著者
南部 稔
出版者
神戸商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成8年度〜平成10年度科学研究費研究成果報告書は6章よりなる。中国では1979年の改革・開放以来、金融改革は他の経済分野に劣らず進められてきたが、はからずも1998年のアジア金融・通貨危機のなかでその真価が問われることになった。だが、やはりその脆弱性は否めなかったものの、そこから多くを学んでいる。こうしたことをふまえて研究成果報告書の概要を紹介すると次のようになる。第1章では、建国以来の経済発展を金融動向と照らしあわせながら、時期区分をしてその経緯をたどっている。第2章では、金融改革とともにマクロ・コントロール・システムがどのように構築されていきたのかを考察している。第3章では、中国人民銀行を中央銀行にすえて、政策銀行を配備し、その周囲に国有商業銀行、一般の商業銀行、外国銀行、ノンバンクなどが整備・拡充されてきたプロセスを紹介している。第4章では、金融市場の発展について、短期市場と長期市場に分けて考察している。第5章では、中国の外国為替市場はきわめて閉鎖的であったが、1994年から為替レートが市場レートに一本化されて、管理されたフロート制がとられることになって以来の外国為替政策の展開過程について考察している。第6章では、アジア金融・通貨危機によって中国経済はどのような影響を受けたのか、それによって人民元の切り下げの可能性があるのかについて考察している。1998年に人民元切り下げの回避に成功したが、それで問題は払拭されたわけではなく、さらにWTO加盟や国際化の深化にともなって資本自由化の外部圧力も強まってこよう。そこで、中国共産党は中央金融工作委員会を設けて、金融監視体制の強化にのりだすことにした。金融システムの崩壊は国民経済を根底から破壊する恐さをアジア金融・通貨危機から認識したからである。今後の取り組みに注目したい。
著者
西本 一志
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

近年,ピアノレッスンに連弾が採り入れられ,生徒の練習意欲向や,パートナーと呼吸を合わせることによる音楽性の育成に効果が認められている.しかし子どもが,家庭内で演奏経験の乏しい家族と連弾を行うことは難しい.本研究では,演奏初心者の親が初学者の子どもと容易にピアノ連弾できるようにするシステム"Family Ensemble"を構築した.このシステムは,子どもの親が担当する連弾のパートを,正確な音高列を出力する機能と,子供の演奏位置を追跡する機能により支援することで,全くの初心者の親が,演奏誤りの多い初学者の子どもとでも連弾できるようにしたものである.技術的な核は,従来から自動伴奏システム研究で扱われている,余分な音の挿入,音高の誤り,音の脱落,という3種の誤りのほかに,突然前の部分に大きく戻って弾き直すという子供特有の誤りに対応できるロバストな演奏位置追跡機能を実現した点である.被験者実験により,全くの初心者と初学者によるピアノ連弾が可能になることのみならず,子どもの練習意欲が増すことが示された.さらに,初心者と初学者のペアでありながら,お互いに音楽的なアイデアや演奏技術について意見をかわしている様子が見られた,さらに,演奏停止時に停止箇所を楽譜上で見いだすと共に,その停止箇所以前に誤りがあったか無かったかを判定できるようにした.そのうえで,誤りがあった場合は停止箇所までのフレーズの模範演奏映像を提示し,誤りが無かった場合は停止箇所以降のフレーズの模範演奏映像を提示するシステムを考案・実装した.また,「離鍵」動作に注目した音楽表現の構築プロセスの分析研究,歌唱と並行して行うリズムタッピングにより音の区切り情報を入力する「歌唱による音楽データ入力手法」を考案し,評価を行った.以上を通じて,初心者の音楽演奏学習を総合的に支援するための基盤技術を確立した.
著者
石原 大輔 村上 直
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

昆虫羽ばたき飛行を規範とする微小飛翔ロボットの可能性は,マルチフィジクスの複雑さと加工技術の限界から未だに十分明らかになっていない.そこで本研究では,最初に,マルチフィジクス計算力学手法を開発し,それにより昆虫羽ばたき飛行の力学を精緻化した.次に,それらを用いて,昆虫羽ばたき飛行を規範とする1mmスケールのモデル翼を2.5次元設計空間内で探索し,満足解の集合(デザインウィンドウ)が存在することを示した.最後に,MEMSプロセスに基づくマイクロマシニングを開発し,それを用いて,モデル翼を実空間で作成した.以上により,微小飛翔ロボットの可能性を明らかにした.
