著者
川井 廉之 星 永進 高橋 伸政 池谷 朋彦 村井 克己
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.1978-1981, 2011

症例は30歳,男性.前医にて緊張性気胸に対する胸腔ドレナージ後に血胸を呈し,医原性の血胸が疑われ当センターへ緊急搬送された.胸部X線写真にて右胸腔に大量胸水貯留を認め,ドレーンからの出血が続いていたため,血気胸の診断で胸腔鏡下緊急止血術を施行した.出血は肺尖部対側の胸壁の断裂した血管からであり,自然血気胸と診断した.術後,再膨張性肺水腫を発症したが,その後の経過は良好で,術後第7病日に軽快退院となった.自然血気胸の中には本例のように初回胸部X線写真で胸水貯留が認められない症例があり,早期の診断と治療のためには,ドレナージ後の注意深い経過観察が重要である.
著者
森脇 義弘 伊達 康一郎 長谷川 聡 内田 敬二 山本 俊郎 杉山 貢
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.1701-1705, 2001

キックスケート(車輪付きデッキ,シャフト,ハンドルバーから構成される遊戯具)による肝損傷で病院前心肺停止状態(CPA-OA)となり救命しえなかった症例を経験した.症例は, 9歳,男児,同遊戯具で走行中転倒しハンドルバーで右側胸部を強打.救急隊現場到着時,不穏状態で呼名に反応せず,血圧測定不能,搬送途中呼吸状態,意識レベル悪化,受傷後約30分で当センター到着, CPA-OAであった.腹部は軽度膨隆,右肋弓に6mmの圧挫痕を認めた.急速輸液,開胸心臓マッサージにより蘇生に成功した.肝破裂と腹腔内出血の増加,血液凝固異常,著しいアシドーシスを認めた.胸部下行大動脈遮断し,救急通報後78分,搬送後46分で緊急手術を施行した.肝右葉の深在性の複雑な破裂損傷に対しperihepatic packing,右肝動脈,門脈右枝結紮術を施行,集中治療室へ入室したが受傷後約15時間で死亡した.
著者
中野 聡子 藤田 哲二 小林 進 伊坪 喜八郎 杉坂 宏明 池上 雅博
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.1988-1991, 1996

回腸とS状結腸に交通を認めた稀な管状型消化管重複症を経験したので報告する.<br> 症例は33歳,中国人の男性. 1995年2月9日,急に腹痛が出現し腹膜刺激症状を認め,腹部レントゲン上腸閉塞所見を呈し,手術を予定したが, 10数分の間に腹膜刺激症状は消失した.しかし,腸閉塞症状が改善せず,翌日手術を施行した.開腹時,回腸周囲に索状物を認め,ここに腸管が陥入し絞扼された状態になっていた.また,回腸とS状結腸の腸間膜対側で交通を認めた.手術は交通部の大腸を含めた小腸部分切除を行った.病理組織学的に,交通部は大腸粘膜で,周囲は平滑筋がとりまいていた.以上から, S状結腸の管状型重複症で,ここに潰瘍を形成し,回腸に穿通したものと考えられた.非特異的な経過または腹部所見を示す急性腹症では消化管重複症も念頭におくべき疾患の1つである.
著者
中山 隆盛 白石 好 西海 孝男 森 俊治 磯部 潔 古田 凱亮
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.3052-3056, 2002

前立腺癌は,日本において死亡増加率が最も高く,今後の動向は重要である.われわれは,直腸狭窄により発見された稀な前立腺癌を報告する.<br> 症例は, 73歳の男性.主訴は排便困難であり,直腸癌疑いにて紹介入院となった.大腸内視鏡および注腸にて,直腸の全周性狭窄像を認めた.尿路症状を認めないものの, PSA (prostate specific antigen)が高値であり,骨転移が認められた.前立腺生検により,原発前立腺癌の確定診断となった.内分泌療法および放射線療法が奏効し,直腸狭窄は解除され,外来で内分泌療法中である.
著者
大槻 憲一 渡辺 明彦 山本 克彦 石川 博文 大山 孝雄 山田 高嗣
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.522-526, 2004-02-25
被引用文献数
3 1

