著者
和田 久泰 藤井 秀比古 清島 満 斉藤 邦明 山田 泰弘 関川 賢二 和田 久泰
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

動脈硬化病巣にはコレステロールの蓄積を中心として,マクロファージ,平滑筋細胞,Tリンパ球などが存在しており,これらの細胞群は種々のサイトカインを分泌している.従って,これらのサイトカイン,とりわけproinflammatory cytokineであるTNF-α(tumor necrosis factor-α)は動脈硬化の発症,進展に深く関与していると想定される.しかし,現在までのところ動脈硬化に対するTNF-αの関与を直接的に証明した成績は認められない.本研究では,TNF-αノックアウトマウス(TNF-αKO)とアポリポ蛋白E(ApoE)ノックアウトマウス(ApoE KO)を交配させることによって樹立したダブルノックアウトマウス(TNF-α/ApoE KO)を用い,動脈硬化発症におけるTNF-α.の役割を直接的に証明した.ApoE KOとTNF-α/ApoE KOの血清コレステロール値はWild-type(C57BL/6J)に比べて著明に上昇し,超低比重リポ蛋白(VLDL)コレステロールがその主体を占めていた.しかし,ApoE KOとTNF-α/ApoE KOとの間に有意な差を認めなかった.一方,大動脈基部における動脈硬化病変の大きさを比較すると,TNF-α/ApoE KOはApoE KOに比して動脈硬化病変が有意に減少していた.さらに,大動脈におけるRT-PCR分析および免疫染色により,接着因子(ICAM-1,VCAM-1)やケモカイン(MCP-1)の発現が,ApoE KOに比べTNF-α/ApoE KOにおいて有意に少ないことを認めた.以上の成績より,TNF-αは接着因子やケモカインの発現を誘導してマクロファージの接着・遊走を促進し,動脈硬化病変の形成に促進的に働いていることが示された.
著者
守 明子 長谷川 直司 志岐 祐一
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

わが国における鉄筋コンクリート造建築物の黎明期に生産され,かつ現在も供用中の工場(山口県山陽小野田市)を対象に,当該建築物に関する資料調査と実測調査とを行った。併せて黎明期の鉄筋コンクリート造に関する著作の調査も行った。その結果,我が国が明治時代より近代化をすすめた際の建築材料製造技術の歴史ならびにその材料を用いた新しい構工法である鉄筋コンクリート造建築物の歴史の一端を明らかにすることができた。ここで得られた成果は,黎明期の同構造建築物における耐久性を解明するための基礎的な資料となるとともに,現在,各地で進められている多くの鉄筋コンクリート造建築物の文化財としての保存に対し,補修改修方針の策定に関しても資するものである。
著者
垣沼 絢子
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

