著者
小倉 正樹 川瀬 哲明 鈴木 陽一 高坂 知節
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.122-126, 2001-04-27 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

複合音では実際には入力信号に含まれない, 低い周波数のピッチが感じられることが知られており, このような場所情報が得られない音の知覚には特に時間情報が大きな役割を果たしていると考えられている。 ピッチの認知過程において重要な周波数の場所情報と時間情報は中枢において統合されると考えられているが, 場所情報を持たないレジデューピッチと純音の知覚との関わり合いに関しては不明な点が多い。我々は, レジデューピッチと純音の知覚との関わり合いを調べるために, missing fundamnental現象を生ずるfiltered trainをマスカーとして, ランダム化最尤適応法を用いてトーンバーストの検知閾変化を求めた。 filtered click trainによるマスキングパターンは純音やバンドノイズのそれより急峻狭小で, 音圧の上昇により幅広な裾野が広がった。 filtered click trainの高域通過遮断周波数の上昇により, マスキング効果が減少した。
著者
金子 祥子 渡辺 聡哉 南 吉昇 立木 孝
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.220-226, 2005-06-30 (Released:2010-08-05)
参考文献数
11

入院加療で治癒し, 退院後の経過観察中に再発をきたした突発性難聴の2症例 (53歳女性, 38歳男性) を経験した。2症例とも初発時と再発時の難聴型はほぼ同様であったが, その転帰は異なり, 1症例は再発時も治癒したがもう1症例は回復に留まった。現在まで突発性難聴再発例の報告は少なく, 初発時からの聴力像の詳細な経過をたどったものはない。今回我々は初発時から治癒, 固定に至るまでの経過を観察することができたため報告する。
著者
延藤 洋子 大崎 勝一郎 鄭 鴻祥 上野 満雄
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.246-251, 1997-08-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
17

突発性難聴の報告は多いが, 今回著者らは日本 (近畿, 中四国地区) と中国 (北京地区) の187例を対象に, 両地区における背景因子の差異ならびに初診時に得られたデータのうち, 予後への関連因子についてχ2検定を用いて統計学的検討を加えた。 日本110例と中国77例の地区別検討では, 性別, 年齢分布などの患者背景に, 両群間に有意差は認められず, 相違が認められたのは治療法で, 治療効果に関しては有意差は認められなかった。 治療予後に関しては改善率, 有効率, 治癒率に分類類して検討した。 その結果, 良好な予後が期待できる諸因子はめまい無し, 低音障害型, 50歳未満, 早期の治療開始, 初診時聴力レベル60dB未満という条件を満たすものであったが, 特に治療開始日数に関して, 3日以内の治療開始であれば治癒率42%, 有効率62%が, 5日以内であれば改善率85%が期待できることが示唆された。
著者
村井 和夫
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.165-173, 2007-06-30 (Released:2010-08-05)
参考文献数
16

Bekesy によって考案された自記オージオメータについて, 機構, 測定法等について述べ, その臨床的意義について解説した。自記オージオメータと純音オージオメータの主な相違点は, 応答ボタンによって減衰器が作動, 制御され, また検査周波数が低周波数から高周波数 (あるいは逆方向に) に自動的に定められた速度で変化する (連続周波数記録), または定められた周波数について記録する (固定周波数記録) ことができることである。この測定法による臨床的意義は, 閾値の測定, 振幅の測定, 持続音と断続音記録との聴力レベル差の測定, 聴力レベルの時間的推移の記録等の評価にある。難聴の細別診断に有用な検査法である。
著者
高田 敬子 松平 登志正 山下 公一 上地 陽子 友田 幸一
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.266-272, 2000-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
8

感音難聴350耳を対象に67-S語表を用いて語音弁別検査を行い, その結果をもとに, 聴覚域値別 (10dBステップ) に, 域値上各レベルで語音明瞭度がその耳の最高明瞭度であった割合 (最高明瞭度達成率) を求めた。 最高明瞭度達成率が最大であったレベルは, 感覚レベル (本研究では語音聴力レベルと純音検査の平均聴覚域値レベルとの差) で表すと, 平均聴覚域値レベルが10dB台では50dB, これから平均聴覚域値レベルが10dB上昇するごとにほぼ5dBずつ低下し, 70dB台では15-20dBとなった。 これらの結果は, 一般の感音難聴に語音弁別検査, 補聴器適合判定を行う場合に, 明瞭度が最大となる語音レベル (最適語音レベル) を推定する一つの目安となるものと考えられた。
著者
広田 栄子 小寺 一興 工藤 多賀
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.755-762, 1988-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
17
被引用文献数
2 4

