著者
岩田 憲治 イワタ ケンジ Kenji Iwata
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-84, 2004-07

本稿の目的は、消費者運動をめぐる当該労働組合の対応を明らかにし、その論理を検討することである。公害や物価など消費者運動に対して企業内労働組合の対応は多様である。その中で本稿は、当該労働組合が消費者運動と企業との関係をどのように対応して調整の役割を果たしたかを検討することによって、消費者運動に対する企業内組合の論理をさぐる。カラーテレビの価格引下げを求める不買運動に対し、ある電機メーカーの労働組合が消費者団体と接触しその要求を経営側に伝えて、解決策を見出すことに貢献した。また、森永ミルク中毒事件では、被害者団体と不買運動を展開する諸団体に労働組合が働きかけ、経営側には被害者団体の要望を受け入れるよう促した。労働組合が消費者団体等の要求を経営側にうけいれられるよう働きかけるのは、直接的には組合員の雇用の確保と労働条件の維持であるが、経営改善を求める要求でもある。その背景には、長期雇用の保障を中心とする相互信頼的労使関係がある。
著者
野村 隼人 入江 英嗣 坂井 修一
雑誌
情報処理学会論文誌コンピューティングシステム(ACS) (ISSN:18827829)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.76-86, 2019-07-29

プロセッサへのデータ供給能力は性能上最も重要な要素の1つであり,これを支えるため近年のプロセッサは大容量のLast Level Cache(LLC)を備えている.キャッシュ容量が大きくなるほど,再参照間隔のより長いキャッシュラインを的確に残すようなキャッシュマネジメントが求められるが,これは簡単なハードウェアで行うには難しい課題であり,現状,LLCには多くのデッドブロックが含まれている一方で,追い出しによるミスが発生していることが知られている.本研究では,ライン追い出しを一時的に凍結し,長期保持による統計的なヒット数向上を可能とするStubborn戦略をベースとして,その活用タイミングを適応的に決定する手法を提案し,性能向上を最大化させながら,性能低下の発生を抑えることを実現する.SPEC CPU 2006からメモリセンシティブな12本のベンチマークをシミュレーションした評価では,LRUに対して最大42.3%,幾何平均で3.8%の性能向上を示した.
著者
重安 哲也 松野 浩嗣 森永 規彦
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.793-800, 2004-08-15

IEEE802.11bを始めとする無線LAN(Local Area Network)技術は,高度情報通信社会環境を構築する上でも欠かすことのできない社会基盤技術の1つとして位置づけられているそこで,本稿ではすでに普及段階にあるものから,標準化作業中のものを含めた無線LAN各規格を概観するとともに,各規格中で規定されているプロトコルに関する簡単な解説を行う.なお,無線LAN技術標準の中にはIEEE802.11のようにIEEE802委員会が標準化を行っているものや,欧州のETSI-BRAINが策定するHIPERLAN/2や,ARIB STD-T70として標準化されたHiSWANa (High Speed Wireless Access Network a)などさまざまなものがあるが,今回はIEEE各規格に限定して概観する. "
著者
冨塚 美歩 岩野 公司
雑誌
第81回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.341-342, 2019-02-28

楽曲の検索を行う際に,歌手の声質の類似性に基づいて楽曲推薦を行う手法が検討されている.本研究では,検索インタフェースへの利用を想定して,声質の類似性に基づく歌手の分布マップの作成手法を提案する.提案手法では,それぞれの歌手の歌声から音響モデルを学習し,カルバック・ライブラー情報量を用いてモデル間の距離を計算することで,歌手間の声質の距離を求める.可視化手法としては,多次元尺度構成法や自己組織化マップを用いる.複数被験者による主観評価実験により,作成された歌手マップの表現の適切さを評価した結果,その有用性が確認された.
著者
永吉 宏之 等々力 賢
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2003論文集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.8-13, 2003-11-07

