著者
渡辺 巌
出版者
Japanese Society of Soil Microbiology
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-10, 1978-12-15 (Released:2017-05-31)

アカウキクサ(Azolla)は温帯,熱帯の池,水田に広く分布する水生羊歯植物でその上面葉下部の空腔中に窒素固定性藍藻Anabaena azollaeが共生し,無窒素培地で生育することができる。国際稲研究所内の圃場で1年間連続して22回のAzolla pinnataを栽培したところ,330日の生育期間で総計ha当り450kgの窒素をAzolla中に貯えることができた。この窒素固定力は熱帯マメ科牧草の窒素固定量年間最高値に近いものであり,共生藍藻細胞窒素当りの固定力もマメ科植物根粒中のバクテロイド細胞の値をはるかにこえるものである。Azollaは概して温帯性の種と分布が多いが,熱帯に分布するA. pinnataでも日平均気温22-27℃が最適で日最高気温の月平均が32℃をこすと,生育がおとろえる。高温に対する抵抗性が弱いことが熱帯での利用で問置になる。りん酸肥料の施用はAzollaの水田での生産にかかせない,過燐酸石灰の分施をすればP_2O_5 1kgで2kg以上の窒素をAzollaは生産できる。Azollaは中国,ベトナムでは広く水田緑肥として田植前後に水田で栽培されまた,堆肥源,動物飼料としても利用されている。国際稲研究所での近年の試験でも緑肥としての有効性が確認されたし,アジア諸国でもその利用が注目されはじめている。
著者
和田 一範
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-52, 2019-04-01 (Released:2020-06-05)
参考文献数
22

アミガサ事件(大正3年⟨1914年⟩9月16日)の三日後の9月19日,橘樹郡の関係11ケ町村のメンバーが川崎町の橘樹郡役所に集まり,9月29日,「多摩川築堤期成同盟會」が正式に結成された。この期成同盟会は,これまでの陳情が県知事宛であったのに対し,多摩川改修のキーパーソンが内務大臣であることを理解するや,早速内部大臣宛の多摩川新堤塘築造陳情書をまとめあげ,10月29日,神奈川県選出の小泉,井上代議士とともに内務省を訪問,下岡次官に陳情書を手渡し,事情を説明している。アミガサ事件と有吉堤,多摩川直轄改修への道の一連の事件の顚末初期にあたるこの時期,「多摩川築堤期成同盟會」の活動は,多摩川新堤塘築造陳情書をまとめて内務大臣に提出した以降は,川崎市史や多摩川誌をはじめ既往の文献には明確な記述が見られない。 この時期は,アミガサ事件に際して対応した石原健三知事の任期中であり,アミガサ事件から約一年後の大正4年(1915年)9月に有吉忠一知事が赴任をするまでの期間である。期成同盟会のこの時期の活動は,自助・共助の取り組みとして大変重要な意味を持つ。 このたび,神奈川県公文書館に所蔵する武蔵国橘樹郡北綱島村の飯田家文書のなかに,「多摩川築堤期成同盟會報告書」と,「大正4年5月5日付決議録」など,多摩川築堤期成同盟會の奮闘の記録を見いだしたので,ここに活字にして報告する。 防災の主役,自助・共助として,地域住民の様々な代表たちが,多摩川の改修に向けて奮闘する模様が明確に記され,現代の防災に与える大きな教訓が見いだされる。
著者
角野 智紀 齋藤 はるか 市岡 浩子
出版者
日本ペストロジー学会
雑誌
ペストロジー (ISSN:18803415)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-15, 2006-06-30 (Released:2019-04-10)
参考文献数
8

愛知県海部郡蟹江町の港湾地帯にある倉庫でトルキスタンゴキブリBlatta lateralisの若虫と成虫が2005年6月から10月にかけて捕獲されたが,これは愛知県では初記録であった.本種の生態と生活史を考え合わせ,当該倉庫内に定着している可能性があると判断した.今後,空調が完備した建築物等での本種の繁殖および害虫化が危惧される.
著者
星野 喜久三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.14-20,62, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