The purpose of this study was to provide the methodology how to use speech discrimination test (57-words list by Japan Audiological Society), and its usefulness for the fitting of hearing aids was evaluated. Speech discrimination score of 163 sensorineural hearing-impaired patients with/without hearing aids were mesured by means of speaker methods, and the results were analysed. The results were 1) When speech discrimination score with hearing aids is 10% lower than the score obtained without hearing aids, it is considered that the patient requires refitting of the hearing aids. 2) The improvement of consonants by hearing aids was varified according to the degree of discrimination score without hearing aid in the hearing-impaired. It is possible to predict that the consonant and vowel can be improved by fitting hearing aids after the speech discrimination score of respective subjects is evaluated. 3) Credibility of speech discrimination score without hearing aids increases if this is measured again and compaired with discrimination score with hearing aids obtained 2 months after the initial discrimination score of tained without hearing aids.From this study, it was found that upon comparative measurement of speech discrimination score with/without hearing aids of individual cases, the use of speech discrimination test is usefull for considering the adaptability of hearing aids.
著者
富澤 晃文 木下 眞理 加藤 大典
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.617-623, 2004-12-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

人工内耳と補聴器を併用する聴覚障害児4名の聴取様態について, 両耳聴の観点から検討した。人工内耳側―補聴器側間では, 装用閾値だけでなくラウドネスの上昇特性も異なっていた。1kHzハイパス/ローパスフィルタによる両耳ひずみ語音検査の結果, 人工内耳側にハイパス語音, 補聴器側にローパス語音を呈示した際に, 両耳聴による聴取成績の向上が顕著にみとめられた。一方で, 逆の帯域フィルタ条件における聴取成績は低く, 語音聴取においては, 人工内耳側は高音域に, 補聴器側は低音域に優位であることが分かった。主観的な日常のきこえについては, 3名が両デバイスを併用した方がよくきこえると評価していた。これらの結果は, 人工内耳と補聴器の音情報が異質であるにも関わらず, 両耳への併用によって単一の音韻が知覚されたことを支持した。両デバイスの併用を好む聴覚障害児においては, 両耳融合が生じていたと考えられる。
著者
武田 篤 村井 盛子 浅野 義一 亀井 昌代 村井 和夫
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.258-265, 1993-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
8

難聴児がその同胞にどのような影響を及ぼしているかを検討するために, 当言語治療室で聴能訓練を行った52例にアンケートを実施した。 回答のあった47例の内17例 (36.2%) に, 腹痛, チック, 足痛, 吃音, 過食, 万引きなどの神経症的発症がみられた。 これらの予後は, 1年以内に改善ないし改善傾向を示すものが多いが, 3年以上かかるものや不変例もみられた。 しかし, これらの症状は祖父母同居例に発症が少なく, また発症後スキンシップを図ることにより症状が改善する傾向を示したことから, ともすれば難聴児にばかり親の目がいき, その同胞をなおざりにしてしまうことによる「愛情欲求不満」が関与していると推定された。 難聴児の訓練, 指導にあたっては, その同胞に対しても十分な配慮を行うべきと思われた。
著者
白石 孝之 杉本 和彦 久保 武 松永 亨
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.303-309, 1990-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

131名の耳鳴患者のうつ傾向を質問紙法にて調べ, 70名 (53.4%) にうつ傾向を認めた。 特に, 高度難聴者, めまいを伴うものにその傾向が強かった。 抗うつ剤の耳鳴に対する効果を調べるために48名の耳鳴患者でスルピリドとプラセボとの二重盲検試験を行った。 結果, スルピリドの有効率は52.2%でU検定ではプラセボとの間に有意な差はなかったが, うつ傾向の強い症例で著効を含め有効性を認めた。
著者
村井 和夫 樋口 明文 小原 能和 小野寺 耕 浅野 義一 立木 孝 村川 康子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.253-264, 1992-06-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13
被引用文献数
1

急激に発症する感音難聴には強大な音響曝露後に見られるように, 原因の推定されるものの他に原因が明らかでない突発性難聴がある。今回, 音楽聴取後に聴覚の異常を訴えて受診したいわゆるコンサート難聴症例の聴覚障害の臨床像を検討し, コンサート以外の音響によって起こった急性感音難聴および原因不明急性感音難聴, いわゆる突発性難聴と主にその治療成績について比較検討した。その結果, コンサート難聴の予後は良好であったが, コンサート以外の音響の曝露によって見られた急性感音難聴の予後はいずれも突発性難聴より低値であり, 音響が原因で発症した急性感音難聴は, 突発性難聴と比較してより早期に治療を行う必要があると考えられた。
著者
別府 玲子 服部 琢 喜多村 真弓 柳田 則之
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.38-43, 1995-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
15

