著者
山田 裕一
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.448-455, 2005-12
被引用文献数
1

日本人には,よく知られた低Kmアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子の他にも,アルコール脱水素酵素(ADH)のβ-サブユニット蛋白(ADH_2),エタノールを非特異的に酸化するチトクロームP450-2E1(CYP2E1)など,アルコール代謝酵素の遺伝子に多形性が存在する。これらの遺伝子多形が日本人の飲酒行動や飲酒に起因する健康障害へどのように関連するかについて,我々の研究で得られた知見を中心に総括する。不活性型ALDH2(ALDH2*1/2またはALDH2*2/2)の人の飲酒量は小さい。一方,代謝速度が大きいとされるCYP2E1遺伝子のc2アレルの保有者は,ALDH2活性が正常ならばc1アレル保有者よりも飲酒量が大きい。日本人に頻度の高いc2アレルが日本のアルコール消費量の増加に寄与している可能性がある。日本人の問題飲酒者ではADH_2の定型アレル(ADH_2*1)の保有頻度が高い。非定型アレル(ADH_2*2)から生成される代謝活性の高いADHが血中からのエタノールの除去を速めることで,問題飲酒者の発生に抑制的に働いている可能性がある。日本ではアルコール消費量に比してアルコール依存症が少ないと言われるが,このような日本人のアルコール代謝酵素の遺伝的特徴が反映されているのかもしれない。現在,ほぼ確実に不活性型ALDH2が疾患発生リスクを高めると考えられるのは食道がんおよび咽・喉頭がんである。西暦2002年の日本での食道がんの年齢調整死亡率は男性で10万人対10.2,女性ではさらに稀で1.3である。1960年以降,日本のアルコール消費量は増加し続けてきたが,この間,男性での食道がん死亡率はほぼ横ばい,女性では逆に減少し続けている。飲酒と不活性ALDH2が日本人の食道がん発生にある程度は関与しているとしても,その主要な原因とは考えにくい。それゆえ,食道がんリスクの判定のためにALDH2の遺伝子型診断を行うことの予防医学的利益は大きくない。その他のアルコール代謝酵素の遺伝子が特定の疾患発生に関与するという確かな証拠はまだない。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.118-129, 1933-03-01

セイタカタンポポ(Taraxacun elatum KITAMURA). 関西の山地に生ずるこのタンポポは,総苞の外片が長楕円形なる事はカンサイタンポポに似るが,総苞はより大きく,丈高く,果実が細長く,花梗は花後頗る長く,種々の点で異なるので別種とする.クシバタンポポ(Taraxacum pectinatum KITAMURA). 備中阿哲郡野馳村大野部で,田代善太郎氏の採取された植物である.葉が櫛歯状に分裂せる点が目立つ,花梗は葉よりも短く,総苞の外片は廣卯形で,内片の1/3長に達する.花は濃黄色である.コタンポポ(Taraxacum Kojimae KITAMURA). 千島幌莚島の産,小型のもので,葉は葉柄殆どなく開出し,花梗は一本,総苞外片は被針形なるを特徴とする.ヒロハタンポポ(Taraxacum latifolium KITAMURA). 朝鮮咸鏡北道の産,大井次三郎氏が延岩洞一上村間で採集された植物である.葉は特に幅廣く,総苞は長楕円形で,内片の1/2長を越す,先端に明瞭に小角を持っている,花は黄色.カラフトタンポポ(Taraxacum sachalinense KITAMURA). 従来ミヤマタンポポなる名称の下に,多くの種類が一括されていた.これもその中の一部分で樺太幌登山の産である.葉は舌状をなし,通常分裂せず,総苞は〓葉では黒緑色である点はタテヤマタンポポに似ているが,総苞はずっと小さく,外片には明瞭に小角を具えている.
著者
野呂 文行 山本 淳一 加藤 哲文
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.25-35, 1992
被引用文献数
4 2

