著者
双見 京介 寺田 努 塚本 昌彦
雑誌
マルチメディア,分散協調とモバイルシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.467-478, 2017-06-21

近年,コンピューティング技術を用いたモチベーション制御手法として競争を利用したものがヘルスケアなど様々な分野で開発されている.しかしながら,既存手法には競争による心理的影響を考慮しきれていないという問題がある.そこで,本研究では心理的影響を考慮した競争情報を用いたモチベーション制御手法を提案する.本稿では,まず日常の運動モチベーション向上を対象とし,競争においてモチベーションに影響する要因である,努力量に対する競争結果,競争相手との成績差,競争参加人数の3点による心理的影響への配慮をシステム設計に内包させた競争システムを開発する.提案システムでは活動量計から得た歩数を基にして,モチベーションに良い効果を与えるように補正された競争結果がフィードバックされる.プロトタイプシステムを用いた評価実験では,合計82 名の6 週間にわたる3 種類の実験を通して提示情報による歩数への効果を測定し,提案手法の有効性を確認した.
著者
河合 潤子
出版者
椙山女学園大学
雑誌
椙山女学園大学研究論集 : 人文科学篇・社会科学篇・自然科学篇 = Journal of Sugiyama Jogakuen University. Humanities, Social sciences, Natural sciences (ISSN:24369632)
巻号頁・発行日
no.54, pp.63-74, 2023-03-01

1日3食を食べる習慣は,鎌倉時代から始まり,江戸時代後期には定着したと言われる。しかし,1回の食事が整っているわけではなく餅2個や饅頭,粥などの軽食ですませているため,現代の3食とはかなりかけ離れている。小腹がすいたら食べるという軽食感覚であったと考えられる1)。江戸では,参勤交代による単身赴任の武士が外で飲食をする機会も増え,味噌をはじめ様々な調味料や文化が開発,発展していったとされている。 そこで,本研究では,一般的に家庭で作られていた伝統的な調味料である味噌の中でも,塩分含量が少なく甘味の強い「江戸甘味噌」に注目した。江戸甘味噌の特徴,調製方法,さらに当時作られていた料理を当時の書物から時代背景を加味して取り入れた。しかし,いろいろな方法が記されていたため,現代の家庭でも可能な方法で調整した。調整した江戸甘味噌はくせの無い香りや旨味があり,特に独特の甘みには腸内環境にも好影響をもたらすイソマルトースが含まれていた。今後,健康への取り組み,食文化の継承保持からも江戸甘味噌普及に向けた取り組みは重要と考える。
著者
今村 洋一
出版者
椙山女学園大学
雑誌
椙山女学園大学研究論集 : 人文科学篇・社会科学篇・自然科学篇 = Journal of Sugiyama Jogakuen University. Humanities, Social sciences, Natural sciences (ISSN:24369632)
巻号頁・発行日
no.54, pp.95-103, 2023-03-31

本稿は愛知県,岐阜県を対象とした拙稿[1][2]に続き,三重県を対象として,明治~昭和初期の統計から近代花街の一端を明らかにしようというものである。なお花街とは,料理屋(料亭),待合茶屋,芸妓置屋が集積する遊興空間を指す。芸妓置屋に身を置く芸妓が,取次をおこなう検番の差配により,料亭や待合茶屋に出向き,芸を披露し宴を盛り上げたわけだが,こういった宴をお座敷と呼んだ。 かつては,全国津々浦々600か所程度はあったとされる花街だが,現在は30~40程度にまで減じている。本稿の対象である三重県内に限ってみれば,花街は現在,桑名しか残っておらず,三重県内にかつてあった花街について窺い知ることは容易でない。そこで本研究では,国会図書館に所蔵されている明治~昭和初期の『三重県統計書』(三重県発行)に掲載されている花街関連統計データを整理し,近代における三重県内の花街の盛衰を明らかにすることを目的としている。
著者
渡邉 玲子
出版者
国立音楽大学大学院
雑誌
音楽研究 : 大学院研究年報 = Ongaku Kenkyu : Journal of Graduate School, Kunitachi College of Music (ISSN:02894807)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.255-268, 2023-03-31

