著者
矢野 貴久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.4, pp.172-177, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

薬剤性腎障害は,診断もしくは治療のために使用した医薬品による有害事象であり,実臨床における重要な課題の一つとされている.しかしながら多くの薬剤では腎障害の発現機序が不明であり,有効な対策法の確立には未だに至っていない.そこで著者らは,培養腎細胞や実験動物を用いて薬剤性腎障害評価モデルを作製し,各薬剤により生じる腎障害の細胞内分子機構の解明を行った.その結果,造影剤や抗MRSA薬バンコマイシンは腎尿細管細胞にアポトーシスを引き起こし,その発現はいずれもミトコンドリア機能障害に起因したカスパーゼ9およびカスパーゼ3活性化に基づくものであったが,その一方で詳細な細胞死分子機構は異なっていることが明らかとなった.造影剤は,スフィンゴ脂質であるセラミドのde novo合成を活性化し,Aktリン酸化ならびにCREBリン酸化の抑制に基づくBax/Bcl-2の発現変化によってミトコンドリア機能障害やアポトーシスを惹起するが,バンコマイシンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性化を抑制し,スーパーオキシドを産生することでアポトーシスシグナルを誘導することを見出だした.一方,抗真菌薬アムホテリシンBは腎細胞にミトコンドリア機能障害に基づくネクローシスを引き起こしたが,その発現分子機構は主作用に類似したものであり,アムホテリシンBが腎細胞膜のコレステロールに結合して小孔を形成し,細胞内へのNa+流入を惹起すると共に小胞体やミトコンドリア由来のCa2+上昇を引き起こして細胞死に至ることが明らかになった.さらに,ミトコンドリア分子機構に基づく腎保護薬の研究を進めた結果,プロスタサイクリン誘導体ベラプロストが腎細胞内のcAMPレベルを上昇させ,造影剤腎障害に対して顕著な保護効果を示すことを見出だした.本研究により明らかとなった知見が,薬剤性腎障害の対策法の確立において一助となることを期待する.
著者
宮城 舜 鷲塚 愛 田井村 明博
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.77-82, 2014

This study examined the effect of listening to heart sound after stress on recovery period. Six healthy male university students gave their consent to participate in the measurement. The measurement consisted of three different sessions: (1) 5-min quiet baseline period, (2) 15-min stress period by mental arithmetic task, (3) 10-min stress period during exposure to heart sound or white noise. There was no statistical difference in any measured parameters between heart sound and white noise during recovery period. However heart sound tended to be more positive than white noise for recovery after stress. The order effect was observed only in the skin temperature during stress period.
著者
大橋 淳史
出版者
Japan Society for Science Education
雑誌
科学教育研究 (ISSN:03864553)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-18, 2015

An experiment using a plant of purple sprout and soil of 'mebae gel' were developed in order to obtain interdisciplinary teaching materials straddling biological and chemical studies. The improved cultivation method using the gel made it possible to observe the growth of the roots easily and obtain anthocyanin from the plant effectively. Moreover, the hardness of water can be analyzed quantitatively using a solution of anthocyanin. The experiments were undertaken in a junior high school and confirmed that these teaching materials are effective.
著者
本田 主税 溝手 紳太郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.1, pp.23-28, 2017 (Released:2017-07-07)
参考文献数
20

薬学・生命科学の進歩に伴い,創薬研究者に求められる統計学の素養も日増しに高まっている.創薬に関わる,あるいはこれから関わろうとしている研究者に対して,創薬研究を円滑に進めるための統計教育が必要である.筆者は,創薬研究者の統計的思考力を高めることにより,研究目的に沿った合理的な実験計画の立案力がつくだけでなく,創薬イノベーションや研究競争力強化の一助になると考えている.本稿では,筆者の所属する企業における非臨床分野の統計教育事例を紹介する.そのなかで,創薬ターゲット選定,リード物質探索などの創薬の初発研究から非臨床試験,品質試験など,いわゆる非臨床分野に携わる統計家と創薬研究者のかかわりや,創薬研究者が抱えている統計学での悩み,統計的思考力を高める人財育成の展望についても論じる.
著者
小山亮太郎 石原翼 岩崎彩
出版者
サイエンスキャッスル
雑誌
サイエンスキャッスル2015
巻号頁・発行日
2015-12-04