無発語自閉症児1名に対して、書字による要求行動の前提条件として、筆記用具を要求するためのサインの形成を行った。その結果、対象児の要求行動を含む行動連鎖場面において、筆記用具を要求するためにサインが使用された。また、先行訓練において反応型が形成されていない非教示サインや、音声モードも行動連鎖場面において使用された。さらに対象児は、3種類のモード(サイン・書字・音声)に関して、要求場面において等価な反応として使い分けが可能になった。これらの結果は、対象児によって示された反応が、特定の反応型に限定されない、要求の機能をもつ反応クラスとして働いていたことを示していると考えられた。加えて、実験条件ごとに示されたコミュニケーション・モードの選択を検討したところ、「先行訓練における強化経験」と「要求アイテムが提示されるまでに必要な反応数と時間」の2つの変数によってその選択が制御されていたことが示された。
著者
長石 道博
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.150, no.12, pp.1965-1973, 1996-12-20
参考文献数
22
被引用文献数
11

これまで, 文字パターンの認知過程に関する心理学実験結果を説明する, 多くの数理モデルが研究されてきたが, 1つの数理モデルで各実験結果を統一的に説明するには至っていない.一方, 視知覚を統一的に説明する枠組みとして, 場が注目されている.また, 横瀬の視覚誘導場理論によるパターン認識の可能性が示唆されていることから, 視覚の誘導場によるパターン認識が数理モデル化できれば, 各実験結果を統一的に説明できる可能性がある.本論文は, 従来の心理学的知見から誘導場によるパターン認識モデルを提案し, このモデルがパターン認知に関する複数の心理実験結果を説明できるか検証を行った.その結果, このモデルは, 複数の心理実験結果とよく合致しており, 人間が行うパターン類似性の評価に近い結果が得られることが示された.
著者
横田 雅也 築地 立家 北川 智博 諸橋 玄武 岩田 茂樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-情報処理 (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.239-246, 2001-03-01
被引用文献数
4

縦横nマスの盤面上に与えられた詰将棋で, 攻方が勝てるかどうかを決定する問題を, 一般化詰将棋問題と呼ぶ.本論文では一般化詰将棋問題が指数時間完全であることを証明した.指数時間困難さの証明は, 既に指数時間完全であることが知られている問題G_3(Provably difficult combinatorial games, SIAM J.Comput., vol.8, 1979)から対数領域還元可能であることを示した.
著者
太田 喜元 秋田 求
出版者
近畿大学生物理工学部
雑誌
近畿大学生物理工学部紀要 = Memoirs of the School of Biology-Oriented Science and Technology of Kinki University (ISSN:13427202)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-13, 2005-03-01

古代ギリシアの医師ヒポクラテス(BC460頃-377頃)は、医術に携わることを志す者が立てる誓いを定めた。「医術の神アポロン、アクレピオス、ヒギエイア、バナケイアおよびすべての神々に誓う、私の能力と判断に従ってこの誓いと約束を守ることを」という言葉で始まるヒポクラテスの誓い(Hippocratic oath)の中に、「私の能力と判断に従って患者に利益すると思う医術の療法を用い、悪くて有害と知る方法を決して用いない」という言葉がある。すなわち、生命はかけがえのないものであり、生命に加えるすべての行為から生じる利益は害悪を上回るものでなければならないということである。この誓いは、生命体に影響を及ぼす医術という行為にっいて、倫理的な配慮が必要であることを古代ギリシアの時代から医師という専門家が認識していたことを示すものである。現代に至り、生命の神秘さを遺伝子のレベルで解明し、更には遺伝子を取り出したり組み換えたりする技術を手にした科学者は、古代ギリシアの医師と同じように、生命体に影響を及ぼす行為がもたらす利益(善)と弊害(悪)のバランスについて真剣に考えねばならない。特に農作物は人類を養う食糧の根幹であって生命体に直接影響するがゆえに、その遺伝子組換えにっいては注意深い検討が必要である。また、例え善を目的として研究が行われたとしても、遺伝子組換え作物の是非に対する最終的な判断は、消費者が受け入れるか否かである。消費者がその是非についての判断を下すためには、正しい情報が消費者に提供されなければならない。特に、遺伝子組換え技術を用いて研究し、かつ学生を教育する立場にある者には、安全性や倫理的側面について十分に考え、学生の教育を通じて世の中に正しい情報を提供する責務がある。本論文では、遺伝子組換え作物とはどのようなものであるか、そして遺伝子組換え作物栽培の現状について簡単に述べた後に、遺伝子組換え作物に対する倫理的側面-特に安全性、そして将来に向けての展望-について考察する。