著者
加野 芳正 矢野 智司 湯川 嘉津美 鳶野 克己 村上 光朗 古賀 正義 越智 康詞 松田 恵示 毛利 猛 櫻井 佳樹 西本 佳代
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

マナーに関する理論研究と実証的研究を平行して進めてきた。その結果、以下のような知見が得られた。(1)法律や道徳と比較したときにマナーは独自の領域を構成している。(2)マナー(あるいは礼儀作法)は人と人を結びつけ、公共的な社会に参加していく上で不可欠なものである。(3)マナーは文明化や社会の近代化とともに私たちの社会に出現してきた。(4)日常生活におけるマナーとしては挨拶を重視する人が多い、また、家庭でのマナー教育に焦点を絞れば、食事の場面を重視する人が多い。(5)どのようなマナーが求められるかは、文化によって規定されている。
著者
西岡 圭子 新井 孝昭
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、「音声言語」対「手話言語」の二項対立図式を越えて進む試みである。伝統的な言語学を方法論とする「手話言語学」は、「手話言語には文字がない」と判断した。しかし、デリダとメルロ=ポンティの思索によれば、空間的であるだけでなく時間的に、間-身体的な表現である手話こそ、原エクリチュールとしてのパロールに他ならない。成人ろう者によるろう児の教育は、文字のある言語の世界に人間のおとなが子どもを導いていく原型である。この視座からの現象学的記述を通して、成人ろう者がろう児に必要不可欠な文化的環境であることの自明性を論じた。
著者
山内 加奈子 田中 美紗 加藤 匡宏 大西 美智恵
出版者
香川大学
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.65-75, 2008-03

とし子(仮名)は,早産(24週)で出生した超早産児である.とし子は,脳性麻痺や知的障害がないにも関わらず,2歳2ヶ月(修正月齢23ヶ月)になっても母親をふくめて誰に対しても発語がなく,主治医は彼女が言葉の遅れがある可能性を示唆した.主治医は,とし子に母親からばかりではなく社会からの言語刺激を与える必要があるとして,筆者らのプレイルームを紹介した.高等教育を受けた母親は,とし子をバイリンガル児に育てようとしていた.遊戯療法の第1期において,筆者らは,とし子が赤ちゃん人形でままごとをして遊んでいることを認めた.しかし,とし子は,運動技能を要求されるような,例えば跳びはねたりバランスを維持したりするトランポリンやラージセラピーボールの上ではねるなど体全体を使う遊具を嫌った.筆者らは,アニメーションキャラクターの声が聞こえるおもちゃの電話を用意した.そのころから,とし子はトランポリンや大きなセラピーボールの上で遊び始め,家庭では「パパ,ママ,じじ」とか「ブーブ」などの1音節の擬態単語を声に出せるようになった.遊戯療法の第II期において,とし子はトランポリンや大きなセラピーボールの上でのダイナミックな動きに伴って,1音ずつの単語が出てくるようになった.とし子は,家庭で両親など周りの人々が言った言葉やTVで聞いた言葉を真似するようになった.第III期に入ると,とし子は,買い物ごっこ遊びに興味があると言い始めた.第III期のおわりには,買い物ごっこ遊びを通じて,筆者らは,とし子と相互的な言語コミュニケーションが可能となった.つまり,筆者らは,遊戯療法において,色々な身体的刺激を与えることによってとし子の表出性言語障害を治療することに成功した.遊戯療法による日本語教育がとし子の表出性言語障害に治療的効果があったことから,日本人の両親が幼児期において子どもをバイリンガル児に育てるという試みは,子どもの言語発達に害を与える可能性があることを示唆する.
著者
若林 教裕
出版者
香川大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