著者
高木 芳弘 石川 潔
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究ではパルス光の照射による磁気過程の高速応答を実時間で追究することを目指している。本補助金で購入した広帯域デジタルオシロスコープを用いて時間応答と信号処理能率の改善により、光誘起スピン偏極機構の新たな解明と、合成した化合物溶液においてスピンの歳差運動によるフリーインダクションディケー(FID)を初めて観測することができた。1)磁場存在下での誘起スピン偏極の起源の解明昨年度行った酢酸銅と鉄明礬結晶における磁場下での光の角運動量を必要としないスピン偏極の生成について、その由来を明らかにした。酢酸銅は複核錯体を形成することが研究当初不可欠であると予測されたが、一方、磁場に対して同様の振舞を示す鉄明礬は単核錯体である。さらにスピン3/2のルビーでは以前に得られていた準位交叉の磁場近傍での状態混合によるスピン偏極の信号も同様の起源で説明できることがわかった。この孤立スピン系における実験的証拠から、複核形成は誘起スピン偏極の必要条件ではなく、多重度が3以上で、かつ微細構造分裂を有するスピン系で磁場の印加により状態混合を形成することが起源であると断定した。鉄三価と同じ多重度のマンガン錯塩では信号が得られないが、鉄と異なり超微細分裂が微細構造より大きく、スピン偏極を与える状態混合の形成が十分でないことに起因するとした(投稿準備中)。2)スピンの歳差運動によるフリーインダクションディケー(FID)の観測広帯域デジタルオシロスコープにより時間応答と処理速度の向上が図られ、その結果、鉄三価キレートのアセトン溶液において、励起円偏光ビームと垂直の磁場の印加によりFIDが初めて観測された。振動の周波数は印加磁場と共に増大し、歳差運動の様子が顕著に認められた。これは希釈スピン系であるルビーで古く見出されたものと異なり、高濃度の室温凝縮系での直接検出は我々の知る限り初めてである。これによってマイクロ波を使わずに任意の磁場でのパルスESRと等価な知見が得られることになる。現在詳細な実験を進めている。
著者
平井 啓久 古賀 章彦 岡本 宗裕 安波 道朗 早川 敏之 宮部 貴子 MACINTOSH Andrew カレトン リチャード 松井 淳 中村 昇太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

病原体が通常宿主特異性を持つために、宿主と病原体は頑健な宿主寄生体関係を示す。これを病態生理的発現型と見なすことができる。その特性を基盤にして、アジアの霊長類(特に多様性の高いテナガザル類ならびにマカク類)に焦点をあて、これらに感染する病原体(ウイルス(サルレトロウイルス)、細菌(ヘリコバクター)、寄生虫(マラリア原虫))との共進化を以下の項目からひもとく。(1)双方の遺伝子の分化機構を明確にする。(2)霊長類の生物地理学的分化との総合的見知から、病原体と宿主霊長類の双方の進化史を描く。(3)宿主応答機構ならびにゲノム内分化機構から宿主寄生体関係史を遺伝生理学的に明らかにする。
著者
新谷 尚弘 五味 勝也 藤田 翔貴 竹越 祐太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

酵母はパンの製造やアルコール発酵に用いられる微生物である。酵母は環境中にグルコースが存在すると、乳酸やピルビン酸の取込みを制限する。その機構の一つにモノカルボン酸輸送体Jen1のグルコース誘導性のエンドサイトーシスを介した分解(グルコース不活性化という)が挙げられる。Jen1のグルコース不活性化はRsp5-Rod1ユビキチンリガーゼ複合体によるユビキチン化が引き金となり起こる。私たちは、Jen1のC末端の20アミノ酸の領域がRsp5-Rod1複合体によって認識され、膜輸送体のグルコース不活性化を引き起こすのに十分であることを明らかにした。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

