著者
岩月 真也 Shinya Iwatsuki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.103, pp.89-113, 2012-11-30

本稿では,政治闘争であったと言われる勤評闘争下における現場教師たちの抵抗の源泉は何であったのかを,勤評闘争の発端である愛媛県下の現場教師たちの手記を中心的な資料として検討している。現場教師たちの手記を整理した結果,現場教師たちにとっての勤評闘争とは,現場教師たちから「差別昇給」と捉えられていた評価差による昇給差を職場に持ち込むことを否とする思想が闘争の源泉となり,「差別昇給」排除の闘争であったことが明らかとなった。
著者
間野 肇 マノ ハジメ Hajime MANO
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
1994-03-24

ポアソン過程の時間変更で記述される個体群の確率モデルについて極限定理の理論と計<br />算機実験をおこなった。<br /> Lotka・Volterra以来生物の個体群を生存競争系として扱い研究がされてきた。また、<br /.>Volkonskii以来時間変更で記述される連続時間マルコフモデルが研究されてきた。そこ<br />で、集団の描像を記述するためポアソン過程の時間変更で記述される個体群の連続時間マ<br />ルコフモデルを導入し、研究を行った。<br /> 確率過程の理論では、マルチンゲール法を用いて、Liptser・Shiryayev等は、到着順処<br />理という規則に従う待ち行列のモデルで、特定の確率構造が仮定されているものについて<br />弱大勢の法則を適用して常微分方程式を導き、さらに中心極限定理を適用してガウス拡散<br />過程の確率微分方程式を導いた。ここでは、待ち行列のモデルを扱うため、各成分のマル<br />チンゲールが直交しているモデルが初めから仮定されていた。<br /> そこで、強弱関係のある多種からなる集団において個体と個体の相互関係により弱い方<br />の種の個体が強い方の個体に変化しその相互作用がポアソン過程の時間変更により記<br />述される生存競争系のモデルについて、マルチンゲール法を用いて同じように常微分方程<br />式と確率微分方程式を導くことを試みた。<br /> 確率構造を調べる必要があるので、モデルのセミマルチンゲール分解を導出した。ここ<br />では、生存競争系のモデルが扱われているため多次元の各成分のマルチンゲールが必ずし<br />も直交していないということがわかった。マルチンゲールが必ずしも直交していない一般<br />的な確率構造をもつモデルの弱大勢の法則と中心極限定理は容易に得られるので、そこか<br />ら常微分方程式とガウス拡散過程の確率微分方程式を導き出した。そして、ポアソン過程<br />の時間変更で記述される生存競争を行う現実の確率モデルについて応用し、大数の法則か<br />ら常微分方程式を導き、中心極限定理を適用してガウス拡散過程の確率微分方程式を導い<br />た。<br /> また、最尤推定法を用いて、遺伝学における離散マルコフ過程である太田・木村モデル<br />とポアソン過程の時間変更で記述される突然変異だけを含んだ確率モデルを計算機実験を<br />おこなって、比較した。
著者
濵田 毅 Tsuyoshi Hamada
出版者
同志社法學會
雑誌
同志社法學 = The Doshisha Hogaku (The Doshisha law review) (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.25-142, 2022-04-30

従来逮捕・勾留中の被疑者に関する取調べ受忍義務肯定説(実務)と同否定説の対立が固定化しているところ、否定説について取調べ目的論からの難点や立案経緯と整合しないとの問題点を指摘すると共に、肯定説について形式的・実質的根拠及び本質的意義を明らかにした上で、従来議論されることが希であった受忍義務の存続に関し、取調べの必要性が消失すれば黙秘権保障の趣旨から同義務も消滅する旨の新たな肯定説を説くものである。
著者
石村 脩 吉本 芳英
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2022-HPC-185, no.29, pp.1-8, 2022-07-20

ドメイン特化言語 (DSL) による高速化のアプローチの問題の一つとして,DSL プラットフォーム自身の移植性の低さがあげられる.この問題を解決するため,我々はアスペクト指向プログラミング (AOP) を用いた DSL 作成プラットフォームを提案している.当プラットフォームでは,AOP を用いることで,HPC システムを利用するためのランタイムコードや最適化機構のコードをモジュール化することを可能としている.しかし,DSL で書かれたカーネルコード自体の変更を行わないため,SIMD や GPU オフローディングができない問題点が存在した.本研究では,当問題を解決するため,プラットフォーム及び AOP のアスペクトに JIT コンパイラを導入し,動的にカーネルコードを生成・実行する手法を考案し,評価を行った.
著者
長田 直子 Naoko OSADA
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
pp.23-46, 2022-03-31

