著者
木下 裕介 増田 拓真 中村 秀規 青木 一益
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.127-152, 2018-07

近年,持続可能な社会や都市への移行に向けて,日本の地方自治体(以下,自治体)においては,社会・経済の低炭素化や加速化する少子化・高齢化を含む,各種課題への対応が求められている。これは中長期にわたる包括・包摂的視座の下,既存施策・政策の再編を必須とする構造的変革(structural transformation) の可否を問うものであり,自治体にとっては,地域やコミュニティにおける集合的意思決定を如何にして行い課題解決をはかるのかという,ガバナンスにかかわる問題も含んでいる(Bulkeley et al. 2011; Hodson and Marvin 2010)。これらの点に関連する直近の政策動向としては,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成をはかるため,2017年12月に国が打ち出した「地方公共団体における持続可能な開発目標(SDGs) の達成に向けた取組の推進」を挙げることができる。この施策は,「まち・ひと・しごと創生総合戦略2017改訂版」(2017(平成29)年12 月22 日・閣議決定)および「SDGsアクションプラン2018」(2017(平成29)年12月26日・持続可能な開発目標(SDGs) 推進本部決定)における,「『日本のSDGsモデル』の方向性」において取り決められたものである。このことは,SDGsの達成が,日本の都市・まちづくりを通じた地域・コミュニティの再興(すなわち,地方創生)に資するとの命題が,政府の政策体系に位置づけられたことを意味する。また,ここでの命題を具体化する事業として,国(内閣府地方創生推進事務局)は,2018年2月,自治体によるSDGsの達成に向けた取り組みを公募し,優れた取り組みを提案した最大30程度の都市を「SGDs未来都市」として選定の上,SDGs推進関係省庁タスクフォースによる支援提供を行うとした。上記政策展開において特筆すべきは,SDGsの達成に向けて,自治体が取り組むべき課題・対応策等をめぐり当事者・ステークホルダーが意思決定を行う際の手法として,「バックキャスティング(backcasting)」が明示的に採用された点である。将来シナリオの策定におけるバックキャスティングとは,予測を表すフォアキャスティング(forecasting) と対をなす用語として理解され,通常,あるべき将来を始点としてそこから現在を振り返る方法と定義される(Robinson 1990)。また,一般にバックキャスティングシナリオは,比較的遠い未来(例えば,2050年)のあるべき姿(ビジョン)を設定した後,その達成のために何をすればよいか(パス)を未来から現在まで時間的逆方向に考えるというプロセスで生成するものを指す(Kishita et al. 2016)。バックキャスティングを用いた将来シナリオの作成は,社会・経済を規定する制度・構造にまで踏み込んだ,イノベーションを伴う抜本的変革が求められる課題遂行において有効とされる。サステナビリティ・サイエンス(Sustainability Science)の分野では,2000年代以降,気候変動,エネルギー,SDGsといった政策課題への対応において,バックキャスティングを用いた将来シナリオがさかんに作成されるようになってきた(Kishita et al. 2016)。持続可能な社会への移行を企図したシナリオ作成に孕む困難な問題として,各自治体が目指すべき都市や地域に関する理想の将来像(ビジョン)が必ずしもステークホルダー間で共有されていない点が挙げられる。この問題の解決に向けたより民主的な政策立案の手法として,サステナビリティ・サイエンスの分野では参加型アプローチ(participatory approach) が注目を集めている(Lang et al. 2012; Kasemir et al. 2003)。その具体的な事例は欧州でさかんに見られるが,日本でもここ最近は行政や専門家が参画した市民ワークショップの開催という形態を中心として,さかんに実践されている(Kishita et al.2016; McLellan et al. 2016; 木下・渡辺 2015)。しかしながら,自治体や都市・地域の将来ビジョンを作成するための理論や方法論は,いまだ確立されていないのが現状である。また,ビジョン作成をどのように政策立案プロセスあるいは合意形成プロセスに反映させるべきかといったガバナンス問題に関する調査研究も,依然として萌芽段階である。そこで,本稿では,上記の研究課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,市民ワークショップ(以下,WS)を用いたバックキャスティングシナリオ作成手法を提案する。本稿で提案する手法では,ロジックツリーと呼ばれるツールを用いて市民WSでの議論を因果関係に沿って構造化した上で,ビジョンに関する重要なキーワード(キーファクター)の抽出に基づいて複数のビジョンを作成する。さらに,シナリオの作成過程でWS参加者が議論した内容の論理構造を分析するため,持続可能社会シミュレータ(以下,3S シミュレータ)という計算機システムを用いる(Umeda et al. 2009)。このシステムは,持続可能社会シナリオの理解・作成・分析を統合的に支援することを目的として筆者らが開発してきたシステムであり,ビジョンとパスから構成されるシナリオの論理構造を可視化することができる(Umeda et al. 2009)。本研究では,以上の手法を,2064年の富山市における持続可能社会のシナリオを描くことを目的とした市民参加型WSに適用した。そこでは,年齢・性別・職業が多様になるように,10~70代の男女,合計16名を集めたWSを,全3回にわたって富山市で開催した。WSでは,参加市民を同様の人員構成となるよう2つのグループ(各8名)に分け,中立的ファシリテーションの下で対話・討議し,そこで示された様々なアイディアを記した文章と録音による発話データに基づいて,バックキャスティングシナリオを作成した。本稿の主たる目的は,市民WSを用いて得られた2本のシナリオのコンテンツおよびシナリオ作成のプロセスを通して,ビジョンの実現のために満足すべき目標と,とりうる政策オプションやその他の手段との関係性を分析することにある。さらに,本稿では,筆者らが提案したシナリオ作成プロセスが,ステークホルダー間の合意形成や自治体における政策立案に対してどのように資するのかという,ガバナンス問題についても考察を行う。
著者
石井 照久 小野寺 藍 ISHII Teruhisa ONODERA Ai
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 = Bulletin of the Center for Educational Research and Practice, Faculty of Education and Human Studies, Akita University (ISSN:24328871)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.57-72, 2018-02-28

