著者
深井 智朗
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.139-154, 2012-03

二〇〇九年三月、一九三三年のナチスの焚書の際に非ドイツ的な思想と判断され、その後発禁処分、断裁処分となったパウル・ティリッヒの『社会主義的決断』の初版の一冊が京都大学文学部長を歴任した神学者有賀鐵太郎の蔵書から発見された。この書物は戦後一九四八年になってリプリント版が出版され、それによって広く知られ、読まれるようになったが、初版は大変貴重なものである。 本論は、(1)この書物に著者ティリッヒ自身や所有者である有賀によって書き込まれたさまざまな情報、また京都大学文書館、ハーヴァード大学アンドーバー神学図書館ティリッヒ文庫、さらには東京の国際文化会館で同時期に発見したティリッヒと有賀との往復書簡、有賀の日記やティリッヒの未出版の諸文書、また『社会主義的決断』の出版元ポツダムのアルフレット・プロッテ出版社についてブランデンブルク州文書館に残されていた諸資料に基づいて、この書物が有賀の手に届いた経緯を解明しようとするものである。また、(2)この書物がティリッヒと有賀とのその後の交流において果たした役割についても解明した。そしてさらに、(3)ドイツで生まれ、ニューヨークで亡命知識人として生きたティリッヒと欧米の神学を日本で最初に本格的に受容した京都の神学者有賀鐵太郎との知的交流を「同時代史」という視点から考察した。
著者
石川 洵
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.266-272, 2009 (Released:2011-09-28)
参考文献数
7

博物館では展示が主役であり,立体映像は展示内容への理解を深める役割を担っている.立体映像の中でも,空間映像方式はこの目的によく合致し,展示物と映像のシームレスな融合を可能にする.
著者
下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)の感染は、本ウイルスの細胞侵入を担う表面糖蛋白質GP蛋白質をエンベロープとしたシュードタイプウイルスを代替として用いた。シュードタイプウイルスのゲノムにはレポーターとして蛍光蛋白質(もしくは細胞膜蛋白質)の遺伝子が組み込まれているので感染の検出は容易である。フィロウイルスが感染しにくいとされるJurkat細胞にヒト肝臓cDNA libraryを発現させ、上記のシュードタイプウイルスの感染性が上昇するようなcDNAの探索を行った。エボラウイルス・マールブルグウイルスのどちらのGP蛋白質を用いた場合もカルシウム依存性レクチンのLSECtinという分子を感染性を上昇させる分子として同定した。cDNA libraryを発現させる細胞としてK562細胞(やはりフィロウイルスが感染しにくい)を用いた場合も同じであった。LSECtin分子は主に肝臓やリンパ節の類洞内皮細胞に発現しているが、フィロウイルスはマクロファージや肝細胞を含めた様々な細胞に感染するため、本ウイルスは感染標的によって異なる分子を侵入に用いていると考えられた。次にヒト由来細胞株(HeLa細胞・HT1080細胞)でマウスを免疫し、上記シュードタイプウイルスの感染阻止を指標としてハイブリドーマをスクリーニングしたが、感染を阻止するような抗体は得られなかった。18年度の結果も含め、フィロウイルスの感染に関わりうる分子としてTyro3ファミリー・C型レクチンがあることが分かったが、これら以外にも未同定の分子があることも分かった。GP蛋白質による免疫沈降など、他の実験方法も用いる必要性があると考えられた。
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フィロウイルスは霊長類に重篤な出血熱を引き起こし、その致死率は90%近くに及ぶこともある。マクロファージや樹状細胞および肝細胞はウイルスの生体内における標的細胞であり、これらの細胞への感染が病原性発現に関与していると考えられている。フィロウイルスの表面糖蛋白質GPはこれらの細胞に発現しているC型レクチンと結合してウイルスの侵入効率を上げることが知られている。本研究では、フィロウイルスのプロトタイプであるマールブルグウイルス(MARV)のC型レクチン介在性細胞侵入機構について、病原性の異なる2つの株を用いて解析を行った。MARVのGPを持つシュードタイプウイルスを、ヒトのガラクトース型C型レクチンhMGLまたは樹状細胞に発現するC型レクチンDC-SIGNを発現させたK562細胞に接種し、フローサイトメーターを用いてGFP陽性のウイルス感染細胞数から各細胞に対する感染価を測定した。霊長類に強い病原性を示すAngola株のGPを持つシュードタイプウイルスは、比較的弱い病原性のMusoke株のGPを持つものよりもレクチン発現細胞への感染性が高いことが判明した。また、547番目のアミノ酸(Angola株 : グリシン、Musoke株 : バリン)がレクチン介在性の細胞侵入効率を決定していることが明らかとなった。MARVの病原性とレクチン発現細胞への感染性との間に相関が見られたことから、C型レクチン介在性の細胞侵入効率はMARVの病原性に関与する因子の一つである可能性がある。同定された547番目のアミノ酸は細胞への吸着に重要とされているレセプター結合領域とは離れているが、fusion peptideの近傍である。したがって、レクチン介在性細胞侵入において、このアミノ酸がfusion peptideが露出するための立体構造変化や膜融合活性に重要であることが示唆された。
著者
倉田 毅 高阪 精夫 小島 朝人 佐多 徹太郎 山西 弘一 岩崎 琢也
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1989年にフィリピンから米国へ輸入された非人類霊長類(NHP-Non Human Primates)(カニクイザル)が、検疫中に大量に死亡した。解剖材料よりエボラウイルスに電顕上形態的に酷似し、抗原性が高度に交差するフィロウイルスが分離された。このウイルスは、ヒトに感染性はあるが、現在まで、ヒトに疾患を起こしてはいない。またNHPに全く触れたことのないヒトでも、約2.4%に交差反応があることがわかっている。次の結果を得た。【.encircled1.】1992年9月ザイールにゴリラ見物に出掛け、サル(種不明)と接触し、帰国した45歳の男性が高熱を発し、頭痛、下痢、脱水症状で死亡した。血清抗体検査でエボラウイルス(ザイール株)抗原に対し、IFで1:10の弱い価がみられた。因みに同行者、他の正常人3名では全く上昇はなかった。エボラウイルス感染の疑で、米国防疫センターへ血清等を送付したが、最終的にエボラウイルス感染性と結論された。この例は明らかに交差反応によるものと考えられた。解剖材料からウイルス抗原、ウイルス粒子は検出されなかった。【.encircled2.】インドネシア産の抗体強陽性で長年経過したカニクイザルの各種臓器で、エボラウイルス関連抗原の検出を試み、潜伏持続感染の可能性を検討中である。【.encircled3.】輸入カニクイザルを取扱っているヒトの11名中に1名、抗体陽性がみられてはいるが、病気は起こしてはいない。
著者
吉森 孝良 山田 次彦 本郷 勉 武内 次夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.1808-1811, 1962-11-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
8

