著者
設楽 博己
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.185, pp.449-469, 2014-02-28

弥生時代の定義に関しては,水田稲作など本格的な農耕のはじまった時代とする経済的側面を重視する立場と,イデオロギーの質的転換などの社会的側面を重視する立場がある。時代区分の指標は時代性を反映していると同時に単純でわかりやすいことが求められるから,弥生文化の指標として,水田稲作という同じ現象に「目的」や「目指すもの」の違いという思惟的な分野での価値判断を要求する後者の立場は,客観的でだれにでもわかる基準とはいいがたい。本稿は前者の立場に立ち,その場合に問題とされてきた「本格的な」という判断の基準を,縄文農耕との違いである「農耕文化複合」の形成に求める。これまでの東日本の弥生文化研究の歴史に,近年のレプリカ法による初期農耕の様態解明の研究成果を踏まえたうえで,東日本の初期弥生文化を農耕文化複合ととらえ,関東地方の中期中葉以前あるいは東北地方北部などの農耕文化を弥生文化と認めない後者の立場との異同を論じる。弥生文化は,大陸で長い期間をかけて形成された多様な農耕の形態を受容して,土地条件などの自然環境や集団編成の違いに応じて地域ごとに多様に展開した農耕文化複合ととらえたうえで,真の農耕社会や政治的社会の形成はその後半期に,限られた地域で進行したものとみなした。
著者
鈴木 宏哉 山口 利恵
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1501-1512, 2017-09-15

近年,スマートフォンに代表されるモバイル端末の普及により,利用者は場所を問わず,常時様々なサービスを享受することができるようになっている.一方で,モバイル端末と利用者行動との密接な結び付きから,プライバシ問題に注目が集まっている.特に,通信に端末固有のMACアドレスが含まれるWi-Fi無線通信は,利用者の追跡や位置情報の暴露といったプライバシ上の危険性を有している.本稿では,モバイル端末が収集した周辺のアクセスポイントのMACアドレス情報に着目し,アクセスポイント機器のベンダー構成比から,位置情報データベースなしでも居場所推定に有用な情報が得られることを示した.本稿では,16名の被験者から30日分ずつ収集した周辺アクセスポイントのMACアドレスデータを用い,在宅中や就業,就学中の時間帯におけるベンダー構成に有意に異なる相関比が得られることを実験により確認した.
著者
角田博保
雑誌
研究報告コンピュータと教育(CE)
巻号頁・発行日
vol.2011-CE-111, no.8, pp.1-4, 2011-10-07

コンピュータと教育研究会は 2006 年より情報教育に関する特集号の編集をはじめ、本年の 12 月号で 5 回の特集号を出版することになる。優れた論文を多数世に送り出して来たが、投稿数、採録数の伸び悩みという状況もある。今回出版される特集号を元に、現状と問題点を示し、次回特集号を念頭におき、論文作成をどうすれば良いかを議論する。
著者
多田 昂介 川原 尚人 吉見 真聡 策力木格 吉永 努 Kousuke Tada Naoto Kawahara Masato Yoshimi Celimuge Wu Tsutomu Yoshinaga
出版者
電子情報通信学会
雑誌
信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.116, no.416, pp.37-42, 2017-01

本研究報告では,ストリームデータの結合処理を行うHandshake Join のFPGA アクセラレータをマルチノードに拡張する手法を提案し,その性能評価を報告する.マルチノード拡張は,データ通信の2 つの工夫によって実現する.FPGA 上に複数のJoin Core を実装すると共に,FPGA ボード上のDRAM を介してFPGA 間でJoin Coreを接続する仕組みを導入する.また,データ通信と結合演算をオーバラップすることで,通信に要するオーバヘッドを隠蔽する.これらのデータ配布方法の工夫により,単一のFPGA では実装できなかった大きなウインドウサイズの結合演算が可能となる.最大16 ノードでの性能評価の結果,マルチノードに拡張した場合においても,結合演算のスループットが維持されるとともに,並列化効果が得られることが確認された.
著者
長谷川 かおり
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
人文・社会科学論集 = Toyo Eiwa journal of the humanities and social sciences (ISSN:09157794)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.69-88, 2017-03