5歳女児が耳鳴を主訴に来院し, 詳細な問診と検査の結果, 玩具のラッパから発生した強大音による急性音響外傷と診断された。初診時の標準純音聴力検査では中高音域に60-70dBHLの聴力レベルの低下を認め, 直ちにATP, ビタミン剤, ステロイド剤の点滴加療を開始した。聴力レベルは一部回復したものの2kHz, 4kHzに難聴が残り, 耳鳴も不変であった。幼児急性音響外傷は患者が幼児であるが故にその診断や発生の経緯の推定が困難と思われる。今回の症例での主訴は幼児としては珍しい耳鳴であった。幼児の耳鳴と難聴の関係について検討を加えた。また音源の音圧はプローブマイクより5cmの距離で130dB (A) 以上と高く, 急性音響外傷の原因音と充分なりうるものであった。強大音を発生する玩具や音響機器の幼少児に対する危険性についての啓蒙が必要である。
著者
村本 多恵子 山根 仁一 田中 美郷 阿波野 安幸
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.244-249, 1991

泣いている新生児に胎内音をきかせると体動を停止して泣き止むことが知られている。 この反応を新生児の聴覚スクリーニングとして用いるため, 自動的に記録できる装置を開発し, 正常成熟新生児47例と, 周産期に異常の認められた新生児11例について反応を記録した。 反応の有無の判定は極めて容易であつた。 正常成熟新生児47例の胎内音をきかせた場合 (on記録) の反応出現率は46.3%, 胎内音をきかせない状態 (off記録) で偶然に体動を停止する率は24.2%で, 胎内音をきかせたほうが新生児が泣き止む確率が明らかに高かった。 個々の新生児についてみると, on記録の反応出現率がoff記録の見かけ上の反応出現率を下回ったのは, 47例中1例のみであった。 一方, 周産期に異常の認められた新生児では, 泣き続ける力が乏しいなため, off記録での体動停止の確率が高く, そのため, これらの新生児の聴覚のスクリーニングとしては十分に有効とはいえなかった。
著者
熊谷 一郎 平原 政太郎 岡田 諄 武藤 暢夫 清水 淑郎 高津 忠夫 関 和夫
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.104-109, 1970 (Released:2010-04-30)
参考文献数
22

Audiometric examination was performed on 120 subjects who engaged in speaker research or in administrative works in speaker production, 10 subjects who used in their work insert-type receivers, and 30 recording engineers.The results were analized in reference to the number of years in works.Present study revealed that:1) there was no tendency that hearing was impaired in speaker engineers or in other people exposed to sound from speakers.2) the mechanism of hearing loss at 4000Hz found in recording engineers was appeared either different from the ones seen among sheet-metal workers or in speaker engineers.3) the reproduced sound through speakers seemed not to cause hearing loss in human.4) the direct sound produced by instruments may cause hearing loss as in the case with noise, however, further observation is to be done to prove definite effect of the sound from the instruments.
著者
Masaya Takumida Kohji Yajin Mamoru Suzuki Shigeharu Takeuchi Yasuo Harada
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.152-156, 1983 (Released:2010-04-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

Tinnitus matching was performed in 24 patients with various types of etiology using a commercially available music synthesizer. Pure tone tinnitus was synthesized either by sine or pulse wave. In some cases, tinnitus was matched by band noise, but its band width varied considerably among individuals. In 17 out of 24 cases, tinnitus disappeared or decreased after masking by the synthesizer. Masking was the most effective when the tinnitus was high-pitched pure tone, and had small loudness and low masking level. In contrast, tinnitus of pulsating nature showed no effect of synthesizer masking.
著者
Yasuko Mori Yoshifumi Takahashi Ayako Sawada Yasuo Mishiro Takeshi Kubo
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.209-213, 2001-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
10

