著者
伊賀 立二
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.1646, 2007-10-25

1998年,日米欧のハーモナイゼーションに基づいたわが国の臨床試験(治験)における新GCP(Good Clinical Practice)が完全実施された.CRC(Clinical Research Coordinator)はこの新GCPによって誕生した職種で,わが国では治験コーディネーターと呼ばれており,その守備範囲は治験の枠を超えて臨床試験を含む臨床研究全般に及んでいる.医薬品の臨床試験におけるCRCの役割は,臨床試験コーディネーターとして,(1)創薬ボランティアのケア,(2)治験担当医師の支援,(3)治験依頼者との対応(モニタリングと監査),(4)治験が円滑に進むように全体のコーディネーションを行うことと要約され,今では臨床試験になくてはならない重要な職種となっている. CRCの養成は,2000年以前は種々の団体が個別に実施してきたが,2001年に各団体が一堂に会して,「CRC連絡協議会」を結成し活動をともにすることとなり,その後2001年秋に第1回の「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開かれ,その後,毎年開催され,現在では参加者も2千数百名を超えている.
著者
竹内 新治 吉田 穣 三浦 重人
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.213-219, 1969-02-20

はじめに 視診と触診のみに基づいての乳癌の診断法では,腫瘤がある一定の大きさに達するまでは診断が不可能であり,より早期に診断する事が出来るような手段の現れない限り,もはや乳癌の根治成績の向上は期し難いとするLawson1)およびLe-wison2)の説は,極めて正鵠を得ているものと思われる.より早期の乳癌腫瘤が発見され,かつまた,乳腺症,線維腺腫をはじめ種々の良性疾患との鑑別も試験切除の結果を待つまでもなく可能にするような手段の開発が切に望まれるところである.さらに,その手段の実施に当つて普遍性がありMass Screeningに使用可能である事が最も望ましい.このような目的を追求するために,Thermo-graphyもMammography,超音波,同位元素による診断法等と共に登場して来た. Thermographyは生体表面から放散される赤外線をScanning mirrorを通し,増幅してフィルムに写しとる方法であり,皮膚温度の分布を白黒の濃淡度によつて表現するものである.従つて本法により乳癌を診断するためには,乳癌部皮膚温が非癌性腫瘤部および正常乳腺部のそれよりいつも上昇しているという前提が不可欠である.
著者
松岡 瑛 芝田 宏美 山下 勉
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.227-230, 1996-10-30

はじめに サーモグラフィ(熱画像)とは,生体面から放射される熱エネルギーを赤外線エネルギーとして感知測定し,得られる温度分布図を画像表示するもので1,2,3),画像表示された体表温分布図の差から,生体内の組織・代謝活性および循環動態などの変動を非侵襲的に検出する機能を有し,超音波・CTなどに代表される形態画像とは異なり,生理活性機能画像としての特徴を有する.生理活性機能は,安静時体表温のみならず,各種負荷試験(冷水・温水・運動・振動・薬剤)を行うことにより,生体の反応性を経時的に追跡し,潜在的な微細な変化をも捉えることが可能である.内在する因子の微細な変化4,5)は,特に四肢末梢で体表温の変動として容易に捉えられ,臨床上の応用が幅広く試みられているが,本文では主題に沿い,糖尿病を含めた動脈硬化性疾患による血管狭窄・塞栓などの末梢血流障害6,7)について記述する.
著者
浅井 仁 奈良 勲 立野 勝彦 山下 美津子
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.137-141, 1989-02-15

