著者
根本啓一 高橋正道 林直樹 水谷美由起 堀田竜士 井上明人
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN)
巻号頁・発行日
vol.2013-GN-87, no.17, pp.1-8, 2013-03-11

近年,自発的・持続的な行動変革を誘発するためのアプローチとして,ゲーミフィケーションというアプローチが着目されている.ゲーミフィケーションとは,ポイントやランキングに代表される,ゲームに利用されてきた様々な要素や仕掛けを現実世界の活動に援用するアプローチである.このゲーミフィケーションを活用して,多数のユーザの行動変容を促すことで,社会的な課題を解決する活動なども生まれている.本稿は,このような社会的課題の解決にゲーミフィケーションを活用することに関するものである.従来のゲーミフィケーションは,ウェブ作成者など特定の作者が作成した仕組みを使って,ユーザに対して特定の行動を喚起するために利用されることが多かった.しかし,個々のユーザやコミュニティが抱えている課題は多種多様であるため,課題解決の観点では,従来の方法では本質的課題を捉えることが難しい.課題を抱えるユーザ自身が行動をデザインすること,必要に応じて改良を施していくことが可能な参加型の仕組みが必要である.そこで,課題を持つユーザ達自身による課題解決のための自発的・持続的な行動の設計と実行をゲーミフィケーションのアプローチを利用して支援する仕組みを提案する.我々は,参加者が自らの課題に取り組むためのゲームを設計するワークショップを設計・実践し,さらに,そのアイデアをゲームにして実行に移すことができる,ゲーミフィケーション・プラットフォームと呼ぶウェブサービスを試作した.ゲーム作りのワークショップを計 3 回実施し,48 名が参加した.プラットフォーム上には 9 つのゲームが作成され,課題プレイを通じて,827 個の行動がなされた.本論文では,これらの結果をふまえ,動機付け,能力,誘因という 3 つの観点から自発的・持続的な行動を生み出すための課題について考察する.
著者
鈴木 卓治
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.206, pp.39-59, 2017-03-31

国立歴史民俗博物館が開催する企画展示「万年筆の生活誌―筆記の近代―」(2016年3月8日(火)~5月8日(日))のために,館蔵資料43点を含む58点の蒔絵万年筆資料のマルチアングル画像を撮影し,展開図を作成した。本稿では,資料への負荷を抑えつつ図録掲載等の要求に耐える品質を有する展開図画像を得るための,万年筆資料のマルチアングル画像撮影ならびに展開図作成の技術開発について述べる。スリットカメラの原理に基づき,万年筆を一定角度で回転してマルチアングル画像を撮影するための専用の治具を制作した。マルチアングル画像からの展開図画像の作成について,万年筆の回転角と得られる展開図画像の誤差との関係について検討し,5度刻みのマルチアングル画像から,μm単位の誤差の展開図画像を作成できることを示した。展開図画像の作成にあたって,万年筆の太さは均一でないので画像の幅が必ずしも回転角に比例せず,単純に一定の幅で切り出した画像を合成したのでは重複や欠損を生じる。そこで簡単な画像処理によって万年筆の太さを求め,幅が回転角に一致する補正画像を生成したところ,重複や欠損のない画像を得ることができた。また,クリップのようにまわりから著しく飛び出している部分があると,画像から正確に半径を求められない部位が生じ画像が乱れる問題について,クリップの位置をマスク画像で与えることによって解決を図った。本稿で述べる展開図作成の技術は,類似の資料のデジタル化の促進に寄与することができよう。
著者
村澤 丈児
出版者
東京藝術大学
巻号頁・発行日
2019-03-25

平成30年度
著者
上谷 香陽
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 = Journal of the Faculty of International Studies Bunkyo University (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.1-20, 2018-01-31