植物の生育には水・酸素・温度や光が必要だが、そのほかにも音が生育に影響を与えるという話を聞く。音の何が生育に影響を与えているのかを調べてみたところ、音由来の空気の振動により細胞が刺激され、結果、生育が向上するらしいことが分かった。そこで音の周波数=空気の振動数が、植物の生育にどのような影響を与えるのかを調べてみた。実験には大豆を用い、水につけた後、種々の周波数の音を聞かせるもの、聞かせないものに分け4日間育て、このときの発芽率や芽の成長度を計測した。複数回の実験を重ねることにより、小さいながらも差異を見いだすことができた。
著者
杉本 直樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.232-236, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

従来の手法では,有機化合物の絶対純度を簡単に測定することが困難であった.定量核磁気共鳴法(定量NMR: quantitative NMR(qNMR))は計量学的に信頼性の高い定量値または純度値を求めることができる強力なツールとして注目を集め始めている.1H-NMRは,特に有機化合物の構造決定のための代表的な定性分析法の1つであり,これは官能基上の水素の数と信号強度が比例することを利用しているが,1H-NMRスペクトル上に観察される水素の数を示す信号強度は10%を超えるばらつきがあり,有機化合物の精密な定量分析には不向きであるとされていた.しかし,近年,定性的なNMR測定条件を全面的に定量用に最適化することで,1H-NMRスペクトル上の化合物の水素の信号強度は結合状態に依存せず分子構造が異なっても等モル量であれば等しく観察されることが見出された.この定量的なNMR現象を利用することによって,qNMRは他の定量分析法に匹敵する不確かさ約1%以内の定量精度を実現した.さらに,これまでの定量分析技術の常識を覆し,たった1つの純度既知の基準物質を上位標準とするだけで無限の有機化合物の絶対量や絶対純度が国際単位系(SI)にトレーサブルに求められるようになった.今後,qNMRは多分野の研究に関連する有機化合物の絶対純度決定法として応用がはじまり,得られた分析値や評価値の信頼性を間接的に裏付けるための必須の分析技術となると考えられる.本稿では,有機化合物の純度に関するSIトレーサビリティの重要性,qNMRの原理,市販標準品や試薬の絶対純度測定への応用例などを紹介する.
著者
長野 嘉介
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.87-90, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
8

呼吸器は,空気から酸素を取り入れ血液から二酸化炭素を放出するガス交換を行うための器官である.空気中に存在す化学物質は呼吸を通して体内に入るため,呼吸器はこれらの化学物質に最初に接触しその影響を最も受けやすい器官である.このため,大気汚染物質による健康障害では呼吸器が標的器官となることが多い.医薬品の分野では,吸入以外の経路でも抗癌剤等による薬剤性肺障害の報告があり,本誌でも詳しい総説がある(1).また,近年は経鼻投与など経気道的に投与する薬剤の実用化が進んでおり,医薬品の開発に際して鼻腔などの気道を含む呼吸器への直接的な接触による副作用が課題になってきている.本稿では,鼻腔等の気道を中心として,呼吸器の構造と機能,呼吸器毒性の検査法,薬剤等による呼吸器毒性について概説する.
著者
長村 文孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.211-215, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
7

自社内のみで開発から市販までを完結するクローズドイノベーションは,特に創薬に関しては世界的に行き詰まりをみせ,外部機関と広く連携を行うオープンイノベーションが推進されている.一方,アカデミアの基礎研究力を活かした新規治療法の開発が着目され,政府の支援も拡大している.アカデミアも従来の自機関内での開発では非効率的であるだけではなく,必要なインフラの整備あるいは開発に必要な専門家の確保等の問題により,広く連携を行うことが不可欠となってきている.アカデミア間の連携促進のために国からの競争的資金も導入されるようになり,また,他施設との共同利用型の設備あるいは体制整備も進んでいる.本章では,このようなアカデミアでの連携,すなわち,オープンイノベーションの推進の現状,そしてそれと密接に関連したアカデミアでのシーズ開発についてまとめる.
著者
川西 徹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.5, pp.272-277, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
18