Ⅰ.初めに これまで,ヒトの立位姿勢保持能力の評価については,姿勢の評価,足圧中心動揺の測定による平衡機能の評価など諸家により数多くの報告がなされている.しかし,それらのほとんどは平衡機能において重要な前庭系,視覚系,体性感覚系を含めた中枢神経系の作用を中心に論じられたものである.また,ヒトが立位姿勢を保持する際に直接大地と接触するのは足部であるが,足底あるいは足指の機能と立位姿勢の関係については,藤原ら1~3)の報告があるのみで,リハビリテーション医学の分野においても,現状では,月村4,5)の報告以外はほとんど皆無である. 最近では足部の変形,特に女性における履物による外反母指などの足指の変形に対する関心6)も高まっており,足指が立位姿勢保持においてどのような働きをするかを,検索する必要性を感じた. そこでわれわれは,まず立位姿勢保持における足指の作用について,母指と他の足指との機能的役割の違いに着目した.その検索方法として,健常人を対象にし足指を免荷した場合の足圧中心動揺の測定を,今回は外乱刺激を与えずに月村4)によるクロステスト(後述)を応用して行ない,その結果若干の知見を得たので報告する.
著者
戎野 庄一 吉田 利彦 大川 順正
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.210-211, 1993-03-30

結石の再発予防療法の現況 尿路結石の治療において,外科的な治療は内視鏡手術の発展と体外衝撃波砕石術の開発と普及により,近年大きな変貌を遂げた。この革命的ともいえる変革は,結石患者に福音をもたらしたと言っても過言ではない。しかしながらその一方では,これらの治療法が極めて安易に施行され過ぎるために,結石発生の機序解明ならびに再発予防に対する地道な基礎的および臨床的な研究あるいは努力がなおざりにされつつある傾向も否定できない。 本稿の序論として尿路結石の治療の本質は,その発生機序の解明と再発予防療法にあるということを改めて強調しておきたい。
著者
西田 眞也
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.255-262, 2012-08-15

視覚研究の歴史は長い。しかし,質感の研究が盛り上がってきたのはごく最近のことである。単純化された刺激の知覚の分析を得意とする視覚科学にとって,質感は複雑すぎる現象だった。しかし,この複雑な現象に挑戦しなければ,現実世界における視覚は理解できない。近年,この問題に挑戦するための理論と研究手段も揃ってきた。本論ではこのような研究背景を述べたあと,視覚的質感知覚にかかわる人間研究を具体的に紹介する。質感を決定する基本的な物理特性は表面の光の反射特性である。照明や表面形状が反射特性の知覚にどのように影響するのかを中心に説明しながら,人間の視覚系がいかに質感の推定を行っているかを考察する。
著者
仲村 永徳
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.445-449, 1998-04-15

はじめに 精神科臨床で憑依現象を見ることは珍しくない。憑依状態の基礎疾患は,心因反応,祈?性精神病,非定型精神病,精神分裂病など心因性疾患から内因性精神病に至るまで精神障害のすべてにわたって広範囲に発生しうるが,その表現形態は文化によっても大きな影響を受け,日本各地で様々な憑依現象が報告されてきた。文化人類学から精神病理現象にわたる多面的な憑依現象を臨床事例を通して検討してみた。以下は多分に,私見を交えた沖縄からの報告である。
著者
苗村 育郎
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.413-421, 2014-05-15

はじめに 本稿のテーマは大学生と大学教職員のメンタルヘルス問題の展望ということである。しかし現状をふまえた詳細な将来展望を期待されているならば,これはなかなか難しい。その訳は第1に,大学の数はすでに800校近くもあり,学生数だけで310万人を超えている5)(高等教育全体の学生・教職員を合わせると関係者の数は400万人前後になるのではないか)。それぞれが設立母体や歴史や規模や性格を異にする複雑な対象である。第2に,教育改革・大学改革とならび憲法改正やグローバル化が叫ばれているわが国の現状では,大学の使命や将来像もその細部は刻々変わっていくだろう。この状況変化に適応できる学生と不適応を生じる学生の性格や特性も変化していくに違いない。第3に,メンタルヘルスは何よりもまず個人の心の問題であるが,個性や人格は百人百様であり,これを精緻に論じることはなお困難である(性格学や人格学が成立していない)8,9)。したがってこれらの問題を限られた原稿で十分論じるのは難しく,本稿もある程度おおざっぱで,筆者の主観でまとめた見解も多いことを,あらかじめお断りしておかねばならない。 第1の状況を補足すると,国公私立の諸大学のうち国立大学法人は85校前後であり,この部分に関しては,(国立大学法人)保健管理施設協議会で緊密な連携と情報交流があるし,休退学や自殺者の実数も把握されている3,4)。しかしさまざまな私学や公立大,さらに国立高等専門学校や各種の専門学校,また各種の予備校や資格取得のための教育期間(企業も含む)などについては,その細部を把握しきれない。引きこもりや不適応の学生を集めて支援教育活動を行っている各種施設などについても,筆者は断片的な情報しか持たない。大学という名称ではなくとも,これらも重要な高等教育機関であり,時代の中で若者達が示す同じような問題に直面していると推定される。若者のメンタルヘルスは,これらも含めて議論されるべきであるが,詳細はそれぞれの組織に身を置いて問題に取り組んでいる方から別の機会に述べていただくべきだろう。 本稿では,中規模の国立大学を中心とした視点から問題を取り上げており,私学の経営や旧帝国大学の国際戦略などに関わる観点は抜けていることもお断りしておく。以下ではまず,(1)大学メンタルヘルスの領域拡大について述べ,次に(2)この問題を担当する学内組織の要点を述べる。さらに(3)最近重視されているいくつかの各論を簡単に解説し,最後に(4)今後の大学教育とメンタルヘルス支援の課題について述べることにしたい。
著者
森田 正
出版者
医学書院
雑誌
助産婦雑誌 (ISSN:00471836)
巻号頁・発行日
vol.29, no.11, pp.582-585, 1975-11-25

