著者
土肥 秀行
出版者
静岡文化芸術大学
雑誌
静岡文化芸術大学研究紀要 (ISSN:13464744)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.107-115, 2009

詩人・小説家・映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニPier Paolo Pasolini(1922-75)をめぐるイタリアでの一連の社会的な現象について概括する。死後30余年を経ていまなお注目される存在であるものの、その都度スキャンダラスな死ばかりが話題となってきた。一方、近年では全集の出版などによりニュートラルな研究基盤が築かれつつある。著者のこれまでの研究もその地平に 置付けられる。またモラルの規範としてのマエストロ(師)像が作り上げられ、左派・右派問わず広範な支持を得ている。とはいえ生前は時代遅れの詩人とみなされ、1960年代の後半から「もと詩人」とでも呼べる姿勢で詩作に臨まなければならない試練にも直 している。ここではその一例、1970年の詩「瞑想の語り」を挙げる。
著者
田中 雅一
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.30-59, 2014-03-31

本稿の目的は、日本におけるセックスワーク(売春)の性質を、肉体労働、感情労働、官能労働の3つの労働から理解しようとするものである。資料は5人の日本人女性セックスワーカーたちへのインタビューに基づく。セックスワークは、1970 年代に作られた言葉で、売春をほかの仕事(ワーク)と同じく合法的な活動(サービス産業)ととらえるべきであるという主張がこめられている。しかし、このような主張には、根強い批判が認められる。 ひとつは、セックスワーカーが人身売買の犠牲者であって、セックスワークを合法化しようとするのは、その犯罪性を隠蔽することになるという主張である。二つ目は、セックスワークは若くて未熟なワーカーが喜ばれ、価値もあるという点で、熟練度が重視される通常の仕事と同じだとみなすべきではないという主張である。最後の批判は、本来私生活に属するセックスを仕事とすることで、ワーカーたちは多大な精神的被害を受けるはずであるため仕事とはいえないという批判である。本稿では、セックスワーカーたちと顧客との親密なやり取りについての語りを分析することで、これらの批判の妥当性を吟味した。 日本のセックスワーカーは、1時間から2時間を単位として顧客と限られた時間を過ごす。彼女たちは、顧客の支払額を増やすためにできるだけ長くいること(延長)を顧客に求め、また収入を安定させるために繰り返し一人の女性を指名する常連を増やそうとする。顧客はワーカーが自分に好意を示し、自分との性行為によってオーガズムに達することを好む。このような顧客の要望に応じるため、ワーカーは「感情労働」を通じて好意があるかのような演技をする。オーガズムについては、あたかも女性が感じているかのようなふりをする「官能労働」が必要となる。 本稿のデータから明らかなのは、どのワーカーも自分を犠牲者だとみなしていないことである(だからといって、日本のセックスワーカー全員が犠牲者ではないとはいえない)。また、素人が好まれることから、素人のようにふるまう技術を身につける。さらに、顧客の気づかないところで気を遣い、暴力を回避するための交渉を行っている。顧客の要望に応じて、感情労働や官能労働の主体として彼女たちは積極的に顧客と接しているのである。たしかに、セックスを仕事にすることで私生活に影響が出るが、これはむしろ合法化することで解決可能だと考えられる。問題があるから合法化すべきでないというのは本末転倒であろう。
著者
小路 邦子
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-62, 2002-12

Analyses The Lord of the Rings and shows that this work can be seen in the light of the Quest of the Holy Grail. Points out the common features between them. Explains how quests become the Quest; Sam grows from a fool to a wiseman like Percival does and attains his part in the Quest; Frodo comes to know pity and how it helps the achievement of the Quest, and then his unhealed wounds reveal that Frodo is a Maimed King as well. Frodo, however, has no Galahad or Percival who cures his wounds, so he must sail from the Middle-earth with his wounds like King Arthur, and the recovery of the Shire becomes Sam's work, thus Sam fills the part of Percival and becomes the Mayor just like Percival is enthroned designated by the Grail.
著者
藤井 由紀子 フジイ ユキコ Yukiko FUJII
出版者
清泉女子大学人文科学研究所
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
no.36, pp.7-29, 2015

本稿は、平安・鎌倉期の往生説話における「火車」の存在意義を考察することによって、当時の人々の〈死と救済〉の概念を探ったものである。まず、『今昔物語集』の済源伝を、『日本往生極楽記』に載る異伝と比較することによって、「火車」が「罪」と結びつくものであることを指摘した。さらに、『今昔物語集』と『宝物集』に載る悪人往生の「火車」説話を比較し、その罪が「五逆」に相当するような大罪であることを明らかにした。『宝物集』や『発心集』に載る「火車」説話は、『往生要集』を源泉として、臨終行儀と深く結びつくことによって成立している。それに対して、『今昔物語集』の「火車」説話は、その事件性に主眼があり、第三者の視線にさらされる「火車」の姿を示すことによって、のちに妖怪化する「火車」の怪異性を、先見的に示すものであったと位置づけた。 This paper examines concepts of death and salvation in the Heian and Kamakura periods by considering the reasons why Kasha appeared in the Setsuwa literature on passing into the next life. First, I point out that Kasha was connected with sin by comparing the biography of Saigen in Konjyaku monogatari shu with a different version of it contained in Nihon ojyo gokuraku ki. Furthermore, the sin turned out to be a serious one, equivalent to Gogyaku (the five Buddhist deadly sins) through a comparison of Kasha stories on a sinners death in Konjyaku monogatari shu and Hobutsu shu. Kasha tales in Hobutsu shu and Hosshin shu, whose source was Ojyo yo shu, were formed under the strong influence of Rinju Gyogi (Ars Moriendi). In contrast, an episode of Kasha in Konjyaku monogatari shu focuses a dramatic aspect of the story. It adumbrated the strangeness of Kasha which would become Yokai, depicting its figure exposed to the eyes of the third party.
著者
有薗 真代
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.12, pp.109-127, 2004-12-25