本研究では,囲碁の評価関数のモデルとしてユニット間の接続を近傍のみに限定しパラメータの共通化を行うことにより対称性を考慮したニューラルネットワークを提案した.プロの棋譜を用いて学習を行い,結果について検証を行った.対局終了時における石の死活や途中局面に対する地の予測確率で良好な結果が得られ,本手法の妥当性が示された.
著者
西野 順二 西野 哲朗
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.11-21, 2010-03-17

本論文では簡略化した評価値を導入することで,不決定性を持つため探索がしにくい多人数ゲームの終盤データベースを構築した.さらに,これを用いて多人数不完全情報ゲームの意思決定を行うプレイヤモデルへ適用し,コンピュータ大貧民大会サーバを用いた実験によりデータベースの有効性を示した.多人数ゲームには自己の判断によって利得を制御できず,第三者の合理的でない判断によって左右される不決定という状態を持つ.これに対して大貧民のサブセットである単貧民化を行って手の縮約を施し局面を限ったうえで,シングルトンにより単純化した評価を用いることで最終 10 枚の終盤データベースの構築を行い,3 人の場合で 38%,4 人で 25% の場合について必勝手を発見した.不完全情報の局面を必勝手に帰着することで着手決定を行うプレイヤモデルを構築し,対戦実験によりパフォーマンスの向上がみられ,有効なモデルであることを示した.
著者
村越 行雄
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF LITERATURE (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.45, pp.A57-A74, 2010-09

「嘘」という言葉の日常的使用における曖昧性を解明する意味で、最初に話し手側の立場に限定し、その上で11の基準に基づいて分析を実施した。具体的には、非事実性(反事実性)、自己認識性、意図性、欺瞞性、隠蔽性、目的性、悪意性、不利益性、自己保護性、拡張性(連鎖性)キャンセル性(修正・訂正、取り消し・撤回)の11基準である。以上の分析によって、全てが解明されるというわけではない。更なる基準の追加、聞き手側からの視点、1対1の関係以外の1対複数、複数対複数などの分析が必要になってくると言えるからである。ただ、嘘の解明を厳密にすることが果たして必要なのか、むしろ曖昧さにこそその本来の意義があると言えないのか、その他の疑問が当然生じてくるのであり、従って今回の分析は、それ以降に続く分析の第1歩としてではなく、あくまでもこれ自体で完結する分析として位置づけられるものである。更なる展開は、全体的な方向性を見た上でのことになろう。
著者
杉山 幸子
出版者
八戸学院短期大学
雑誌
八戸学院短期大学研究紀要 (ISSN:21878110)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-12, 2017-03-31

本論では自閉症スペクトラム児・者が死に関心を示したエピソードを分析し、定型発達の幼児に認められたような死への気づきが確認できるかどうか、また、彼らに独自のパターンが見いだせるかどうかを検討した。その結果、自閉症スペクトラムの子どもと青年には、幼児において認められたのと共通の「未来の死」への気づきが一部ではあるがうかがわれる一方で、自閉症の特性に由来すると思われる「死」「天国」「地獄」等の観念へのこだわりも認められた。また、母親への愛着と喪失への恐れは比較的広く認められた。さらに、そうした死への気づきを育む土壌となる家庭での「いのちの学び」についても検討したところ、特に知的な障害が軽い場合は、「死」について言葉で積極的に子どもに伝えようとする傾向が見られた。生き物の飼育と葬儀への参列は、特に中度以上の知的障害を有する場合に重要だと認識され、取り入れられていた。
著者
山口 央貴 河野 和宏
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2019-CSEC-86, no.48, pp.1-6, 2019-07-16