ステロイドホルモン核内受容体群はリガンド誘導性転写制御因子である。ステロイドホルモン作用発現を理解する上で、これら受容体の性状を明らかにすることは必須の課題である。特に核内受容体の主たる機能である転写促進能の機構は、主としてトランスフェクション転写系により詳細な解析が行なわれてきたが、今尚不明な点が多いのが現状である。特に核内受容体の標的エンハンサーは数多くのコンセンサス配列の同定が行なわれてきたが、核内受容体タンパク群の共通機能の理解に比較し、今だに統一的な法則が得られていない。我々はすでにオバルブミン遺伝子5′上流に新しいタイプのエストロゲン応答配列(OV-ERE)を見出した。OV-EREは、従来知られていたエストロゲン応答配列とはDNA構造が大きく異なりむしろレチノイン酸(RAR、RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的配列に近い構造であった。そこで本来のOV-ERE配列とともに合成DNAを用いた人工的な配列を用い、エストロゲン受容体(ER)、RAR、RXR、TR、VDR、による転写促進能を調べた。その結果従来より知られていたコンセンサス配列の他に、TRを除く他の核内受容体すべての標的エンハンサーになりうる配列を見出した。これらの知見が、トランスフェクション転写系(CAT assay)によるものであったので、次にin vitro DNA結合実験(ゲルシフト法)により受容体とDNAとの結合能を調べた。その結果転写促進能とほぼ比例して各受容体はDNAと結合することがわかった。以上の結果からある種の標的エンハンサーは一種の受容体のみならず複数の受容体によりその機能が調節されることがわかった。このことは、ステロイドホルモンや脂溶性ホルモン間のクロストーク機構の一端を明らかにするものであった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1993

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにする目的で以下の2点に絞り研究を進めた。1.核内受容体標的エンハンサー配列認識の特異性と非特異性我々はすでに従来より知られてきたコンセンサスエストロゲン応答配列(ERE)とは全く異なるタイプのERE(OV-ERE)が、主要卵白タンパクであるオバルブミン遺伝子プロモーターに存在することを証明した。OV-EREでは多くの核内受容体の標的結合部位であるAGGTCAモチーフが計4個互いに100bp以上も離れて存在していた。そこで、ERのOV-ERE認識の特異性を検討する目的で、2個のAGGTCAモチーフ間のスペースが離れた配列への各核内受容体(VDR,TR,RAR,RXR)の標的特異性を調べた。その結果、2つのモチーフ間のスペースが狭い場合には標的特異性が現れるのに対し、スペースが広い(10bp)場合には、特異性が消失することを見出した。また、この際、DNAに高次構造の変化が生じることも見出している。2.核内受容体群の発現調節レチノイド受容体(RAR,RXR)遺伝子群の発現に及ぼすビタミンA、ビタミンD、甲状腺ホルモンの効果を調べた結果、RXRbetaは正、RXRgammaは負に甲状腺ホルモンによって制御されることを見出した。このことは、核内受容体遺伝子自身の発現が関連するリガンドによって制御される複雑なネットワークが存在することを示したものである。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内受容体群は、一つの遺伝子スーパーファミリーを形成するため、互いに構造・機能が類似している。これら核内受容体群は、そのリガンドの知られたものの他に、リガンド不明のいわゆるオ-ファン受容体の存在が知られている。オ-ファン受容体の中には、未だ同定されていない脂溶性生理活性物質がリガンドとして働く可能性が考えられており、これら新規脂溶性生理活性物質が同定されると、オ-ファン受容体を介する新たな情報伝達機構が明らかにされるばかりでなく、既存の情報伝達系への関与が明確になると考えられている。本研究では、特に生理活性体の他、代謝誘導体の多いビタミンA、Dに着目し、これら既知の核内受容体cDNAを用い、関連受容体の検索を、ラット各臓器由来のcDNAライブラリーより検索した。その結果、数種のオ-ファン受容体を見出したほか、新たなビタミンD受容体アイソフォーム(VDR1)を見出した。VDR1は野性型(VDR0)に対し、その機能を負に制御するdominat negative型のアイソフォームであることが明らかになった。更にラットVDR遺伝子構造を解析した結果VDR1は、イントロン8がalternative splicingの際、残された(intron retentin)結果生じるアイソフォームであることが証明できた。現在までに、VDRにはアイソフォームの報告はなく、ビタミンDに多くの活性体が存在する事を考えあわせると、VDR1は、これらの一つをリガンドとする可能性が予想された。また同様の手法を用い、今回取得されたオ-ファン受容体の性状を解析している。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

