著者
中川 国利 桃野 哲
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.2708-2711, 1990-12-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
8

成人の腸重積症は稀であるが,われわれは腸重積症を来した回腸悪性リンパ腫の1切除例を経験したので報告する. 症例は26歳の男性で,5ヵ月前より心窩部痛があった.来院時嘔気もあり,腹部単純X線写真にて小腸にガス像を認めた.また右側腹部に小児手拳大の腫瘤を触知した.腫瘤はCT検査や超音波検査では同心円状の所見を呈し,注腸造影や大腸内視鏡検査では回腸腫瘍を先進部とした腸重積を認めた.開腹術を施行したところ,Bauhin弁より22cm口側の回腸に3.0×3.0×2.5cmの腫瘍を認め,それを先進部とした回腸回腸,さらに回腸結腸の二重性腸重積を来していた.また周囲リンパ節に転移を認めたため結腸右半切除を行い,さらに化学療法を術後に行った.組織学的にはdiffuse, large cell型の悪性リンパ腫で,術後4年8ヵ月を経た現在再発は認めていない.
著者
森藤 雅彦 浜中 喜晴 平井 伸司 宮崎 政則 中前 尚久
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.94-98, 2001-01-25 (Released:2009-08-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

中皮腫は漿膜最上層のmesothelial cellを発生母地とする腫瘍である.われわれは,肉眼的に限局した形態で発見された悪性胸膜中皮腫の1例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.胸部異常陰影にて入院した.精査にて横隔膜原発腫瘍を疑い胸腔鏡下切除術を施行した.術中迅速病理にて悪性所見を認め,肺,横隔膜にも浸潤していたため右肺下葉,横隔膜の一部を合併切除した.術後の病理組織検査にてmalignant mesotheliomaが疑われ,免疫組織学的検討にてCytokeratin陽性, Vimentin陽性, CD34陰性であった.その後2度局所再発し,手術と化学療法を施行し,現在外来通院中である. malignant mesotheliomaは診断が困難であるが,他疾患との鑑別に免疫組織学的検索が非常に有用である.現在本疾患に対する有効な治療法はなく,予後も極めて不良と言われる.新たな治療法の解明のためにも他疾患との明確な鑑別診断が必要と考える.
著者
岡本 大輔 浦田 尚巳 冨吉 浩雅 藤原 英利 浮草 実
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.71-74, 2002-01-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

巨大植物胃石による胃壁の圧迫が原因と考えられる潰瘍形成から穿孔に至った稀な症例を経験したので報告する.症例は67歳男性,市販の干し柿を数個摂取した翌日から嘔吐,翌々日から食欲不振が出現し,摂食から1週間後に胃透視および胃内視鏡にて巨大な胃石を指摘された.保存的治療中,穿孔をきたしたため緊急手術にて胃切除術を施行し軽快した.胃石が胃に停滞した場合は潰瘍を併存することが多く,稀に穿孔をきたす場合があり,胃石の大きさにもよるが内科的治療に抵抗性の場合はすみやかに外科的処置をとる必要があると思われた.
著者
佐藤 徹 松峯 敬夫 西田 広一郎 松尾 聰 福留 厚
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.2478-2482, 1990-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
8

Peutz-Jeghers症候群の重要な合併症として腸重積があるが,今回われわれは腸重積を繰返し,4回目の開腹術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する. 症例は39歳男性で15歳時にPeutz-Jephers症候群と診断されて以来,計3回の開腹術の既往があった,今回イレウスの診断にて転院となり精査にて腸重積を疑い緊急手術を施行したところ,小腸ポリープを先進部とした腸重積に加えて軸方向360度の捻転を認め,絞扼性イレウスと診断,90cmの小腸切除術を施行した.他に十二指腸水平脚に巨大なPolypを認めたが,術後内視鏡的にポリペクトミー施行し,経過良好である.PeutzJeghers症候群は本症例の如く腸重積を繰返す場合がある.特に,多次手術例ではその術前診断に苦慮することがあり,定期的なfollow upと適確かつ迅速な手術適応の判断が必要である.
著者
勝野 剛太郎 津村 眞 國土 泰孝 村岡 篤 鶴野 正基
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.2378-2383, 2003-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