症例は59歳,女性.平成13年11月,下痢を主訴に近医を受診したところ,右側腹部腫瘤を指摘され当院に紹介された.当院受診時,右側腹部に弾性軟,小児頭大の腫瘤を触知した.腹部CTでは右後腹膜腔に12×7 cmのlow density massとして描出され,注腸造影検査において,上行結腸は著名に左側に圧排されていた.後腹膜漿液性嚢胞の診断のもと,腫瘍摘出術を施行した.腫瘤は非常に薄い嚢胞壁を有し,その内容物は無色透明の液体であった.内溶液のCA19-9, CEA値はそれぞれ10,000U/ml以上, 344.5ng/mlと高値を示したが,細胞診は陰性であり,嚢胞壁にも悪性所見は認めなかった.後腹膜嚢腫は稀な疾患であり,若干の文献的考察を加え報告する.
著者
松下 尚之 磯貝 雅裕 近藤 圭一郎 福永 剛隆 北村 信夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.2506-2508, 1998
被引用文献数
1

小腸大量切除施行後の縫合不全の為,長期間経口摂取ができない甲状腺全摘後の症例に対し,経直腸的に坐薬として甲状腺ホルモン剤(チラージンS,甲状腺末)の投与を行った.当初,内服と同じ量のチラージンSを粉末にし坐薬の形で使用したが,血中のf-T4, f-T3濃度は上昇しなかった.そこで甲状腺末200mgから300mgを坐薬とし使用したところ,血中f-T4, f-T3濃度は上昇してきた.坐薬挿入前後に急な血中濃度の変化は無かった.本症例では,術前T4(チラージンS<sup>®</sup>)として150μgを使用しeu-thyroidを保っていたが,今回経直腸的には甲状腺末が200~300mg必要であった.この量は,チラージンS 150μgの2~3倍に相当する.経直腸的に比較的大量の甲状腺ホルモン剤が必要であったのは薬剤の吸収がただ単に悪いというだけではなく,時折,便秘と下痢を繰り返す状況にあったこともその吸収において影響したものと思われる.
著者
杉野 圭三 沖政 盛治 岡本 英樹 片岡 健 杉 桂二 武市 宣雄 丸林 誠二 八幡 浩 浅原 利正 土肥 雪彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.502-506, 1997-03-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
15

過去22年間に10例の若年者甲状腺癌を経験した.これは当科で手術を施行した甲状腺悪性腫瘍610例の1.6%である.年齢は9歳から19歳まで, 9歳の男児を除く9例は女性であった. 2例が濾胞癌, 8例が乳頭癌, T2以上の臨床癌が8例,偶発癌は2例であった.リンパ節転移は4例で, 2例がN1a, 2例がN1b, 6例はN0であった.劇症肝炎で死亡した1例を除き健存中である.
著者
細野 芳樹 古田 智彦 須原 貴志 松尾 篤 桑原 生秀 平岡 敬正
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.165-168, 2005-01-25 (Released:2009-05-26)
参考文献数
8

症例は28歳,男性.以前より胆石を指摘されていたが無症状の為放置していた.職場の検便検査でサルモネラ菌の排菌を指摘され,抗菌薬にて除菌治療を行った.しかし,その後も同様に除菌治療を行ってもサルモネラ菌の排菌を繰り返し,再び抗菌薬治療を行ってもサルモネラ菌を便中に排菌する可能性が高いと考えられた.原因の一つとして胆石が疑われた為,胆嚢摘出術を行った.術後の細菌学的検査では,破砕胆石より便培養で検出されたものと同種のサルモネラ菌を検出した.術後経過良好にて術後第12病日に退院した.術後11カ月後に便培養を行ったがサルモネラ菌を検出しなかった.胆石や胆嚢奇形があるとサルモネラ菌無症候性長期保菌者になりやすいといわれている.胆石を有するサルモネラ菌長期保菌者は,原因の1つとして胆石症を疑い,積極的に胆嚢切除を考慮する必要があるものと思われた.
著者
山吉 隆友 下山 孝俊 山下 秀樹
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.2721-2725, 1999-10-25 (Released:2009-08-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