インターネット利用者が増加する一方で,権利所有者の許可を得ずに不正にアップロードされた著作物を取りまとめている違法サイト,海賊版サイトの利用が後を絶たない.例えば音楽ファイルの違法ダウンロード,リーチサイトを経由しての海賊版サイト上での漫画の閲覧など,これらすべてが著作権侵害であり違法とされている.しかし,違法ファイルの投稿の取り締まりの対策は後手となっており,サイトブロッキングなどの強硬手段も,現状は実行に移すのが難しい状況にある.そこで本稿では,ユーザ側に焦点を当て,同調志向と規範的情報に着目することで,インターネット利用者に対する違法サイト ・海賊版サイトの効果的な利用抑制が可能かどうか検討した.結果として,規範的情報を与えることで,同調志向の高さに関わらず多少なりとも規範的な意識が働き,違法サイトの利用抑制につながること,同調志向を高さ別にみると,規範的情報が記述的であれば,同調志向の高い人物に対して特に強く規範意識が働き,違法サイトの利用抑制に有効であること,規範的情報が罰則的であれば,同調志向の低い人物に対しては自身の利益とリスクの関係がより明確になり,罰則というリスクを意識させることで利用抑制につながることが分かった.
著者
岡部 一明
雑誌
東邦学誌 = Journal of Aichi Toho University (ISSN:02874067)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.21-44, 2006-06-30
著者
萩原 崇貴 八木 勲 鈴木 紀久子
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.751-752, 2018-03-13

現在日本では,学校でのいじめが大きな問題となっている.これまでにマルチエージェントシステムを用いて効果的ないじめ対策法を検討した研究がある.先行研究ではいじめ当事者のみに着目していたが,実際にはいじめを見て見ぬふりをする「傍観者」や,いじめを止めようとする「仲裁者」も存在し,実証研究では仲裁者がいじめ問題解決の鍵を握っていると言われている.そこで本研究では,いじめ当事者ら以外に傍観者と仲裁者も考慮にいれた実験環境をマルチエージェントシステムにて構築し,いじめ対策行動の一つである「出席停止」の効果を検証した.その結果,仲裁者が存在することで,いじめ被害が軽減されることがわかった.
著者
岩瀬 由佳
出版者
東洋大学社会学部
雑誌
東洋大学社会学部紀要 = The Bulletin of Faculty of Sociology,Toyo University (ISSN:04959892)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.41-51, 2018-12

本稿では、旧イギリス植民地、トリニダード=トバゴ出身のアフリカ系カリビアン作家、Elizabeth Nunez による自叙伝、『普段使いではなく』(Not for Everyday Use 2014)に着目し、彼女の自伝的作品に内在する文学的カウンターアプローチの戦略的手法を読み解いた。 はじめにLisa Brown の「カリブ海地域の文学において自伝形式の作品が非常に重要な働きを担い、カリブ海地域出身の作家たちが自伝という文学様式を通じて自己表現を行ってきた」という指摘から論を発し、Michelene Adams やDrucilla Cornell らの論を援用しながら、特に、長らく植民地主義と家父長制に抑圧されてきたカリブ海地域出身の女性らにとって、自伝という表現形式がいかに自らのエンパワーメントを主張する上で有効な手段であり得てきたのかについて論じた。 次に、「ある程度、すべての小説はカモフラージュされた自伝である」と述べるElizabeth Nunez作品における「家族」、特に「母親」との関係性について、Amy Reyes らとのNunez 自身のインタビュー記事をもとに、自叙伝を執筆するに至る経緯、また本作と彼女の自伝的小説との差異、また作家のプライバシー問題等に関しても論を展開した。 最後に、劇的な社会的地位上昇を遂げたNunez 家のファミリーヒストリーをたどりながら、そこから表出されるイギリス植民地における「カラーカースト」と階級意識の問題、女性の社会的抑圧、教育と社会的地位の相関性、さらにはNunez 自身がアメリカで体験した人種差別と移民が直面する現実など、個人的で内的な語りであるはずの自伝という表現形式が、公共的かつ共感性をもって読者に投影され、触発的な相互関係を生み出しえる可能性を提示した。