著者
神田利之 鈴木真 樅山好幸 東山浩士
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2017(仙台)
巻号頁・発行日
2017-06-13

上面増厚工法により補修されたRC床版において,既設床版部と増厚床版部との境界層に水平ひび割れが生じ,再劣化した事例が多数報告されている。著者らは,この劣化したRC床版の補修工法として,水平ひび割れ部を洗浄した後,接着材を注入して再一体化を図る工法を開発してきた。本補修工法を実施するにあたり,水平ひび割れ層内の洗浄が不十分な状態のまま接着材を注入する場合も想定される。そこで,すり磨き粉が残存した状態を想定した場合の耐疲労性について検討した結果,疲労試験結果のばらつきや既設床版のコンクリート強度,接着面積率,交通荷重等の影響が疲労寿命の推定に影響することがわかった。
著者
山内守 野口光明 藤井隆史 綾野克紀
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2017(仙台)
巻号頁・発行日
2017-06-13

本研究では,高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの凍結融解抵抗性に,蒸気養生,高炉スラグ微粉末および増粘剤が与える影響を検討した。細骨材に高炉スラグ細骨材を用いれば,AE剤を用いることなく高い凍結融解抵抗性が得られるが,製造方法によって高炉スラグ細骨材の効果が異なる。本論文では,普通ポルトランドセメントのみを用いた場合には,蒸気養生によって凍結融解抵抗性が低下し,結合材の一部に高炉スラグ微粉末を用いれば,反対に,蒸気養生によって凍結融解抵抗性が向上することを示した。また,増粘剤を用いることで,短い水中養生期間で高い凍結融解抵抗性が得られることを示した。
著者
渡邉賢三 小林聖 吉田裕麻 細田暁
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2017(仙台)
巻号頁・発行日
2017-06-13

コンクリート構造物の表層部分を合理的に評価する手法として目視調査に基づいた評価手法に着目し,この手法を主軸に施工のPDCAサイクルを回して品質向上を図ることを提案している。本手法を約1.8kmのボックスカルバートの施工に導入し,構造物の壁,柱を対象にコンクリート表層品質の改善を継続的に試みた。その結果,目視評価の結果をふまえて具体的な改善を行うことが表層品質の確保,向上に繋がることを実際の施工で実証した。
著者
高畑東志明 橋本和明 林和彦 石田哲也
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学年次大会2017(仙台)
巻号頁・発行日
2017-06-13

本研究では,第三者被害対策として行っている赤外線調査の熱画像データにより,コンクリート構造物である橋梁の劣化特性や進行性に影響を及ぼす因子を把握し,維持管理の効率化に活用することを目的とする。赤外線サーモグラフィ法により得られた熱画像の定量情報に対して生存時間解析による定量分析を行った結果,初期欠陥が存在する箇所はコンクリート表層部の物質移動抵抗性が低いため,健全部とは劣化進行が異なり早期に劣化することを示した。本分析結果は,施工時の品質管理の重要性を示唆するものであり,維持管理においては補修計画策定時の基礎資料として予防保全に寄与するものである。
著者
種子 彰
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

A Wegenrが大陸の南北アメリカのとアフリカの沿岸プロフィールが一致することから,大陸移動仮説を提唱して,古生物学や地質の連続性を根拠に証明しようとした.今では海洋底拡大仮説やマントル熱対流仮説や大西洋中央海嶺の発見やトランスフォーム断層の発見や地磁気の反転と海底テープレコーダー仮説など実証的な観測でプレートテクトニクスがほぼ定説となっている.しかし,ウェゲナーが示せなかった大陸移動の駆動力はプレートテクトニクスでもまだ謎のままである.ウェゲナーが指摘していた,70%を占める深海洋底(-5km)の形成起源やプレート境界の起源,プレートテクトニクスの起源を探究する努力が忘れられていた.弧状列島と海盆の起源も謎のままである. この全てを統一的に解明できる新パラダイムが望まれていた.それはアブダクションによるマルチインパクト仮説であり,地球物理学と太陽系惑星学から"地球と月のミッシングリンクの解明"で述べられた.それによると,このプレートテクトニクスの起源の他に,月の形成や深海洋底の起源,コアの偏芯や木星大赤飯の起源や水星や冥王星の起源,更には小惑星帯の起源や分化した隕石の起源も統一的に解明できる新パラダイムの提案である.アブダクションは,ある仮説による結論が複数の現状を説明できれば出来るほどその仮説の正しさが保証されるという考え方である.発想の大転換であり創造的推論と呼ばれており,物理的意味がある仮説で,アイデアが正しければ,飛躍的な進歩が得られる. 太陽系の誕生から約40億年前まで経過してCERRAが木星摂動により軌道変形し木星と太陽の張力で断裂した時,CERRAと地球は分化凝固していた. 本仮説では複数マントル破片がほぼ同じ軌道を巡りの廻り巡り間欠的に衝突することが,度重なる生物種大絶滅の原因であり,マントルを剥ぎアイソスタシーにより5km 深さの海の起源となった.アイソスタシーにより衝突マントル欠損部にダーウィンの隆起が起きたとき,周囲の地殻が剥離したプレートが凹型にへこんで,その境界亀裂が弧状列島を形成した.太平洋を中心とした弧状列島やテーチス海の形成時のジャワ島等,弧状列島の外側に連なる海溝弧はプレートが弧状列島の下に潜り込みを示しています.プレート境界は複数のマントル断裂片が地球へ衝突した時の亀裂に起因している.本仮説では,地球が自転している為,衝突により欠けたマントルがアイソスタシーで凸になった時,慣性モーメントが不均一(アンバランス)になった地球では,慣性モーメントを最小にする駆動力が発生する. 一つの仮説だけで,全ての謎を統一した進化として説明できる事は,アブダクションの成果である.