症例は56歳の男性で胃小彎の4型胃癌に対し胃全摘術を施行,腹腔動脈~脾動脈周囲リンパ節に転移があり可及的な郭清を行った.術後60日目に突然の大量吐血が出現し,腹腔動脈造影で脾動脈根部に仮性動脈瘤を認め,これが再建に用いた空腸係蹄に穿破したものと考えられた.再び吐血が生じたため緊急血管造影を施行,金属コイルを用いて塞栓を行い良好な経過が得られた.定期的なCTの観察では動脈瘤はほとんど指摘できなくなっている.上部消化管癌手術後に生じる仮性動脈瘤について本邦の文献を集計し,成因,治療を中心に考察した.
著者
酒井 章次 洪 淳一 山本 修美 橋本 光正 細田 洋一郎 椎名 栄一 川村 貞夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.975-979, 1990-05-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
17

後天性食道気管支瘻は食道癌に伴って起こることはよく知られているが,憩室に伴う食道気管支瘻は比較的まれである.本症例は66歳,女性で,55歳時に嚥下困難があったが肺化膿症および食道アカラシアの診断で放置していた.66歳になり嚥下困難,発熱,体重減少,背部痛があり当院に入院した.食道鏡により上部食道に発生した食道憩室を認めた.食道憩室造影から食道憩室と右肺上葉との連絡がみられた.この食道憩室造影所見から上部食道憩室の胸腔内破裂により生じた後天性食道気管支瘻と考えられた.
著者
倉持 純一 五関 謹秀
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.3236-3238, 2000-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

症例は53歳女性,上腹部痛および蕁麻疹を主訴として来院した.上部消化管内視鏡にて胃幽門洞前壁に2型進行癌を認めたが,アニサキス幼虫がその潰瘍底に迷入し周堤は浮腫状を呈していた.鉗子を用いアニサキス虫体を除去し,症状は改善した.後日胃癌に対し幽門側胃切除術を施行した.病理組織学的にはアニサキスによる炎症細胞浸潤や肉芽腫性変化は認められず,漿膜面の変化もなかった.本症例はアニサキス幼虫が進行胃癌に迷入しておりまれな1例である.
著者
江崎 昌俊 久米 進一郎 高橋 勝三 里見 昭 石田 清
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.112-116, 1980-01-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11

乳幼児腸重積症402例(特発性は395例)でそのうちの15例に再発を認めた.性比は男12人,女3人である.最終再発時年齢は5カ月から3歳7カ月までで平均10カ月であった.再発までの期間は初回整復後の翌日から2年に及んだが, 1回めの再発が6カ月以内に発生したものが12例(80%)を占めた.再発回数では1回再発が13例で大部分を占め, 2回再発が1例, 9回再発が1例である. 9回再発例は2歳を過ぎて再発防止の手術を行なったにもかかわらず,術後さらに3回も再発を繰り返した後,自然に再発をきたさなくなったものである.経験例と文献的考察から, 2歳までは非観血的療法を重視し, 2歳を過ぎて再発をみた場合には開腹精査の適応と考え,器質的疾患の有無を術中検査し,特発性の場合,再発防止の手術としては本症の成立機転に腸管の異常可動性,回盲部の固定不十分が主な条件であることを考慮すると,回腸と上行結腸間の最低10cmにわたる広汎な固定が必要であると思われる.従来慣習的に行なわれてきた上行結腸と回腸間の2~3針のみの固定, ileocolic bandの切離,虫垂切除などは再発防止の普遍的手術とはなりえないことを確認した.
著者
野村 真治 桂 春作 久我 貴之 河野 和明 加藤 智栄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.570-574, 2003-03-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

2000年2月から2002年3月までに7例の上肢急性動脈閉塞症を経験した.年齢は61歳から91歳で平均77.3歳.男性4例,女性3例であった.全例に不整脈を認め,うち6例は心房細動で, 1例は洞不全症候群であった.症状は冷感6例,知覚異常1例,疼痛3例,脱力感2例であった.閉塞部位は鎖骨下動脈2例,腋窩動脈1例,上腕動脈2例,橈骨動脈2例で,右4例,左3例であった.全例にまず血栓溶解療法を施行し, 4例で改善を得た.他の3例で,経皮的血管形成術, Fogartyバルーンカテーテルによる血栓除去術,バイパス術をそれぞれ1例ずつ追加した.全例手指の機能障害なく改善した.本疾患への治療の第一選択として血栓除去術が頻用されているが,当科ではまず血栓溶解療法を施行し, 7例中4例で有効であり,第一選択の治療法となりうると考えた.
著者
原 真也 澤田 成彦 松岡 永 畠山 茂毅 津田 洋 佐尾山 信夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.2141-2145, 2005-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
14
被引用文献数
5 4