大阪大学耳鼻咽喉科幼児難聴外来にて補聴器装用指導を行い経過を観察している難聴児の中で, 耳FM補聴器を装用している19名の保護者, 学校担任に対して, その使用状況および問題点を検討するために, 質問紙法による調査を行った。 以下のことが明らかとなった。 小学校入学直後からFM補聴器を利用開始している場合が多い。 様々な授業, 学校行事で利用されているが, 体育や音楽の授業, 屋外での学校行事の際は利用率が低い。 利用効果について, 保護者, 教師とも認識している場合が多いが, 効果を測りかねている場合も見受けられる。 耳鼻咽喉科医としては, さらに積極的にその有用性を啓蒙する必要がある。
著者
竹内 義夫
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.177-186, 1991
被引用文献数
2

語音聴力検査用語表の検査語のレベルはVUメータによって測定および統制されている現行の方法の歴史的経緯を述べ, 現在までに公開された語音聴取域値検査用数字語表の録音について数字音声のレベルの比較計測を行った。 57および57-S語表に関しては語音聴取域値の正常値を測定し, 57-S語表の語音のレベルの基準値が14dB SPLである根拠を明らかにした。 最近CD化された語表が瞬時値指示器によってレベルの計測と統制を行ったことに由来する問題点を指摘し, CDの数字音声のレベルをVUメータおよびピークメータで測定した結果から約5dBの補正が必要なことを示した。 今後語音のレベルに関する曖昧さを排除するため, オージオメータのJIS規格の中に規定を新たに設けるべきであることを提言した。
著者
前田 知佳子 小寺 一興 長井 今日子 三浦 雅美 矢部 進
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.276-282, 1992
被引用文献数
1

CD (TY-89) の57語表と, 57Sテープについて, 校正用純音と検査語音との関係を求めた。 検査語音のVUメータ相当レベルは, 校正用純音に対して, TY-89では10.2dB小さく, 57Sテープでは2.1dB大きかった。 検査語音のVUメータ相当レベルに比べたTY-89の語音の最大振幅は13.1dB高く, 57Sテープでは5.0dB高かった。<br>ついで, 正常者8例の雑音下の明瞭度をTY-89と57Sテープで, SN比を一致させて検討した。 全体明瞭度および無声子音, 有声子音, 半母音の明瞭度は, TY-89の結果は57Sテープより良好な傾向があった。 鼻音については, TY-89の結果は57Sテープより悪い傾向があった。<br>CD (TY-89) の57語表を雑音下の明瞭度検査に用いる際には, 本研究結果を考慮すべきである。
著者
阿部 隆 立木 孝 村上 裕 遠藤 芳彦 伊藤 俊也
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.110-117, 1990

Kemp & Bray製作のILO88を用いて内耳性難聴者90名154耳のclickに対するeOAEを測定し, 内耳性難聴の程度との関連を検討した。 (1), eOAE波形が認められかつ再現性が40%以上の場合をeOAE (+) とすると, 0.5k-4kHzの4周波数平均聴力が35dB未満の81耳では, 94%の確実性でeOAE記録が可能, 35dB以上の73耳及び40dB以上の63耳では, 89%及び92%の確実性でeOAE記録が不能であった。 1kHzと2kHzの2周波数平均聴力が40dB以上の64耳では, 94%の確実性でeOAE記録が不能であった。 (2), eOAE記録可能の84耳では, 内耳性難聴の程度とeOAEパワー (total echo power及びFFT解析図のhighest peak power) の間に負の相関 (r=-0.44) が認められた。 以上の結果から, ILO88を用いて, 4周波数平均聴力レベル35-40dB以上の内耳性難聴のスクリーニングが可能と思われた。
著者
大原 卓哉 泰地 秀信 守本 倫子 本村 朋子 松永 達雄
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.289-294, 2011

Auditory neuropathy spectrum disorder (以下ANSDと略) は, 耳音響放射が正常であるにもかかわらずABRが無反応あるいは異常となる病態であり, 聴力に比し語音聴取力が低いことが特徴とされている。ANSDの遺伝的原因の解明が近年進んできており, 遺伝的原因として<I>OTOF</I>遺伝子変異などの報告がある。ANSDに対する根本的治療は確立されておらず, 人工内耳の効果や適応などについてまだ意見の一致がみられていない点が多い。今回我々は<I>OTOF</I>遺伝子変異を認めるANSDの乳幼児3症例に対し人工内耳埋込術を施行し, その臨床経過, 装用効果について検討したので報告する。3症例ともDPOAE両側正常, ABR両側無反応であり遺伝子検査にて<I>OTOF</I>遺伝子変異を認めた。補聴器装用効果は不十分であったが, 人工内耳装用により良好な聴取能が得られており言語も発達してきている。