著者
長谷川 誠 永嶌 嘉嗣 和田 信昭 長尾 俊孝 石田 康生 長尾 孝一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.1854-1861, 1999-07-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
20
被引用文献数
5 1

虫垂粘液嚢胞腺腫の1例を経験したので,その診断,手術術式などについての考察を加えて報告する.症例は77歳,女性.主訴は右下腹部痛と右下腹部腫瘤. 1カ月前より右下腹部痛と右下腹部腫瘤を自覚していたが(心窩部痛,嘔気,下痢などは認めなかった.),次第に症状が悪化し近医より紹介され来院した.右下腹部には軽い圧痛を伴う直径3cm大の腫瘤を触知した.超音波検査では右下腹部に20×17mm大のlow echoic lesionを, CT検査では回盲部に直径2cm大の中心がlow densityを示すmassを認めた.注腸造影検査では盲腸に透亮像は認めず,また虫垂は造影されなかった.また大腸内視鏡検査では,虫垂根部に粘膜の発赤と腫脹を認め,虫垂の内腔は閉塞していた.手術はまず虫垂切除術を施行し,術中迅速病理検査で虫垂粘液嚢腫との診断であった.しかし切除断端に腫瘍細胞が認められたため,回盲部切除を追加施行した.後日の病理学的検索では,多量のmucinの産生を認め, 7×12mm大のcystを形成し,これを取り囲むように一層の丈の高い円柱上皮を認めた. NC比は小さく核の形,大きさも比較的均一で異型性は少なく,最終診断はlow grade malignancyの虫垂粘液嚢胞腺腫であった.患者は術後14日目に軽快退院した. 3年経過後の現在患者は再発なく健在である.
著者
与儀 喜邦 佐藤 新五 立野 進 東 秀史 郡山 和夫 長田 幸夫 瀬戸口 敏明
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.2928-2932, 1994-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
13

エタノール注入療法が有効であった巨大腎嚢胞の1例を報告する. 症例は71歳,男性.腹部膨満感を主訴として来院した.腹部超音波検査にて右上腹部に嚢胞性腫瘤を認めた.腹部CT検査では右腎実質を左方に圧排する巨大な嚢胞がみられ,腎孟造影で右腎孟は左方へ強く偏位していた.腎動脈造影では右腎動脈は左前方へ圧排されていた.以上から巨大な右腎嚢胞と診断した.超音波ガイド下に右腎嚢胞を穿刺し3,250mlの内容液を吸引した後,嚢胞造影を行い嚢胞外への漏出がないことを確認した.造影剤回収後に95%エタノール500mlを20分間注入した.同時に内容液330mlの左腎嚢胞に対しても95%エタノール100mlを注入し治療した.この患者は他に両腎に計2個の小嚢胞があった. 術後,両側腎嚢胞は縮小した.特に右腎の巨大嚢胞は径5cmと著明に縮小し, 3年間の経過観察でも再発は認められなかったが他病死した.
著者
熊本 吉一 小泉 博義 黒沢 輝司 山本 裕司 呉 吉煥 鈴木 章 松本 昭彦 近藤 治郎 清水 哲 梶原 博一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1429-1434, 1984-11-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
10

急性腸間膜血管閉塞症は,絞扼性イレウスと共に腸管の血行障害をきたす代表的な疾患である.最近我々は塞栓摘除術のみで救命せしめた上腸間膜動脈塞栓症の1例を経験したが発症より手術による血流再開に至るまで3時間40分と短時間であったため腸切除を免れた.また横浜市立大学第1外科のイレウス症例中,術前に動脈血ガス分析をおこなった33例を検討したところ,腸切除を免れた.すなわち腸管が壊死に陥らなかった症例ではbase excessはすべて-2.8mEq/l以上であった.このことより絞扼性イレウスの手術適応決定の指標としてbase excess測定が有用であるとの結論を得たが,本来イレウスにおける手術適応の決定は遅くとも腸管の可逆的な血行障害の時点でなければならず,この点よりbase excessのみでの適応決定は慎重でなければならないと考えられた. これらの経験をもとに,腸管の血行障害における有用な補助診断法としての的確な指標を検討するために犬を用いて上腸間膜動脈を結紮する実験をおこなった.その結果,早期診断の一助として, total CPK, base excessが有用であるとの結論を得た.
著者
尾身 葉子 安田 秀光 橋本 政典 清水 利夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.1841-1844, 2005-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
21
被引用文献数
1

