世紀型市民のライフスタイルを支援するための取り組みや制度を、複合的・多面的に整備する必要がある。
著者
鈴木 孝明
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、MEMS製造システム技術のフレキシブル化・ハイスループット化を目的として、駆動機構を有する複数の機能を集積化したマイクロシステムを単一マスクパターンからアセンブリフリーで作製する方法を開発した。本技術の特徴は、複雑に流路が入り組んだマイクロ流体システムの作製と、さらにその内部に磁気駆動素子を組み込むことをアセンブリフリーでできる点にある。作製方法として、独自の加工技術である単一マスク回転傾斜リソグラフィにより、(1)フォトレジストを塗布して流路構造を作製し、(2)さらに(1)とは逆型のフォトレジストに磁気微粒子を懸濁し、流路内に導入して同じマスクを用いて露光することによって、磁気駆動素子をマイクロ流路内に作製・同時設置する方法を提案した。
著者
川田 学
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

生後1歳~2歳代における役割交替模倣と自他認識の発達について,定型発達幼児と自閉症幼児を対象に検討した。研究は定型発達幼児を対象とした課題場面での横断的研究,自閉症幼児を対象とした課題場面および保育場面での参与観察研究で構成された。役割交替模倣を測定する課題としてサカナとタモ課題,自己鏡映像認知を測定する課題としてマーク課題,積極的教示行為を検討する課題として他者の課題解決困難場面提示課題を用意し,課題間の連関を検討した。その結果,定型発達幼児では,サカナとタモ課題の通過率は1歳半から2歳にかけて有意に増加した。また,サカナとタモ課題の通過は他の2課題を有意に相関していた。自閉症幼児においても定型発達幼児と類似した傾向が見られたが,他の2課題に対して自己鏡映像認知の成績がやや特異であった。総合して,役割交替模倣が自他認識の発達を調べる上での有益なマーカーとなりうることが示唆された。
著者
田中 嘉雄 上野 正樹 濱本 有祐 木暮 鉄邦
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Tissue engineering chamber(以下、TEC)を再生の場として、動脈血管束,人工真皮, FGF-2、多血小板血漿(PRP)を併用して、独自の栄養血管を有した軟組織を再生する方法を検討した。実験群は、コントロール群、非活性化PRP群、活性化PRP群、活性化PRP群+ FGF-2群、非活性化PRP+ FGF-2群の6群(n=5)に分け、再生組織の量、器質化の成熟度、血管新生について検討した。結果:血管付軟組織の再生組織量はcontrol群1. 13±0. 33cm^3、非活性化PRP群1. 79±0. 35cm^3、活性化PRP群1. 48±0. 22cm^3で、非活性化PRP群がcontrol群に比し有意差を認めた(p<0. 05)。人工真皮の器質化も非活性化PRP群で進んでいた。TECを用いた血管柄付き軟組織再生において、活性化PRPよりも非活性化PRPが有用であることが判明した。
著者
生越 重章 秦 正治 吉田 彰顕 西 正博
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)伝搬損失距離特性市街地(岡山・広島)、郊外地(高松・岡山)、丘陵地(広島・岡山・高松)を自動車で走行しながら、UHFテレビ放送波の受信レベルを測定し、伝搬損失距離特性を求めた。(1)市街地では、平均建物高と送信アンテナ高との関連で見通伝搬の影響が大きく、伝搬損失は、奥村-秦式より10dB程度小さい。伝搬定数は、奥村-秦式の値2.8とほぼ一致する。(2)郊外地では見通伝搬が顕著であり、伝搬損失は奥村-秦式より10dB程度小さい。高松では、変動幅が10〜20dB程度と大きい。伝搬定数は、奥村-秦式の値より大きい。(3)丘陵地では、伝搬損失は奥村-秦式とほぼ一致する。伝搬損失の変動幅は20〜30dB程度と大きい。伝搬定数は、広島では奥村-秦式の値とほぼ一致し、岡山、高松では奥村-秦式の値より大きい。これから、固定送信・固定受信を前提としたUHFテレビ放送帯を用いた通信・放送融合型情報ネットワークの構築においては、上記結果を考慮したシステム設計を行う必要があることを明らかにした。ダイバーシティ受信時にも見通伝搬が顕著であることが示された。具体的な改善効果については今後の検討を待たなければならない。(2)システム関連事項(1)通信放送融合システムの形態下りにテレビ放送、上りに移動通信システムの適用を前提として、セル構成と周波数割当について検討した。overlapped法とsuperimposed法の特性について比較した。(2)サービスエリア評価走行受信を前提としたシステムのサービスエリアを評価した。受信レベル変動幅が大きいことにより、デジタル放送では、従来のアナログ放送エリアの35〜55%に減少する可能性があることを指摘した。(3)情報配信アルゴリズム利用者のアクセス頻度、データサイズ、リンク伝送速度などに基づいて、次のフェーズに配信するデータを適切なリンクに割り振る方法について有効性を明らかにした。
