著者
瀬谷 裕美
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.249-261, 2012-03-25

本稿は,教材としての素描用石膏像が伝播していった過程と範囲を明確にし,その供給の実態と変遷を明らかにすることを目的とする。東京芸術大学所蔵の資料実物や文献からの調査の結果,石膏像生産業は,素描教育の方法と共に,美術学校主体から民間へと移行していったことがわかった。工部美術学校において西洋から輸入してそのまま使っていた石膏像は,東京美術学校時代からは国内で生産販売するようになった。明治10年代後半の中学校増設に伴い図画教育の総量が増え,大正期に入ると民間の業者も画材を多く扱うようになり,石膏像の生産と供給の量も増えていく。石膏像素描教育は制度として広がったというより,美術教育関係者を中心とした教育法と教材の伝播により,徐々に民間へと普及していった。
著者
松本 和久 山内 達仁
出版者
中部大学現代教育学部
雑誌
現代教育学部紀要 = Journal of College of Contemporary Education (ISSN:18833802)
巻号頁・発行日
no.7, pp.73-83, 2015-03

本研究では、知的障害・発達障害のある人が旅行する際に必要としている支援についての調査をもとに、適切だと思われる支援を盛り込んだ旅行を企画・実施した。そして、その旅行への参加者に対する調査を通して、知的障害・発達障害のある人が旅行する際に必要な支援について明らかにすることを目的とした。日帰りバスツアーと、2014年世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間関連イベント「"ぼくらのA列車<に乗ろう!」という二つの旅行を企画・実施し、貸切車両の利用、車内にクールダウンエリアの設置、写真入りのしおりなど、参加者に対して通常のツアーにはない工夫や配慮をした。参加者に対する調査の結果、これらの支援は有効であったが、一般のツアーでは十分に提供されていないのが現状である。知的障害・発達障害のある人が旅行する際には、物理的な「バリアフリー」にとどまらない支援、言い換えれば一人一人の思いに応え、その人にとって必要な支援を提供することが望まれる。
著者
浜井 浩一
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.76-106, 2011-10-31

本稿の課題は,人口動態の変化,つまり少子・高齢化によって犯罪動向がどのように変化し,それに刑事司法制度がどのように対応しているのかを分析した上で,今後,少子・高齢化が更に進行する可能性の高い日本において,刑罰運用を含めた持続可能な刑事政策はいかにあるべきかを検討することにある.結論から言うと,少子・高齢化は,犯罪に対して最も活発な若者が減少し,犯罪に対して最も非活発な高齢者が増加するため,全体としては犯罪減少社会を作り出す.事実,罪種によって多少傾向の違いはあるが,窃盗においても,殺人においても犯罪は若者の減少と共に減少している.その一方で,年齢による犯罪率の変化を示す年齢層別検挙人員を人口比で示した犯罪曲線を詳細に分析してみると,そこには1990年代後半から微妙な変化が認められる.それは,30歳以降において加齢による犯罪の減少傾向が消失したことである.つまり,日本では,30歳を過ぎると犯罪から足を洗えなくなってきているということである.犯罪の背景要因には生活苦や社会的孤立が存在する.少子・高齢化は,消費を衰えさせ経済全体を衰弱させる.1990年代後半における経済不況の原因の一つは少子・高齢化である.つまり,少子・高齢化は,全体としては犯罪を減少させるが,不況を生み出すことで中高年の立ち直りを阻害する一面があるのである.日本の刑事司法は応報を基本とし,累犯加重を機械的に適用する傾向が強く,判決までの段階では犯罪者を更生させるという意識は乏しい.その結果として,万引きや無銭飲食などの高齢犯罪者が増加する中,彼らの多くが,軽微な犯罪の繰り返しで実刑となり,受刑者の高齢化は深刻な状況となっている.少子・高齢化社会において持続可能な刑事政策を実現させるために必要なこと,それは,これまでの「応報型司法」を改め,犯罪者の更生を可能とする「問題解決型司法」を目指すことである.そのために,同じ大陸系刑法の伝統を持ち,日本に次いで人口の高齢化が深刻なイタリアがいかに高齢犯罪者の増加を防止しているのかを参考に刑事司法改革の方向性について考える.
著者
一瀬 貴子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.17-26, 2013-09

本稿の主な目的は,家庭内高齢者虐待発生事例の家族システム内機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにすることである.調査方法は,倫理的配慮を行った上で全国の地域包括支援センター435 箇所に配属されている社会福祉士435 名を対象とし,自記式質問紙を作成し,郵送調査を行った.有効回答は120 名であった.家族システム内の機能や構造の変容に対して,社会福祉士が活用する効果的なソーシャルワーク実践スキルを明らかにするために,社会福祉士が介入した後の家族システム内特性の改善度を従属変数,社会福祉士が活用したソーシャルワーク実践スキルの活用頻度を独立変数とする重回帰分析を行った.その結果,家族システム内特性の改善の第1 因子である『高齢者と養護者の交流パターンの改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第2 因子である『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』因子には,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が有意な正の規定力を示した.家族システム内特性の改善の第3 因子である『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』因子には,『虐待する養護者に情緒的支援・情報提供するスキル群』と『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』が正の規定力を示した.これらの結果より,『相互作用パターンの変容方法を家族成員に提示するスキル群』は,『高齢者と養護者の交流パターンの改善』や『家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性の改善』や『公的サービスの利用促進や援助職による援助に対する抵抗感の改善』につながるソーシャルワーク実践スキルであることが明らかとなった.相互作用パターンの変容方法を家族成員に伝えることで,家族の虐待に対する認知的評価や家族凝集性が改善することから,家族システムズアプローチに基づいたファミリーソーシャルワークを実践することは効果的であるといえる.
著者
中尾 暢見
出版者
専修大学人間科学学会
雑誌
専修人間科学論集. 社会学篇 (ISSN:21863156)
巻号頁・発行日
no.4, pp.101-117, 2014-03