生徒の興味関心と科学的な思考力を高めるための教材開発として音の引き起こす不思議な現象に着目した教材開発をした結果、共鳴現象を利用したワイングラスの破壊が成功したので、その実践例を報告する。〈実践1〉音でワイングラスを割る方法(1)選挙カー用のスピーカーを100Wのアンプにつないで使用する。(2)低周波発信器でワイングラスの固有振動数を探し、その周波数にあった音でグラスを共鳴させる。(3)ストローをグラスに入れてその揺れ具合で固有振動を発見する。(4)ストローの揺れ具合が一番激しくなった(ストローがグラスから飛び出るぐらい)ところで、アンプの音量を一挙にあげるとワイングラスが破壊する。固有振動が一致していれば、瞬時に破壊することができる。(動画・画像あり)〈実践2〉「音でワイングラスを割る」実験を盛り込んだ授業実践(1)大きさの違うワイングラスにスピーカーで音を当て、特定のワイングラスしか揺れない現象を演示。(2)特定のワイングラスしか揺れなかった原因を考えさせる。(3)自作の「目で見える共振器」(昨年開発)を使い、課題を解明する実験を行う。(4)高い声には短い棒が、低い声には長い棒が振動するという気づきから、特定のワイングラスにあった振動数の音を当ててやるとグラスが揺れやすくなることを見いださせる。(5)身近なところに共鳴現象があることにふれる。→再度、ワイングラスを揺らす実験を行い、音を大きくするとどうなるか訪ね、ワイングラスを割る実験を見せて、音が引き起こす面白さや不思議さを実感させる。音でグラスを割った瞬間、生徒からは驚きの大歓声があがった。授業後の振り返りにも、身の回りの共鳴現象として、音楽室である特定のピアノ弦をたたくと周囲の楽器が鳴ったり、通る車によって窓ガラスが揺れたりする現象があげられたりして身近な生活との関連も図ることができた。
著者
宮脇 秀貴
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

まず、エンパワーメントをハードな側面とソフトな側面に分類し、特にソフトな側面に焦点を当て、コーチングなどによるコミュニケーションの見える化がエンパワーメントを補完することを明らかにした。次に、エンパワーメントを行う側とされる側に分類し、人の記憶の改変性に焦点を当て、コーチングを深層インタビューと融合することで、組織成員の内面を写し出すコンセンサスマップの活用可能性を示し、会計情報の有効性の測定方法を明示した。
著者
吉井 匡 伊東 裕司
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

刑事手続過程において医学的知見の誤用や曲解が指摘されることがあるが、指摘が妥当なら、それは刑事手続過程から排除される必要がある。上記問題意識の下、研究代表者は、小児医学の知見であるタナー法を児童ポルノ事件で年齢推定に用いるべきではないとの立場から、国内初の研究論文を2016年に発表したが、これには批判も寄せられた。そこで、これまで以上に、国内外の研究動向の精査、他の医学的知見との比較、小児科医への調査等を行い、先行研究の正当性を裏付ける。そして、本研究で得られた知見は、タナー法を巡る問題に限らず、広く刑事手続過程における医学的知見の取扱いに対する、理論基盤の構築にも貢献することとなる。
著者
加野 芳正 吉田 文 飯田 浩之 米澤 彰純 古賀 正義 堤 孝晃
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究課題は4つのパートからなっていて、それを研究代表者(加野芳正)と4人の研究者の共同研究として進めてきた。それらの作業は、(1)学会の歴史に関する資料の収集と整理、そして分析、(2)日本教育社会学会の先輩会員(教育社会学第2世代、第3世代)へのインタビュー調査、(3)教育社会学の学術的課題(学問的課題、現代的的課題)による日本語論文集=全2巻の刊行、(4)日本の教育社会学の学問的水準を広く世界に発信することを目的とした英語論文集の刊行、である。(1)については資料がほぼそろい、8月下旬までに報告書として刊行する予定である。(2)については、18人に対するインタビューを完了するとともに読み物風に整理して、『日本の教育社会学と18人の軌跡-オーラルヒストリーによる語り』東洋館出版社、2018年8月刊行予定である。原稿はほぼ出そろっている。(3)については『教育社会学のフロンティア1-学問としての展開と課題』(日本教育社会学会編、本田由紀、中村髙康責任編集、2017年10月)、『教育社会学のフロンティア2-変容する社会と教育のゆくえ』(日本教育社会学会編、稲垣恭子、内田良責任編集、2018年3月)として、いずれも岩波書店から刊行した。4)英語論文集については、Japan’s Education in the Global Age-Sociological Reflection and Future Direction-(Akiyoshi Yonezawaほか責任編集)として今年中には刊行される予定である。すでにすべての審査を終え、原稿を出版社であるSpringer に送付している。本研究は順調に進展しているが、図書の刊行に向けての調整が必要なため、研究期間を1年間延長することにした。また、研究成果は『教育社会学事典』(丸善、2018年1月刊行)にも活用されている。
著者
長山 貴之
出版者
香川大学
雑誌
香川大学經濟論叢 (ISSN:03893030)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.389-449, 1999-09-01
著者
郭 沛俊 捻金 恭子
出版者
香川大学
雑誌
香川大学經濟論叢 (ISSN:03893030)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.275-300, 2006-09-01
著者
安井 行雄
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