著者
土井 健司 宍戸 栄徳 柴田 久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成果論文「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する研究」において、先ほど最高裁判決の出された小田急線高架化事業取消請求事件を事例検証している。さらに都市基盤整備を巡る訴訟判例の経年的整理よりコンフリクトを巡る問題の構図が明らかにされている。特に小田急線問題に象徴される環境アセス手続主体間の独立性を巡る課題やコンフリクトの象徴を明らかにし、長い計画期間を有する都市基盤整備が留意すべき公益性とリスク評価の捉え方を提示している。結論として、実体関係に基づく手続審査とソーシャルキャピタル論からの手続的信頼性の意義を再考し、アセスメント手法などの改善の必要性を示している。これに基づき成果論文「イギリスの政策評価におけるQoLインディケータの役割と我が国への示唆」において、コンフリクト予防のための政策アセスの取り組みについて先進事例を紹介している。またコンフリクト予防に対する実践的研究として、成果論文「QoL概念に基づく都市インフラ整備の多元的評価手法の開発」を行い、生活の質(QoL)の向上という長期的な目標設定と、市民の価値観の多元性を組み込んだQoL評価(総合アセスメント)の仕組みについて、その重要性が示唆されている。ここでのQoL評価は、総合アセスの骨格に過ぎないものの、相互の価値観の違いをQoL要素の重みの違いと理解したうえで、共通利益としての公益を探ることこそが市民相互の互酬性を育み、ソーシャルキャピタルの醸成、さらに結果として都市基盤整備をめぐるコンフリクト予防に繋がるという論証結果が一連の研究成果として示されている。なおこれらの研究活動は、土木計画学研究委員会 政策重点課題プロジェクトの研究成果として位置づけられるものである。
著者
伊藤 寛 中西 俊介 伊藤 稔
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

光学緩和過程には結晶,非晶質,液体,気体等の物質の状態に応じて種々の緩和メカニズムが考えられる。物理的にはこれらはゲスト分子と熱浴との電子格子相互作用として扱われる。特にこの研究では将来的には生体物質中の熱緩和・熱伝導の解明を目的として,その手始めとして生体中の水との関係を考慮し親水性アモルファス系の光学緩和のメカニズムの解明を目的としている。具体的には,ポリビニールアルコール(PVA)をホストとして,その中に溶かし込んだ色素の電子状態の位相緩和を観測することにより,ホスト-ゲスト間の電子格子相互作用の様子を調べる。特にPVA分子中に含まれるOH基やCH基或いはC-C結合などの固有振動の大きさにより,この相互作用がどのように変化するかを調べる。このことにより,PVA中の分子振動の緩和速度或いは伝搬速度などを理解することができる。この場合色素はあくまでホスト分子の熱緩和過程を見るためのプローブである。実験は(1)色素としてサルファローダミン640を使い,これをPVAに封入し4.2Kの温度に保ったものを使った。この試料にシリコニット発熱体からの赤外線を照射しながら,四光波混合信号を観測する。さらに,この赤外光を分光器で分光しOH基に共鳴する3200cm-1を中心に2000cm-1から4000cm-1の範囲の波長を照射しながら測定した。四光波信号の測定には,色素系の緩和時間に対して十分な時間を保証するために10Hzの色素レーザーを使用した。(2)チタンサファイアレーザー励起光パラメトリック発振器(OPO)の発振波長をOH基の固有振動に同調し試料に照射しながら同様な四光波信号を測定した。今後,このような測定法でホスト分子の緩和過程を解明する事が可能である事の糸口を得た。今後振動の励起用および緩和測定用に同期したフェムト秒パルスを用い時間領域での緩和の検出実験を行う。
著者
丸 浩一 藤井 雄作 太田 直哉 上田 浩 吉浦 紀晃 田北 啓洋
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では, PCとカメラを活用して市民が身の回りを確実に見守る社会の実現を目指すコンセプトと,暗号化保存によりプライバシーの侵害を回避するためのコンセプトを合わせた新たな防犯カメラシステムのコンセプトの普及を目的とした技術開発および実験を行った.その成果として,プライバシー保護機能を付与した様々な防犯カメラシステムを開発し,本コンセプトの適用形態を大幅に拡大した.また,社会実験を通じた検証を行った.これらの活動により,本コンセプトの大規模な普及への足掛かりを得た.
