著者
得丸 公明
雑誌
研究報告自然言語処理(NL)
巻号頁・発行日
vol.2014-NL-219, no.23, pp.1-19, 2014-12-09

ヒトは母語の会話を聞き取るときは,モノラル (片耳) で聞いている.すなわち最初に音が入った側の耳だけで聞き,もう片方の耳からの音は聞いていない.これは脳幹聴覚神経核が両耳聴覚にもとづいておこなっている方向定位能力を文法処理にあてているからではないか.文法 (定義:主として単音節の付加・変化によって,意味の修飾・接続を指示し,習得すると無意識に使いこなせる論理スイッチ) をもたないピダハンは,大人になっても子供の二語文・三語文の文型しか使わない.これはアマゾンのジャングルで突如襲い掛かってくる敵に対応するために,大人になっても両耳聴覚を音源の方向定位や速度判定に使い続ける必要があり,文法の二元統合処理ができなくなったのではないか.本稿は,この仮説を検討するために,聴覚神経生理学,神経組織学,免疫ネットワ-ク理論,南アフリカの中期旧石器時代考古学,音韻論,エントロピ-を熱力学的概念として誤り訂正をおこなった情報理論,言語命題のみならず電子計算機やタンパク質産生メカニズムも対象とする一般論理学,フィ-ルド言語学などの学際研究を統合するものである.学際的に確立した複数個の公理が,系 (システム) を形成することによって,片耳聴覚と文法処理の直接的な関係が浮き彫りになることを期待する.
著者
田代 慶一郎
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.227-259, 2006-03-31

『弱法師』は能の五流で現行の曲であって上演も稀ではなく、演者に人を得れば、素晴らしい舞台として輝くこともある。『弱法師』は世阿弥の伝書『五音』によって観世元雅の作であることが知られている。
著者
山本 欣司 Kinji Yamamoto
雑誌
学校教育センター年報 (ISSN:2432258X)
巻号頁・発行日
no.3, pp.39-47, 2018-02-23

別役実の短編小説「愛のサーカス」は、かつて中学校1 年生向け国語教科書に掲載されていた、ユニークな内容の教材である(『新しい国語1』、『新編新しい国語1』東京書籍、平成二年度~十二年度)。十年以上のブランクを経て、平成二十六年度より高等学校向けの国語教科書に掲載されることとなった(『探求現代文B』桐原書店、高校3 年生配当)。なぜこのように配当学年が大きく変わったのか。それは「細部の発見」によって、小説の解釈が大きく変化したためだというのが本稿の主張である。これまで見すごされてきた「細部」(根拠)に着目することで、中心人物の一人である少年の人物像の理解が深まると同時に、それと連動する形で変化したラストシーンの論理的な説明が複雑であるため、配当学年が大きく変化したのではないかと主張した。
著者
山口 隆介
出版者
聖泉大学紀要委員会
雑誌
聖泉論叢 (ISSN:13434365)
巻号頁・発行日
no.27, pp.105-122, 2020

本稿は,『 プラウン神父』シリーズに見出されるG. K.チェスタトン 1874·1936) の思想を読み解く試みであるが, 特にキリスト教哲学と言いうるものを馴袂することに目標を定める。『プラウン神父』シリーズを貰くキリスト教思想に言及した解説は多い。しかし, 本シリーズを信仰生活への入門魯あるいは信仰生活の知的な刷新に役立ちうる信仰の手引詑というところまで思い入れて読解した論述は, 管見の限り, 日本語では見かけないように思う。本稿は, そのような諒解の一試行であり,『 プラウン神父』ものの社会における機能を拡充することが本研究の目指すところである。チェスタトンは翻訳家泣かせの作家で知られており,『プラウン神父』短編集のタイトルも例外ではない。特に第 1 短編集 The Innocence of Father Brown は出版社ごとにタイトルが変わってしまうほど, 翻訳が安定しない。本稿では, 短編集のもっとも普及している完訳版である創元推理文庫版に準拠した訳を用いることとした。各作品タイトルも同じくそれに準じるが, 初出に限り原題も併載した。作品本文の訳は主に創元推理文庫版を参照しつつ筆者が新たに訳出した 。
著者
ウリジバヤル
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.57, pp.69-80, 2021-01

満洲国新京にあったフフ・トグ(青旗)社は、1943年1月、『フフ・トグ(köke tuγ)』の姉妹雑誌として、モンゴル語の文芸雑誌である『イフ・フフ・トグ(yeke köke tuγ)』誌を創刊した。『イフ・フフ・トグ』誌は隔月号であり、終戦になる8月まで同じく隔月刊で計算していけば第三巻第四号まで発行したことになる。つまり戦時状況に左右されなかったと考えれば通号16期までの発行は可能であった。二木博史(1998)によれば、東京外国語大学モンゴル研究室に第1号から第5号、第7号、第10号の計7冊が所蔵されている。筆者は上記のほかに第6号、第11号、第12号、第13号を新たに発見した。現在東京都立大学(首都大学東京)図書館に所蔵されている。それからフフバートル(2019)によればケンブリッジ大学に第8号と内田孝(2017)によれば滋賀県立大学に第9号が所蔵されている。本稿は『イフ・フフ・トグ』誌の第1号と第2号の目次とその内容を要約したものである。この雑誌に翻訳、写真、地図、習字などのデータが多く掲載されている。それから現在ではほとんど使わなくなった文字や語彙などもある。これらのことを考慮し本稿では原文を写したものをそのまま付けておくことにした。
著者
田中 哲朗
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.3470-3476, 2007-11-15

「シンペイ(SIMPEI)」は高橋晋平氏が考案し株式会社バンダイが2005 年7 月に発売したボードゲームである.縦横斜めに駒を並べることを目標とする点は,n 目並べの多くのバリエーションと共通しているが,盤面を「上の世界」と「下の世界」の二つに分けている点や,挟んだ駒を自由に移動できる点に特徴があり,高いゲーム性を有している.この点が評価されて,2006 年のGPCC(Games and Puzzles Competitions on Computers)の課題問題に選ばれた.「シンペイ」は二人完全情報零和ゲームなので,すべての局面の理論値(勝ち,負け,引き分けのいずれか)を決定することが可能である.本論文では,後退解析(Retrograde analysis)をベースにしたプログラムを用いてすべての局面の理論値を求めた.そして,「シンペイ」の公式ルールの初期配置が後手必勝であること,1手目を自由に置くことが許されれば先手必勝であることを確かめた.また,勝ちに要する最長手数が49 手であること,「シンペイ」のゲームにツークツワンク(ZugZwang)が存在することや,単純なサイクルが存在し,その周期は1,3,4 の3 通りしかないことなど,いくつかの興味深い性質を求めることができた.
著者
大澤 津
出版者
北九州市立大学法学会
雑誌
北九州市立大学法政論集 (ISSN:13472631)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3・4合併号, pp.1-26, 2020-03

本稿は、アラン・トマスの財産所有デモクラシーの構想における職場民主主義の位置づけを検討する。トマスは、市場の効率性を理由に企業規制を忌避するから、政府の介入で職場民主主義を導入することに否定的である。これに対し本稿は、職場民主主義は人々の政治的主体性の確立に重要との観点から、組織のあり方をより民主主義的なものにするため企業を規制すべきだとし、その根拠に政策レベルでの卓越主義を導入することを論じる。