著者
青木 久 岸野 浩大 早川 裕弌 前門 晃
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

津波石とは,津波により陸上に打ち上げられた岩塊のことである.先行研究によると,宮古島や石垣島をはじめとする琉球列島南部の島々には,過去の複数の津波によって石灰岩からなる巨礫,すなわち津波石が打ち上げられていることが報告されている.本研究では,津波によって陸上に打ち上げられた津波石のうち,海崖を乗り越えて海岸段丘上に定置している津波石に焦点をあてて野外調査を行い,過去に琉球列島南部,宮古諸島と八重山諸島に襲来した津波営力の違いについて考察を行うことを目的とする.本研究では,宮古諸島に属する宮古島・下地島,八重山諸島に属する石垣島・黒島の4島を調査対象地域として選び,宮古島東平安名崎海岸,下地島西海岸,石垣島大浜・真栄里海岸,黒島南海岸において,津波石の調査が実施された.これらの海岸では琉球石灰岩からなる海崖をもつ海岸段丘が発達し,段丘上や崖の基部,サンゴ礁上に大小様々な津波石が分布する.各海岸の背後には,岩塊が供給されうる丘陵などの高台が存在しないため,段丘上の岩塊は津波によって崖を乗り越えた可能性が高いと判断し,本研究では3 m以上の長径をもつ巨礫を津波石とみなした.津波石の重量(W)と海崖の高さ(H)に関する以下のような調査・分析を行った. Wを求めるため,津波石の体積(V)と密度(ρ)の推定を行った(W=ρgV,gは重力加速度). Vは津波石の長径と中径と短径の計測および高精細地形測量(TLSおよびSfM測量)による3D解析を併用し求められた.ρは弾性波速度の計測値から推定された.Hはレーザー距離計を用いて計測された.津波石は,宮古島ではH=17 mの段丘上に14個,下地島ではH=10 mの段丘上に1個,石垣島ではH=3 mの段丘上に4個,黒島ではH=3~4 mの段丘上に6個,計25個が確認された.段丘上の津波石が津波によって崖下から運搬されたと仮定すると,W・Hは津波石の鉛直方向の移動にかかった仕事を示すことから,津波石を崖上に運搬するのに必要な津波営力(運動エネルギー)の指標となる.さらに各島のW・Hの最大値は,各島における過去最大の津波を示すと考え,それらの値を比較してみると,その大小関係は下地島≧宮古島>石垣島>黒島となった.この結果は,過去に宮古諸島に八重山諸島よりも大きな津波が襲来したことを示唆し,石垣島周辺で最も大きい津波が襲来したとされる1771年の明和津波とは異なっている.
著者
安藤 雅孝 生田 領野
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

フィリピン海プレートの北西域端では、琉球海溝に沿って沈み込み、台湾東海岸では衝突する。この地域で、我々が最近実施した津波堆積物の調査、海底地殻変動観測に基づき、琉球海溝南西部の巨大地震のテクトニクスについて議論する。1.宮古島・石垣島沖での巨大津波本地域では、過去数千年にわたり、巨大な津波が繰り返し発生したことが知られている。我々が行った石垣島での津波堆積物の調査から、過去2000年にわたり、ほぼ600年に一回の割合で巨大津波が発生したことを明らかになった(Ando et al. 2017)。これらの地震のうち、最新の1771年八重山地震の際には、石垣島沿岸では地割れが生じ、揺れは震度V弱(またはそれ以上)に達したことも判明した。この地震による、400km離れた沖縄本島での震度は、IVと推定されおり(宇佐美 2010)、1771年地震は“津波地震”ではなく、通常の地震である可能性が高い。1771年地震の東側でも、別の巨大津波がそれ以前に発生したことが知られている。下島(宮古島市)には、日本で最大の津波石(帯石)が打ち上げられており、珊瑚のC14年代測定から、11世紀以降、1771年以前に、巨大津波によるものと推定される。このような結果を総合すると、琉球海溝南西域沿いには、長さ250kmを超える巨大地震発生域があると考えられる。Nakamura(2009)のプレート境界面上の逆断層地震モデルを採用すると、プレートの地震性カップリング率は20%程度と低くなる。2.琉球海溝の後退と伸張歪み場GPS観測によると、沖縄諸島は4–6cm/yの速度で南〜南東に向かって移動する。この変動は琉球海溝が南東に後退するために生じるもので、先島諸島は1–3x10-8/yの伸張歪み場にある。この伸びに応じて、背弧の沖縄トラフでは、マグマの貫入が起きるものと考えれる。2013年4月には与那国島の北50kmの沖縄トラフ内で、2日間にわたりマグマが貫入したと推定された(Ando et al., 2015)。2013年7月から9月の間に、その地点から西100kmで、マグマ貫入が生じたと、海底地殻変動観測から推定されている(香味・他、2017)。琉球海溝南西域では、海溝が後退しつつ、プレート沈み込みに伴う歪み応力を蓄積し、巨大地震を発生させるものと考えられる。カップリング率の低い伸帳応力場でも、巨大地震が繰り返し発生しうることは注目される。3.海底地殻変動観測結果2014年に、波照間島(西表島の南)の南60kmに、海底地殻変動観測点が設置され、観測が継続されている。この結果から、観測点が西表島に対し南に移動していることが明らかになった。ただし、観測期間は2年間と短く、結果の信頼性はまだ低い。海溝付近でも伸張場であることを確かめるには、さらに3年間の観測が必要である。