本研究は、セノオ楽譜に含まれるフルート・レパートリーを考察したものである。これまで近現代の洋楽受容におけるフルートに関する先行研究は主として(1)演奏者、(2)日本人作曲家による作品、(3)教則本の出版、(4)楽器の輸入状況および製造会社の4つの方面から行われてきた。こうした角度から日本のフルート史について解明されつつあるものの、演奏者を育てる媒体としての楽譜に主眼を置いた研究は見当たらない。そこで、本稿では近現代の洋楽受容の中で最も人口に膾炙した楽譜として知られているセノオ楽譜を研究対象とすることで、国内の楽譜出版における最初期のフルート・レパートリーの考察を行った。研究対象のセノオ楽譜は、大正5(1916)年から昭和13(1938)年にかけて妹尾幸陽(1891-1961)が発行人を務める東京のセノオ音楽出版社から出版されたピース楽譜である。主として歌とピアノ、ヴァイオリンとピアノの作品が収録されており、その総数は800点を超える。セノオ楽譜に焦点をあてた先行研究は充実しているものの、フルートの関わる作品が存在している事実はこれまで解明されてこなかった。そこで、本稿では以下の方法で調査を行った。まず、セノオ楽譜において出版点数の多い上位2つの「セノオ楽譜〔声楽譜〕」と「セノオバイオリン楽譜」シリーズに焦点を絞り、本学図書館と東京藝術大学附属図書館、東京藝術大学音楽総合研究センターの3つの機関において計319点の楽譜を確認したところ、フルートが含まれる楽曲が7点見つかった。これらは内容から「フルート・オブリガート作品」と「フルート代用作品」の2つに分類することができた。前者に該当するグノーの《夜の調べ》は、セノオ楽譜において最も重版数が多く、演奏記録からも当時人気の高い作品であったことが窺える。《ミネトンカの湖畔》の重版数は3版に留まるものの、日本人歌手による録音も確認できている。どちらの楽曲もオブリガート・パートは技術的に難しくないが、表現の面で難しい部分が見受けられた。続いて後者に該当するのは、ショパンの《ポロネーズ『軍隊』》、《幻想即興樂中の歌調》、《ベルセーズ》の3曲と、チャイコフスキーの《怪談曲》、《流浪樂師の歌》の2曲である。ショパンの作品は《ノクターン》を中心にフルートとピアノの編成によって演奏頻度が高く、対してチャイコフスキーの作品はフルート・アンサンブルのレパートリーとして大変好まれている。どちらもフルーティストにとって馴染み深い作曲家だが、セノオ楽譜に収められた作品はいずれも現在演奏機会に恵まれたものとはいえない。そして楽曲の内容は、音域や奏法の面からフルートの現実的な奏法に寄り添っていないものも含まれており、技術的には易しいものから高難度も作品まで含まれていたことが分かった。これらの調査から、セノオ楽譜は多様な難易度のレパートリーを提供することでプロとアマチュアのどちらかに偏るのではなく、幅広い立場の人々が演奏できることを目指していた楽譜シリーズだと言えるだろう。また、最も重版数の多い楽譜にフルートがオブリガートとして関わっていたという事実から、「フルート・オブリガート作品」は日本人がフルートのイメージを形成する上で大切な役割を担っていたと推察できる。
著者
坂井 祐円
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 = Research journal of Jin-Ai University, Faculty of Human Studies (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.21, pp.35-46, 2023-02-20