著者
有馬 道久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,小学校に入学した児童が,潜在的カリキュラムをどのようにして習得していくのかについて検討した。2000年度は,小学校1年生のあるクラスについて,4月,6月,11月,翌年の3月に計36日間,計58時間の授業を観察,録画し,カテゴリー分析と事例分析を行った。このクラスには40名(男女同数)の児童が在籍し,担任教師は教歴17年の39歳の男性であった。その結果,児童は,潜在的カリキュラムの1つである教室ルールとして,「適切な姿勢のとり方」,「発表の仕方」,「号令の掛け方」などを学習することがわかった。教師は,入学直後は「説明する」という方略を用いるが,しだいに「ほめる」,「注意する」,「待つ」という方略を多用するようになることがわかった。2001年度は,1年生の別のクラスについて,4月,11月,翌年の2月に計32日間の朝の会と48時間の授業を観察,録画した。このクラスには35名(男子20名,女子15名)の児童が在籍し,担任教師は教歴32年の54歳の女性であった。ADHD(注意欠陥/多動性障害)児と集団保育未経験児の2人の児童に焦点を当てて,事例分析を行った。その結果,教師は,この2人の児童に対してかなり長時間の個別対応を行い,社会的スキルを指導していることがわかった。そして,この相互作用を通じて,クラスのすべての児童に「我慢すること(教師の指示に従うこと,順番や時期を待つこと,課題に集中すること)」という潜在的カリキュラムを教えていることが明らかになった。
著者
片岡 郁雄
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ブドウ果実の初期発育の制御による裂果抑制について調査した。無加温全面被覆と部分被覆栽培の‘藤稔'について、裂果の発生様相を調査した結果、裂果はベレゾーン期頃から発生し、全面被覆および部分被覆栽培での発生率は、1.7%および3.7%であった。裂果は主に成熟期の前半に果底部で発生し、後半には果頂部にもわずかに発生した。ベレゾーン後の果皮の硬度は、全面被覆栽培に比べ、部分被覆栽培でより低い傾向があった。次に‘藤稔'の果実肥大と裂果に及ぼす生長調節物質の影響を調査した。満開期にGA25ppm、満開10日後GA25 ppmCPPU5ppmの単用あるいは混用処理した結果、成熟開始後、GA単用区、GA・CPPU混用区では全果実の12%が裂果したが、CPPU単用区では2%であった。果実肥大はGA・CPPU混用区で最も優れ、CPPU単用区がこれに次いだ。収穫期には果皮硬度、可溶性固形物およびアントシアニン含量は処理間に差はなかった。GA単用およびGA-CPPU混用区では小果梗周辺部に亀裂が増加したが、CPPU単用区では少なかった。小果梗周辺の亜表皮細胞はGA区に比べCPPU単用区で小さかった。以上の結果から‘藤稔'のGA処理果とCPPU処理果における裂果発生率の差異の一因として、果皮の組織構造の違いが関与していることが示唆され、満開後のCPPU単用処理は、果実肥大促進の効果をもたらすと同時に裂果を抑制させるための有効な手段となりうる可能性が示された。
著者
稲田 道彦
出版者
香川大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

この2年の研究期間に香川県西部の三豊郡詫間町・仁尾町・三野町・豊中町・高瀬町の一部・観音寺市の一部を調査地域に定め、全墓地を訪ねると共に特に両墓制墓地の崩壊過程を調査研究した。この地域で一般的であった土葬が火葬の導入により墓地制度の変更がうながされた。このことが墓地を含む人にとの生活空間にどのような影響を及ぼしたのかというのが、研究者の問題意識であった。両墓制は従前の習俗を維持するのが困難になっった。特に埋葬地の埋め墓は多様な形態を示している。このような墓地制度の変化は葬儀などの儀式に変化を及ぼし、ひいては人々の宗教的な考え方にまで変容のきっかけを与えていることがわかった。さらに人々の生活スタイルの近代化や合理的思考などという現代人のライフスタイルもこれら地域の墓地空間の変化に大きく影響を与えていることが聞き取り調査で明らかになった。これらの地域の墓地の変化と比較するために、京都市や名張市など各地の両墓制墓地の変化の状況を調査した。また都市的な墓地文化を知るため、各地の都市の墓地の変容過程も調査した。調査地域の墓地の変容は火葬の導入がきっかけであったが、死者の埋葬地、遺骨、石塔というモノにこだわる現代人の態度が根底にあった。死者供養も墓石を建てることや実際の墓参りという行動によって自己満足を得ている。死者供養が人々の心の問題であるとして片づけることはできなくなっている。もしそうなら多様な死者供養が有り得るのであるが、現在地方固有の文化が都市的な葬制墓制文化に統一されつつある。墓地利用も入り会い形式ではなく、個人に区画し管理することを望むなど個人主義の傾向が強くなっている。1991年12月に人文地理学会事務局で開かれた特別例会で『両墓制墓地の変容ー香川県西部に事例を中心にー』という発表をおこなった。この表発は今回の科学研究費による研究の成果の一つである。