The purpose of this paper is to examine the idea of Dorothy Smith’s institutional ethnography(IE) through reading her article “The Standard North American Family:SNAF as an Ideological Code”(Smith 1999:157-171).In her sociological investigation, Smith re-raised the classical sociological issue about therelationship between people’s local and particular experience and extra-local and general socialrelations. And she suggested an alternative sociology that explores how the everyday world ofpeople’s experience is put together by social relations that extend beyond the everyday world.The point of the “SNAF” article is to explore the operation of SNAF as‘ideological code’ withinwhat she called‘ruling relations’. Ruling relations are internally coordinated complex of administrative,managerial, professional, and discursive organization that regulates, organizers, governs, andcontrols our societies. Within these relations, SNAF code operates to coordinate multiple site throughtextually mediated discourses.In the “SNAF” article, ideological code is regarded as a constant generator of procedures forselecting syntax categories and vocabulary in the writing of formal texts and for interpreting sentences,written or spoken, ordered by it. Smith argues that SNAF-governed texts are ubiquitous and givediscursive body and substance to a version of The Family, and mask the actualities of people’s livesespecially when they do not accord with SNAF.Through examining the idea of Smith’s ‘textually mediated discourses’ and‘ideological code’, thispaper tries to develop the method of sociological inquiry into knowing the social from people’s actualeveryday world.
著者
上谷 香陽
出版者
文教大学
雑誌
文教大学国際学部紀要 = Journal of the Faculty of International Studies Bunkyo University (ISSN:09173072)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-18, 2018-07-31

The purpose of this paper is to discuss the idea of the social organization of textual realities in Dorothy Smith’s sociology.Smith’s sociology re-raised the classical sociological issue about the relationship between people’s local and particular experience and extra-local and general social relations. And shesuggested an alternative sociology that explored how the everyday world of people’s experience is put together by social relations that extend beyond the everyday world. She argued that traditional sociological method of inquiry translated people’s own knowledge of the world of their everyday practices into the objectified knowledge to make everyday world accountable within sociological discourse. On the other hand, her sociology locates the starting point of inquiry within people’s actual experience and their own knowledge.Based on Smith’s Institutional Ethnography (IE), this paper investigates institutional accounting practices which produce textual realities. According to IE, actual work processes are made accountable as text (factual account) through institutional ideological procedures which attend selectively to work processes, thus making only selective aspect of them accountable within the institutional order. For IE texts are integral because they organize the trans or extra-local relations that we participate in but cannot observe from our local site of being.This paper examines the way IE discovers and makes observable how texts enter into, organize, shape, and coordinate people’s doings as we participate in the objectifying relation of ruling. In so doing this paper tries to suggest the method of knowing the social from people’s actual everyday world.
著者
木谷 裕紀 大渡 勝己 小野 廣隆
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.258-265, 2019-11-01

単貧民とは,不完全情報多人数ゲームである大貧民を完全情報ゲームとして簡易化したものである.これまでの研究により,二人単貧民に関しては配られた手札からどちらが必勝プレイヤであるかどうかを線形時間で判定できることがわかっている.本研究では手札非公開で行う不完全情報単貧民において如何に「必勝戦略」を得るかについて考える.手札に関する情報が全くない場合,確定的な意味で「必勝戦略」を得ることは難しい.このため,本研究では相手の手札に関する部分的な情報を提供するオラクルの存在を許したモデルを定義し,そのオラクル存在下で必勝戦略が得られるかどうかについて考察する.相手がどの札を持っているかなどの情報がない状況でも,マッチング数と呼ばれるゲームの構造パラメータを得るオラクルさえあれば完全情報単貧民と同様の必勝戦略をとることができるなど,オラクルの強さと必勝戦略発見可能性に関する様々な結果が得られることを示す.
著者
藤丸 麻紀 MAKI FUJIMARU
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.129-141, 2011-03

本稿では、子ども手当のGDPに対するマクロ経済効果として乗数分析を行い、出生率に対するミクロ経済効果として家計内生産理論モデルによる子どもに対する需要関数の分析を行った。またデータ分析を行い、理論による分析を補足した。 GDPに対するマクロ経済効果としては、消費拡大効果はあるものの、子ども手当の財源確保のために政府消費削減、公共投資削減、増税などが伴えば、GDPにはマイナスの効果をもたらすことが分かった。 また、出生率に対するミクロ経済効果としては、子どもへの需要を増加させる効果はあるが、子ども手当が生涯所得に与える影響が小さければその効果は小さいと考えられることと、子どもへの需要が増加しても出生率は変わらず子ども一人当たりの支出を増加させる可能性もあることが分かった。 データによる分析では、期待される生涯賃金が減少していることや女性非正社員の賃金の低さが出生率の低下につながっていると考えられることが分かった。したがって、子ども手当の支給よりも、保育サービスの提供や保育料負担軽減などを行った方が所得を増加させ出生率増加につながるのではないかと考えられる。
著者
萩谷 昌己
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.537-543, 2008-05-15