1992年3月より2001年8月までに胸腔鏡手術を行った自然気胸症例88側(81例)を対象とし術前検査(CT,胸腔造影)所見をもとに術後再発との検討を行った.術前胸部CT,胸腔造影が各82側, 41側(air leak持続例: 25例)に行われた.術後再発は8側(9.1%)でそのうち3例に対しVATSにて再手術を施行,いずれの症例もブラの新生を認めた.検討の結果,残念ながらいずれも統計学的に有意な所見に乏しくVATS術後再発の危険因子を術前に予測することは現時点においては困難であると考えられた.しかし,その一方で胸腔造影はair leak部位の局在を確認するという意味において重要であることも明らかになった.
著者
下松谷 匠 増田 靖彦 谷川 允彦 谷口 哲郎 奈良 雅文 村岡 隆介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.2366-2370, 1995-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

ヘルペス脳炎の治療中大量出血,穿孔をきたし,手術にて救命しえた幼児の十二指腸潰瘍症例を経験した.症例は1歳3カ月の女児で,嘔吐を主訴に近医受診し,意識障害を認めたため本院紹介入院となった.意識は深昏睡に陥り,ヘルペス脳炎と診断し, dex-amethasone, acyclovirの投与を開始した.治療開始後大量のタール便を認めたため内視鏡検査を行ったところ,十二指腸からの出血で凝血塊が幽門輪より胃内へ膨隆していた.保存的治療にもかかわらず出血が持続したため緊急手術を行った.十二指腸球部から下行脚にかけての前壁に径約2cmの穿孔を認め,凝血塊などにより覆われていた.胃半切術を行い,再建法はビルロートII法に準じて行ったが,十二指腸断端は閉鎖できず,空腸を十二指腸断端に吻合した.術後経過は良好で3カ月後退院した.
著者
衣笠 和洋 安岡 俊介 松田 恒則 西山 範正
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.1825-1828, 1998-07-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

症例は37歳の男性で主訴は心悸亢進.検診で頻脈を指摘され近医を受診,食道裂孔ヘルニアおよび発作性上室性頻拍と診断され,当院に紹介入院となった.胸部単純X線像で後縦隔に鏡面像を形成するガス像を認めた.上部消化管造影にて,いわゆるupside down stomachを呈する食道裂孔ヘルニアと診断された.種々の抗不整脈薬の投与にもかかわらず,発作性上室性頻拍による心悸亢進が改善されなかったため,開腹手術を施行した.手術は食道裂孔を縫縮し,さらに胃食道逆流防止のためNissen fundoplicationを追加した.術後経過は良好で,術後5年の現在ヘルニアの再発はなく,発作性上室性頻拍も認められない.
著者
市倉 隆 福留 厚 松峯 敬夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.610-615, 1984-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
20

われわれは最近,膵炎に起因すると思われる脾静脈血栓症を伴ったDouble pylorusの1手術例を経験したので報告した. 症例は41歳の男性で,長年の飲酒歴を有する. 28歳頃より左季肋部から背部の疼痛をくり返し,昭和57年5月9日,下血および心窩部痛を主訴に当院内科に入院した.胃X線検査,胃内視鏡検査,選択的腹腔動脈造影など諸検査の結果,脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症,糖尿病,難治性胃潰瘍, Double pylorusの診断にいたり,胃潰瘍に対する内科的治療が無効のため,昭和57年9月8日開腹手術を施行した.手術所見では術前診断に加えて慢性膵炎の所見を認めた.脾剔を行い,また胃切除に際し,冠状静脈を損傷したため胃全剔を施行した.切除胃の病理組織学的検索によると, Pseudopylorusの部位では粘膜筋板の消失,筋層の断裂,円形細胞浸潤,強い浮腫と線維化がみられ,幽門前部の潰瘍が十二指腸球部に穿通してDouble pylorusが形成されたと考えられた. 本症例では, 1) 膵炎, 2) 膵炎由来の脾静脈血栓症による左側門脈圧亢進症, 3) 膵炎由来と思われる糖尿病,の3者が胃潰瘍の発生,増悪,難治性に重要な影響をおよぼしたと推測され,この因果関係を中心に若干の考察を加えた.
著者
宮田 哲郎 松峯 敬夫 石田 孝雄 福留 厚 袖山 元秀 小山 広人
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.1087-1091, 1983-08-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
18