核内受容体による転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内受容体の組織特異的転写調節機構の解析核内受容体のAF1の活性は一般に組織特異的かつ構成的であるが、この機構を明かにする目的でこの領域をリン酸化するキナーゼに着目した。今回は、AF1のリン酸化が転写活性を調節することが明らかにされERAF1のリン酸化について詳細に解析した。まずリン酸化部位がMAP kinaseのコンセンサス配列であることから、大腸菌で大量合成したERのAB領域タンパクを用いアフリカツメガエル胚より精製した活性型MAP kinaseによるリン酸化を検討したところ、セリン118が特異的にリン酸化されることを見いだした。次にリン酸化の転写活性への効果を検討する目的で、MAP kinaseの上流に存在するRas cDNAを導入したところ、AF1の転写促進能が増強されることがわかった。2)核内受容体の標的配列認識の特異性AGGTCAモチーフはレチノイン酸(RAX,RXR)、ビタミンD(VDR)、甲状腺ホルモン(TR)受容体の標的エンハンサー配列の基本モチーフであり、2個のDirect Repeat型(DR)のAGGTCAモチーフ間の距離を変えることで、標的特異性が生じる。今回はこのモチーフを3個並べた時のDRの標的特異性をCAT assayと精製受容体を用いたin vitro DNA結合実験により調べた。その結果モチーフを3個並べた時には従来報告に有るような標的特異性は消失することがわかった。この他にもいくつかの標的遺伝子のリガンド応答配列の同定、性状を明らかにした。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂溶性ホルモンおよび脂溶性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化、増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。本研究では核内レセプターによる転写制御を分子レベルで明らかにすることを目的に複数の視点から解析を進めた。1)核内レセプター転写促進に関わる共役転写因子の検索および同定核内レセプターには転写を促進する領域が2箇所存在(AB,E領域)し、各々組織特異的な機能を有することが知られている。そこでビタミンD(VDR)、エストロゲン(ER)、アンドロゲンレセプター(AR)のAB,E領域を酵母転写制御因子GAL4のDNA結合領域に連結し、このキメラタンパクを用い、各領域特異的に作用する共役転写因子をYeastを使ったtwo hybrid systemにより哺乳類cDNAライブラリーから検索した。その結果各々有望な10数個のクローンを得ることに成功した。現在これらクローンについて解析を加えている。2)核内レセプターと基本転写因子との相互作用の検討上記のGAL4とのキメラタンパクあるいはfull length VDR, ER, ARやその欠失タンパクを大腸菌発現ベクターに組み込み、各種タンパクの発現に成功した。また既に得られているTFIIBタンパクとの相互作用を検討する系の確立を行なった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ステロイド・甲状腺ホルモン核内レセプター群はリガンド依存性転写制御因子であり、リガンドである脂容性ホルモン及び脂容性ビタミンの信号を遺伝情報に伝達する。このような核内レセプターを介する情報伝達系は組織の分化・増殖に代表される高次生命現象の制御に中心的な役割を果たしている。従ってこれら核内レセプター群の共通する情報伝達経路や各レセプター固有の情報伝達経路間でのクロストークを明らかにすることは核内レセプターを介する情報伝達機構を知る上で必須の課題である。核内レセプター研究に標的遺伝子組換え技術が導入された結果、当初予想もされなかったレセプターの機能が浮き彫りにされるようになってきた。そこで当研究室ではVDR遺伝子欠失マウスを作製した。1)VDR遺伝子欠失マウスの作製 VDR遺伝子欠失ホモ接合個体を作製した。続いて常法に従い標的遺伝子のゲノム解析や発現量を解析している。またVDR欠失に伴い現われる骨組織や、腎臓での機能障害を調べる。また発生初期や胎児での骨形成について詳細な解析を加える。2)RXR-VDR2重欠失マウスの作製 RXR、VDRホモあるいはヘテロ結合個体を交配させることでRXR-VDR2重欠失マウスを作製する予定である。RXRβ,γ欠失マウスは既にフランス・ルイパスツール大・医・P. Chambon教授より供与された。
著者
加藤 茂明
出版者