1.はじめに 第1子が誕生して喜んだのもつかのま,2昼夜ほどして母乳分泌が始まると,乳管の流通障害のため,妻は激しいうつ乳に,子は補乳困難でともに泣いた。授乳しようとしても,吸乳器にかけても,楽になるどころかうつ乳がひどくなるばかり。子は空腹のためにミルクを与えない限り泣きやまない。それでも病院では乳房に対する処置を,何ひとつしてくれなかった。それに,病院には同じ苦しみにあっている人がたくさんいた。 以来わたしは,乳房マッサージの研究を続け,その成果の一部は,本誌の昭和41年11月号,42年11月号,44年の2月号と5月号などで報告してきた。現在も乳房マッサージの研究を続けているが,産婦と接しているといろいろなことに気づいたり,疑問にぶつかったりする。そして気づいたことの裏づけをとるため,また問題を解決するために,岐阜市内の高橋産婦人科医院院長高橋政郎医博のご指導とご協力のもとに,いろいろアンケート調査を試みた。以下その中から2,3を紹介してみたいと思う。
著者
石垣 琢麿
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.939-947, 2012-09-15

はじめに 認知行動的アプローチの発展により,特に英国において1980年代以降,統合失調症の症状に関する認知心理学的メカニズムの実証的解明と介入・援助法の開発が盛んになった1)。たとえば,妄想を抱きやすい患者に特有の認知バイアスは,自己奉仕バイアス(原因帰属のありかた),「結論への飛躍」バイアス,「心の理論」の欠如,否定的な自己イメージ,などだと考えられている2)。 ハンブルク大学のMoritz教授らは,こうした現状をふまえて,妄想の認知バイアスに対する新たな心理教育・介入法を開発し,メタ認知トレーニング(Metacognitive Training:MCT)と名付けた2)。筆者は原著者の許可を得てMCT日本語版を作成した(http://www.uke.de/mktから無料ダウンロード可能だが,最新の日本語版と日本語版マニュアルについては筆者までご連絡いただきたい)。本稿ではマニュアルに沿ってMCTを紹介する。
著者
湯澤 直美
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.496-501, 2016-07-15

先進諸国における「子どもの貧困」が社会問題化するなか,日本においても政府による対応が着手された.2013年6月には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号)が成立し,2014年1月に施行されている(以下,子どもの貧困対策推進法).これを受け,2014年8月には「子供の貧困対策に関する大綱」(以下,大綱)が閣議決定された.また,生活困窮者への対応として,2013年12月には「生活困窮者自立支援法」(平成25年法律第105号)が成立し,2014年4月に施行されている.本稿では,これらの法律・大綱の内容を解説するとともに,施策の動向や課題について概観する.
著者
佐藤 拓代
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.486-490, 2016-07-15