今年度は、日本レヴュー史研究の最終まとめとして、戦後ヌードレヴューにおける身体統制と身体美のイデオロギーについて、研究し、発表した。1)東宝のヌードレヴュー劇場と、戦後を代表する伝統演劇の前衛演出家である武智鉄二の交錯の意義を、身体統制と身体美という側面から明らかにした。武智は東宝のヌードレヴュー劇場で、伝統芸能である能をヌードで上演したが、現在から振り返ると、それが武智鉄二本人にとって、また東宝のヌードレヴュー劇場にとって、日本人としての身体美および身体制度について考え直す、ターニングポイントとなっていたことがわかった。2)昨年度末に行ったアメリカ国立公文書館でのGHQ/SCAP資料の調査をもとに、占領期日本演劇のレヴューの検閲や統制について、これまで不透明であった占領軍側の立場を明らかにした。残された検閲資料や会議録から、実際にどのような検閲が行われていたのか、どのような会議が行われ、日本の演劇人たちとどのような交渉が行われていたのかなどについて、日本側の報道や記録とは異なる側面を分析した。その結果、占領期におけるヌードレヴューの規制の背景には、ヌードレヴューを鑑賞しに行っていた占領軍の兵士たちを統制・保護するという側面があったということがわかった。こうした事実の解明により、日本における戦後レヴューの展開において、ヌードレヴュー実践者たちの言説に基づいたこれまでの研究に、占領軍側の交渉を反映することができた。3)占領期レヴューの検閲について、アメリカ国立公文書館および早稲田大学演劇博物館所蔵の検閲台本や会議録を分析した。その結果、検閲の実態を明らかにするとともに、舞踊の検閲の難しさもまた、浮き彫りにすることができた。舞踊の検閲台本を検証することは、舞踊のアーカイブ方法について考えることにつながるもので、本研究が、広く舞踊研究にも寄与しうることが示唆された。
著者
森田 紘平
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本年度の研究実績は大きく三つに分けることができる.物理学における創発の一般論,存在論的構造実在論の洗練,および量子力学の思想史の展開である.まず,物理学の不連続性の典型例である創発について,主に量子力学と古典力学の関係に注目して,モデル概念の重要性を指摘した.より具体的には,準古典的領域が不可欠である量子論と古典論の間の関係づけについてパターン実在論による特徴づけが不十分であり,創発的なパターンとして実在性を確保するためにはモデルの役割を強調する必要があることを示した.次に,ミクロな量子力学的領域に関する存在論である存在論的構造実在論についてその内容を洗練させた.特に,多くの議論が異なる意味で用いてた「構造」や「先行性」といった概念を精緻化して,量子力学に応用することで,ミクロ領域の存在論的特徴付けを行った.この営みは,我々の日常的なスケールである古典的な領域についての存在論的地位を特徴づけることに役立ち,物理学における不連続性を明確化する助けとなる.さらに,このような量子と古典の対立の思想史的展開についても研究を行った.量子力学の哲学においては特に重要視されるニールス・ボーアの歴史的資料を分析することで,ボーアが1920年ごろに量子論や古典論についてどのような立場を取っていたのかを明らかにした.以上,これらの研究は量子力学と古典力学の関係に限定されているが,前者二つの研究は,さらなる応用が可能である.一方で,後者については,現代の不連続性の理解のされ方を特徴づけるために重要な視点を与えるものであると言えるだろう.
著者
樋口 綾香
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

学校図書館を広く活用し、児童の読解力・表現力を向上させることのできる授業を研究するにあたり、児童の主体性を引き出すことのできる「ブックトーク」「ビブリオバトル」「ライティングワークショップ」という3つの読書活のカリキュラム化の有効性と可能性について研究したものである。1. 研究の概要(1) 「ブックトーク」「ビブリオバトル」小学生の各学年の発達段階においてどのように取り組ませることが有効かを検討するため、教材文を学習する前や後に2つの活動を取り入れた。発達段階における適切な指導法、ルール設定などを児童のワークシートや対話から考察する。(2) 「ライティングワークショップ」書くことへの苦手意識を取り除き、楽しんで書くことを継続できるように年間を通して「ライティングワークショップ」に取り組ませる。児童のアンケート調査からカリキュラム化の可能性を探る。2. 研究の結果(1) 「ブックトーク」「ビブリオバトル」教材を学習したあとに取り組む場合は、授業で獲得した知識を活用し主体的に活動に取り組むことができた。教材を読む前の場合は、例えば「やまなし」を学習する前に、宮沢賢治の本のブックトークをした6年生では「やまなし」を読んだときに「あの作品と似ているところがある」や「賢治が伝えたいことは変わっていない」など、作品と作品を結び付けて考える力がついていた。さらに、よい本と巡り合えないと、よいブックトークやビブリオバトルができないことから、多くの本に出会おうとする児童の姿が見られた。(2) 「ライティングワークショップ」3年生、4年生、6年生で実践を行った結果、すべての児童が一人一冊本を発行することができた。原稿用紙を絵本型・文庫型・幼年童話型など工夫することで、どの子も進んで書くことができていた。また、書いた作品を教室の後ろに並べることで、作者と読者が本を介してコミュニケーションをとる姿も見られた。
著者
西山 和宏
出版者
九州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

申請者は、受容体作動性/脂質作動性カチオンチャネルTRPC3の心臓リモデリングにおける役割に着目し、TRPC3と活性酸素生成酵素 (Nox2)との複合体形成を介した過剰な活性酸素の産生がマウス・ラットの心筋細胞萎縮や間質の線維化を形成する引き金となることを見出してきた。興味深いことに、TRPC3-Nox2複合体形成による筋萎縮は心臓だけにとどまらず、同じ赤筋である骨格筋typeI線維の萎縮にも関与する可能性が新たに示されてきた。そこで本研究では、哺乳動物個体の赤筋萎縮(衰弱)に着目し、その根底にあるTRPC3-Nox2複合体の形成機構を解明する。