本稿は、近世後期の土浦の薬種商色川家の記録を手掛かりに、地方の薬種商がどのような薬種を仕入れ活動したか、又、政治・社会状況が大きく揺れ動いていたこの時期に薬種商がどのように行動したのか等、その実態の一端を明らかにしたものである。 江戸時代は、日本の医学・医療が発達した時代である。日本で独自化した東洋医学「漢方医学」に複数の流派が誕生する一方、十八世紀半ば以降は「蘭方医学」も発達し、両医学が共存した。そして、都市のみならず、地方の農村部でも医学塾などで修行した医師が活動していた。医師が医療活動を行う為には薬種が必要であり、都市・農村共に薬種商がいたはずである。しかし、個々レベルの薬種商に関する具体的な研究は、史料的問題によりほとんどなく、その実態は不明なことが多い。 色川家は、土浦城下(現、茨城県土浦市)で十八世紀中頃から幕末期にかけて薬種商を営んだ家である。色川家九代目の三中は、地域の学者として有名であるが、家業の薬種商としても活躍し、その弟美年ともに家業を成長させていった。色川家には、多様かつ膨大な文書がある。三中・美年が書き綴った日記「家事志」「家事記」を始め、取り扱い薬種の帳面等から、当時の薬種商の実態についても窺える。本稿では、色川家が複数の江戸の薬種商から薬種を仕入れ、江戸の大店薬種商と同等の多様な漢方薬・蘭方薬などを扱っていたことを分析、明らかにした。 又、本稿では、天保改革期、幕末期の異国船来航時の二例から、時の政治・社会状況に大きく影響されてゆく薬種商の姿も示した。そこからは、天保改革時に藩による物価引下げ政策の中で薬種商達が薬種値段引下に対応してゆく面、異国船渡来の影響による薬種の不足と薬種高騰・下落の中で薬種確保に奔走する商人の姿が見られた。 近世後期から幕末期にかけての地域の薬種商は、医師の医療を支え医療の一端を担う重要な立場であるとともに、時の政治・社会状況に左右される商人という、両面を持ち合わせる存在だったのである。
著者
西住 祐亮 Yusuke NISHIZUMI
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
pp.121-136, 2022-03-31

海外における性的少数者の人権促進は、これまでアメリカ外交の主要争点ではなかった。しかし2010年代初頭から、こうした傾向に変化が生まれている。変化の主な理由は、国内状況の変容である。 性的少数者の人権問題は、国内政治レベルにおいては、これまでも党派対立の主要争点であった。民主党は、性的少数者の権利向上を唱えて続け、しかもこの問題に対する熱意を今なお強めている。対する共和党は、キリスト教的価値観や伝統的な性道徳を重視する立場で、民主党の打ち出す政策に異を唱えてきた。同性婚合法化の問題をはじめ、両党は様々な争点で対立を繰り広げた。 性的少数者の人権問題をめぐる民主党と共和党の対立は現在も続いている。しかし他方で、一定の変化も観察できる。2015年の画期的な連邦最高裁判決を受け、同性婚は50州全てで合法化された。また、2021年のギャラップ社の調査によると、共和党支持者の中でも、同性婚を支持する声が半数に及んだ。 こうした国内状況の変化を背景に、民主党は、外交の中でも、性的少数者の人権問題を精力的に取り上げるようになっている。オバマ大統領は、この問題を外交政策上の優先課題に引き上げ、関連省庁に対策を求める大統領覚書を発出した。こうした政策の多くは、次のトランプ政権によって破棄されたが、バイデン政権の発足で復活・強化されて、現在に至っている。 さらに連邦議会においては、民主党議員が、性的少数者の権利を侵害した海外の主体に制裁を課すことを規定する法案を提出したり、下院外交委員会が、性的少数者の人権問題に焦点を当てる公聴会を開催したりしている。共和党の側は、民主党のこうした動きに反発しているが、中には、民主党と足並みを揃えて、この問題に取り組む動きもある。 本稿では、比較的新しい現象であり、且つ先行研究も少ない、こうした「LGBT外交」の現状や課題について整理する。