著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.5-13, 2017-06-13

企業事故・不祥事の発生原因については,倫理制度の不備や安全文化の欠如など多くの要因が指摘されている。その中で,実務家を中心にしばしば指摘される要因として形骸化があげられる。そこで,本稿は,企業事故・不祥事の発生原因の1つである「規則の形骸化」を引き起こす要因を探索することを目的とする。具体的には,①規則の形骸化に影響を与える要因は何か,②その要因はどのように規則の形骸化に影響を与えるのかという問いを設定し,規則の形骸化の発生プロセスに,不正のトライアングル理論(Fraud Triangle Theory)を適用し,分析を試みる。まず,規則の形骸化の内容と特徴を検討し,規則の形骸化を①規則の形式的な遵守と②規則の暗黙的な不遵守に分類した。次に,不正のトライアングル理論(FTT)を規則の形骸化の発生プロセスに適用し,検討を行なった。検討の結果,(1)認識された圧力は,規則の形骸化の動機として位置づけられること,(2)認識された機会は,形式的な遵守と暗黙的な不遵守の選択要因として位置づけられること,(3)合理化は規則の形骸化の決定要因であること,を明らかにした。
著者
平塚 徹
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.269-287, 2012-03

マイクに向かって話すことを表すフランス語の表現parler dans le microにおいて,前置詞句はマイクの内部を指しているだけである。英語などの幾つかの言語では,これに対応する表現において,前置詞句がマイクの内部への経路を明示的に表している(英語:to speak into the microphone,ドイツ語:ins Mikrophon sprechen,チェコ語:hovořit do mikrofonu,ロシア語: govorit’ v mikrofon)。しかし,フランス語では,マイクの内部が経路の着点であることは,推 論による解釈の結果なのである。 parler dans le microという表現においては,移動するもの,すなわち「声」が,明示的に表現されず,動詞parler(話す)によって含意されている。この潜在的な参与項はLangackerのアクティブ・ゾーンに対応している。前置詞句は,アクティブ・ゾーンの移動経路の着点に対応する場所を表しているのである。同じ説明は,souffler dans le micro(マイクに息を吹きかける),se moucher dans un mouchoir(ハンカチで鼻をかむ),vider une bouteille dans l’évier(びんの中身を流しにあける),mordre dans une pomme(リンゴをかじる)にも適用される。これら の表現において,アクティブ・ゾーンは,それぞれ,息,鼻腔内の粘液,瓶の中身,歯である。

2 0 0 0 OA 弾性波動論

著者
大好 直 Ohyoshi Tadashi
巻号頁・発行日
pp.1-377, 2008-03-04
著者
藤田 正 野口 彩
出版者
奈良教育大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13476971)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.101-106, 2009-03-31

大学生の依存性、自己完結型セルフ・コントロールと学習課題先延ばし行動との関係を明らかにするために、大学生152名を対象に、依存性自己評定質問紙、他者介在型SC/自己完結型SC評定尺度と学習課題先延ばし傾向尺度(「課題先延ばし」と「約束への遅延」より構成)を実施した。変数間の関係を調べるために相関を検討した。その結果、「課題先延ばし」と、「自己完結型SC」の間にのみ有意な負の相関がみられた。また、自己完結型SCは、「統合依存」との間に有意な正の相関がみられた。これらの結果から、依存性が先延ばし行動に直接影響する要因ではなく、自己完結型SCを介在して学習課題先延ばし行動に関係することが明らかになった。
著者
上村 正之
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-52, 2016-12-15

本稿の目的は,M.ザゴスキン『ユーリー・ミロスラフスキー,あるいは1612年のロシア人』(1829)におけるコサック・イメージを考察し,先行研究の中に位置付けることである。文学上のコサック表象を論じた先行研究では「神話」という概念を用いて,ゴーゴリの『タラス・ブーリバ』が持った影響力の強さを論じている。『タラス・ブーリバ』と違い,ウォルター・スコット風の歴史小説である『ユーリー・ミロスラフスキー』の場合,ロマンチックなコサック像と,歴史的知識に基づいたコサック像の2種類が現れる。前者がザポロージェ・コサックのキルシャであり,受動的な主人公ユーリーに対して,アグレッシブな行動力により彼を積極的に助ける。ユーリーとキルシャが合わさることで,一種の理想的なロシア人像が描かれるが,キルシャはコサックの中では例外的な存在であると説明されており,コサックそのものは讃美されるべき対象として描かれていない。一方でキルシャ以外の歴史記述に基づいたコサックは,利己主義を特徴としており,ロマンチックなコサックを相対化している。こうした要因により,この作品ではゴーゴリ的なコサックの「神話」性は力を持ちにくくなる。
著者
安部 悦生
出版者
明治大学経営学研究所
雑誌
経営論集 (ISSN:0387298X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2-3, pp.127-143, 2022-03-23
著者
三浦 光彦
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.179-195, 2022-01-31

ロベール・ブレッソンは,自身の映画に素人俳優のみを起用し,一切の感情移入を廃した独特な演技指導を行ったことで知られている。ブレッソンは自身の演技への理念を『シネマトグラフ覚書』と題される書物に纏めている。本稿では,ブレッソンの演技論を,ジャンセニスムとシュルレアリスムという宗教的,美学的なコンテクストから考究することによって,ブレッソンの演技論において作動しているメカニズムを解明することを目標とする。まず,第一節では,ブレッソンとジャンセニスム,及び,シュルレアリスムの関係を論じた先行研究を概観していく。第二節では,映画研究者レイモン・ベルールが『映画の身体:催眠,情動,動物性』と題された書物の中で論じた,催眠と映画の歴史的な関わり合いに関する議論を参照しつつ,ジャンセニスムとシュルレアリスムにおける「痙攣」という概念を追っていく。続く,第三節では,ベルールが引用する神経学者ダニエル・スターンによる「生気情動」という概念と,それを軸にジャン・ルノワールの映画における演技を論じた角井誠の研究を参照しつつ,この「痙攣」というものがどのように生み出されるのかを考究していく。そして,第四節では,「痙攣」に纏わる膨大な歴史がどのようにブレッソンの演技論へと集約されていき,それがブレッソンの映画においてどのようなメカニズムで作動しているのかを確認する。第五節では,第四節まで論じてきたものを土台としながら,男性のモデルと女性のモデルとでは,演技表現に差異が見られることを確認したうえで,幾つかの作品に即して,そのような差異が何故生じるのかを探っていく。ブレッソンは長らく作家主義的な映画監督,つまり,作品に対して強いコントロールを有する作家だと考えられてきたが,本稿では,モデルの身体へと焦点を当てることによって,そこに刻印された作家性の揺らぎを読み取っていく。