一方、台湾東海岸には、琉球海溝から沈み込むプレート間カップリングの検証を目的として、3カ所に海底地殻変動観測点が設置された。その内の一つの宜蘭沖の観測点の2012年〜2016年の地殻変動観測結果が明らかにされた(香味・他、2017)。それによると、速度ベクトルは、南向きに4cm/y、東向きに8cm/yで、60km西の陸域の変動と調和的である。ただし、観測点が海溝から離れ過ぎているため、プレート間カップリングの有無を検証するに至っていない。さらに、海溝に近い他の2地点での観測を継続する必要があろう。今後、波照間沖、台湾沖での海底地殻変動から、この地域の巨大地震の準備過程が、解明されよう。4.まとめ琉球海溝南西域の巨大地震発生のメカニズム解明には、波照間島沖の地殻変動観測を継続し、かつ台湾東海岸に海溝に近い海底地殻変動観測を継続して行う必要がある。
著者
伊藤 好孝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の福島第一原発事故によって環境に放出された放射能・放射線について、政府、自治体、企業、研究者、一般市民に至る様々な人々により多種多様な測定が行われている。これらの一部はデータベースとして整理され一般公開されているものもある。しかし大部分の測定データは存在すら知られていないものも多い。これらのデータのメタデータ情報を収集してデータベース化し、測定量、測定日時、地点などからデータの所在を検索できる「福島第一原発事故に関わる放射能・放射線測定メタデータ検索システム」を開発した。このシステムによってデータの相互利用が強化されると共に、データ自身の恒久アーカイブ化への端緒が開かれると期待される。本講演では、本メタデータ検索システムの内容と今後の展開について報告する。
著者
帰山 秀樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム(134Csおよび137Cs)の環境放出により北太平洋全域の表層の放射性セシウム濃度が上昇した。水産研究・教育機構では2011年3月より水産物の緊急モニタリング調査を開始、それ以降海洋生態系を構成する様々な生物群、環境試料における放射性セシウム濃度の把握と、放射性セシウムの海洋生態系内における挙動を解析してきた。本研究では、海洋生態系における放射性セシウムの挙動を把握する際の最も基礎となる情報である、溶存態放射性セシウムの北太平洋における拡散状況を採水調査の結果に基づき報告する。調査は漁業調査船による資源調査航海などの機会を活用し、バケツによる表層海水の採取や採水器を用いた鉛直多層採水により得た海水20L試料を対象とした。その他、福島県沿岸では漁船を用いた用船調査、福島県水産試験場の協力による小名浜地先の汲み上げ海水などを採取している。海水試料はリンモリブデン酸アンモニウム共沈法を適用し、ゲルマニウム半導体検器によるガンマ線測定に基づき放射性セシウム濃度を求めた。北太平洋の広域拡散状況の把握という観点では144˚E、155˚Eおよび175.5˚Eにおける南北側線を設け、2011年7月、10月、2012年7月、2013年7月に表面海水採水による観測を実施しており、黒潮続流の北側における東方への拡散状況を把握している。また2012年9月の鉛直断面観測により、黒潮続流の南方においては亜熱帯モード水に補足された放射性セシウムを確認した。事故当時に減衰補正した134Csの総量は4.2±1.1 PBqと試算され、北太平洋全域における福島第一原発事故由来の134Cs放出量の22〜28%が亜熱帯モード水に存在すると推定された。亜熱帯モード水の輸送先である日本南方の亜熱帯海域に着目し、放射性セシウムの経年変化を137Csの水深0〜500mの水柱積算値で見ると2012年の3600 Bq m-2から2015年の1500 Bq m-2まで減少していることが明らかとなった。冬季の鉛直混合により亜熱帯モード水の一部は表層水塊へ表出し、移流・拡散により福島第一原発事故由来の放射性セシウムは希釈されたと推察される。一方、福島第一原子力発電所近傍海域として小名浜地先における汲み上げ海水を週一回の頻度で採水し放射性セシウム濃度の時系列変動を解析している。小名浜地先における溶存態放射性セシウム濃度は基本的に緩やかな減少傾向を示すものの、夏季および冬季にスパイク状に濃度の上昇が認められる。特に冬季、爆弾低気圧が福島県沖合を北上した時期に顕著な放射性セシウム濃度の上昇が認められた。2013年12月から2014年2月の期間には福島第一原子力発電所と小名浜の中間に位置する四倉沖で物理観測を実施しており、その際の流速データは、四倉沖で強い南向きの流れが継続した時期と、小名浜地先で放射性セシウム濃度が上昇した時期が一致することを示している。すなわち福島第一原子力発電所近傍の海水が強い南下流により小名浜地先近傍まで希釈をされずに移流したと推察される。このように福島第一原子力発電所近傍海域における溶存態放射性セシウムの分布は時空間的に変動が大きく、今後も引き続きモニタリング調査が必要である。
著者