本稿は最初に激増する高齢者犯罪の実態を示す。暴行事件は1990年から2009年までの約20年間で52.6倍と激増している。あまりの激増ぶりに驚く人も多いであろうが、これでも氷山の一角である。なぜならば、これは検挙された数であるため被害者が警察へ被害届を出さない場合も多いからである。今まで被害者と目されてきた高齢者は、いったい何時から、どうして暴力的に豹変したり加害者となってしまったのであろうか。次にその要因として4つの言説を提示した上で検討を行う。白書や主要な研究者は1つ目の言説を支持しているが、筆者はその他に3つの言説を示す。1つ目の高齢者の孤立説では高齢者が社会と家族から孤立するメカニズムを紐解く。2つ目の犯罪コーホート説では犯罪者が多い出生コーホート(世代)を示した上でデータによる検証を行う。パオロ・マッツァリーノの言説では1941年から1946年生まれの出生コーホートを提示しているが、筆者はデータから出生年を1940年から1946年生まれへと修正提示した上で犯罪者が多いコーホートを浮き彫りにして、クローズアップされ続けた少年犯罪は減少傾向にあることを示す。3つ目の認知症説では長寿化に伴い認知機能の衰えた高齢者が増加することで、病気のために犯罪者となり再犯を重ねる傾向のある高齢者像を浮き彫りにする。そして4つ目の確信犯説では窃盗や暴力事件で警察沙汰になっても泣いて謝罪すれば許されるであろう、ボケたふり病気のふりをすれば見逃してもらえる、警察でも拘留されることなく帰宅できる、送検されても起訴猶予になる程度、地位も名誉も失うものは無いからと開き直って犯罪を重ねる悪質な高齢者の存在を示す。戦後の日本社会は、速い速度で劇的に変化を遂げてきた。変化の波乗りは、とても難しい。社会的弱者ほど波乗りに失敗したり、やり直して成功しても何度目かのチャレンジでは失敗して意欲を失って沈んでしまうこともある。溺れる人々が多いのは当該社会にとっては危険なサインである。社会政策の失敗、運用の行き詰まり、変革の必要性を示すサインでもある。加害者の処罰とその対応に追われてばかりいると、次々に新たな加害者を生み出すだけで問題の根治や解決には至らない。犯罪者を生み出さない社会づくりが必要である。高齢者犯罪が激増した要因を分析することは、今日の日本社会を照らすことになる。
著者
仲本 康一郎
出版者
山梨大学
雑誌
言葉の学び、文化の交流 : 山梨大学留学生センター研究紀要 (ISSN:18810292)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.3-14, 2010-03-26

認知言語学によって、人間の言語は抽象的な記号系ではなく、われわれの身体やその活動に根ざすものであることがわかってきた。しかし、現在までの身体性の議論では、日本語でいう「感性」の側面は等閑視されている。本研究では、こういった経緯を踏まえ、認知言語学の新たな研究領域として"感性の言語学"を展開する1。今回は、感性の言語学の研究の第一歩として、日本語のオノマトペの研究動向を整理し、新たな研究の方向性を提示する。特に、オノマトペの持つ特徴的な性質である、類像性、身体性、全体性の三つを認知言語学の観点から多角的に分析し、今後の認知言語学が向かうべきオノマトペ研究の指針を示す。
著者
岡田 雅邦 新城 拓也 向井 美千代 皆本 美喜
出版者
Japanese Society for Palliative Medicine
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.136-141, 2012

一般には動物を病院に連れてくることは許可されないが, 緩和ケア病棟ではペット面会やセラピードッグの訪問を取り入れている施設が多い. 全国の緩和ケア病棟におけるペット面会許可の現状, セラピードッグ導入の現状につき, 2009年2月現在の緩和ケア病棟承認施設193施設を対象に郵送によるアンケート調査を行い, 149施設(77%)より回答を得た. 135施設で病院敷地内でのペット面会を許可し, うち36施設はペットの宿泊を, 121施設は病室での面会が可能であった. セラピードッグは22施設に導入されていたが, 特に宗教を母体とする施設で有意に多かった. 病室にペットが宿泊できるところは宗教を母体とする施設に, 病棟でのペットとの面会は緩和ケア病棟開設年度が古い施設で有意に多かった. しかし, 無宗教の施設や新しく開設された施設でも, 多くの施設でペット面会が行われていた. 昨今の緩和ケア病棟でも癒しや心の温もりが大切にされていることが示された.