著者
河合 輝久
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.376-394, 2016
被引用文献数
5

本研究の目的は, 大学在学時に抑うつ症状を呈し始めた友人が身近にいた大学生の視点から, 大学生の抑うつ症状に対する初期対応の意思決定過程と実際の初期対応を明らかにすることである。大学生12名を対象に, 身近な友人が抑うつ症状を呈し始めた時の初期対応について半構造化面接を行った。得られた結果について, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助する利益, 援助しないリスクを意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供する」, 「抑うつ症状を呈し始めた友人を援助するリスク, 援助しない利益を意識すると, 当該友人に援助的な初期対応を提供せず, 距離を置いたり過度に配慮したりする」, 「専門的治療・援助の必要性を意識し勧めようとしても, 専門的治療・援助の利用勧奨リスクや専門的治療・援助の利用リスクを意識したり, 適切な専門的治療・援助機関を知らなかったりする場合, 専門的治療・援助の利用を勧めない」など8つの仮説的知見が生成された。大学生の抑うつの早期発見・早期対応においてインフォー マルな援助資源を活用する際には, 特に初期対応の実行に伴うリスク予期を軽減させるアプローチが重要であると考えられる。
著者
飯村 周平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.364-375, 2016
被引用文献数
7

高校受験は, 多くの中学生にとってストレスフルな出来事である一方で, 生徒に心理的な成長をもたらす可能性もある。本研究では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートが高校受験を通じたストレス関連成長に及ぼす影響を検討する。対象者は中学3年生(男子96名, 女子87名)であり, パーソナリティ特性, 知覚されたサポート, およびストレス関連成長で構成される尺度に回答した。階層的重回帰分析の結果, パーソナリティ特性と知覚されたサポートは, ストレス関連成長の全分散の30-50%程度を説明した。男子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの交互作用がストレス関連成長と関連を示し, 女子では, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの主効果のみが確認された。以上の検討から, パーソナリティ特性と知覚されたサポートの効果は, 生徒の性別や両要因の組み合わせによって異なることが示唆された。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.352-363, 2016
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己変容の想起がアイデンティティ形成にもたらす影響について明らかにすることであった。今のどのような自分を(現実自己), この先どのような自分に(理想自己)変えたいと思っているかを尋ねる項目に加えて, 志向性, 変容後のイメージ, 計画性を尋ねる項目が作成された。研究1では, 大学生393名を対象に質問紙調査が行われた。分析の結果, 自己変容を望まない者は, 自己変容を望む際に具体的な現実自己や理想自己を想起する者よりも, 反芻的なアイデンティティ探求が低いことが示された。研究2では, 大学生230名を対象に実験的操作を用いた2回の質問紙調査が行われた。分析の結果, 理想自己を伴って自己変容を想起した群は, 何も想起しなかった群と比べて, 反芻的探求が有意に減少した。また, 2つの研究を通して, アイデンティティ形成に影響を及ぼす要因は, 理想自己に変わった姿をイメージすることや理想自己への変容のための計画を持つことであることが明らかにされた。
著者
大西 恭子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.340-351, 2016
被引用文献数
5

本研究では, 一般的な学生の学業領域に固有の知覚された無気力について探索的な検討を行った。研究1では, 学業領域固有の無気力状態測定尺度(PASS-A)を作成し, 学業への取り組みの実際との関連から妥当性を検討した。研究2では, スチューデント・アパシーと抑うつとの相関から作成した尺度の特徴を検討し, クラスタ分析を用いて学業領域固有の知覚された無気力を類型化した。2つの研究の結果, 労力回避, 葛藤, 達成非重視という3つの知覚された無気力と, 無気力群, 低無気力群, 中間群, 達成非重視低群という4つの群が得られた。達成非重視は, これまでの無気力研究では検討されていないものである。その特徴は無気力的な行動が狭い範囲にとどまり, アパシー的な感情を感じることも少なく, 病的なモラトリアムではなく, アイデンティティの確立にむけて将来を考えている状態であることが示された。一方で学業課題の達成を非重視できない一群の学生は病的なモラトリアムの状態に固着しており, アイデンティティの確立に課題を抱きやすいことが示唆された。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.317-326, 2016
被引用文献数
10