We consider the various causes for the resignation of female employees from the labor markets in Japan. We estimate employment probabilities in two female groups: university graduates and the under-senior high school graduates in all age groups. The results show that two factors are important in both groups, the number of young children and age. For women in their thirties and forties, the probability of employment is considerably higher in the under-senior graduates group than among university graduates.To determine an explanation for this, we compare the productivities of household production and market wage rate of females. By estimating the parametersof the production function where the inputs consist of family time and market goods, we suggest new microeconomic estimates of productivity in household production. The result shows that productivity in household production is higher among nonregular employees than regular employees.

1 0 0 0 OA 河野正輝 略歴

著者
小泉 尚樹
雑誌
社会関係研究 = The Study of Social Relations (ISSN:13410237)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, 2012-12-25
著者
喜始 照宣
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.285-296, 2016-03

本稿の目的は,2013 年に美術系大学4 校の学生を対象に実施された質問紙調査をもとに,大学入学以前での予備校・画塾経験の差異が,学生の大学生活に与える影響について検討することである。具体的には,つぎの分析課題を設定し,検証する。 分析課題1:予備校・画塾経験は,大学生活での諸活動への熱心さを高めるのか 分析課題2:予備校・画塾経験は,大学生活での悩みや消極性を低減するのか分析の結果,クロス集計レベルでは,予備校・画塾経験者のほうが,大学生活における,制作活動での熱心さが高い一方で,制作・研究面で悩みを抱く傾向があることが確認される。しかし,多変量解析によって,他の変数の効果を統制した上では,予備校・画塾経験は,1)制作活動での熱心さを高める効果を持たないが,2)制作・研究での悩みをもたらす効果を持つことが示される。よって,予備校・画塾での経験が,その後の学生の生活に及ぼす影響範囲は限定的であり,それは必ずしも正に働かないことが明らかとなる。
著者
福富 昌城 Masaki FUKUTOMI 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
巻号頁・発行日
vol.17, pp.51-57,

ケアは、ケアする人にさまざまな負担をもたらすが、その反面肯定的な側面をももたらす。このケアの肯定的側面は、ケアする人に癒しや人間的成長をもたらす。ケアにおける癒しは援助者や家族との関係性の中で得られるものと考えられる。ケアする専門職が利用者との関係の中から得ている癒しは「自己の承認」「専門性の承認」「人と関わる楽しさ」などである。また、ケアする専門職がケアの成果を得たとき、そこから満足感をえることができる。ケアする人は、ケアの肯定的側面を体験することで、より懸命に利用者に関わっていく。しかし、家族がケアする場合には、ケアの肯定的側面を得られるためには、負担を軽減し、先の通しがもてるように支援することが必要になる。
著者
阪田 真己子 倉坂 幸佳
雑誌
じんもんこん2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.8, pp.269-274, 2011-12-03

雅楽をはじめとする日本の伝統芸能では「間」をうまくとることが求められる.しかし,「間」は日本の伝統芸能や日常行動を特徴づける重要な存在でありながらも,その実態は捉え難いものである.そこで,本研究では,日本の伝統芸能の中で最古に成立したとされる雅楽の舞における「間」のとり方を,舞人と龍笛奏者の関係性から実証的に検討することを目的とする.
著者
鈴村 源太郎 Suzumura Gentaro 東京農業大学国際食料情報学部国際バイオビジネス学科 Department of International Biobusiness Studies Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.103-115,