This paper is written about experiences of Hansen's disease sufferers by using life-history method. Especially it is focused on residents' life that has been hardly talked about due to the difficulty of contacting with them. What they have told is engraved with many traces of struggle to take back their own lives. Looking carefully into it, actually they have rarely talked about the sufferings from the disease itself. They have not fought against the disease. They have fought against an outside pressure to try to determine their lives by naming them as "Hansen's disease sufferer." For that very reason, they now talk about themselves as "former Hansen's disease sufferer." They make their sayings vivid by going back to the point when they were labeled and reviving memories from there. The voices from there should keep retaining a power to criticize in recognizing historical facts of the unreasonable quarantine.
著者
北川 由紀彦 KITAGAWA Yukihiko
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.41-53, 2013-03-21

本稿では、東京(区部)における2つの〈ホームレス対策〉――(更生施設・宿所提供施設・宿泊所からなる)「厚生関係施設」と「路上生活者対策/ホームレス対策」――の1990年代中盤から2011年までの展開過程について行政資料を手がかりに整理・記述を行った。その結果、以下の諸点が明らかになった。 まず、「厚生関係施設」については、その定員の慢性的な不足と支援ニーズの増加が認識されてきており、施設種別の転換、施設での支援の効率化、施設退所後のアフターフォローの充実といった対応がとられてきている。「路上生活者対策/ホームレス対策」については、「就労自立」が基本的な目標に据えられながら、応急的な支援から長期的な支援へ、という方向で展開がなされてきた。また、その具体的な展開としては「自立支援センター」と「緊急一時保護センター」から成る「自立支援システム」の体系化、借り上げアパートを組み込んだ「地域生活移行支援事業」の実施、その「成果」をふまえての「新型自立支援センター」と「自立支援住宅」等による「自立支援システムの再構築」がなされてきている。 最後に若干の考察として、「厚生関係施設」の不足を補う形で始まった「路上生活者対策/ホームレス対策」が、その展開の結果として「厚生関係施設」のさらなる需要を掘り起こしてきたこと、いずれの対策も施設退所後のアフターフォローにその重心を移動しつつあることが述べられる。
著者
一柳 廣孝
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.30-38, 2001-11-10

「週刊少年マガジン」に連載されたつのだじろう「うしろの百太郎」は、心霊学にもとづいて心霊の知識を教授する場として機能し、七〇年代以降のオカルト・ブームに大きな影響を与えた。本稿では主として「うしろの百太郎」連載時に反響を呼んだ「コックリさん」、超能力をめぐる動的な様態に注目し、この特異な場に働いたさまざまな「力」の諸相について、いささかの考察を試みた。
著者
伊藤 和彦 中川 成男
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.537-546, 1985-01-31

印伝革の素材となる脳漿なめし白革はどのような革か, 走査型電子顕微鏡と光学顕微鏡で皮練維の分離及び脂質の分布状態を観察した。なめし剤となるウシ脳については, 新鮮脳を1年間貯蔵して腐敗させた脳漿について, これらの一般組成と共に, 貯蔵中の酸敗による脂質の変性成分を溶剤分画法によって分離すると共に, 特に低分子のアルデヒド成分についてはガスクロマトグラフィーによって分離同定した。脳漿なめし白革の特性に関しては, この革と類似の姫路白革, セーム革などと比較して, 熱収縮温度, 熱溶脱窒素, 耐酸, 耐アルカリ性, トリプシン消化性などの相違から検討し, 最後に革の機械的強度についても試験を行った。得られた主な結果は次の通りである。1) 脳漿なめし前後のへら掛けの効果が, 皮線維の分離の状態から認められた。2) 新鮮脳と脳漿との比較で, 一般分析, 脂質の特数, 脂質の溶剤分画及びアルデヒドの同定などの結果から, ウシ脳の脂質は酸敗により, 低分子のアルデヒド, 遊離脂肪酸などに変性されているのが認められた。3) 脳漿なめし白革の特性を, これと類似の姫路白革, セーム革などと比較すると, 耐熱, 耐酸, 耐アルカリ, 耐酵素性などから, 姫路白革, 鹿生皮とよく似た性状で, これらの結果からみて, なめしの効果はかなり少ない。印伝革の柔軟性は鹿皮線維の特別な性状とコラーゲン線維束のほぐれによるものであり, 特有の滑る様な感触は脳の貯蔵中に生じたリン脂質分解産物の影響が大きいものと思われる。特に有効な鞣皮成分はなく, 油脂を用いて, 単に機械的に皮線維をもんで柔らかくするのが原始的製革法の一つのあり方である。