金属ウラン中の1ppm以下の微量の銀を陽極溶出電量分析法によって定量した。はじめに銀の電量分析法において,電解液の容積とそのpH,あるいは電解液中に混入したタリウムやウランの影響について検討した。つぎにこの結果を実際の金属ウランの分析に応用した。すなわち銀含量が0.4ppm以上の試料では,ウランをクエン酸錯塩としてその影響をのぞくことによって,とくに銀をウランから分離することなく定量することができた。また銀量が0.4ppm以下の試料に対しては, タリウムとともに銀をヨウ化物として沈殿させ, ウランから分離して定量し, 満足すべき結果を得ることができた。
著者
那 小川
出版者
東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻
巻号頁・発行日
2012-03-22

報告番号: ; 学位授与年月日: 2012-03-22 ; 学位の種別: 修士 ; 学位の種類: 修士(情報理工学) ; 学位記番号: ; 研究科・専攻: 情報理工学系研究科電子情報学専攻
著者
鈴木パーカー 明日香 日下 博幸
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-72, 2015-03-10 (Released:2015-04-14)
参考文献数
33

暑熱指標 WBGT(wet-bulb globe temperature)に基づき,将来の日本の暑熱環境予測を行なった.これに先立ち,全国の官署データを基に 1991–2010 年 8 月を対象とした現状把握を行った所,現在の日本はすでに厳しい暑熱環境にあることが示された.特に関東以西の地域では 8 月の日中平均 WBGT 気候値が 26℃以上となっているが,これは日本生気象学会等が定める熱中症指針では「警戒レベル」に相当する.比較的冷涼な札幌や仙台などでも,WBGT 値が「危険レベル」に達することもあるという結果が得られた.将来予測は 21 世紀末の 20 年間をターゲットとし,全球気候モデルによる予測データを領域気候モデルによって高解像度化する力学的ダウンスケール手法を用いて行なった.その結果,将来の暑熱環境は現在よりさらに悪化し,特に中部以西の多くの地点で 8 月中 20 日以上が「危険レベル」(日最高 WBGT≧31℃)になると予測された.予測 WBGT 昇温量は東北地方で大きく,例えば将来の秋田市は現在の大阪市のような気候になる可能性が示唆された.
著者
福岡 義隆
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.101-107, 1985

瀬戸内地域は, 平均値気候学の立場からは温和な気候を示す地域と考えられている.しかし実際には, 時折, 太平洋側や日本海側よりも夏に蒸し暑く冬に寒いことがある.とくに夏の夕凪は西日本で非常に有名で, かなり暑く, 心理的にも蒸し暑いと思われやすい.<BR>著者は夕凪の蒸し暑さ (YS) を次式のように表現することを試みた.<BR>YS=P1+P2+P3+P4<BR>ここに, P1, P2, P3およびP4はそれぞれ, 物理的要因, 人為的な熱汚染, 生理学的気候および心理学的気候を意味する.<BR>YSは広島, 岡山や他の都市で観測されたような都市温度により強められること, およびYSは明らかに不快指数の時間的変化によって認識されることなどが結論される.
著者
伊藤 豊 加藤 熈 久保木 芳徳
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.56-66, 1994-03-28
被引用文献数
19 4

本研究は,リコンビナントヒトBMP-2(rhBMP-2)を歯周治療に応用するため,担体としてウシ真皮より抽出しテロペプチドを除去したコラーゲンより作製した強化コラーゲン線維膜(FCM3)を用いた場合の有効性を検討する目的で,12週齢成体ラットの背部皮下と口蓋部に移植実験を行い,病理組織学的に評価した。その結果,移植3週後背部皮下では骨形成はみられなかったが,口蓋部ではrhBMP-2を1.0μgと2.0μg配合した群で骨形成が観察された。またその骨形成の過程は,1週目頃担体の外側部で盛んになり,3週目には母骨と連続し担体周囲を覆い,その後は担体内部へと向かい6週後には母骨とほぼ一体化していた。炎症反応はほとんどみられなかった。以上の結果より,FCM3を担体としてrhBMP-2を歯周治療へ応用できる可能性が高いと考えられた。