金野 俊太郎 大河内 博 黒島 碩人 勝見 尚也 緒方 裕子 片岡 淳 岸本 彩 岩本 康弘 反町 篤行 床次 眞司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2012 年より積雪期を除き 1 ヶ月もしくは 2 ヶ月毎(2015 年以降)に,浪江町南津島の山林でスギと落葉広葉樹の生葉,落葉,表層土壌,底砂の放射性Cs濃度を調査した.福島市-浪江町間の走行サーベイでは,除染により空間線量率は急速に減衰したが,未除染の山林では物理的減衰と同程度であった.2014 年以降,落葉広葉樹林では林床(落葉と表層土壌)で放射性Csは物理減衰以上に減少していないが,スギ林では生葉と落葉で減少し,表層土壌に蓄積した.2014 年までスギ落葉中放射性Csは降水による溶脱が顕著であった.2013 年春季には放射性Csはスギ林よりも広葉樹林で表層土壌から深層に移行していたが,2015 年冬季にはスギ林で深層への移行率が上回った.小川では放射性Csは小粒径の底砂に蓄積しており,一部は浮遊砂として流出するが,表層土壌に対する比は広葉樹林で2013 年:0.54,2015 年:0.29,スギ林で 2013 年:1.4,2016 年:0.31 と下がっており,森林に保持されていることが分かった.しかし,春季にはスギ雄花の輸送による放射性Csの生活圏への流出が懸念された.
著者
本間 雄亮 濱本 昌一郎 小暮 敏博 西村 拓
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

The accident at the Fukushima Daiichi nuclear power plant occurred in 2011, resulting in contamination of agricultural fields by radioactive substances such as 137Cs (RCs). Potassium (K) fertilization is typically considered as an effective countermeasure for reducing RCs uptake by plants. However, in case of a pasture, K fertilizer application results in increase in pasture K concentration, causing a metabolic disease for cattle known as grass tetany. Therefore, in the grassland polluted by RCs, alternative countermeasures for reducing RCs uptake are required. In this study, we investigated the effect of adsorbent applications on the RCs behavior in grassland soil.Soil samples were taken from a grassland polluted by RCs at the surface layer (from 0 to 5cm) in Fukushima prefecture. Zeolite and weathered biotite were selected as adsorbents. The soil was adjusted to different water contents (0.86, 1.2) and the adsorbents were added at 0.5, 2.5, 5g per 50g dried soil. Incubation was conducted in constant temperature (20℃) room. Incubation duration was 7, 28 and 112 days. After that, 1M ammonium acetate with soil: solution ratio of 1:4 (dried soil: solution) was added and shaken for 6 hours. Suspension was filtered by 0.45 μm membrane filter. Cs concentration (exchangeable Cs, Ex-Cs) in the filtrates were measured by a Ge semiconductor detector.With increasing adsorbents added to the samples, the concentration of Ex-Cs decreased where more decrease in Ex-Cs was observed for the sample at higher water content. Zeolite decreased concentration of Ex-Cs more than weathered biotite in same soil: solution ratio.This research was supported by grants from the Project of the NARO Bio-oriented Technology Research Advancement Institution (the special scheme project on regional developing strategy).