著者
松岡 久美 山田 仁一郎
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

事例研究を積み重ねることで地域における文化的な事業の創出のメカニズムを探った。その結果、ダイナミックな資源の活用・循環・創出を行うためには、社会的起業家を中心として、住民、行政、企業等の制度固有の論理を持つ利害関係者集団が互いの利害を「相互資源化」して集合的行為として関与することが不可欠となることを指摘した。また、事業の成立には長い時間を要するため、事業体からの起業家個人の離脱という課題が新たな論点として浮かび上がることを指摘した。
著者
大賀 睦夫
出版者
香川大学
雑誌
香川大学經濟論叢 (ISSN:03893030)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.1-32, 2004-03-01
著者
米田 耕造 窪田 泰夫 荒木 伸一 中井 浩三
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アトピー性皮膚炎は、掻痒の強い湿疹病変を主とする難治性皮膚疾患であり、フィラグリンタンパク質の遺伝子異常による。ロリクリンはフィラグリンと同様、表皮角層細胞の辺縁帯の主成分である。ロリクリン遺伝子の変異による疾患(亜型ボーウィンケル症候群)の臨床症状は、掌蹠角化症を合併した魚鱗癬であり、フィラグリン遺伝子機能喪失変異により生じる尋常性魚鱗癬の臨床症状に酷似している。本研究の目的は、アトピー性皮膚炎の動物モデルを作製し、その病態に関与するロリクリンの果たす役割を解析し、創薬に役立てることである。その目的に向けてわれわれはロリクリンノックアウトマウスを作製した。
著者
加藤 みゆき 大森 正司 長野 宏子 加藤 芳伸
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

阿波晩茶製造工程中の桶漬けにおいて微生物を分離した。その中でも乳酸菌に分類されるLactobacillus pentosus, Lactobacillus plantarum, Enterococcus fecium and Enterococcus avium.を分離同定した。この DNA を解析した結果 1494bp の塩基配列が明らかとなった。阿波晩茶から分離した微生物の中にコラゲナーゼ活性を有している微生物が明らかとなった。阿波晩茶の浸出液中に抗酸化性を示す物質があることが明らかとなった。
著者
渡辺 和行
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1996年のフランスも、戦争の記憶の問題に直面した。1月にはヴィシ-政府との関与を疑われたミッテラン前大統領が他界し、7月にはフランス人として初めて「人道に反する罪」に問われて終身刑に服していたポール・トゥヴィエが病死した。このように、当時を知る人々が鬼籍に入って身体的記憶が薄れるにつれて、国民的記憶を曖昧にする動きも加速したのである。それでは、ヴィシ-の集合的記憶はいかに変容したのであろうか。ヴィシ-期の集合的記憶は、4段階(1994-54年の服喪期、1954-71年の抑圧期、1971-3年の脱神話期、1974年以降の脅迫観念期)を経て変化してきた。第I期は、法的忘却を意味する大赦が可決された時期であり、第2期は、抑圧された記憶の補償作用としてレジスタンス神話が最盛期を迎えた時期でもあり、1964年のジャン・ム-ランのパンテオン移葬がその頂点をなした。レジスタンス神話を代表したドゴールが死去した翌年の1971年に、ヴィシ-像の転機が訪れた。この年は対独協力のフランスを描いた映画が上映され、ユダヤ人を殺害した民兵団のトゥヴィエに特赦が与えられた年でもあった。こうしてヴィシ-政府によるユダヤ人迫害問題が注目を集め、脅迫観念と化す第4期を迎える。近年の戦争の記憶がユダヤ人問題と関わるのも、以上のような「ヴィシ-症候群」によるのである。1997年1月には、ヴィシ-時代のジロンド県の高官で1970年代には予算大臣を務めたこともあるモ-リス・パポンが、1600人ほどのユダヤ人を収容所に送った咎により、「人道に反する罪」の共犯として裁判に付されることが決定されたばかりである。同時進行的なパポン事件の訴追に至る経緯を中心に、1996年のフランス社会における「ヴィシ-症候群」の諸相を、ドイツの歴史家論争との比較も交えて吟味検討したのが、私の科研研究である。日本にとっても裨益するところが大きい。