著者
三友 仁志
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-31, 2021-11-30 (Released:2021-12-10)
参考文献数
20

2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。
著者
加藤 健
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.82-93, 2011 (Released:2021-04-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

災害時に設置される災害対策本部には、単なる情報収集機関としてではなく、意思決定機関としての役割が期待される。災害対策本部に参集・常駐する警察、消防、自衛隊などの災害対処機関は、被災地現場において情報収集活動の中心的役割を果たす。その一方で、被災自治体の職員をみると、災害の規模に比例して、その参集率は漸減していく傾向にある。このため、災害対策本部が意思決定機関として機能するには、これら災害対処機関を基軸とする連携のあり方を考究する必要がある。これら災害対処機関は、相互に活動領域が重なり合うため、災害時には組織間連携の必然性が生じる一方で、別個の指揮系統に属しているためその調整は容易ではない。さらに災害時の連携においては、人員や構成機関が流動的になるため、意思決定機関としての役割を果たすことは一層困難なものとなる。これを解決するには、各機関同士の相互依存性を強化することよりもむしろ低減させることが重要である。本稿では、災害時の優先事項を事前にルール化した「準拠枠のルール化」の設定、さらに常駐機関の「群化」による「連携のモジュール化」を提唱している。これにより、災害時における各機関の相互依存関係を低減させ、意思決定の迅速化を図ることが可能となる。ただし、こうした連携のモジュール化が機能するためには、各機関がスムーズに情報共有を行なうことができるための共通土台の構築が必要条件となる。
著者
斉藤 剛 穂坂 衛
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.第39回, no.データ処理, pp.934-935, 1989-10-16

本報告では2次曲面の交線を求める方法を提案する。2つの2次曲面の交線を求める方法は,大別して幾何学的方法と代数的方法がある。前者は各々の曲面の型に応じた方程式を用いる。交線は,交線附近の局所的な幾何学的性質や量を用いて隣接点を逐次求めることにより得るのが一般的である。この方法では, 特異点附近でも安定していること,全ての交線が求められていることを保証しなければならない。後者は2つの曲面から線織面となるペンシル(pencil)を求め,これを用いる。交線は,ペンシルの母線と元の曲面の何れかとの交点を求めることにより得る。母線と2次曲面との交点は2次方程式の解として得られる。この方法は,エレガントであるが,線織面となるようなペンシルを求めるために4次方程式を解かなければならない。また,回転やスーリング等の座標変換および判別式による曲面形状の分類を必要とし,それらには多くの誤差を伴なう。本報告で提案する方法は,両方の良い点を取ったものである。その概要は以下の通りである。まず, 両曲面を1つの座標面に平行な面で切断する。切断面は2次曲線となる。それらの交点をペンシルを用いて求める。切断面を平行に僅かに移動した時, 切断面の2次曲線,それらのペンシルおよび交点も僅かに移動する。このペンシルの移動を「トレース」することにより,その交点の移動として交線を得る。本方式では,ある切断面でのペンシルを一度求めれば,2次方程式を解くだけで,最大4つある交点の全てが求まる。また,特異点や極値点は,ペンシルの数(3次方程式の根の数)および交点の数(2次方程式の根の数)から検査することができる。本報告では,まず, 2次曲線の交点をペンシルを用いて求める方法を述べる。次いで, 2次曲面の交線を求める方法を提案し,その例を示す。また,この応用例として2次回転体にフレット付けした例を示す。さらに,曲面上の輝度に基づいた,曲面の表示法を述べる。
著者
卯田 宗平
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.20-33, 2017-12-20 (Released:2020-11-17)
参考文献数
16