近年世界的に研究が活性化している,フォーマルメソッドと暗号理論との境界領域について解説する.
著者
福岡 安則 黒坂 愛衣
出版者
埼玉大学大学院文化科学研究科
雑誌
日本アジア研究 : 埼玉大学大学院文化科学研究科博士後期課程紀要 = Journal of Japanese & Asian Studies (ISSN:13490028)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.31-63, 2010

この調査ノートは,「らい予防法」による「隔離政策」が貫徹していた時代に,ハンセン病を発症しながら,「ハンセン病療養所」に入所することなく生涯を終えた女性を母親にもつある男性のライフストーリーである。TM さんは1945 年生まれ。1956 年ごろ,母親がハンセン病だとの噂が地域社会に広がり始める。1959 年4 月,TM が中学2 年のはじめ,母親は「親戚会議」の決定に従って,「ハンセン病療養所」への入所を回避して,鳥取県から大阪に移住。阪大病院の「らい部門」での外来診療に通院することとなる。4 人の兄と1 人の姉が「逃げて」しまったあと,TM はひとりで母親の面倒をみる。9 年間の大阪暮らしのあと,阪大病院の外来治療に見切りをつけて,母とTM は鳥取県に戻る。TM は出稼ぎをしながら母親の生活を支える。1985年,母親が脳梗塞で倒れ,老人ホームに入所。ここで露骨な差別的扱いを受ける。この時点で,TM は,母親に「よかれ」と思って,「非入所」の生活を支えつづけてきたが,むしろ,ハンセン病療養所に入所させていたほうが母親の老後は幸せだったのではないかと,価値判断の大転換を体験する。このときから,そして,母親が1994 年に亡くなった後も,保健所や県庁を相手に,「らい予防法」に従った適切な対応を怠ってきた責任を執拗に問いつづける。まともに相手にされず,けっきょくは,2003 年,「こまい鉈」で県職員を殴打し,「殺人未遂事件」として刑事事件の被告とされ,「懲役3 年の実刑判決」に服した。TM の“非入所よりはハンセン病療養所に入所していたほうが,母は幸せだったにちがいない”という言説,“行政職員が「らい予防法」に従って適切な対応をしなかったのは問題だ”という言説,そして,“阪大病院のハンセン病治療は,患者家族の経済的立場を十分に考えておらず,治療内容も患者とその家族に十分な説明のないままの診療実験にすぎなかったのではないか”という言説は,2001 年の熊本地裁判決,その後の「ハンセン病問題に関する検証会議」の『最終報告書』(2005年)などによって積み上げられてきたハンセン病問題をめぐる現在の共通理解とは,一見対立するかのようである。しかし,わたしたちの理解によれば,TM の語りは,「らい予防法」体制下の「強制隔離政策」というものは,たんに,当事者の意思にかまわず強制的にハンセン病療養所へと患者を引っ張ってきて閉じ込める《収容・隔離の力》だけでなく,社会のなかに患者とその家族の居場所を徹底的になくして,ときに,患者みずからに,あるいは,患者の家族に,療養所への入所を望ませさえする《抑圧・排除の力》をもつくりだすことによって,はじめて機能していたということ。非入所を貫いたということは,この後者の《抑圧・排除の力》を長年にわたって浴びつづけたことにほかならないこと。それへの憤りが,母親の老人ホームでの差別的扱いで一挙に噴出したことをこそ,雄弁に物語っていると読み取れる。TM の語りは,ハンセン病療養所に「強制隔離された生活」が人権を根こそぎ剥奪された生活だったとすれば,「非入所者」としてハンセン病療養所に入所せずに社会のなかで暮らしつづけることも徹頭徹尾心のやすらぎを奪われた生活であったことを,鮮明に物語っているのだ。