本研究の目的は, 楽観性と悲観性を独立に測定できる"子ども用楽観・悲観性尺度"を新たに作成し, それらの信頼性・妥当性を検討することであった。研究1より, "楽観性"と"悲観性"の下位尺度から構成される子ども用楽観・悲観性尺度10項目が作成された。また, 子ども用楽観・悲観性尺度の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と妥当性の一部(構造的な側面の証拠, 外的な側面の証拠)が確認された。さらに, 研究2より, 何らかのストレスフルな出来事を経験した後に, 楽観性が高い子どもはサポート希求や問題解決といった接近型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校適応につながりやすいことが示された。一方で, 悲観性が高い子どもは行動的回避といった回避型のコーピング方略を用いる傾向が強く, そうしたコーピング方略を媒介して, 学校不適応や精神的不健康につながりやすことが示された。本研究の結果より, 楽観性と悲観性とでは独自の役割を担っていることが明らかになった。
著者
鈴木 豪
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.327-339, 2016
被引用文献数
2

本研究は, 小学校高学年生を対象とし(5年生269名, 6年生123名), 3種類(A, B, C)の算数記述型課題の回答内容と学習観(意味理解志向学習観と暗記再生志向学習観)との関連を検討した。分析の結果, 暗記再生志向学習観の得点が高いほど, (1) 調査課題Aで, 外れ値があるときに外れ値を含んだ平均をそのまま用いる回答である確率が高かった。暗記再生志向学習観が, 課題中の目立つ特徴をそのまま適用しようとする傾向と関連することが明らかとなった。また, 意味理解思考学習観の得点が高いほど, (1) 調査課題Bで, 省略されたグラフについて, 具体的な数値を述べて判断すべきであることに着目する回答, (2) 調査課題Cで, 印刷された図形と現実を現実場面と対応させ, 図を回転させるといった工夫のある回答である確率が高かった。課題文中の内容が現実場面でどのような意味を持つかを考慮する傾向と意味理解志向学習観とが関連することが示唆された。また, 暗記再生志向学習観の得点が高いほど, 調査課題Cで無答である確率が高く, 暗記再生志向学習観が無答と関連する可能性も一部示唆された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.307-316, 2016
被引用文献数
7

本研究では, 新任教師265名を対象に, 教科指導学習動機と教職における自己有能感および健康状態との関連について, 小学校教師と中学校教師および高等学校教師(以下, 中高教師)において検討した。まず, 小学校教師と中高教師の各変数の得点を比較したところ, "内発的動機づけ", "教材解釈・教材開発"は中高教師の方が小学校教師よりも高いことが示された。次に, 教科指導学習動機と教職における自己有能感および健康状態との関連について, "教科指導学習動機→授業力の自己認知→子どもの授業態度→教職における自己有能感および健康状態"の仮説モデルに従い検討した。その結果, 小学校教師と中高教師ともに"内発的動機づけ", "子ども志向"が, また中高教師のみにおいて"熟達志向"が授業力の自己認知や子どもの注視・傾聴の態度を媒介して, 教職における自己有能感および健康状態とポジティブな関連があることが示された。このことから, 教師の学びにおいて, 興味や関心に基づいた動機づけや, 子どもに対して価値を認めた動機づけをもつことが有効であることが明らかになった。さらに, 中高教師においては自己の熟達を目指して学ぶことも重要であることも示された。
著者
解良 優基 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.285-295, 2016
被引用文献数
7

本研究は, 課題価値概念におけるポジティブな価値とコストが学習行動に及ぼす影響について, それぞれの主効果に加えて交互作用効果がみられる可能性について検討した。4年制大学の大学生と短大生計434名を対象に, 心理学の授業について課題価値評定および持続性の欠如について測定した。重回帰分析の結果, 努力コストにおいてのみポジティブな価値とコストの交互作用効果が有意であった。単純傾斜の検定を行った結果, 努力コストを高く認知している者にとって, ポジティブな価値の認知はより強い影響をもつことが明らかとなった。また, 機会コスト, 心理コストについては, それぞれポジティブな価値とコストの主効果のみが有意であり, ポジティブな価値は学習の持続性に正の影響を, コストは負の影響を及ぼしていた。興味価値・実践的利用価値の2つのポジティブな価値の間では概ね共通した結果がみられ, 学習者のもつポジティブな価値のみでなく, コスト認知についても考慮する必要性が示唆された。
著者
岡畑 恵雄 川崎 剛美
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.486-487, 2006-07-01 (Released:2011-10-14)
参考文献数
3
著者
西 則雄 山田 真路 劉 向東
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.134-137, 2003-03-01 (Released:2011-10-14)
参考文献数
9