東京農業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ステロイド、甲状腺、ビタミンA,Dなどの脂溶性生理活性物質をリガントとする核内レセプターは、ひとつの遺伝子スーパーファミリーを形成する。核内レセプターはリガンド依存性転写制御因子であることから、リガンドの信号を遺伝子情報に伝達する最も重要な分子である。したがって、新たな核内レセプターの同定や、未知リガンドの同定は、直ちに新しい情報伝達系の発見につながるため、新規核内レセプターやそのリガンドの検索は極めて有意義であると考えられる。我々は核内レセプタースーパーファミリー内で最も相同性の高い領域をプローブとして新規核内レセプターを種々の臓器由来のcDNAライブラリーを検索し、未だに報告のないタイプのビタミンDレセプターの同定に成功した。特に、ビタミンDレセプターの異なる分子種(VDRアイソフォーム)を同定した。そこで本研究では、VDRアイソフォームのビタミンD情報伝達機構における機能およびそのリガンドの同定に焦点を絞り、研究を進めた。このVDRアイソフォームは今まで知られていたVDR遺伝子のエキソン8と9の間のイントロンがそのままエキソンとして用いられているものであることを、既にVDRcDNA,VDRゲノム構造の解析から明らかにしている。また、このイントロンの挿入によりVDRアイソフォームタンパクは既知VDRのC末端側が欠落することを明らかにした。さらに、このVDRアイソフォームを動物細胞内発現ベクターに組み込み、既に我々が報告しているようなin vitro解析により、転写促進能を調べたところ、dominant negative typeのアイソフォームであることを明らかにした。また、大腸菌内発現にも組み込み、大量合成を行ない、各種ビタミンD類縁体との結合能を調べている。また、このアイソフォーム特異的なcDNAを用い、Northern blot解析を行ない。このアイソフォームmRNAの発現が数多くのビタミンD標的器官でみられた。
著者
加藤 茂明 今井 剛
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内レセプタースーパーファミリーは、リガンド誘導性転写制御因子であり、リガンド結合依存的にリガンドのもつ信号を遺伝情報に伝達する。核内レセプターが基本転写因子群とともに転写を促進する際には、これら2者間を機能的に介在し、両者に直接結合されている転写共役因子群の存在が知られている。更に現在までに同定されている転写共役因子と核内レセプターの相互作用は、リガンド活性とほぼ相関することもわかっている。そこで本研究では、核内レセプターによる転写促進能の分子メカニズム解明を目的に、核内レセプターと相互作用する新規共役因子を検索した。またリガンド結合によるレセプターの立体構造変化の可能性についても探った。その結果、ビタミンDレセプター(VDR)に特異的に相互作用する転写共役因子の同定に成功した。これらの因子は核内カルシウム結合タンパクであり、またVDRとの相互作用はカルシウム存在量によって左右されることがわかった。現在これら新規因子と、既に同定されている共役因子群との相互作用についても現在解析しているところである。また同様にエストロゲンレセプター、ミネラルコルチコイドレセプターとの共役転写因子群の同定を急いでいる。またエストロゲンレセプターのリンガド結合による構造変化を調べたところ、レセプターN末端とC末端が、リガンド依存的に相互作用し、かつこの相互作用には共役因子が関与することが明らかになった。
著者
尾形 悦郎 柳澤 純 市川 智彦 名和田 新 首藤 紘一 梅園 和彦 加藤 茂明 大薗 恵一
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

ホルモン療法における作用機序及び耐性化の機序につき検討し、以下の結果を得た。1.ステロイド・ホルモンによる遺伝子抑制の機序をVDとPTHrP遺伝子とを例に検討し、PTHrP遺伝子上の責任promoter構造を決定。ついでそこにVDRとKu抗原が結合すること、Ku抗原によるVDRのリン酸化が抑制の作用機序である可能性を示した(尾形)。2.オーファン・レセプターとしてTixを新たに単離・同定した。Tixが神経芽細胞腫や結腸癌に発現すること、これの過剰発現が細胞増殖を強く誘導することを示した(梅園)。3.RAR・RXRに比較的特異的に結合・作用する薬物を合成し、それによりRAR・RXRの機能の解析を行った(首藤)。4.白血病細胞のグルココルチコイド抵抗性との関係で、PPARγの発現が極めて高いこと,増加が認められるGRβは核内で機能することを観察した(名和田)。5.ホルモン療法抵抗性前立腺癌の14%にAR遺伝子codon877の点突然変異を見出しこの変異を持つ癌細胞がアンチアンドロゲンによっても増殖刺激を受けることを示した(市川)。6.ビタミンD作用に拮抗する新規化合物(TEI9647)について検討し、これがVDRと結合し、そのco-activatorとの作用を阻害する可能性を示した(大薗)。