本稿の目的は,⑴中国の鵜飼におけるカワウの繁殖作業から漁での利用にいたる事例を取りあげ,漁師たちの一連の働きかけを記述・分析するための視座を提示することである。そのうえで,⑵新たに着想した視座を日本の鵜飼の事例に展開することで,ウミウに対する鵜匠たちの働きかけの論理を明らかにするものである。鵜飼とは潜水して魚類を捕食するウ類を利用した漁法である。鵜飼に従事する人たちは魚を獲るための手段としてウ類を利用している。一般に,動物を手段として利用する場合,飼い主である人間はその動物になんらかの介入をすることで人間に馴れさせ,生業活動に適した行動特性を獲得させる必要がある。その一方,人間が動物の繁殖や行動に介入し続けることで,その動物におとなしさや従順さ,攻撃性の減退といった家畜動物特有の性質を過度に獲得されても困る。このため,漁師たちは手段としての動物を馴れさせるだけでなく,逆に人間に馴れさせすぎず,野生性をも保持させなければならない。本稿では,これら2つの志向を併せもち,個々の局面に応じてその双方を使い分けながら動物とかかわることをリバランスとよぶ。そのうえで,本稿ではウ類の繁殖作業から飼育,訓練,鵜飼での利用にいたる過程に着目し,漁師たちの一連の働きかけをこの新たな視座から記述・分析をする。この作業により,本稿ではこれまで問われることがなかった鵜飼の現場における動物利用の論理を明らかにする。
著者
山梨県 編
出版者
山梨県
巻号頁・発行日
1925
著者
上村 碧 大月 友 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.387-398, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
19

本研究の目的は、セルフコントロールのメカニズムを関係反応の観点から捉え直し、実験的に検討することであった。具体的には、随伴性の特定と時間の派生的関係反応の関連、および、セルフコントロールと時間や比較の刺激機能の変換の関連を検討した。33名の小学生を対象に、関係課題によって時間や比較の関係反応の能力を測定した。また、逆転課題およびWISC-IIIの絵画配列によって、随伴性の特定を測定し、遅延価値割引質問紙やS-M社会生活技能検査へ回答を求めることによって、セルフコントロールを測定した。その結果、時間の派生的関係反応が成立した者は、不成立の者に比べ絵画配列の粗点において有意に高い得点が示された。一方で、時間や比較の刺激機能の変換とセルフコントロールの間には関連性が示されなかった。本研究の結果から、セルフコントロールを関係反応の観点から理解することの有用性と限界点、および今後の展望について検討した。

2 0 0 0 将棋月報

出版者
将棋月報社
巻号頁・発行日
no.30, 1926-09
著者
兎内 勇津流
出版者
ロシア史研究会
雑誌
ロシア史研究 (ISSN:03869229)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.3-25, 2017-05-30 (Released:2021-08-08)

It is known that the depth of the Tatar Strait passage is not enough to pass large cargo boats, and only small ships can pass through it from Okhotsk Sea to Japan Sea, or sail from these waters through Amur River to Nicholaevsk-na-Amure and Komsomol'sk-na-Amure. Against such common sense, the Soviet government planned to dredge and prepare channels in the Amur Estuary so as to make them deep enough to pass large boats such as liberty ships. It was a very hard task, and the Construction Unit no. 201 under the NKVD had organized and engaged in this work, so much work was done by prisoners. The Unit had once dissolved in 1942, but in the next year, the Unit and its work were assumed by the Kommisarriat of Sea Transportation. The channels helped to navigate many cargo boats from the United States to the ports in the Russian Far East. When World War II started, the US began to assist the Allied Powers, providing huge amount of materials useful to perform the war. After Nazi-Germany started war with the Soviet Union, the US began to assist the Soviet Union on large scale under lend-lease terms. The most used cargo route from the US to the Soviet Union was from West Coast of the US via North Pacific Ocean to Russian Far East ports, especially Vladivostok, After Japan started war with the US, Japan had limited navigation of foreign vessels through the Tsugaru Strait, so boats on this route had to pass the La Pérouse Straits or the Tatar Strait. The Japanese Navy watched the La Pérouse Strait carefully, but could not extend their eyes to the Tatar Strait and failed to grasp the situation of lend-lease aid to the Soviet Union. The Japanese government and Army had collected information on the lend-lease to the Soviet Union and analyzed it, but this was insufficient, and did not urge Japanese leaders to reconsider their hope of German victory, or later, achieving peace through the intermediation of the Soviet Union.