小学校,中学校,高等学校には,校歌が存在し,校歌の中には生き物の名前が唄われていることが多い.本研究では,校歌に登場する生き物に着目し,それを生物教育に活用することを提案する.校歌に登場する生き物を実際の教育に活用している例はあるものの,なかなか公表されておらず,先行研究としてとりあげることは難しい.そこで,本研究では,秋田県の中学校校歌を例として,校歌にどのような生き物が登場しているかを示し,さらに公にされていない活用例を示すことを目的とした.さらに活用されていない生き物を使った教材開発を試みた.校歌は児童生徒にとって愛着のあるものである.本研究をきっかけに,生物教育において,校歌に登場する生き物がもっと利活用されることを期待したい.Every school from elementary to high has its own school song. In many cases, the school song contains a name of living thing in its words. We propose to apply these living things in biological education. In this paper, some educational practices applying living things, which were contained in junior high school songs in Akita Prefecture, are introduced. Moreover, two educational materials using a living thing in a junior high school song are developed. We expect that the application of living things in school songs will be increased in biological education.
著者
川上 直人 池田 心 石井 岳史 橋本 剛
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. GI, ゲーム情報学 (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2020-GI-43, no.13, pp.1-8, 2020-03-06

世界的に親しまれているチェスと似たようなルールを持ちながら不完全要素のあるボードゲーム『ガイスター』では,駒を交互に動かし 3つある勝利条件のいずれかを目指す.ガイスターでは強い AI プレイヤの研究が盛んにおこなわれている一方,教育,楽しさを目的としたコンテンツ生成の研究もあり,2019年3月には『詰めガイスター問題』が発案された.詰めガイスター問題は,ガイスターにおいて確実に勝てる局面を問題化したものであり,終盤力を上げる教育的コンテンツとなっている.2019年11月には,逆向き生成法と証明数探索により19手問題が生成された.また,別アプローチとして後退解析によって得られた37手問題も紹介され,後退解析によって長手数問題を効率的に生成できるのではないかと考えられている.本研究では,駒数が少ない局面に限定し,『詰めガイスター問題』の後退解析をおこなった.結果,駒数が 2対2の場合において「一般問題」では勝ち191,992局面,負け514,214局面,引き分け654局面,最長勝ち19手,「公開問題」では,勝ち783,232 局面,負け402,822局面,引き分け227,666局面,最長勝ち37手になることを確認し,引き分けの存在を確認できた.また,先行研究で議論されていなかった,問題のカテゴリ分け,解の一意性について定義,実験をおこない,いくつかの知見を得た.
著者
益満 義裕
雑誌
東洋文化研究 (ISSN:13449850)
巻号頁・発行日
no.6, pp.153-181, 2004-03-31

Dogs were the first animals to be domesticated amollg various livestock. Therefore, their association with man is the longest alld closest. Since dogs were the animal which rendered man loyalty like the horse, they were found useful. However, since the animal ate m an’ 刀@leftovers like the pig, it was looked down upon. From this reason, it seems that their status was low compared with other livestock. In addition, dogs were used for hunting, amusement, or as pets, and were also utilized in military affairs. Since it was believed that dogs barked and drove off evil spirits invisible to the human eye, they were buried in their master’s grave as a talisman, and were exposed in front of the gates of towns. It was also common to eat dogs in ancient China, and various recipes have become clear from excavated data. Moreover, situations that the dogs of those days were lively can be seer in the burial dolls and pictures of dogs.“Xianggoujing”, a book on dogs existed in the Han dynasty, in which guidance oll how to recognize a good dog was written. The depth of the people’s concern for the animal in those days can be imagined from this fact. It seems that the relation between man and dogs differed greatly from the present age.