われわれはどこから来たのか? この問いかけは「魂」のあり方について示唆している.誕生の記憶についての物語は,この問いへの一つの指標になり得るのではないか.そして,ここには魂の癒しとしてのスピリチュアルケアを見出すことができるのではないか.こうした観点から,本稿では,誕生の記憶として分類される, 出生時記憶, 胎内記憶, 中間生記憶の語りについて,それぞれ事例を挙げながら考察していく. まず一般的な自分の由来を探るという意味で,身体の起源について遡って考えてみる.その上で,果たして身体が〈私〉なのか,〈私〉の本質はいわゆる「魂」なのではないのかという観点に立って,その起源を追求する.手がかりになるのが,幼児期健忘によって覚えているはずがない誕生の記憶である.とりわけ身体を持たない純粋な「魂」のみの記憶である中間生記憶の語りからは,現代の神話とも言える魂の起源を考えることができ,私たちの生きる意味を見出すことにも通じることを明らかにする.
著者
板倉 七海 酒匂 一世 原田 利宣 橋本 唯子
雑誌
研究報告コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学(CG) (ISSN:21888949)
巻号頁・発行日
vol.2016-CG-165, no.19, pp.1-6, 2016-11-02

本研究では絶滅したニホンオオカミをはじめとした 8 種の動物の頭蓋骨と剥製や写真上の頭部形状に現れる曲線の比較 ・ 分析を行った.次に,その結果に基づいて和歌山大学が所蔵するニホンオオカミの頭蓋骨から正確な頭部形状を推定した.さらに CG で頭部形状を 3D モデル化し,再現するとともにニホンオオカミの全身形状も CG 上で創成して,“歩く”,“走る” といったモーション付けを行い,展示のための検討を行っている.
著者
吉田 拓也
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.401-405, 2023-07-15

本実践では,「情報I」における「コミュニケーションと情報デザイン」の単元で,デザイン思考に沿った「意匠考案」の授業を開発し,高校1年生39名を対象に授業実践を行った.授業後の生徒の振り返りから,制作プロセスに対して意欲的に取り組めたり,日々感じていた不便なことについて,試行錯誤を重ねて創作できたことがわかった.意匠権についても,改めて身近に感じたり,自己利益のみならず他者との共有,譲渡などの見方も持つことができるようになった.本実践のような制作活動を通して,情報デザインが,人や社会に果たしている役割を学ぶ授業について,1つの実践事例として提案したい.
著者
大崎 詩生
出版者
跡見学園女子大学附属心理教育相談所
雑誌
跡見学園女子大学附属心理教育相談所紀要 (ISSN:21867291)
巻号頁・発行日
no.19, pp.3-12, 2023-03

女子大学生における就職活動は,先行研究から,精神的健康やストレス反応において男子学生との間に差が認められることが示唆されている。本研究は,女子大学生の就職活動において,彼女らの持つ性役割態度がどのように就職活動ストレスに機能しているのかについて検討することを目的として質問紙調査を行った。 調査対象者は関東圏内の4年制女子大学に通う大学3・4年生209名であった。質問紙の構成は,(1)属性と就職に関する質問,(2)就職活動ストレス尺度(就職活動を経験した者のみ回答),(3)平等主義的性役割態度スケール短縮版(A short-form of the Scale of Egalitarian Sex Role Attitudes : SESRA-S)(点数が高いほど性役割の平等志向性が高い),(4)自尊感情尺度よりなる。209名のうち,就活群(就職活動を経験した群)117名,非就活群(就職活動を経験していない群)92名に分類した。 2群の比較では,就活群は非就活群よりも自尊感情が有意に高かった。就活群においての検討では,就職活動ストレスに対する性役割態度の調整変数としての機能を検討するために階層的重回帰分析を行った。就職活動ストレスに対し性役割態度と自尊感情は負の影響が認められた。重決定係数の変化量が有意であり,SESRA-Sと自尊感情の交互作用項における標準偏回帰係数も有意傾向を示したため,SESRA-Sと自尊感情の交互作用における単純傾斜検定を行った。 この結果から,性役割態度と自尊感情の高さは,就職活動ストレスを低くすることが示された。さらに,性役割態度が低い場合であっても,自尊感情が高ければ,就職活動ストレスをより軽減する可能性が示唆された。就職活動を行う女子大学生の心理的健康のためには,平等志向的な性役割意識をもつこと,自尊感情を高めることにより意識を向けるべきであろう。
著者
李 長莉
出版者
愛知大学東亜同文書院大学記念センター
雑誌
同文書院記念報 (ISSN:21887950)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.7-16, 2016-03-31