女性の貧困 貧困に関しては,OECD(経済協力開発機構)が用いている「等価可処分所得の中央値の半分の金額(貧困線)未満の所得しかない人口が全人口に占める比率」が「相対的貧困率」と定義されて,世界的に比較に用いられている.子どもの貧困率は,次世代を担う子どもの成育状況を改善する指標として重要であるが,女性の貧困率は注目されているとはいいがたい.特に子どもを養育する年代で世帯主が女性である場合の貧困は,子どもの養育に及ぼす影響が大きい.厚生労働省によれば,2012年の国民生活基礎調査での相対的貧困率は16.1%で,世帯主が30歳未満では27.8%と多く,さらに大人一人と子どもの世帯では54.6%と多くなっていた1).わが国のひとり親世帯では母子家庭が84.7%2)で,さまざまなレポートで報告されているように母子家庭の多くは貧困であり,これも女性の貧困である. 子どもの養育の有無に関係なく,年齢別にみた女性の相対的貧困率は,阿部(2014)3)が平成25年国民生活基礎調査を用いて分析している.15〜19歳で男性18.8%,女性18.5%,20〜24歳で男性21.8%,女性19.5%と,女性の貧困率は男性より低いが,35歳以上では女性の貧困率が高くなり,75〜79歳で25.4%と男性の16.2%の1.5倍であるという.高齢女性の貧困も大きな課題であるが,本稿では20歳未満(若年)の女性の貧困について考えてみたい.
著者
森 臨太郎 森 享子
出版者
医学書院
雑誌
助産雑誌 (ISSN:13478168)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.666-671, 2016-08-25

今回のテーマ インターネットには子育てに関する情報が氾濫している。そのなかで,駆け出しのお母さんがどの情報が適切なのか見極めることは,至難の業である。情報があるからこそ不安が募り,選択肢が多いからこそ迷いも増えてしまう。新しい命を迎え,母親として,家族として一歩を踏み出すこの時期は,親子関係を築くうえでもとても大切であるからこそ,何を基準に考えていけばよいのか,道しるべがほしい。今回は,赤ちゃんが生まれてからの親子関係や子育て支援に関して取り上げてみる。
著者
畑中 郁名子
出版者
医学書院
雑誌
助産雑誌 (ISSN:13478168)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.648-652, 2016-08-25

「妊娠したけれども育てられない」という女性の相談に乗り,どうしても育てる条件が整わない場合に,生まれた子の養育を「子どもを育てたいけれど授からない」カップルに委託する特別養子縁組。 産婦人科で,医師や助産師がどのようにかかわっているのかを取材しました。
著者
大澤 真平 松本 伊智朗
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.462-469, 2016-07-15

本稿では,子どもの相対的貧困率の概要,子どもの貧困に関するいくつかの構造的背景,そして貧困の世代的再生産について述べることで,わが国の子どもの貧困の現状についての基本的な理解を示したい. 貧困のなかに生まれ育つ子どもの存在は,当然,子育て家族の貧困と切り離すことはできない.子どもの貧困という特別な貧困があるわけではなく,子どもの貧困もまた広く貧困に対する対応のなかに位置づけて議論されなくてはならない.
著者
佐々木 りか子
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.158-160, 2009-04-10

要約 2007年7~9月に秋田県の某小学校において,水泳授業に際して30名の児童に耐水性サンスクリーン剤を使用させ,その後の水質調査を実施した.文部科学省のプール水質基準に規定されている測定項目に加えて,今回の試験ではプール水中の亜鉛濃度も測定を行った.亜鉛の水道水への排出基準は2007年12月に強化され,2mg/lと定められているが,それと照らし合わせても,プール授業時においては明らかに基準を下回っていた.そのほかの測定項目は遊離残留塩素の値を除き,プール授業期間中すべてにおいて基準値を逸脱することはなかった.
著者
石原 理
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.334-338, 2016-04-10

「家族」をどのように考えるか,さらに言うならば,どのように定義するかと誰かに尋ねることには,十分に気を付ける必要がある.そもそも,そのような質問を発すること自体が,問題だと思われる可能性がある.なぜなら,個人の信条や信念,また価値観の投射として,さらに個人のアイデンティティを構成する根幹として,その人が「家族」のことを考えている可能性があるからだ. しかし,どのような意図で「家族」の仮想的現実を個人が描いているとしても,現実の「家族のかたち」を見ずして,現代の「家族」を定式化,抽象化することは適切でないであろう.
著者
川島 敏生
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.283-288, 2001-04-15