著者
大澤 和敏 西村 拓 溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の東日本大震災の影響で発生した福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が飛散し土壌などに吸着した.中でも放射性セシウム137(137Cs)は半減期が約30年と長く,土壌中の粘土鉱物や有機物に吸着しやすい性質を持っている.土壌に吸着したCsは河川に流出,湖沼や海洋に輸送されると考えられる.事故周辺地域では健康被害や農林水産物に長期にわたる影響が出ることが懸念されるため,流域におけるCsの動態をモニタリングすることは必須である.既往の研究では,河川水の懸濁物質(SS)濃度とCs濃度の関係性が確認されているが,懸濁態,溶存態等の輸送形態や経年的な流出量の変化に着目した研究は少ない.そこで本研究では,Csの土壌沈着量が異なる福島県飯舘村の2河川を対象とした現地観測を実施し,流域からのCsの輸送形態や流出量の経年変化について考察することを目的とした.福島県飯舘村の北部に位置する真野川,南部に位置する比曽川を対象流域とした(Figure 1).帰還困難区域を含んでいる比曽川流域では,土壌へのCs沈着量が真野川流域より大きい.両地点に各種計測機器を設置し,雨量,水位,流速,濁度の連続測定と採水を行った(Figure 2).観測期間は2013年6月~2016年12月である.降雨時に採水した約1Lの試料は目開き0.42mmのふるいを通過する試料としない試料に分け,それぞれ孔径1μmのガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(降雨時懸濁態)を測定した.なお,一部の試料は2mm,0.42mm,0.072mmのふるいを用い,粒度別に分けて測定した.また,無降雨時に約20Lの採水を行い,ガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(無降雨時懸濁態)を測定した.さらに,降雨時と無降雨時の採水試料の濾液を蒸発乾固させ,Cs濃度(降雨時溶存態,無降雨時溶存態)を測定した.降雨時の懸濁態試料における137Cs線量の粒径別割合をFigure 3に示した.粘土やシルトなど粒径の小さいものほど137Cs線量が高く,粘土,シルト,細砂成分で約70%以上を占めた.比曽川および真野川における粒径0.42mm以下のSS濃度の関係をFigure 4に示した.土壌へのCs沈着量が大きい比曽川の方が近似直線の傾きが大きかった.また,近似直線の傾きを比較すると,2013年~2016年の間で明確に減少している.このことから,SSに吸着している137Csは年々減少しており,減少率は3年間で79%以上と物理的半減期に基づいた3年間の減少率6.7%と比較し,非常に大きかった.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着した137Csから選択的に流出したことによると考えられる.137Cs流出量を算出した結果をTable 1に示した.降雨時懸濁態での流出割合は,どの年も両河川で95%以上と最大であった.一方,無降雨時の137Cs流出量は微少となった.また,降雨時,無降雨時それぞれで懸濁態の割合より溶存態の割合が小さかった.各流域における4年間の総137Cs流出量は比曽川で6.9 kBq/m2,真野川で2.1 kBq/m2であり,土壌沈着量の平均値(比曽川:1017 kBq/m2,真野川:421 kBq/m2)と比較すると非常に微少であった.以上のことから,放射性セシウムの流出は,降雨時懸濁態の流出成分が大部分を占めており,細粒成分や有機物に吸着して流出する割合が高いことが分かった.土壌の沈着量に対してCs流出量は微少であり流域内にほとんどが残存している状況下で,Cs流出量は自然崩壊による減少よりも著しく減少した.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着したCsから選択的に流出したことによると推察される.
著者
恩田 裕一 谷口 圭輔 脇山 義史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

福島原発事故後5年間のモニタリングによって,福島河川中の放射性セシウム濃度は激減した。本発表では,その低下要因および濃度がチェルノブイリより1桁低いことをを紹介する。また,除染の効果についても算定したのでその結果も報告する。
著者
福田 美保 山崎 慎之介 青野 辰雄 石丸 隆 神田 穣太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

After the accident at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station (FDNPS) happened in March 2011, large amounts of radionuclides including radiocaesium also released from the FDNPS into the terrestrial and marine environments. In marine environment, parts of particulate radiocaesium have transported in seawater and accumulated to seafloor. Then, radiocaesium in sediment have partly re-suspended as particulate form and re-eluted as dissolved form due to several factors such as bottom current and deformation. The characters of seafloor topography are more different in the area off the coast of northern and southern part of Fukushima Prefecture, dividing areas at the Onahama port (Mogi and Iwabuchi, 1961). Because the wave bases in fine and stormy weather are about 20 and 80 m, respectively (Saito et al., 1989), it seems that the area of shallower than 100 m is also affected by erosion and re-sedimentation near seafloor with ocean wave degree. Thus, it is necessary to elucidate interaction for radiocaesium between sediment and seawater close to seafloor with more stations in order to guess radiocaesium activity variation at long times. For example, in the case of collected bottom-layer water with the Conductivity-Temperature-Depth (CTD) system, it is very difficult to collect seawater close to sediment because it is careful not to touch CTD system seafloor. This study was aimed at elucidating the relationship for radioacesium activity concentration between sediment and trapped water on sediment collected using Multiple Corer, which is considered as overlying water.Sediment samples were collected using a Multiple Corer during UM14-04 cruise in May 2014 at three stations: I01 (37°14’N, 141°07’E, water depth:60 m), I02 (37°14’N, 141°13’E, water depth:120 m) and C (36°55’N, 141°20’E, water depth:190 m).Overlying waters were collected using tube for 2 hours later from collected sediment. In laboratory, collected sediment sample are dried and overlying water samples were filtered through a 0.2-μm pore size filter and was concentrated by the ammonium phosphomolybdate (AMP) method (Aoyama and Hirose, 2008). The radiocaesium activity concentrations in each sediment and overlying water samples were measured by gamma-ray spectrometry using a high-purity Ge-detector and corrected to sampling date.In overlying water, the dissolved 137Cs activity concentrations (mBq/l) were 3.1-16 and the activity at I01, I02 and C in order from the higher. In the surface-layer sediments (core depth 0-3cm), the activity concentrations (Bq/kg-dry) were 8.4-286 and the high activities at I01 and I02 have characters of relatively high percentage for silt to clay particle compared to those at C. At I02 and C, the activity in overlying water were same value compared those in bottom-layer of seawater, which collected above water depth 10 m from seafloor. On the other hand, the activity in overlying water at I01 was five time higher than those in bottom water. The calculated Kd’ (L/kg) of apparent distribution coefficient using 137Cs activity concentrations in surface-layer sediment and overlying water were 8.8×102-1.5×104 and within rages of recommended Kd value of 2.0×103 for caesium by IAEA TRS422.This work was partially supported by Grants-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas, the Ministry of Education Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), Japan (nos. 24110004, 24110005) and Research and Development to Radiological Sciences in Fukushima Prefecture.