Radial scarは線維性結合組織からなる中心部分を機軸として乳管が放射状に配列し,その上皮に過形成変化を伴う病変である.癌との鑑別がしばしば困難で,異型過形成を伴う場合は乳癌発生のリスクとなる.その報告例は未だ少ない.今回われわれはradial scarの1例を経験したので報告する.症例は41歳,女性.左乳房痛を認め,当科を受診.左乳房C領域,疼痛部位よりやや内側に硬結を触知した.エコーにて同部位に境界不明瞭な後方エコーの減衰を伴う低エコー領域を認めた.マンモグラフィーではdistortionが認められた.穿刺吸引細胞診を施行したところ二相性の増殖性変化のみられる上皮が採取されClass IIIaであった.針生検では二相性の保たれた乳管上皮の乳頭状増殖が認められ,乳管内乳頭腫が疑われた.悪性の可能性を考慮し,確定診断のため左乳腺腫瘤切除術を施行した.病理組織診断はradial scarであった.
著者
中村 吉貴 大西 律人 脇田 和幸 崔 修逸 塚本 忠司 石田 武
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.652-656, 2003-03-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

消化管出血の原因として小腸動静脈奇形は比較的稀な疾患であり,また微小病変の場合術中の局在診断が困難なことがある.今回われわれは術中の局在診断を適切に行うため,術直前にマイクロカテーテルを血管内留置し,切除しえた2症例を経験したので文献的考察を加え報告する.(症例1) 62歳,女性.大量下血にて当院を受診した.入院後腹部血管造影検査で微小回腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテル,マイクロコイルを留置した.術中,色素の注入および単純X線撮影にて病変部位を同定し,回腸部分切除術を施行した.(症例2) 34歳,男性.下血,めまいを主訴に当院を受診した. Hb 4.8g/dlと高度の貧血を認めた. Dynamic CT,腹部血管造影検査で空腸動脈の一本に著明な拡張を認め小腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテルを留置し,色素の注入で切除範囲を確認し,空腸部分切除術を施行した.
著者
川田 忠典 荒瀬 一己 舟木 成樹 正木 久朗 北川 博昭 平 泰彦 野口 輝彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1405-1409, 1983-12-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

外傷性胸部大動脈断裂の急性期予後は不良であり,外科的治療が唯一の救命手段である.そのためには早期診断が必須であるが,多臓器損傷を伴うために確定診断は意外と困難である.我々は入院直後の胸部レ線像上,縦隔陰影拡大,気管右偏像,大動脈弓部不明瞭化の一つ以上の所見があれば,胸部CTスキャンを行い,縦隔内あるいは大血管周囲に血腫像を呈していれば血管撮影を行うという診断プログラムに基づき本症の早期診断に努めた. 1979年7月から1982年12月までに胸部外科医が関係した鈍的胸部外傷患者は21例で,そのうち胸部レ線像上診断基準陽性例は15例であった. 15例中13例は胸部CTスキャンが行われ,縦隔内血腫の見い出された7例は大動脈造影が行われた.残る2例はCTスキャンが省略され即大動脈造影が行われた.血管造影の行われた9例中では4例に胸部大動脈断裂が, 1例に左鎖骨下動脈断裂がみとめられ,全例緊急外科的治療にて救命された. 以上の結果より我々の診断プログラムは本症早期発見に有用であったと考えられた.特に胸部レ線像上診断の疑わしい例ではCTスキャンが補助診断的に有力で,血腫形成像があれば緊急血管造影の決断のよい指標となった.しかし,縦隔拡大が明瞭な例では切迫破裂の危険性が予測され,診断のために時間の浪費は避けるべきで,血管撮影を先行させることが肝要と考えられた.
著者
藤井 秀則 山本 広幸 田中 猛夫 谷川 允彦 村岡 隆介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.1681-1686, 1992-07-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