目的 下肢スポーツ傷害の理学療法評価において,下肢のアライメントや筋力の測定は重要である.アライメントは静的アライメントと動的アライメントに分けられるが,スポーツ傷害の発生を考えた場合,荷重下での動的アライメントの異常が問題となる1).一方,下肢の運動様式はSteindler2)によりOpen Kinetic Chain(以下OKC)とClosed Kinetic Chain(以下CKC)に分類された.現在はOKCは非荷重での単関節の運動様式,CKCは荷重位での多関節の運動様式とされている3)が,スポーツ場面を考えた場合,CKCの筋力がOKCより重要となる4). しかし,臨床場面で静的アライメントの測定やOKCの筋力測定は行えるが,動的アライメントの定量化やCKCの筋力測定は難しい.そこで今回,動的アライメントの定量化を試み,静的アライメントと動的アライメントの間に相関関係が認められるか否かを検討した. また,CKCとOKCの筋力測定を行い,両者の間に相関関係が認められるか否かを検討した.これにより相関関係が認められれば,日常臨床で行われている静的アライメントやOKCの筋力測定から動的アライメントやCKC筋力を推測することが可能ではないかと考えた.更に,その発生において個体要因が指摘されている膝前十字靱帯(以下ACL)を損傷5-8)した者に対して同じ評価を行い,健常者と比較することでACL損傷発生における個体側の機能的・器質的要因を検討した.
著者
斎藤 昭 菊地 臣一 矢吹 省司 武田 浩一郎
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.231-236, 2002-03-25

抄録: 変形性股関節症が仙腸関節に与える影響を明らかにすることを目的とした.対象は変形性股関節症の男性7例,女性130例の合計137例である.変形性股関節症の罹患側は,右側が46例,左側が50例,そして両側が41例であった.これらの症例に対し,仙腸関節痛,変形性股関節症の罹病期間,肥満度,出産回数,そして股関節可動域を調査した.さらに,単純X線像から仙腸関節部の骨硬化像,脚長差,および骨盤輪不安定性の有無を検討した.その結果,仙腸関節痛を認めた症例は27例(19.7%)であった.仙腸関節痛は,比較的若年者や骨盤輪不安定性を有する症例に出現しやすい.仙腸関節部の骨硬化像は78例(56.9%)に認めた.この所見は比較的若年者や変形性股関節症の罹病期間が長い症例に認めやすい.また,脚長差が大きい症例や下肢長の長い側に骨硬化像が出現しやすい.しかし,仙腸関節部の骨硬化像の存在が疼痛を直接反映するとはいえない.
著者
田中 尚喜
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.540-543, 2015-06-25

はじめに 履き物としての靴は,人間の歩くなどの活動を支持すること,足部や身体を保護することが最重要の事項と考えられるが,古代エジプトでは神官などの身分を示すものとして使用された.当然,機能的ではない華美な装飾も用いられた.したがって,歴史的な流れの中で,機能的な靴とファッショナブルな靴など,アンビバレントな状況で進化してきた.また,モータリゼーションの影響もあり,本邦のみならず世界的に歩行距離が減少してきている.本来,ファッショナブルな靴も履く側の足に合わせて使用されるものであったが,昨今の靴の選択要素として,短期間の履き心地が重要となっている.オーダーメイドの革靴では使用するまでには1カ月は必要とするのだが,非日常的な遠足や運動会などの直前に既製品を選ぶ際に,履き心地を重視するあまり,「芯のない靴」,言い換えるとソックスを履くのと変わらない靴を購入する方が増えている.確かそれらの行事のお知らせには,靴に対しては「履き慣れた」という言葉が付いていたと記憶している.科学技術の進歩と逆行して,足部は間違いなく退化の一途となっている. そこで,靴と履く側の人間の変化を考慮したうえで,現在の足部障害について検証してみる.