著者
加藤 弘亮 恩田 裕一 Saidin Zul 山口 敏朗
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

本研究では、福島第一原子力発電所事故後4年間にわたって、森林樹冠に捕捉された放射性セシウムの林床への移行状況の観測を実施してきた。スギ人工林の2林分(31年生壮齢林及び18年生若齢林)とコナラ・アカマツからなる広葉樹混交林を対象として、樹冠通過雨、樹幹流、落葉等に含まれる放射性セシウム濃度を測定した。また、サーベイメータと可搬型ゲルマニウムガンマ線検出器を用いて、林内の異なる高度における放射性セシウムの計数率と空間線量率の測定を行った。調査対象森林において、林内の空間線量率は、樹種や林齢によって異なる特徴的な垂直分布を示した。また、林内空間線量率はいずれの森林においても時間とともに指数関数的な低下傾向を示したが、測定高度や樹種によって異なる低下速度を示した。樹冠(およそ10 m高)の空間線量率は物理減衰速度よりも早く低下したが、林床(1 m高)の空間線量率は調査森林によって異なる低下傾向を示した。本研究の観測結果から、林内空間線量率は樹種や林齢による樹冠から林床への放射性セシウム移行状況の違いを反映して空間的・時間的に異なる時間変化を示すことが示唆された。また、林内空間線量率の低減は、原発事故後4年間(平成23年~26年)とその後の2年間(平成26年~27年)で異なる傾向が認められた。このことから、林内空間線量率の長期変化傾向を予測するためには、林内の放射性セシウムの移行メカニズムと空間分布の時間変化を解明することが必要であることを示した。
著者
新里 忠史 佐々木 祥人 三田地 勝昭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

はじめに東京電力福島第一原子力発電所事故に由来する放射性物質のうち,Cs-137は半減期が約30年と長く,今後長期にわたり分布状況をモニタリングし,その影響を注視していく必要がある.福島県の約7割を占める森林域については,住居等の近隣の森林や森林内で日常的に人が立ち入る場所での除染等とともに,森林整備と放射性物質対策の総合的な取組みが進められている[1].本論では,山地森林におけるCs-137の流出特性に林床状況が及ぼす影響について,福島県の阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林での調査結果を報告する. 調査地と手法森林域に降下した放射性セシウムは,降雨を起点とする林内雨や樹幹流及びリターフォールにより林床へ移動し,林床から土壌流出及び表面流に伴い林外へ移動すると考えられる.土壌流出によるCs-137流出は表面流の100倍程度[2]であり,前者に伴う流出がより重要と考えられる.本論では,土壌流出の最初の段階である降雨による土壌粒子の飛散(雨滴侵食)を対象として,斜面下方への放射性セシウム流出量と林床状況の関連を考察する.観測領域は阿武隈山地に分布するアカマツ-コナラ林の西向き斜面であり,面積は約10 m四方である.観測領域にアカマツはなく,平均樹高8 mのミズナラを主体とした落葉広葉樹が分布する.観測領域の斜面上部は下草が繁茂し落葉落枝等のリターが堆積する.斜面下部は,下草が除去されリターの堆積した北側及びリターが除去され裸地状態の南側に分けられる.斜面の傾斜は27~28度の範囲にある.林床状況が異なる以上の3領域において,雨滴侵食で飛散する土壌粒子を回収するためのスプラッシュカップを各領域に5台ずつ設置し,約1ヶ月間の観測を実施した.スプラッシュカップは直径30 cmあり,カップ内側の中央に林床表面が露出した直径10 cmの孔(内部孔)があけられている.内部孔の林床に雨滴があたり土壌粒子が飛散すると,内部孔を円形に取り囲み配置された高さ10 cmのトレイに土壌粒子が回収される.回収トレイは,内部の仕切り板により斜面上方と下方へ飛散する土壌粒子を取り分けられる.スプラッシュカップ外側の林床から土壌粒子が混入することを防ぐため,同カップの周囲約1 m四方に麻布を敷く対策を施した.落葉落枝等のリターによる林床の被覆率は,スプラッシュカップの内部孔における林床表面で計測した.土壌粒子の粒径はレーザー回折式粒径分布測定器により測定した.同カップで回収した土壌は105℃で24時間の乾燥後,Cs-137濃度を測定した.Cs-137流出量は,スプラッシュカップ内部孔の面積,斜面下方へ移動した土壌の重量とCs-137濃度から算出した.Cs-137流出率は,観測領域の近傍における深度20 cmまでの土壌試料の分析値から単位面積あたりのCs-137蓄積量を算出し,その蓄積量に対するCs-137流出量の百分率とした. 結果各観測領域における落葉落枝等のリターによる被覆率は,斜面上部で95.4%,斜面下部の北側で48.2%,斜面下部の南側で5.1%であった.これに伴い1 m2あたりの斜面下方への土壌移動量も異なり,斜面上部で8.5 g,斜面下部の北側で11.3 g,斜面下部の南側で21.2 gであった.移動土壌の粒径分布は,観測領域における林床0-1 cmの土壌粒子と比較し,淘汰が非常に悪くほぼ対称の歪度を示し,粒径に依存した選択的な土壌粒子の移動は確認できなかった.また,土壌のCs-137濃度から求めた1 m2あたりのCs-137流出量は,斜面上部で523 Bq,斜面下部の北側で295 Bq,斜面下部の南側で710 Bqとなった.ここで,斜面上部と斜面下部における1m2あたりのCs-137蓄積量(上部33 kBq,下部101 kBq)との比較からCs-137流出率を算出すると,下草が繁茂しリターが堆積する斜面上部では0.5%,下草がなくリターの堆積した斜面下部の北側で0.9%,下草とリターがなく裸地状態である斜面下部の南側では2.1%となった.以上の結果は,林床の被覆状況が森林域の放射性セシウム流出に関して重要な環境条件であることを示している.また,林床の下草や落葉落枝等のリター除去を行うような森林域での除染活動においては,除染後に下草が繁茂し落葉落枝等が堆積するような環境整備を合わせて実施することが,放射性セシウム移動抑制対策につながることを示すと考えられる. [1]環境省,森林の除染等について.http://josen.env.go.jp/about/efforts/forest.html[2]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radiact. 161, 11-21.
著者
津旨 大輔 坪野 考樹 三角 和弘 立田 穣 青山 道夫 広瀬 勝巳
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