近年腹部超音波検査の進歩と普及により肝嚢胞の診断が容易となり,発見の機会は増加している.当院における1990年1年間の腹部超音波検査件数は約5,100件で168例(3.3%)に肝嚢胞を認め,大きさでは直径4cm以下がほとんどで8cm以上は3例であった.巨大肝嚢胞例2例に対し超音波ガイド下によるエタノール少量注入を施行し良好な結果を得た.自験例を含めた本邦報告例66例の検討では,注入薬剤はエタノール62例,塩酸ミノサイクリン4例であった.注入方法としては超音波ガイド下に7~8Frのピッグテールカテーテルを嚢胞内に挿入して行うのが一般的で,注入後10~30分の体位変換を行い排液する.エタノール注入例を検討すると, 1回の注入量は少量にとどめ,注入後は排液を充分に行い,持続ドレナージを行い2回あるいは3回以上の反復注入をするのが最適と考えられた.
著者
岩垣 博巳 日伝 晶夫 淵本 定儀 折田 薫三 米山 勝 堺 修造
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.2343-2346, 1992-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15

大腸癌患者の腸内環境を健常成人と比較検討した.患者群の糞便水分は健常者群より高値を,また糞便pHも高値を示した.各種有機酸濃度は健常者群より一様に低値を示したが,コハク酸に限り,高濃度かつ有意に高頻度で検出された.内因性endotoxin産生に関与するグラム陰性菌の菌数および占有率は,両群間で有意な差を認めなかった.患者群の糞便から検出される主要な細菌叢は健常者群に近似していたが, Staphylococcusをはじめとする好気性菌を高頻度に検出し,大腸癌患者においては好気的腸内環境にあることが示唆された.
著者
星野 澄人 森谷 雅人 今井 直人 佐藤 茂樹 永楽 仁 片場 嘉明 小柳 泰久
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.393-397, 1997-02-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
17

胃石イレウスは比較的稀な疾患であり,術前診断が困難なことが多い.今回われわれは,胃石による小腸イレウスの1手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する. 症例は63歳男性,数日前より嘔気,嘔吐を繰り返し,症状の増悪を認めたため近医受診し,上部消化管造影を施行したところ十二指腸下行脚に陰影欠損を認め,十二指腸腫瘍によるイレウスの疑いで当院紹介入院となった.上部消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸下行脚には病変は認めず,鉗子孔からのガストログラフィンによる造影で,空腸に体位にて移動する陰影欠損を2カ所確認した.以上により,異物(胃石)イレウスと診断し自然排出を期待して保存的治療を試みたが9日間経過しても排出されず,外科的療法(胃壁切開)により,計5個の胃石を摘出した.摘出した胃石の成分分析よりタンニン98%の結果を得,柿の常食の嗜好もあることから,柿胃石によるイレウスと診断した.
著者
垣迫 健二 桑原 亮彦 多田 出 森本 章生 小林 迫夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.2097-2101, 1993-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Chilaiditi症候群は,右横隔膜と肝臓の間に消化管の一部が嵌入した総称であるが,本症候群には特有の症状がなく,偶然に発見されることが多いと言われている.今回われわれは,右横隔膜下に回腸が嵌入し,絞扼性イレウスを呈した症例を経験した.症例は67歳男性で,右季肋部痛を主訴に近医により紹介され入院となった.腹部所見,腹部X線検査, CT検査などの結果,絞扼性イレウスを合併したChilaiditi症候群と診断し,緊急手術を施行した.肝右葉と腹膜との間に既往の肝炎によると思われる索状物を認め,同部に回腸の一部が嵌入,絞扼し壊死を伴っていた.小腸型のChilaiditi症候群は稀な疾患であり,文献検索上,本例では13例を数えるに過ぎないが,そのうち7例で絞扼性イレウスが認められた.小腸型のChilaiditi症候群では,絞扼性イレウスを合併することが多く,注意が必要であると考えられる.
著者
中山 智英 長谷川 直人 小西 和哉 阿部島 滋樹 市村 龍之助 金古 裕之
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.2101-2104, 2006-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