7.乳癌患者に化療を施した場合のestrogenレベルの動態を明らかにした(堀越)。8.核受容体をめぐるステロイド・ホルモンと成長因子・サイトカインとの間のクロス・トークの例としてERがMAP-kinaseによりリン酸化され、AF1の転写活性が高まることを示し、このためのco-activatorの候補として68KD蛋白を見出した。また、TGFβの作用に関与するSmad蛋白がVDRと相互作用し、VDRの転写活性を増強することを見出した(柳澤)。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

脳神経の可塑性は数多くの要因によって引き起こされている。その1つに脳の男性化と女性化を引き起こす性ホルモンが挙げられる。性ホルモンであるアンドロゲン(男性ホルモン)やエストロゲン(女性ホルモン)はこのような脳の性分化のみならず、性行動など脳の高次機能にも重要な働きをすることがわかっている。これら性ステロイドホルモンの分子作用メカニズムは、これらのホルモン特異的な核内レセプターを介した標的遺伝子群の発現制御であることがわかっている。そこで本研究では神経可塑性をステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、まず脳で特異的に発現し、性分化を規定すると想定される性ステロイドホルモン1次応答標的遺伝子群の検索・同定を試みた。具体的には周生期もしくは性ステロイドホルモン処理したラットを用い、脳からホルモンに応答する遺伝子cDNAを、PCRを利用したDifferential Display法にて検索し、有望な数クローンを得た。現在これらcDNAクローンの全長cDNAの単離、及びこのcDNAクローニンがコードするタンパクの性状を解析しているところである。またこれらのクローンした因子の中で、特に脳の高次機能に関与していると想定されるものについては、ノックアウトマウスの作出を行い、in vivoでの機能を同定する予定である。一方昨年度、従来のエストロゲンレセプター(ERα)に加え、第2のER(ERβ)が発見されたため、脳内での各部位でのERα、ERβの発現を調べた。その結果、ERβは大脳皮質など、"新しい脳"に、ERαは下垂体など"古い脳"に発現していることがわかった。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ビタミンDはカルシウム代謝に中心的な役割を果たし、更に細胞分化・増殖、また癌化などにも深く関与することが知られている。同じビタミンであるビタミンAをリガンドとするレセプターには、RAR(α、β、γ)、RXR(α、β、γ)などがあり、リガンドに対し複数のレセプターが存在する。しかしながら、ビタミンDではそのレセプターはVDR1種のみが報告されており、数多く生体内に存在するビタミンD類緑体群を考えると、VDR1種のみでは十分その生理作用を説明することができない。本研究では、VDRと類似したオ-ファンレセプターを探す過程で見出したVDRアイソフォームVDR1の機能解析と、他のビタミンD類緑体との関連を探った。その結果、VDR1は本来のビタミンDレセプター(VDR0)mRNAのスプライシングによって生じるアイソフォームであり、いわゆるイントロンがスプライトアウトされないものであった。このイントロン中には終止コドンが存在するため、VDR1タンパクはC末端に存在するリガンド結合領域を大半失っており、活性型ビタミンD[1α、25-(OH)_2D_3]では結合せず、逆にVDR0の転写促進能を阻害するいわゆるドミナンドネガティブ型のVDRであることがわかった。そこで更にビタミンD関連化合物、また未然の類似体による転写促進能を調べたところ、いずれもVDR1による転写促進能を活性化することはできなかった。一方、VDR1の標的エンハンサー配列を各種ビタミンD応答配列を用い、VDR0に比較したところ、いずれも差異が認められず、同じ配列を認識すると考えられた。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では神経可塑性を性ステロイドホルモンによる脳の性分化という側面から捉え、以下の3点に焦点を当て、特に脳で特異的に発現する性ステロイドホルモンの1次標的遺伝子群の検索を試みた。1)脳内で特異的に発現する性ステロイドホルモン標的遺伝子群の検索:出生直後の実験動物に大量の性ステロイドホルモンを投与すると、その後の性行動に性転換が見られる。そこでこのような性ステロイドホルモンの効果が見られる胎児あるいは出生直後のラットを用い、大量の性ステロイドホルモン投与直後の脳より、急速に誘導される標的遺伝子群をDifferential Display法(D.D.