総胆管良性狭窄の治療は手術療法が中心となっているが,胆道系の手術と炎症をくり返している症例や,状態の悪い症例では手術的に狭窄を解除することはかなりの危険を伴なうことになる.我々は胆嚢摘出術後,総胆管狭窄をきたし化膿性胆管炎と総胆管結石とをくり返した症例に対し,減黄のためのPTCD瘻孔を拡張し胆道ファイバーで截石後,小児用挿管チューブでブジーを行ない狭窄部を拡張した.この方法は治療期間が長くなるという問題点があるが,手術療法に比較し侵襲が少なく安全であると思われる.
著者
久留宮 康浩 寺崎 正起 岡本 恭和 坂本 英至 後藤 康友 浅羽 雄太郎 新宮 優二 夏目 誠治
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.317-322, 2003-02-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

大腸癌術後の最も危険な合併症の一つである縫合不全について,その病態と治療向上に関連する因子を明らかにする目的で,過去12年間に当院で大腸癌に対し待期および緊急手術を含め切除を行った675例についてretrospectiveに検討した.またイレウスと縫合不全の関連,特に逆行性イレウス管が縫合不全の予防に有用か否かについて検討を加えた.縫合不全は47例(7.0%)にみられた.男性,術前イレウス,下部直腸癌,リンパ節転移陽性は縫合不全の危険因子であった.保存的に治療した34例の縫合不全発症日と経口摂取開始までの日数との間には有意な負の相関があった(p<0.001). 47例中再手術は8例であったが,再手術後の経過は全例良好であった.縫合不全症例47例のうち在院死亡は5例(10.6%)で,縫合不全がない症例(在院死亡, 1.9%)より有意に死亡率が高かった.イレウスで発症した大腸癌に対して逆行性イレウス管を挿入することにより緊急手術を減少させ,かつ縫合不全の発症率も減少させることができた.
著者
吉永 圭吾 小山 広人 松尾 聡 福留 厚 松峯 敬夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1232-1236, 1983-10-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
18

脾嚢胞は比較的稀な疾患とされているが,著者らは最近,上腹部腫瘤を主訴とした68歳女性の巨大仮性脾嚢胞を経験した.重量は5,100gあり,その内容は黄色透明で,血清とほぼ同一の成分であった.従来本疾患は,特有な症状や検査所見に乏しい為,術前診断が困難とされてきたが,超音波検査及びCTスキャンにより容易に脾嚢胞と診断しえた.脾嚢胞は病理組織学的に真性,仮性に大別されるが,著者らが集計した自験例を含む236例では真性119例,仮性105例,分類不明12例となり,真性嚢胞がやや多かった.脾嚢胞は女性にやや多くみられ, 10歳台, 20歳台にピークがある.超音波, CTスキャン,血管造影などの検査により,以前ほど診断は困難でなくなってきている.治療は一般に脾摘出術が行われており,その手術成績,予後は共におおむね良好である.
著者
山下 晃徳 吉本 賢隆 岩瀬 拓士 渡辺 進 霞 富士雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.2726-2731, 1994-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18
被引用文献数
5 4

われわれは嚢胞内乳癌の臨床病理学的特徴をあきらかにする目的で,嚢胞内乳癌と嚢胞内乳頭腫の鑑別診断の可能性,嚢胞内乳癌の嚢胞周囲の乳管内進展を含めた病理組織学的特徴について検討した. 嚢胞内乳癌と嚢胞内乳頭腫との鑑別の可能性は,嚢胞内乳癌31例,嚢胞内乳頭腫23例を年齢,腫瘍径,超音波像などについて比較してみた.嚢胞内乳癌の乳管内進展については, 5mm幅の全割病理組織切片を作成して,癌の広がりをマッピングした. 嚢胞内乳癌は嚢胞内乳頭腫に比べ高齢者に多く, 60歳以上の嚢胞内腫瘍は癌である場合が多かった.また超音波像での両者の鑑別には,嚢胞内の腫瘤の辺縁の形状が大切で,辺縁の不整なものは癌に多いことが分かった. また嚢胞内乳癌は非浸潤癌が多く,腋窩リンパ節への転移も少ないが,乳管内の進展についてみると,約4割の症例が嚢胞壁より2cm以上乳管内を進展していた.
著者
井田 勝也 神谷 隆 石原 康守 大貫 義則
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.155-158, 1996-01-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14