A series of accidents at the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant (1F NPP) following the earthquake and tsunami of 11 March 2011 resulted in the release of radioactive materials to the ocean by two major pathways, direct release from the accident site and atmospheric deposition. Additional release pathways by river input and runoff from 1F NPP site with precipitation and were also effective for coastal zone in the specific periods before starting direct release on March 26 2011. The activities attributable to the direct release were observed adjacent to the 1F NPP site. The sea side impermeable wall was closed at 26 October 2015. We estimated the direct release rate of 137Cs, 90Sr and 3H for more than four-and-a-half years after the accident by the Regional Ocean Model System (ROMS).Direct release rate of 137Cs were estimated by comparing simulated results and measured activities adjacent to the 1F NPP site (adjacent to 5,6 discharge and south discharge). Direct release rate of 137Cs was estimated to be 2.2 x 1014 Bq/day and decreased exponentially with time to be 3.9 x109 Bq/day by 26 October 2015. Estimated direct release rate have exponentially decreased with constant rate since 4 November 2011. Apparent half-life of direct release rate was estimated to be 346 days. The estimated total amounts of directly released 137Cs was 3.6±0.7 PBq from 26 March 2011 to 26 October 2015. Simulated 137Cs activities attributable to direct release were in good agreement with observed activities, a result that implies the estimated direct release rate was reasonable. Simulated 137Cs activity affected off coast in the Fukushima prefecture.90Sr/137Cs activity ratio of stagnant water was 0.05 in the basement of the 1F NPP reactor 2 turbine building on 27 March 2011. Direct release rate of 90Sr was estimated to be 1.1 x 1013 Bq/day from 26 March to 6 April 2011 using the activity ratio in stagnant water because the stagnant water released to the ocean in this period (Tsumune et al., 2012). And the temporal change of direct release rate was estimated by the measured 90Sr activity adjacent to 1F NPP. Directly release rate decreased exponentially to 3.9 x 1010 Bq/day by 30 April 2011. The direct release rate was constant and decreased exponentially from 27 June to 16 December 2013. And the direct release rate was 2.9 x 109 Bq/day by 26 October 2015. The estimated total amounts of directly released 90Sr was 208 ± 42 TBq.3H/137Cs activity ratio of stagnant water was 8.7 x 10-3 in the basement of the 1F NPP reactor 2 turbine building on 27 March 2011. Directly release rate of 3H was estimated to be 1.9 x 1012 Bq/day from 26 March to 6 April 2011 and decreased exponentially by 16 April 2011. The rate was decreased exponentially with constant rate by 26 October 2015. The direct release rate was estimated to be 7.7 x 109 Bq/day at 26 October 2015. The estimated total amounts of directly released 3H was 131 ± 26 TBq.