症例は56歳の男性.統合失調症にて療養中であった. 2003年9月29日にサワラの骨を咽喉につまらせた. 10月1日より発熱を認め,抗生剤投与にて経過観察していたが改善せず10月6日当院に紹介された. CT上,頸部から縦隔内に及ぶ大きなair densityを認め,魚骨の食道穿孔による縦隔炎と診断し,同日緊急縦隔ドレナージを施行した.頸部横切開にてドレナージ術を試みたが,後縦隔下方にまで炎症が及んでおり右開胸を追加した.頸部と縦隔内にドレーンを計5本留置し,術後ドレーンからの持続洗浄を行い,第38病日に軽快退院した. 食道穿孔は保存的治療で対処できることもあるが,縦隔炎などの合併症を引き起こした場合,ほとんどの症例が緊急手術の適応とされる.また穿孔からの経過時間が短いほど治療成績は良いとされており,早期診断と的確な治療方針の決定が重要となる.
著者
笠倉 貞一 小山 信弥 長瀬 英義 小松 寿 亀谷 寿彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.1031-1036, 1980-12-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
17

手術時には血糖値が上昇することはすでに知られている事実であるが,とくに心手術の際の体外循環下における非生理的状態は著明な高血糖と低インスリン値を示すことが知られている.われわれは今まで体外循環終了時に50%グルコースおよびインスリン20単位を投与していたが,さらにこれらをコントロール(第1群)として,体外循環開始後10分および20分後にインスリンを各々10単位投与する群(第2群),さらに心筋保護液のひとつであるGIK液を用いた群を第3群として体外循環開始前,開始後15分毎に採血を行い,血糖値,インスリン値および乳酸値を3群間で比較してみた.第1群では血糖値は手術終了後も著しい高値を示しており,体外循環終了時に投与する外因性のインスリンはまだ十分その効果を示していないように思われる.一方体外循環開始後10分および20分後にインスリンを投与する(第2群)と,血糖値は400mg/dl以下に維持できた.さらに第3群のGIK液投与群では血糖値も第2群と同様に400mg/dl以下に維持でき,さらに大きな相違点として,乳酸値は他の2群と比べ有意に低値を示した.即ち心筋保護液として用いるGIK液はいわゆる嫌気性代謝による乳酸の上昇を抑え,血糖のコントロールにはじまり,術後の心拍再開にも良く,また術後の不整脈の発生もある程度抑えることができ,術後の管理にも有効であり,一石二鳥であると云える.
著者
岡田 和也 中島 公洋 荒巻 政憲 岩男 裕二郎 吉田 隆典 御手洗 義信 金 良一 小林 迪夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.2749-2753, 1993-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
14

腫瘍径5cm以下の肝細胞癌切除68例中,多結節型13例を対象に,多中心性発生の有無や, Stage分類,治癒度分類について検討した.肉眼的進行程度は単発55例でStage I, II, IIIが10例, 24例, 21例であるのに対し,多結節型ではStage II, III, IV-Aが1例, 6例, 6例であった.また治癒度は単発例で絶対的治癒切除 (AC) 6例,相対的治癒切除 (RC) 37例,相対的非治癒切除 (RNC) 12例であるのに対し,多結節型ではRC 3例, RNC 10例であった.一方,多結節型13例中10例が多中心性発生と考えられ,その5生率は54%であった.これに対して単発例の5生率は全体で36%, Stage I, II, IIIで80%, 52%, 15%, AC, RC, RNCで100%, 43%, 22%であった.したがって多結節型肝癌は単発例に比べStageが進行したRNC症例が多いが,多中心性発生の場合には切除により比較的良好な予後が得られており,今後,多中心性発生の可能性を考慮したStage分類や治癒度分類の検討が必要と考えられた.
著者
藤田 雄司 森 文樹 河野 和明 藤原 敏典 吉岡 嘉明 田村 陽一 江里 健輔
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.2063-2066, 1993-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
10