鈍的外傷により破裂した肝血管腫の稀有な1例を経験したので報告する.42歳男性で,ソフトボールのプレー中に,他人の肘が右季肋部に当たりショック状態となり来院.画像診断で腹腔内出血と肝右葉の損傷を認め,造影CTで同部位は強く濃染された.肝損傷による出血性ショックの診断で開腹し6,000ccの出血を認めた.肝右葉切除を行い,救命することが出来た. 切除肝の病理診断は海綿状血管腫の外傷性破裂で,摘出標本上の大きさは2×3cmであった.外傷性破裂,自然破裂例共に報告例は5cm以上の巨大肝血管腫がほとんどであり,自験例のような小さな血管腫の破裂は稀である.また,肝外傷においては,並存肝疾患の可能性も念頭におき,診断,治療に当たらなくてはならない.
著者
麦谷 達郎 谷口 弘穀 高田 敦 増山 守 田中 宏樹 小山 拡史 保島 匡和 高橋 俊雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.1295-1301, 1996-06-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
21

肝切除術71例を対象に自己血輸血法の有用性を検討した.貯血式自己血輸血を44例に施行した.術前貯血量は, rh-エリスロポェチン併用群で550g(平均値)とrh-エリスロポエチン非併用群より有意(p<0.05)に多く,採血後のHct値の低下はrh-エリスロポエチン非併用群と同程度に留まった.術中輸血法に関しrh-エリスロポエチン非併用自己血, rh-エリスロポエチン併用自己血,同種血,無輸血に分類し,術後の変化を検討した.術後Hct値は,同種輸血群で回復遅延を認め,第14病日に29.4%と他の3群より低値であった.術後総ビリルビン値,血中肝逸脱酵素は,同種輸血群で第1病日に他の3群に比し有意な上昇を認めた.自己血輸血の2群は無輸血群と同様の経過を示し,総ビリルビン値の上昇も1.20と軽度で,肝切除術には同種輸血は避け,自己血輪血が望ましいと考えられた.また,術前貧血の無い場合,術前貯血量800g, 術中出血量1,500g以下が同種輸血なしに自己血輪血のみで行える指標になると考えられた.
著者
星野 敢 永田 松夫 渡辺 一男 山本 宏 田崎 健太郎 渡辺 敏
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.2668-2673, 2002-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

症例は50歳,女性.心窩部不快感,黒色便出現にて近医受診となった, 1998年8月11日上部消化管内視鏡検査施行され,易出血性の腫瘍を認めたため,同8月14日精査加療目的にて当科紹介入院となった.上部消化管造影検査・内視鏡検査にて,胃穹窿部後壁に基部を有する腫瘤性病変が,幽門輪を越えて十二指腸球部に脱出しており,腫瘤は体外からの圧迫により胃内に容易に還納された.また前庭部後壁にO-IIc病変を認めた.生検の結果はそれぞれ,過形成性ポリープ(group II)と,低分化腺癌であったため, 1998年8月27日,幽門側胃切除術およびポリープ切除術を施行した. 胃内の腫瘤が十二指腸に脱出する報告は多数認めるが,自験例のように胃の上部に発生した腫瘤が十二指腸に脱出することは比較的稀であり,若干の文献的考察を加えて報告した.
著者
畑 泰司 衣田 誠克 矢野 浩司 岡村 純 岡本 茂 門田 卓士
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.3365-3368, 2000-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
8

女児の鼠径ヘルニア手術時に精巣を認め,精巣性女性化症候群と診断しえた症例を経験したので報告する.症例は7歳女児.左鼠径部腫瘤を自覚し近医を受診,左鼠径ヘルニアの診断で手術目的にて当院に紹介受診となった.既往歴は2年前に右鼠径ヘルニアにて高位結紮術を施行,この時ヘルニア嚢内に腫瘤を認め腹腔内に還納されている.入院時の現症および検査では異常所見は認めなかった.手術時にヘルニア嚢外側に精巣を認め,その後の検索で精巣性女性化症候群の確定診断を得た.本症候群は社会的な性の決定に関しても早期に発見,適切な対応が望まれ,鼠径ヘルニアの合併症例も多いことから,女児で両側に鼠径ヘルニアを認めるものは本症を念頭に置き治療に臨むことが必要である.
著者
西村 元一 二宮 致 橋本 之方 鎌田 徹 米村 豊
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.951-955, 1993-04-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