佃隆一郎訳特集「近代日中関係史の中のアジア主義—東亜同文書院と東亜同文会—」
著者
小嶋 玲子
出版者
桜花学園大学保育学部
雑誌
桜花学園大学保育学部研究紀要 = BULLETIN OF SCHOOL OF EARLY CHILDHOOD EDUCATION AND CARE OHKAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:13483641)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.65-77, 2017-10-31

日本語の自称詞は「人間関係の上下の分極に基づいた具体的な役割の確認とつながっている」(鈴木1973)と言われ、日本語でどの自称詞を使用するかは、使用する人間の対人関係を示す指標となる可能性がある。よって、女子大学生の対人関係の取り方や自己意識を考える一つの指標として、女子大学生の自称詞の使用の2001年と2011年のデータを比較し、10年間での使用の変化について論じた。2011年は2001年に比べて、複数の自称詞を使用している女子大学生の数が増加している。個人内での使用頻度の高い自称詞の10年間の変化としては、「わたし」の使用の減少、「うち」の使用の増加が認められた。「先生」「友人」「親」「きょうだい」の4場面での自称詞の使い分けの調査から、2001年より2011年の方がより頻繁に、女子大学生が場面によって複数の自称詞を使い分けている姿が明らかになった。自称詞使用の選択においては、上下関係よりも親疎関係を基準にしている可能性、及び、使用する自称詞により自身のアイデンティティの表明の可能性が示唆された。
著者
眞鍋 督 谷口 義明 井口 信和
雑誌
情報処理学会論文誌デジタルプラクティス(DP) (ISSN:24356484)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.22-32, 2023-07-15

本研究では,クラウド環境を標的とするDDoS攻撃の対策演習を実施できる環境の提供を目的としてDDoS攻撃の対策訓練システムを開発した.本システムは,Infrastructure as a Serviceにおいて最も採用されているAmazon Web Serviceを用いた演習が可能である.また,高度化するDDoS攻撃にも対応できる力を身につけるために,対策手法に加えて攻撃手法に関する演習も実施できる.本システムによる演習を通して,クラウド環境を狙ったDDoS攻撃の対策手法に関する理解と知識の定着が期待できる.実験協力者20名を対象に実施した評価実験の結果,本システムを利用する学習が座学と比較して有効であることを確認した.
著者
中野 勝章 渡辺 魁 中沢 実
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.7, pp.1164-1172, 2023-07-15

近年,カメラ動画像から画像認識技術を用いて道路交通量調査を行う研究が活発になっている.交差点におけるカメラ画像を用いた交通量調査では,単路環境に比べてカメラでとらえるべき範囲が広いため,従来の固定型カメラ(CCTVカメラ)ではなく,可搬性を有する携帯型のカメラを用いることで交差点内の複数位置に設置することができる.複数位置から最適なカメラ設置位置を決めることで計測精度の向上が見込める.しかしながら,実際問題として交差点内に設置した携帯型カメラに対して,現地で最適なカメラ設置位置を評価する基準がなく,人手による経験的または直感的なカメラ配置となっている.そこで,本研究では,短時間のカメラ動画像から交差点における車両の流入口の位置関係に基づき,計測精度に影響を与える指標を算出し,それを利用することで最適なカメラ設置基準の判定を行う手法を提案する.さらに,提案指標とOpenDataCamのカウンターライン機能を用いた計測精度との比較を実地検証を行い,提案した指標の妥当性を評価した.