水田に生息する甲殻類ホウネンエビBranchinella kugenumaensis(Ishikawa)の生活史形質において,前年度までの研究で明らかにされた表現型多型(長期繁殖型と短期繁殖型)が生じる原因が,遺伝によるのか環境によるのかを実験的に明らかにするためには,大前提として供試個体を容易に入手する必要がある。そこで本研究ではまず、香川県木田郡三木町を流れる河川(吉田川、新川、鴨部川)の流域においてホウネンエビ長期繁殖型の発生が見られるかどうかを探索した。また表現型多型の生じる原因を明らかにするためには、これまで困難とされてきたコントロールされた環境条件下で個体を飼育することが必要である。そのため本研究では半野外条件および恒温室内での飼育技術の確立を試みた。野外の調査地においてホウネンエビの発生が確認できたのはM3地点(吉田川上流足田打)のみであった。M3での個体の成長は短期繁殖型のものと類似しており、河川上流部で長期繁殖型個体の発生を確認することはできなかった。しかし半野外環境下での飼育において、M1地点(吉田川上流朝倉)の土壌から長期繁殖型と思われる個体の発生が確認出来た。恒温室内での実験ではN20地点(琴電農学部前駅南西)の土壌を用いた。これは野外網室での半野外飼育の結果としてN20個体はM1やM3など山間部の個体と比べて環境順応能力が高いと考えられたからである。大型のプラスティックトレイ(924×610×200mm、容量79リットル)に水田土壌を入れ、水道水を加えて攪拌し、網室内に放置して自然の日射と温度変化に曝すだけで土壌中のホウネンエビ卵を孵化・成長・繁殖させることができた。またトレイの底に土壌を入れた状態であれば恒温室(27℃、16L8D)内で人工照明を当てた状態でもホウネンエビを飼育することができた。光条件(ライト1灯と2灯)と水質条件(ハイポネクス添加、乾燥酵母添加および無添加対照区)をコントロールした飼育実験で発生消長を調べたところ、ライトの照度と水質の違い、および雌雄の性差についていずれも体サイズにおける有意差を生じさせることができた。ライトは2灯が1灯よりも成体の体長を大幅に促し、また酵母添加区、ハイポネックス添加区、対照区の順でわずかずつ体長が大きかった。また雌は雄よりもわずかに大型であった。本実験を通して、水中に土壌を残すという半人工条件とはいえ、これまでは困難とされてきたホウネンエビを飼育することに成功した。この結果、今後季節的要因にとらわれることなくホウネンエビを周年累代飼育することが可能となった。またその際、ライトの照射および酵母・ハイポネックスの添加を行うことは成長を促進する上で有効である。
著者
岩本 直樹
出版者
香川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究において日本古典文学の中でもっとも有名な作品の一つである平家物語を取り上げ、「扇の的」の記述について自然科学的な視点から検証を行なった。具体的には暦の変換、太陽運動のシミュレーションによる扇の的の日時の決定、江戸時代の弓の競技の記録のデータを解析することによって、扇の的までの距離について、中世に使われていた「段」という距離の単位に関して 2.7m, 11m という 2 説のうちのどちらが妥当であるかの決定、風波の影響の評価などを行った。
著者
室井 研二
出版者
香川大学
雑誌
香川大学教育学部研究報告. 第I部 (ISSN:04549309)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.1-16, 2006