メネトリエ病の報告例は増加しているが,まだ治療法および癌との関連性に関しては一定の見解が得られていない.われわれは保存的治療で効果が得られず,胃全摘術を施行したメネトリエ病の1例を経験したので,増殖帯の検討も含めて報告した. 症例は34歳男性.低蛋白血症を合併したメネトリエ病の診断で抗プラスミン剤,H2-プロッカーを投与したが無効であったため,胃全摘術を施行した.術後経過は良好で低蛋白血症は認めていない.また切除標本では増殖帯を検討したところ,増殖帯の拡大は認められたが,増殖細胞の密度や分布の異常は認められなかった. 今後,さらに癌化の可能性を探索することが治療法を選択する上での課題と思われた.
著者
阿部 元 沖野 功次 迫 裕孝 柴田 純祐 小玉 正智 中根 佳宏
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.1100-1103, 1992-05-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
20

甲状腺好酸性細胞腫は,好酸性顆粒を多数含む特徴的な細胞からなる腫瘍で,比較的稀な疾患である.著者らは5例の甲状腺好酸性細胞腫を経験したので,臨床的検討を加えた.発症頻度は甲状腺腫瘍初回手術症例の2.4%にみられ,全例女性であった.年齢は38歳から66歳の平均53.8歳であった.症状は前頸部腫瘤のみで,圧迫症状などは認めなかった.甲状腺機能は全例正常であり,頸部軟線撮影,超音波検査,シンチグラムでは特徴的な所見を認めず,良性,悪性の鑑別は困難であった.腫瘍核出術のみは2例,葉切除術が3例に施行された.良性,悪性の鑑別は細胞形態からでは困難であり,被膜浸潤,脈管侵襲の有無で判断した結果,良性が4例,悪性は1例であった.全例とも術後経過良好で,再発を認めていない.
著者
八木田 旭邦 立川 勲
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.446-450, 1987-04-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
20

Behçet病は,病因不明の難治性の疾患である. Behçet病の副症状の1つである腸型Behçetは,神経型あるいは血管型と同様にBehçet病の死因の大部分を占めている. 今回, Behçet病33例のHuman leukocyte Antigen (HLA)の特異性を検討し,更に,腸型Behçet 19例と腸炎を合併しない非腸型Behçet 14例とのHLAの相異を検討した.また,潰瘍性大腸炎170例およびクローン病47例のInflammatory bowel diseaseのHLAと腸型Behçetのそれと比較した. Behçet病ではA31, B51, DR4と有意の相関が見出された.腸炎の有無による検討で,腸型Behçetは非腸型Behçetに比べA31, DRw8, DRw52が有意に低下していたが, DR4とB51は両者で健常者310例に比較して有意に高率であった.腸型BehçetのHLAはB51とDR4に相関し,潰瘍性大腸炎はA24, Bw52, DR2, DQw1と相関し,クローン病は, A31, Bw61, DR4, DRw53, DQw3と相関し,それぞれの特異性が見出された.
著者
明石 諭 童 仁 錦織 直人 松山 武 今西 正巳 川口 正一郎
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.2039-2042, 2006-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13

症例は85歳,女性で, 2005年11月にS状結腸穿孔による汎発性腹膜炎の診断で穿孔部縫縮術および腹腔ドレナージ術を施行した.ドレーンは左右横隔膜下,ダグラス窩に留置した.左横隔膜下に留置したドレーンより膿汁の排出があったため長期留置していたが,術後24日目に突然の胸痛と呼吸困難感が出現し,ドレーンより多量の排液を認めた.胸部レントゲンにて左気胸を認め,胸腔ドレナージを施行した.ドレーンの胸腔内への突出およびドレーン内排液の呼吸性移動から,気胸の原因は留置ドレーンによる横隔膜穿孔が疑われた.瘻孔造影および胸部CTにて造影剤は胸腔内に流入しているのを確認し,確定診断を得た. ドレーンによる臓器損傷は消化管が多く,横隔膜損傷による気胸の発症は非常に稀である.原因として炎症による組織の脆弱が考えられたが,ドレーン留置による合併症も念頭においてドレーン管理をすべきであると思われた.