症例は3歳,男児. 2005年8月6日午後7時20分,自宅で玩具にて遊んでいる際,単5乾電池2個にて動いていた玩具の電池カバーがはずれており,そのうち1個を飲み込んだのを母親が目撃した.同日7時30分に当院救急外来を受診.救急外来到着時,呼吸苦や腹部症状はみられなかったが,腹部単純X線写真にて上腹部に誤飲した乾電池と思われる1×3cm大の陰影を確認.母親からの病歴聴取とあわせ乾電池の誤飲と診断した.透視下造影検査を行ったところ上部小腸まで乾電池が進んでいたため,緊急手術を施行した.下腹部正中切開にて開腹し,直視下に小腸まで進んでいた乾電池を確認.用手的に回盲部まで進め,虫垂切除術を施行し,虫垂切除断端より乾電池を摘出した.小児の筒型乾電池誤飲症例は報告が少なく,治療法も確立されていない.われわれは小児の筒型乾電池誤飲症例に対し,虫垂切除術を施行し摘出しえた1例を経験したので報告する.
著者
安岡 利恵 宮垣 拓也 北尾 善孝 門谷 洋一 中村 隆一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.2210-2215, 2004-08-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
14

混合型性腺異常発生症では,染色体異常が主に45X/46XYなどのmosaicであるために,一側性腺が精巣で他側が線状性腺を持ち,未分化な膣,子宮,卵管などMüller管の遺残を認めることがある.また,混合型性腺異常発生症は様々な身体学的特徴を有する.本症は主に小児科医,小児外科医が関わる疾患であるが,今回われわれは45歳にして成人鼠径ヘルニア治療時に偶然混合型性腺異常発生症を発見し,十分なインフォームドコンセントのもと,線状性腺とMüller管遺残を摘出した興味深い症例を経験したので,これを報告する.
著者
小川 明男 秋田 幸彦 鵜飼 克行 太田 淳 大島 章 京兼 隆典 七野 滋彦 佐藤 太一郎
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.2387-2392, 1991-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10

短期間で幽門前庭部狭窄が増悪し,進行胃癌と鑑別に苦慮した胃十二指腸潰瘍の1例を経験したので報告する.症例は71歳男性で,頭部外傷の既往があり常時頭痛があるため近医より投薬を受けていた. 1989年10月16日吐血し当院入院となった.上部消化管検査にてBorrmann 4型の進行胃癌を疑診したが,生検結果で悪性所見を認めなかった.幽門前庭部狭窄が著明に進行したため11月22日幽門側胃切除,十二指腸切除を施行した.切除標本では胃体下部小弯,前後壁に三条の巨大帯状潰瘍(Ul-II),その肛門側に十二指腸球部にまで及ぶ長さ7cmの全周性狭窄部を認めた.病理組織像では粘膜の軽度の炎症所見と粘膜下層における膠原線維の増生,更に全周性狭窄部では固有筋層の著明な肥厚を認めた.幽門前庭部狭窄は慢性炎症の繰り返しによるものと考えられた.増悪の誘因として,薬剤,循環障害が考えられた.
著者
高田 孝好 裏川 公章 内藤 伸三 松永 雄一 河合 澄夫 高瀬 信明 中山 康夫 香川 修司 長畑 洋司 林 民樹 斎藤 洋一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1162-1169, 1983-10-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
28