日本の水田農業では,担い手の高齢化や個別経営の小規模性,コスト低減の要請などから,効率的な生産体制を望む声が高かった。そうしたなか,機械の共同利用を進めることで投資を抑制しながら,共同作業で地域の稲作の効率化を図ろうとする集落営農を推進する動きが近年活発化している。特に,2004年から実施された一連の米政策改革と,2007年から実施された水田・畑作経営所得安定対策による政策誘導により多くの集落営農が新設・再編されたことはよく知られている。ただ,2006年から2008年にかけて,これら政策インパクトによって急増した集落営農は,その多くが政策要件に合致させるための急ごしらえの組織(一部では組織の会計をプール計算せずに費用・販売収入などを組織内で農家ごとに個別計算していたことから「枝番(えだばん)組織」とも言われている)であったとされる。本論では,こうした集落営農急増期に焦点を当て,集落営農実態調査の個票の組み替え集計を行い,従前から存在する集落営農と,急増期に新設・再編された集落営農の構造論的な性格の違いを明らかにした。特に,本論では集落営農が従前から多かった北陸・山陰などの地域と同時期に新設・再編が急速に進んだ東北,関東・東山,九州における地域的構造差を踏まえながら,集落営農内における認定農業者の取り込み人数の違いや参加農家率と主たる従事者のいる割合などに焦点を当て,新設・再編組織における「集落ぐるみ性」の低さ,すなわち個別経営の寄せ集めとしての性格の強さを明らかにした。また,新設・再編組織の農地集積率に関する地域性,すなわち九州,東北,関東・東山などで,新規・再編組織の方が集積率が高いなどの地域が存在することなどについても統計的観点から確認をおこなった。なお本論は,同時期に急増した新設・再編集落営農組織の維持・発展に向けた支援策検討の基礎資料とならんことを目的としている。
著者
志保田 務 山田 忠彦 Tsutomu SHIHOTA Tadahiko YAMADA
雑誌
桃山学院大学総合研究所紀要 = ST.ANDREW'S UNIVERSITY BULLETIN OF THE RESEARCH INSTITUTE (ISSN:1346048X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.223-264, 2002-03-01

Ryunosuke Akutagawa (1892-1927), one of the major novelists in modern Japan, is also famous as an adapter who learned from other writers in Japan and abroad. His works are considered bookish. Therefore, we assumed that he read many writers' works in his day, and we tried to prove the causality and we attempted to show how these works affected his own writing. In this work we would show some materials of the above facts consisting on the records of "A bibliography of writers who were read by Ryunosuke Akutagawa, based on Akutagawa Ryunosuke Zenshu, published by Iwanami Shoten, Tokyo, 1977-1978, 12 volumes". At next time we will analyze the materials above mentioned. By the way, the bibliography was issued in the March 1996 edition of this journal, vol.21, no.3. Each entry in this index has three items: the writer's name, the title of the work, and the date when Ryunosuke Akutagawa would have read the work. Entries are ordered according to the writer's name in the Japanese syllabary because this index deals with Japanese, Chinese and Korean writers only.
著者
井上 加寿子
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.8, pp.47-57, 2015-03-31

The purpose of this paper is to describe the common errors of the Japanese learners of English in their essay writings and to consider the background of those errors from a cognitive linguistic perspective. In this paper, we take typical errors of a possessive verb ‘have’ in English for example, and argue that those errors may be caused by the lack of the learners’ knowledge that the cognitive process of English is quite different from that of Japanese. In conclusion, we suggest that the cognitive linguistic approach can give the positive contribution to the teaching and learning English as a foreign language.
著者
中島 聡子 中井 豊 古宮 誠一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.147-156, 2005-01-15

近年,市民活動が活発化してきている.市民活動とは自発的で営利を目的にしない市民による活動を指し,ボランティア活動をはじめ,NPO,NGO,自治会など幅広い活動が含まれる.活動の一般的な定義に「継続性」が含まれるが,法や制度に規定されない自由な活動を継続させる要因については十分な検討がなされていない.そこで本論文では,市民活動に関する質的調査の結果を基にエージェントベースシミュレーションを実施し,活動の継続要因に関する考察を行った.その結果,(1) 活動参加者の行動が内集団びいきである,(2) 活動参加者が活動者仲間から内的報酬を得る,という2 要因が,活動の継続に影響を及ぼす可能性が示唆されたと述べている.