自然の美的場面を描写した短文にたいする意味の把握を通じて, 美的情操を発達的に跡附けることが本研究の目的である。その結果の要約と結論は次の通りである。1. 感情表現章において学年間の差は有意である。性差は有意でない。男女とも中IIIから高Iへ, 女子において高IIIから大学へ増加量が顕著である。表現のヴアライテイーは漸進的に豊富になってくるようであるが, 高I から高IIへの発達が著しいようである。女子は男子より表現の多様性に富んでいるらしい。2. 場面 (1)(牛が憩っている春の牧場),(7)(月の光に明るく照された夜の花園),(2)(急流をさかのぼる鯉, 青空に泳ぐ鯉のぼり),(5)(庭の片隅に咲いている小さな花) に表現量が多く, これらに各々含まれる“のどかな”,“美しい”,“勇しい”,“かわいらしい”の表現は他の表現より著しく多く出現する。これらの場面及び表現は低学年でもかなりの量をもち, その後の発達は急激なもの, 漸進的なもの, 恒常的なものに分れる。これにたいし, 場面 (4)(薄墨で書き流された竹の絵) の表現量は少く, とくに (10)(床の間におかれた相馬焼の陶器) の表現量は目立って少く, 両者の場面に含まれる“淡白な”,“素朴な”,“渋い”,“奥ゆかしい”,“おごそかな”,“高貴な”,“古風な”等の主に日本的美的感情の出現量は僅少であり, 発達的にかなりおくれて (高II, 高III) 出現する。3. 場面 (9)(コツプの水にさされた一輪の菊),(5),(6)(朝日を浴びて目を醒ました店先の人形) において女子が男子より多いようであるが, それらに各々含まれる“静かな”,“かわいらしい”,“にぎやかな”の表現が女子に多いようである。これらの表現は低学年でもかなり多く出現している。これにたいし,(13)(急傾斜を滑行するスキー),(2) のような場面では男子が女子よりも多く,(13) に含まれる爽快なは男子に圧倒的に多い。4.“恐しい”,“無気味な”等の否定的感情は学年が進むにつれて減少する。(3),(10),(12)(山奥の木立に囲まれた寺院) に多い。Hurlock (6) は, 青年期後期へ入ると十分な知的発達によつて抽象的なものの価値を見出すことができるようになり, ここに美的情操の発達をみるといつているが, 本研究のような, 文章表現に含まれる美的価値の意味を理解することでは, 児童期では極めて困難であり, 青年期へ入つてから, とくに中期, 後期における著しい上昇を伴って, 発達していくことが認められる。
著者
林 淳
出版者
山川出版社
雑誌
歴史と地理 (ISSN:13435957)
巻号頁・発行日
no.610, pp.44-49, 2007-12
著者
江村 超 熊谷 正朗 王 磊 郷古 倫央
出版者
The Society of Instrument and Control Engineers
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-23, 1999-01-31 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7
被引用文献数
4 1

Dynamically walking robots require attitude sensors of high resolution and wide-band frequency response. If these characteristics are not good enough, it is difficult to control the robots stably. Rate gyros are widely used attitude sensors in walking robots, but the rate gyro which has both characteristics of sufficiently high resolution and wide-band frequency response is heavy and expensive. Therefore, the authors tried to get a small, light and low-cost rate gyro which has excellent characteristics both in resolution and response frequency by using multiple sensors and subtraction type of filters.In this paper, first, a method to expand response frequency of rate gyros without reducing their resolution and an idea of subtraction type of filters which are useful for expanding frequency range are presented. The subtraction type of filter means the filter that has a transfer function obtained by subtracting another transfer function from 1 (unity). This filter provides flat response after composing two signals whose response frequency ranges are different each other. In this case, one is a signal obtained from a rate gyro whose resolution is high enough but response frequency is low, and the other is a signal obtained from a rate gyro whose resolution is low but response frequency is high enough.If we use an inclinometer together with rate gyros, we can sufficiently decrease zero-drift of gyros, because the inclinometer senses angular displacement by referencing gravity direction and its zero stability is high enough. However, the inclinometer is influenced by horizontal acceleration. This means that we have to use a low-pass filter whose cutoff frequency is extremely low to eliminate signal component induced by horizontal acceleration. Attitude sensor using two rate gyros mentioned above and one inclinometer showed good characteristics concerning zero stability, resolution and response frequency range.
著者
清水 武
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.114-129, 2004 (Released:2020-07-05)

