- 著者
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得丸 公明
- 雑誌
- 研究報告自然言語処理(NL)
- 巻号頁・発行日
- vol.2014-NL-219, no.23, pp.1-19, 2014-12-09
ヒトは母語の会話を聞き取るときは,モノラル (片耳) で聞いている.すなわち最初に音が入った側の耳だけで聞き,もう片方の耳からの音は聞いていない.これは脳幹聴覚神経核が両耳聴覚にもとづいておこなっている方向定位能力を文法処理にあてているからではないか.文法 (定義:主として単音節の付加・変化によって,意味の修飾・接続を指示し,習得すると無意識に使いこなせる論理スイッチ) をもたないピダハンは,大人になっても子供の二語文・三語文の文型しか使わない.これはアマゾンのジャングルで突如襲い掛かってくる敵に対応するために,大人になっても両耳聴覚を音源の方向定位や速度判定に使い続ける必要があり,文法の二元統合処理ができなくなったのではないか.本稿は,この仮説を検討するために,聴覚神経生理学,神経組織学,免疫ネットワ-ク理論,南アフリカの中期旧石器時代考古学,音韻論,エントロピ-を熱力学的概念として誤り訂正をおこなった情報理論,言語命題のみならず電子計算機やタンパク質産生メカニズムも対象とする一般論理学,フィ-ルド言語学などの学際研究を統合するものである.学際的に確立した複数個の公理が,系 (システム) を形成することによって,片耳聴覚と文法処理の直接的な関係が浮き彫りになることを期待する.