2003年7月19日〜20日にかけて九州一帯を記録的な集中豪雨が襲い、福岡県太宰府市、飯塚市、熊本県水俣市等で甚大な被害が発生した。以前、筆者はこの災害について太宰府市を対象に調査する機会を得た。その一応の成果は室井(2005)でまとめたが、その後、調査対象地に飯塚市を加え、現在は両地域の比較を念頭に置きつつ調査を継続している。本稿では両地域がこの災害でどのような被害を受け、どのように対応し、現在どのような復興状況にあるのかを概観する。調査データの整理と記述を主眼とした作業論文であるが、最終節では両地域における地域防災の課題について社会学的な観点から論及してみることにしたい。
著者
岩本 直樹
出版者
香川大学
雑誌
香川大学教育研究 (ISSN:13490001)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.101-112, 2007-03
被引用文献数
1

新任採用、昇進、大学、研究所組織内部の教員、研究者、研究グループの生産性の評価等において学術論文リストは研究業績を評価するための基礎資料として不可欠である。中でも、学術論文リストの中の「論文数」は一目瞭然で、分かりやすい具体的数字であるため、しばしば「生産性」の指標とされがちである。本稿ではWeb of Science^^<[○!R]>の中のScience Citation Index Expanded^<TM>を使い、論文の被引用回数を質の評価の基準に取り、サンプル集団について分析を行った。その結果、Web of Science^<[○!R]>に採択されているようなある一定の基準を満たした「世界で最も権威と影響力のある高品質な学術雑誌」に掲載された論文と言えども、「論文数」は論文の質とは全く関係がない場合が多くあることがわかった。引用回数を使うに当たっての注意すべき点、研究者個人の評価と、その個人が属する研究グループ、組織の評価との関係、特に共著論文の取り扱い等における問題点等を議論する。
著者
吉田 裕子 佐藤 禮子
出版者
香川大学
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.9-16, 2007-03

本研究の目的は,終末期がん患者と周囲の人々とのつながりに関連する状況を明らかにし,終末期がん患者と周囲の人々とのつながりを促進させるための看護への示唆を得ることである.6名の終末期がん患者を対象に,参加観察法,面接調査法によって資料を得,質的分析により,以下を明らかにした.終末期がん患者と周囲の人々とのつながりに関連する状況は,【自己の価値を保てる】【人の輪の中に居て心地よく,安堵感を得る】【愛情や思いやりをとりかわす】【残してゆく家族の幸せを願う】【死を連想するような関わりをためらう】【愛情や思いやりが過剰で反って重荷になる】【家族や他者に負い目を感じる】【必死な思いが家族に伝わらない】【人との隔たりを感じ孤独に陥る】の9であった.これら9の状況は,つながりの有る状況とつながりの無い状況の2つに大別されていた.前者は,終末期がん患者が過酷な状況にありながらも生きていく力や励みを得ることを可能にするものである.一方後者は,終末期がん患者に過重なストレスを与え,生きる力を消耗させる可能性をもつものである.つながりの無い状況の根底には常につながりへの希求が在ると考えられ,つながりの有る状況と無い状況とは,表裏一体の関係にあると考えられた.従って,終末期がん患者と周囲の人々とのつながりは,関連する状況として両者を含め,つながりの正の部分,負の部分として捉えることが必要である.看護職者は,終末期がん患者と周囲の人々との交わりの根底には正のつながりへの希求が在ることを常に念頭に置くことが必要である.その上で,終末期がん患者と周囲の人々とのつながりを促進するためには,つながりが患者にとってどのような効果がもたらされているかをアセスメントし,つながりの負の部分の裏側にある正の部分を引き出し,育むための計画的看護介入が重要であるという示唆を得た.