紫外線照射法によりヌクレアーゼ耐性でB型構造を保った水不溶性DNAを調製できた。この水不溶性DNAによりダイオキシンなどの環境ホルモン類や有害重金属を選択的に除去できる。また,透析膜内のDNA水溶液によるダイオキシン類希薄溶液の集積・濃縮と有機溶媒による洗浄の繰り返しにより,ダイオキシン類の効率的集積・除去が実現できた。
著者
竹本 洋 Hiroshi Takemoto
雑誌
経済学論究 (ISSN:02868032)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.709-733, 2009-12-15
著者
大村 一史
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 教育科学 = Bulletin of Yamagata University. Educational Science
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.67-84, 2010-02-15

要旨 : 従来から認知神経科学研究における様々な疑問に答えるために使用されてきた脳波(electroencephalogram : EEG)を利用した研究が見直され始めている。そのような流れの中で、注意欠陥・多動性障害(attention-deficit/hyper activity disorder : ADHD)を主とした発達障害児のセルフコントロールトレーニングとして、ニューロフィードバック(neurofeedback)または脳波フィードバック(EEG feedback)という手法が注目されている。この技法においては、自身が脳波をモニタリングしながら、脳活動をコントロールすることによって、知的機能や注意行動を改善させることを目的としている。この10年ほどで、批判はあるものの、ニューロフィードバックの利用が劇的に増加してきた。ニューロフィードバックの効果を慎重に検討した研究報告では、ADHDの新しい代替療法としての可能性が支持されている。本論文では、主にADHDを対象としたニューロフィードバックを概観し、教育分野における将来の可能性を展望する。
著者
林 昌樹 勝浦 一雄
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学進学課程紀要 (ISSN:0287377X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-5, 2000-03-31

Feynmanが初めて量子コンピュータのアイデアを発表したのは15年前のことである。このアイデアはその後いろいろな分野の理論家によって議論されてきたが, 実現が大変難しく, 理論家の思考実験の域をでていなかった。ところが最近量子コンピュータの基本となる量子ゲートが実験室で実証されてからにわかに注目を浴びるようになった。本稿では量子コンピュータの基本的な原理と現状について紹介する。
著者
藤田 真証
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF INDIAN AND BUDDHIST STUDIES
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.724-727,1258, 2007-03-20 (Released:2010-03-09)

The central issue in the fraternal quarrel of the Joo period (1652-1655) is whether Saigin's thought deviated toward solipsism. At present this problem has not been sufficiently explored. Here I would like to examine the controversy on the basis of a document Saigin appears to have written earlier, namely the Fumonbonsho. There are insufficent materials upon which to base a comparison with Saigin's later thought, but it does seem that the quarrel had a serious impact. For this reason, the Fumonbonsho is an important source, and valuable for the development of Shinshu doctrine.
著者
当山 清善 金城 清郎 Toyama Seizen Kinjo Seiro 琉球農業試験場
出版者
沖縄農業研究会
雑誌
沖縄農業 (ISSN:13441477)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.38-41, 1963-12

パインアップルの夏実及び冬実の糖及び酸の含量と罐詰糖度との関係を明らかにし、これが罐詰の品質に及ぼす影響等を検討した。1.果実の品質に最も関与する糖及び酸の含量は収穫時期等により異なるのでこれに応じた製造加工を行う必要がある。2.罐詰製品の品質の均一化を図るためには糖度と酸度のバランス、即ち糖酸比を品質管理の指標とすることが妥当である。3.夏実及び冬実罐詰における糖酸比を比較した場合両者に著しい差異があり、これを是正するためには冬実の酸度を調節する必要がある。4.現行罐詰糖度規格においては夏実及び冬実罐詰の砂糖所要量の差が著しい。