法)にて検索した。同時にこの時期での野生型ラットを用い、雌雄いずれか特異的に発現する遺伝子を同様の手法で検索した。得られたcDNAクローンは定法に従い、コードするタンパクの機能や脳内での局在をin situ法などにより調べた。2)新たなエストロゲンレセプター(ERβ)の脳での発現部位の同定:既知のエストロゲンレセプター(ERα)の発現部位は、視床下部、下垂体等に限定されており、内分泌系でのエストロゲン作用を裏付けるものであった。そこで既にPCR法によって取得したラットERβcDNAを用い、脳の各部位での発現を検討した。3)脳特異的な核内レセプター共役転写因子の検索:核内レセプターは転写制御因子として作用する時には、いわゆる共役転写因子とともに転写制御を行うと考えられる様になってきている。そこで脳特異的な核内レセプター共役因子を、ER及びアンドロゲンレセプター(AR)をプローブに酵母two-hybridシステムにより脳由来cDNAライブラリーより検索した。
著者
藤井 義明 半田 宏 加藤 茂明 石井 俊輔 鍋嶋 陽一 山本 雅之 岩渕 雅樹 梅園 和彦
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

平成13年度の取りまとめの期間を除く実質4年間に発表された論文数は900報になり、一論文当たりの平均インパクト係数は8.3で、数値の上からも本研究は遺伝子発現の研究領域に実質的な貢献を果たしたものと考えられる。研究はA)転写因子間の相互作用と機能発現の分子機構。B)転写因子の標的遺伝子及び生物作用の個体レベルでの解析の2つの柱のもとに行われ、総括班はこれらの2つの研究の連絡、調整及び研究成果の発表等を行なった。主な研究成果は次の通りである。基本転写因子TFllH、TFllEなどの複合体のサブユニット構造をリコンビナントタンパク質より再構成により確立したこと。転写伸長反応にも正負の調節機構があり、その調節因子群を遺伝子クローニング法によって明らかにし、それらの作用機構を解明したこと。転写共役因子については新しい共役因子MBF1、UTF1を発見し、これまで癌遺伝子として知られていたSkiが抑制的な転写共役因子として働くことを示した。また広範な転写因子の共役因子として働くCBPについてはさらにGLl3、AhR/Arnt、HlF-12、lRF3などにも共役因子として働くことやβ-カテニンと結合してPML複合体に局在することやCBPとP53の相互作用をβ-カテキンが阻害して、P53の転写活性を抑制することを示した。転写因子と結合して、その活性あるいはタンパク質の濃度を調節する因子としてHSP90他にKeap1を発見し、Nrf2r転写因子の調節に働くこと、そのKOマウスを作り、機能を詳細に検討した。また、こと、幹細胞の末分化状態の維持に抑制性の転写因子Hes5、Hes3などが働いていること、多数の転写因子の構造と機能が遺伝子クローニング及び培養細胞での発現や遺伝子欠失動物の作製によって明らかにされた。
著者
藤井 義明 萩原 正敏 加藤 茂明 審良 静男 久武 幸司 半田 宏 大熊 芳明 上田 均 箱嶋 敏雄 梅園 和彦
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本計画研究班の研究課題は、転写因子も含めて転写因子間の相互作用が最終的に遺伝子発現としてどのようにアウトプットされるかというメカニズムを分子のレベルで解明することを主な目的としている。Preinitiation complexの構成成分であるTFllHの9つのsubunitsをリコンビナントDNAを用いて発現させ、再構成に成功し、各々のサブユニットの機能を検討する系が確立された。またこの系を用いてERCC3のヘリカーゼ活性が転写活性化のプロモーターエスケープの段階に重要であることを示した。転写伸長反応もDSlFとNELFの抑制とpTEFbとFACTの活性化系によって精密にコントロールされていることが明らかにされた。DSlFの一つサブユニットp160のC末端の変異はゼブラフィッシュでは神経の発達異常を引き起こすことが分かった。広範な転写因子の共役因子として働くcbpについては、さらにgi3,AhR/Arnt,HlF-1α,lRF3などの共役因子として働くことやβ-カテニンが阻害して,P53の転写活性を抑制することを示した。2ハイブリッド法によってMBFl,UTF1,P68/P72が各々転写因子FT2-F1,RAR,ERα,βの転写共役因子として働くことを明らかにし、その構造を決定した。ノックアウトマウスを作製することによってAhR,AhRR,STAT3などの機能解析を行なった。