著者らはビリルビン2mg/dl以上の閉黄患者255例を対象として消化管出血を合併した27例(11%)についてその臨床病態を分析し,また若干の実験成績とともに閉塞時の消化管出血の成因,治療について検討した.消化管出血27例中24例(89%)はビリルビン10mg/dl以上の高度黄疸症例であった.また原因と思われるstressorを重複算出にて分析すると,手術侵襲や胆管炎,重症肺合併症などの感染症が主たる原因と考えられた.潰瘍発生部位は胃体部から噴門部にかけ小弯側中心に発生し, UL I~UL IIの浅い潰瘍が多発する傾向にあった.閉黄時の急性潰瘍発生機序について総胆管結紮ラットに水浸拘束ストレスを負荷し検討した.結紮2週群ではストレス負荷後に胃壁血流量が無処置群, 1週群に比較して著明に減少し,また潰瘍指数も高値を示した.閉黄時には急性潰瘍発生準備状態にあると考えられ,このため閉黄患者の術後には積極的にcimetidineなどの予防的投与を行ない消化管出血の発生に細心の注意をはらう必要がある.教室では過去3年間に閉黄時の消化管出血7例にcimetidineを投与し5例(71%)の止血を得た.やむを得ず手術を施行する時は,出血巣を含つ広範囲胃切除術にcimetidineの併用が好ましい方法と考える.
著者
小山 省三 小口 国弘
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.511-516, 1980-05-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11

ホルマリンによる腐蝕性胃炎は極めてまれであるが,養蚕用消毒液としてのホルマリンを誤飲した2例を経験した.症例1は67歳の男性で,誤飲後一時的にショック状態を呈したが,ショック状態より離脱後,第17病日の胃X線検査では小弯の短縮,浮腫,胃粘膜の不整,乱れ,不整形のバリウム斑,さらにトライッツ靱帯近くの十二指腸と空腸の拡張低下部を認めた.さらに第31病日には幽門狭窄症状が出現し,胃X線検査では胃壁の拡張は悪く,ノウ胞状の形態を示しさらに胃内視鏡検査では,発赤,出血,浮腫,ところどころに白苔さらに著明な凹凸と多彩な所見を呈し幽門狭窄が高度のため,胃亜全摘術と胃空腸吻合術を施行した.症例2は66歳の男性で,誤飲後12時間目に胃内視鏡検査を施行された.胃内腔全体が,凝固壊死に陥つた白苔で被われており,この白苔はわずかな刺激ではがれ,その白苔下には広汎な浮腫と充血を認めたが,誤飲後2週間目には軽度の浮腫を残すのみであつた.このようなホルマリンによる腐蝕性胃炎は,本報告例では清酒との誤飲で発症しており,ホルマリンの保管管理を充実する必要がある.さらにホルマリン誤飲例に対しては,急性期のショック状態に対する処置と同時に蛋白等による中和剤での胃洗浄を十分施行する必要があり,さらに長期観察中にホルマリンによる蛋白凝固作用で幽門狭窄の発生した場合や胃粘膜欠損による低蛋白血症が生じる様な際には,積極的な外科的処置が必要であり,やむなく残胃に病変が残存するような場合にも,病変を有する残胃と正常な空腸との間に,十分良好な創傷治癒が期待できると思われる.
著者
磯田 恵子 松崎 孝世 吉田 禎宏 藤野 良三 斎藤 勢也 高橋 正倫 Naohiko HAYASHI Hiroshi FUKUDA Kunimi HAMADA Naohiko KUROKAMI Takashi NAGANO
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.2453-2457, 1989-11-25 (Released:2009-04-21)
参考文献数
14