健康長寿社会の実現および21世紀の産業基盤の構築という両面から医薬品・医療機器・再生医療等製品等の医療製品開発および産業の振興が国家戦略としてあげられ,健康・医療戦略としてその研究開発および実用化を促進するための法律(健康・医療戦略推進法)の制定,研究開発予算を一元的に管理する日本医療研究開発機構(AMED)の設立等,矢継ぎ早の政策が実行されている.この中で注目すべき点の一つは,レギュラトリーサイエンス(RS)の振興・推進が強調されていることである.我が国においては,新しいタイプの先端的医薬品を世界に先駆けて承認した例は少なく,日本発の先端的医薬品を開発するという国の施策を成功させるためには,まずは日本での開発が円滑に進むことを可能にする環境の整備の一つとして,開発対象となると思われる医薬品の承認申請・審査に必要な規制要件をまとめた文書の整備,およびその作成を支える標準的な製品評価法の開発が重要である.現在AMED等からの研究支援をうけ,産学官を交えてこのようなRS研究が加速されており,あわせて我が国では人材が十分でないこの分野の人材育成の試みが実行されている.このような戦略を通じて,一つでも多くの先端的医薬品開発が世界に先駆けて我が国で迅速かつ安全に実現することが期待される.

1 0 0 0 OA 明和撰要集

出版者
巻号頁・発行日
vol.[44] 二十一下ノ一 大川橋之部 下,
著者
藤原 雄介 山本 弘史 福島 千鶴 小守 壽文 田中 義正
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.6, pp.327-331, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
1
被引用文献数
1

アカデミア創薬の環境はこの10年で大きく変わった.それでもアカデミアの創薬は大きな困難を伴う.最大の問題点は,製薬企業が評価を行うことができるまで創薬開発を進めていくことは,ひとつの研究室だけでは非常にハードルが高いことである.創薬のターゲット候補の発見,スクリーニングによる候補化合物の同定,最終的な薬物候補への最適化,臨床研究という創薬に必要な多くの過程をひとつの研究室で行うことは不可能に近い.もしもひとつの創薬シーズにおいて,多くの専門家,研究室が参加することができれば,アカデミアの創薬開発は大きく進むだろう.こういった状況の中で,長崎大学が創薬に対してどのようにオープン・イノベーションに取り組んでいくかを紹介する.
著者
奥田 若菜
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第46回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.108, 2012 (Released:2012-03-28)

本発表ではブラジル路上商人の二つの規範を考察する。「正しさの規範」と「善さの規範」の二つの領域は、矛盾することなく彼らの生活の中にある。二つの領域は使うべき場面が決められている。市場交換の場面で贈与交換を執拗に求めてはいけないし、贈与交換の場面で等価交換を頑なに主張することは批判を呼ぶ。「ねだり」「邪視」「物乞い」を事例に、二つの規範がぶつかり合う場面で生じる困惑を考察する。
著者
堀井 郁夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.217-221, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

創薬初期段階からその薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は有用な医薬品を効率的に創生するのに重要である.医薬品開発候補化合物の選択には,多面的な科学領域からの総合的な評価が望まれ,薬理学的・生化学的・生理学的,毒性学的・病理学的,薬物動態学的,化学的,物性的性状などを考慮しながら総合的に評価する実践的挑戦がなされてきている.創薬における探索段階の初期から開発候補化合物選定までの評価試験導入手法のパラダイムシフトの必要性とその実践が今後の創薬の重要挑戦事項である.多面的科学領域からの総合的評価により,(1)薬理作用と毒作用のバランス(薬物動態評価を含めて)からの薬効・安全性評価,(2)物性評価からの開発性の評価(臨床の場での製剤的適応性),(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ),(4)候補化合物選定のためのランキング設定,(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.
著者
西垣 貴央 新田 克己 小野田 崇
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.D-FB1_1-13, 2016-07-01 (Released:2016-08-03)
参考文献数
32

In this paper, we propose a constrained independent topic analysis in text mining. Independent topic analysis is a method for extracting mutually independent topics from the text data by using the independent component analysis. In the independent topic analysis, it is possible to obtain the most independent topics. However, these obtained topics may differ from the ones wanted by user. For example, it is assumed resultant three topics, topic A and topic B and topic C. If a content of topic A and topic B is thought to be close, user wants to merge the topic A and topic B as one of the topic D. In addition, when user wants to analyze topic A in more detail, user would like to separate topic A to topic E and topic F. In that case, method which can incorporate these requests of the user is required. To that end, we define the Merge Link constraints and Separate Link constraints. Merge Link constraints is a constraint that merges two topics in a single topic. Separate Link constraint is a constraint that separates one of the topics in the two topics. In this paper, we propose a method of obtaining a highly independent topic that meet these constraints. We conducted evaluation experiments on proposed methods, and obtained results to show the effectiveness of our approach.