著者
森 也寸志 林 匡紘 稲生 栄子 登尾 浩助
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

東日本大震災によって,福島第一原子力発電所から放射性物質が漏れ・拡散が起こった。事故から数年経った現在では,環境中に放出された放射性物質が土壌中を降下し,根から植物に吸収される事が危惧されている。土壌に降下した放射性セシウムは粘土鉱物に強く吸着されているが,有機物含量の多い土壌では,粘土鉱物を多く含む土壌に比べて放射性セシウムとの吸着が弱く,植物へ吸収されやすいと考えられる。根群域にある放射性セシウムは農作物に吸収される可能性があるため,もし,迅速に根群域を超えて下方に浸透させ,鉱物層に吸着させられるのであれば有利である。そこで,本研究では有機質土壌であるピートモスを植栽とするブルーベリーを対象とし,ポットでの放射性セシウムの移動実験を行った。特に,下方浸透に効果があるとわかってきた疑似間隙構造である人工マクロポアを使って表層に存在する放射性セシウムを根群域下まで輸送する可能性を検証した。ポットの底から黒ボク土5cm,ピートモス10cm,汚染土壌(1925 Bq/kg)5cmを詰めたものを6個準備し,「無施肥区・人工マクロポアなし」,「無施肥区・人工マクロポアあり」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」,「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアなし」,「塩化カリウム施肥区・人工マクロポアあり」とした。土壌に吸着した放射性セシウムを溶出させることを目的に硫酸アンモニウム(15g/ポット)を,また,ブルーベリーによる放射性セシウムの吸収抑制を目的に塩化カリウム(30g/ポット)施肥した。毎日0.76L/dayの灌水をおこない,実験開始から1年4ヶ月後に実験を終了とし,ポットを分解し,放射性セシウムを計測した。「無施肥区・人工マクロポアなし」「無施肥区・人工マクロポアあり」では放射性セシウムは汚染土層から僅かに下方に移動した。人工マクロポアの周辺でも放射性セシウムの移動は5-10cm層までであり,人工マクロポア周辺と周辺以外での深度別放射能濃度の分布の違いはみられなかった。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアなし」では,わずかに下方移動が見られたが,一方でブルーベリーの葉から放射能が検出され,下方に移動した放射性セシウムがブルーベリーに吸収された可能性が考えられた。「硫酸アンモニウム施肥区・人工マクロポアあり」では5-7.5cm層での放射能濃度が1000Bq/kgを超えており,無施肥区や「硫安区・人工マクロポアなし」に比べて高い値となっている。また,0-5cm層よりも5-7.5cm層のほうが放射能濃度が高い値となっており,人工マクロポアの効果によって放射性セシウムの下方移動が促進されたと考えられる。ただし,同様に植物体から放射能が検出された.また,人工マクロポア周辺の結果を見ると10-15cm層で200Bq/kg を超え,15-20cm層でも87.2Bq/kg放射性セシウムが検出された。他の区に比べて高い放射能濃度が下層で計測されており,すなわち,人工マクロポア周辺では下方浸透促進効果が大きいと判断できる。硫酸アンモニウムの施肥だけでは下方浸透促進効果がみられなかったが,人工マクロポアと組み合わせることで下方促進効果が大きくなったと考えられる。なお,塩化カリウム施肥は移動にはあまり効果がなかったが,植物体から放射性セシウムの検出はなく,植物体への吸収抑制をすることがわかった。ここから放射性セシウムの効果的な移動には,溶出・移動・吸収抑制のプロセスが必要であると推察できる。しかし,根群域下(黒ボク土層)への移動はあまりみられず,今後は硫酸アンモニウムと塩化カリウムを同時施用して,より効果的な移動と吸収抑制を同時に行うことを検討していきたい。
著者
神林 翔太 張 勁 成田 尚史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸域から海洋への放射性セシウム(Cs)の供給源として河川水以外に海底地下水湧出(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の存在が指摘されている。しかし,採取が容易な河川水に対し,SGDは一般的に目に見えない現象であるため試料採取が困難であり、これまで定量的な評価が行われていなかった。本研究では,汽水湖「松川浦」で収集した海底堆積物中の間隙水の化学分析を通じてSGDを含めた陸域から沿岸域への放射性Csの流入量を見積もることを目的とした。間隙水及び同地点の直上水に含まれる137Cs濃度はそれぞれ1,398 mBq/L, 117.7 mBq/Lであった。この結果は,海底堆積物から間隙水中に有意な量の放射性Csが溶脱していることを示している。また,フィックの法則を用いてフラックスの計算を行った結果,堆積物表層から直上水へ11.3 mBq/cm2/hの137Csの逸出が起きる事が推定された。さらに,本研究で得られた堆積物-間隙水間の分配比と松川浦の表層堆積物に含まれる137Cs濃度の平均値を用いて湖水中に逸出される137Cs フラックスを見積もると0. 08 GBq/dayと推定され,松川浦に供給される137Csの大部分を占めていることが明らかになった。本研究の結果から,沿岸海域には海水が海底下に潜り,堆積物間隙水の逸出という形で再び海洋へと流出する再循環水(Recycled Submarine Groundwater Discharge: RSGD)によって多量の放射性Csが供給されており,今後,沿岸海域や外洋における放射性Csの評価に供給源としてSGDを把握する重要性が示唆された。