最近経験した胆嚢ポリープ癌の4例を報告するとともに,過去10年間に当院外科で手術した胆嚢ポリープ様病変について検討した.内訳はコレステロールポリープ4例,腺腫3例,過形成1例,腺癌4例であった.切除標本ではコレステロールポリープは5mm以下の小病変が多く腺癌は1例を除き10mm以上であった.超音波検査では12例中10例に病変を描出しえており,コレステロールポリープはIaないしIIa型であり,IV型は全て腺癌であった.超音波検査で胆嚢内にポリープ様病変を認めた場合,5mm以下のもの及び5~10mmでもエコーパターンがI型のものは経過観察,II, III, IV型は悪性の可能性もあり手術適応である.また,10mm以上のものは手術を原因とする.手術を施行する際の術式として,術後に癌と判明した場合m, pmの早期癌では胆嚢摘出術のみでよいが,ss以上の進行癌では積極的に再手術を勧めるべきと考えられる.
著者
清水 忠博 清水 忠治 清水 晶子 中澤 功
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.2549-2553, 2006-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18
被引用文献数
5 7

乳腺腫瘤を形成する肉芽腫性乳腺炎(granulomatous mastitis)は稀な疾患で,癌との鑑別が問題となることがある.今回われわれは画像診断上乳癌が疑われ,治療経過中結節性紅斑を併発し副腎皮質ホルモン療法が著効した肉芽腫性乳腺炎の1例を経験したので報告する.症例: 41歳,女性.既往歴:十二指腸潰瘍.鬱病.現病歴: 2002年8月20日より右乳房に張り感,圧痛を伴う腫瘤を自覚し8月22日当院受診.現症:右C領域に大きさ38×26mmの軽度圧痛を伴う弾性硬な腫瘤を認めた.超音波検査:右乳腺CE領域に一部境界不明瞭,不整形,内部エコー低な腫瘤を認めた. MMG:局所的非対称陰影(カテゴリー3)と診断. CT:右乳房CEに36×26mmの大きさで早期より造影効果を示し,辺縁に棘状構造を伴う悪性を否定できない腫瘤を認めた.経過:初診時乳腺穿刺吸引細胞診はClass III, 7日後圧痛増悪時はClass IIであった.画像診断上癌も否定できないため,確定診断の目的で生検施行.病理組織診断は肉芽腫性乳腺炎であった.また同組織を用いて行った細菌検査では,一般細菌,抗酸菌ともに陰性であった.抗生剤(CFDN),消炎剤の投与を行うも生検創および腫瘤の改善はみられなかった. 1カ月後両下肢に熱感,紅斑を伴う皮下結節が多発し結節性紅斑と診断.プレドニゾロン10mg/日より開始した.結節性紅斑は速やかに消失し,肉芽腫性乳腺炎も徐々に縮小した.
著者
森山 秀樹 佐々木 正寿 北村 祥貴 竹原 朗 芝原 一繁 小西 孝司
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.850-853, 2009-03-25
参考文献数
6
被引用文献数
2 5

症例は34歳,女性.2007年9月,ビーチバレーボール中に強い腹痛が出現したため当科受診した.腹部全体に強い圧痛を認めた.超音波およびCTで上腹部に径16cmの嚢胞性腫瘤および多量の腹水を認めた.嚢胞性腫瘍破裂による腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.腹腔内には漿液性の腹水を1,800ml認めた.上腹部に巨大な嚢胞性腫瘍があり周辺臓器を圧排していた.解剖学的位置関係が不明確なため,腫瘍穿孔部縫合閉鎖および腹腔内ドレナージを施行し開腹した.術後の精査で膵粘液性嚢胞性腫瘍を疑った.術後17日目に再開腹し,腫瘍を含めた膵体尾部切除術を施行した.病理所見より卵巣様間質を有する膵粘液性嚢胞腺腫と診断した.膵粘液性嚢胞性腫瘍は比較的稀な疾患である.嚢胞破裂による腹膜炎の発症は本邦報告例を検索したところ本例が3例目であり,稀な症例と考えられたので報告する.
著者
畠中 坦 天野 数義 鎌野 秀嗣 花村 哲 伊藤 直貴 佐野 圭司
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.114-129, 1981