本稿は,遊びの心理学的研究と理論が抱える現在の行き詰まり的状況を打破するために,遊びについて改めて問い直し,理解することを目的とした。第一に,いかに問いを立て取り組むべきかが整理され,なぜ人は遊ぶのかという問いに答えるのではなく,遊びとは何かを問う必要性が指摘された。極端な主観主義や客観主義に基づく枠組みの限界が示され,ひとつの方法として構造主義が採用された。 第二に,構造主義の立場から,Piaget の遊び論とその問題点が取りあげられ,Piaget 以後の議論とあわせることで,新たな解釈枠組みが構造モデルとして提案された。第三に,導かれた構造モデルは,遊びと探索が互いに類似し,また同時に相違しているという謎を解明し,さらに質的研究にも応用できる可能性が示唆され,遊びとは何かを明らかにする意義が改めて論じられた。最後に,これからの課題についての議論がなされた。

1 0 0 0 世界の艦船

出版者
海人社
巻号頁・発行日
vol.(増刊34), no.453, 1992-07
著者
山口 洋典
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-30, 2017 (Released:2020-06-01)

本稿では阪神・淡路大震災と東日本大震災の2つの震災を経た日本における宗教とボランティア活動の関係について考察した。日本では、中世におけるキリスト教への弾圧の反動として仏教が、近代においては国民国家の成立の中で家系を基軸とする精神性の維持のために神道が、それぞれ社会システムに組み込まれた。さらに、信教の自由と政教分離原則が定められた憲法のもとでは、例えば「ボランティア元年」とも呼ばれた阪神・淡路大震災の救援・支援活動が象徴するように、宗教団体による信仰に基づいた社会活動よりも、ボランティアの現場におけるリーダーの宗教性が活動を牽引する傾向が見られた。 そこで、国際的には「宗教に基盤をおく組織(faith-based organization)」と呼ばれる形態の社会活動に対し、日本では「宗教と結びつきのある組織(faith-related organization)」という視座が適切という先行研究(白波瀬 2015)をもとに、ボランティア元年から20年を経た日本のボランティア活動に根差す宗教性を検討した。その際、大規模・広域・複合型の災害である東日本大震災のボランティアの研究から、宗教者とは必ずしも聖職者に限るわけではないとした議論(稲場 2011)から提示された「無自覚の宗教性」という視点を参考にした。その結果、アジア圏においては弱いとされたボランタリズムの存在や機能を確認するとともに、秩序的ではなく遊動的な活動の萌芽を捉えることができた。

1 0 0 0 OA 橘中佐

著者
鍵谷 徳三郎[作詞]
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1937-10
著者
島 信夫
出版者
日本監査研究学会
雑誌
現代監査 (ISSN:18832377)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.182-190, 2015-03-31 (Released:2017-07-15)
参考文献数
19

会計監査人の損害賠償責任の有無をめぐる判例では,委任の規定が適用される会計監査人の法的立場を重視した判断を下してきた。その法理を示すために,①会計監査人が受任した監査証明の内容を定める判決の手続き,②会計監査人が受任した監査証明を合理的に履行するのに必要な善管注意義務の水準を定める手続きおよび③「二重責任の原則」の下での会計監査人の損害賠償責任の範囲を確定する手続きから検討を加えてきた。その特徴は,権威ある基準等に範を求めて監査証明の一般的性質を明らかにしつつ,会計監査人に明白に瑕疵が認められる場合に善管注意義務違反による法的責任を認める立場を判例は採り続けている。また「二重責任の原則」の適用をめぐる判例には検討の余地があるものの,会計監査人の法的責任をめぐる判例の立場は,法の趣旨を実現するものといえる。