炎症性腹部大動脈瘤の発生頻度は腹部大動脈瘤の約20%前後であることが報告されてから,最近急速に注目されている.今回われわれは炎症性腹部大動脈瘤の1例を経験したので,最近の治療法をふまえて報告する.症例は62歳の女性で,夜間の発作性腹痛・腰痛を主訴とした.血圧は正常で,貧血や炎症所見あるいは,尿路系障害もなかった.腹部エコー及びCTでは,腎動脈分岐部直下に最大横径4cm, 縦径8.5cmの紡錘状動脈瘤を認めた.動脈壁は約1cmとマントル状に肥厚し,壁内には石灰化があった.瘤壁は約1cm厚に肥厚,線維化しており,内膜には中等度の動脈硬化性変化が認められるに過ぎなかった.径18mmY型Dacron人工血管にて置換術を行った.組織学的には,炎症性腹部大動脈瘤であった.本症は破裂しにくいと言われているが,症状を伴う場合には積極的に手術をすべきである.
著者
高倉 有二 高橋 忠照 貞本 誠治 豊田 和広 池田 昌博 中谷 玉樹
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.1428-1432, 2006-06-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

症例は69歳の女性で,右鼠径部の膨隆を主訴に受診した.右大腿ヘルニアの嵌頓にて緊急で嵌頓解除,ヘルニア根治術を施行した.ヘルニア内容は腫瘤性病変であったが,壊死状であり,確定診断がつかなかったため,悪性腫瘍の腹膜播種を疑って再手術を施行した.腹腔内には回盲部や骨盤を中心に多数の腫瘤を認めた.両側卵巣は正常大であった.切除不能と判断し腫瘍生検のみ行い手術を終了した.組織学的には卵巣の漿液性乳頭状腺癌に類似しており腹膜原発漿液性乳頭状腺癌と診断した.腹膜原発漿液性乳頭状腺癌は腹膜原発の稀な疾患で,多くの場合腹水貯留による腹部膨満感が初発症状となる.腫瘍のヘルニア嵌頓で発見されることは稀であり,ヘルニア内容がはっきりしない場合は本症例のような腹膜原発の悪性疾患も考慮すべきである.
著者
森屋 秀樹 柳田 優子
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.1547-1551, 2000-06-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
8

胆嚢管の走行や開口部にはvariationが多いが,胆嚢管が総胆管下部で合流するいわゆる胆嚢管低位合流に関する報告は少ない.総胆管拡張を伴った胆嚢管低位合流の1例を経験し,報告する. 79歳,女性.心窩部痛と発熱を主訴に来院.超音波検査で胆嚢腫大,総胆管拡張を認め胆管炎の診断で入院となる. ERCP, PTBDにより胆嚢管低位合流を認めたが,膵胆管合流異常は認めなかった.胆石,総胆管結石の診断で胆摘・総胆管切開・胆管ドレナージ術を施行した.肝内胆管の拡張は改善するも総胆管の拡張は残存し,本症例における総胆管拡張は,胆嚢管が低位合流することによる慢性胆汁うっ滞と考えられた.
著者
蜂須賀 康己 三好 明文 福原 稔之 小林 展章
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.985-989, 1997-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14

高校の野球部の練習中に行われた,発声訓練が誘因となって発症したと思われる特発性縦隔気腫の1例を経験した.症例は15歳の男子高校生.両頸部違和感と咽頭痛を主訴に来院した.胸部X線単純写真および胸部CTにて典型的な縦隔気腫を呈し,保存的治療にて約10日で軽快した.特発性縦隔気腫は若年男性に好発する比較的稀な疾患で予後良好とされている.最近6年間における38例について,本疾患の臨床像を検討した.胸痛や呼吸困難を訴え,皮下気腫を認め,発症時に胸腔内圧が上昇するような誘因がある場合は本症を疑う必要がある.