1980年までの実質14年間に著者の一人(H. H.)が責任治療を行った脳腫瘍308例のうち,放射線治療を行ったのは212例であり,そのうち特に神経膠腫(グリオーマ),髄膜腫,肉腫,計146例について,光子(photon,コバルト60またはリニヤック)による治療と,低速中性子(原子炉による硼素中性子捕捉療法)とを比較した.前者は102例,後者は44例に行われたが,後者のうち12例は光子治療が無効であったためさらに中性子捕捉療法を行ったものである.病理組織診断は成績判定に重要なので,客観的立場にある欧州人神経病理学者に再判定を依頼した. (1) WHO分類によるIII~IV度膠腫(ほぼ, Kernohan分類のIII~IV度に近く,いわゆるGlioblastoma)では,光子治療(その大部分の症例は化学療法,免疫療法を併用している)による平均生存は12.9カ月で,全41例が最高3.9年までに死亡したが,低速中性子捕捉では18例中5例が生存しており,平均は17.8プラス月を越えた.これは,近年の主要な報告(Gillingham 13.8カ月, Walker 8.4カ月, Jellinger 13.3カ月)に比べても上廻っており,これまでの最高生存は8年6カ月を越えている.(ことに初回切除術をH.H.が自ら行いすみやかに中性子捕捉療法を行った10例では,初回手術の平均2週間以内に中性子捕捉療法が行われており,平均生存は24.4カ月を越え10例中4例が生存している.) (2) 天幕上II度の膠腫では,光子群37カ月中性子捕捉群36カ月以上と差はないが,前者の80%はすでに死亡し,後者は80%が生存している. (3) 橋・延髄の膠腫では光子群16例が全例死亡し,平均は8カ月であるのに対し,中性子捕捉治療では18カ月を越え,最長生存は,当初4,200ラッド照射後再発し昏睡にまでいたりその後中性子捕捉療法を行った当時3歳の小児で,現在まで4年半生存,小学校に進学している.<br> 深部治療に好適な熱外中性子の得られる原子炉がないことと,早期治療の原則が行われていないため,まだこの療法の真価は発揮できてはいないが,これ迄の限られた経験からみて今後一層の進歩・普及が期待される.また他種癌の治療への適用が検討されている.
著者
幸田 圭史 高橋 一昭 更科 広実 斉藤 典男 新井 竜夫 布村 正夫 谷山 新次 鈴木 秀 奥井 勝二 古山 信明 樋口 道雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1466-1470, 1985

非ポリポーシス性遺伝性大腸癌の一型として分類されているcancer family syndromeは, Lynch (1973)らによりその診断基準が示されたが未だ明確なものではない.今回cancer family syndromeを疑わせる異時性3重複癌の症例を経験した.症例は60歳の女性で, 40歳時にS状結腸癌,直腸癌に罹患. 57歳時に子宮内膜癌に罹患.今回(60歳)は胆嚢癌,横行結腸癌と診断され昭和59年7月開腹術を行ったが多数の腹腔内播種を認め根治術を施行し得ず閉腹した.その組織型は全て腺癌であった.また本症例の三男は20歳時に大腺癌の為死亡し,母親は胃癌の為53歳時に死亡している.本症例の大腸癌はポリポーシスの形をとっておらず,子宮癌は子宮体部に発生したものであった.これらは, Lynchらの述べているcancer family syndromeの特徴の大部分を満たしているが,広い家族歴を調査できなかった為,常染色体優性遺伝のことは証明できず確定診断にはいたらなかった.家族に対する癌の二次的予防の意味においてcancer family syndromeを診断することは意義があり,今後明確な診断基準の作成が必要と考えられた.また,診断基準の作成の為に免疫学的研究の導入が必須と思われた.