2 0 0 0 OA 猶太の人々

著者
安江仙弘 著
出版者
軍人会館事業部
巻号頁・発行日
1934
著者
千葉 雄介 藤原 茜
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.129-135, 2022-08-25 (Released:2022-08-30)
参考文献数
18

ヒスタミンは食品中のヒスタミン産生菌により産生されるため食中毒予防には微生物学的制御が求められる.ヒスタミン産生量は温度に影響を受けるため,食品の保存温度は4℃以下が推奨される.しかし実際には常に4℃以下を保つことは難しいことから,本研究ではヒスタミン産生菌7菌種について10℃でのヒスタミン産生能の評価を行った.緩衝液中でヒスタミン産生量の経日変化,菌数とヒスタミン産生量の相関,培地中での増殖速度について検討した.緩衝液中において増殖がない一定の条件下において5日保存してもほぼ一定量のヒスタミンを持続的に産生した.菌数とヒスタミン産生量は比例関係にあり,決定係数は0.97以上であった.また,10℃1日の保存により200 μg/mLのヒスタミンを産生するのに必要な菌量は4×107-4×108CFU/mLと算出された.また,培地中において初期菌量が102-103 CFU/mLであった場合,107 CFU/mL以上となるのに低温細菌で2, 3日,中温細菌で4日以上を要した.以上の結果から,ヒスタミン産生菌のヒスタミン産生能,増殖速度を把握することが食中毒の予防に重要であると考えられた.
著者
松沢 晃一 橘高 義典
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.80, no.707, pp.1-7, 2015-01-30 (Released:2015-03-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1

This paper reports on the influence of coarse aggregate on the fracture properties of concrete subjected to high temperatures up to 800℃. The fracture properties were evaluated based on tension-softening curves which were determined by polylinear approximation through inverse analysis of load versus crack mouth opening displacement (CMOD) curves, obtained from wedge-splitting tests using a dedicated analysis program. The follow conclusions were found in this study: The initial cohesive stress of mortar was higher than that of concrete. And the fracture energy of concrete was higher than that of mortar.
著者
長坂 猛 田中 美智子
出版者
宮崎県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

目もとへの温罨法がスムーズな入眠に与える影響を日常生活の実験で調べた。実験には20代の22名に参加してもらい、睡眠中の心拍変動と体の動きを記録した。目覚めてからのアンケートにも答えてもらった。就寝前の10分間に、暖かいアイマスクを装着する条件と、何も装着しない(対照)の2条件を設定し、それぞれ別の日に参加者の自宅で実験した。入眠直後の心拍数は、どの条件でも減少した。交感神経活性は、暖かいアイマスクを装着したときに減少した。アンケートによる主観評価の一部に差が見られたのみで、入眠までの時間に統計的に有意な差は見られず、今回の結果からは、目もとの温罨法が入眠に効果があるとは言えない。
著者
井手 隆
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.105-110, 2002-04-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

食品成分が肝臓脂肪酸酸化と合成系に与える影響をラットで系統的に追究した。大豆リン脂質は肝臓のトリグリセリド合成を著減させる。この低下は脂肪酸合成低下が主要因となり引き起こされることを明らかとした。卵黄やサフラワー種子リン脂質も同様な生理作用をもつことを示し, また脂肪酸合成低下は脂肪酸合成系酵素の遺伝子発現の変化によることも明確にした。α-リノレン酸の血清脂質濃度低下作用の発現機構に関連し, ミトコンドリアとペルオキシゾームの脂肪酸酸化系酵素の基質特異性とα-リノレン酸摂取によるβ酸化系酵素活性と遺伝子発現増加が, 大きな役割を果たすことを明確にした。ゴマに含まれるリグナンであるセサミンの血清脂質低下作用発現機構に関し, セサミンが強力な肝臓β酸化酵素の活性上昇と遺伝子発現誘導作用をもつことを示した。また, セサミンは脂肪酸合成系酵素遺伝子発現を低下させ, この低下に転写因子ステロール調節エレメント結合タンパク質-1 (SREBP-1) 遺伝子発現低下とその活性化抑制が関与することを示した。