著者
木村 直弘 KIMURA Naohiro
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.37-66, 2009

日本人はいったいいつ頃から大声をあげて突くことを慎むようになってきたのであろうか。 現代日本の葬儀において,たとえば「働芙」といった言葉からイメージされるような大仰に声を挙げる突きを見聞きすることはあまりない。一方中国人や韓国人の悲哀の表現には依然として声を張り上げた「突き」が存する。こうした差異は,短絡的に情緒面の民族的差異へと還元されがちである。しかし儒教社会における葬儀で「突き」は必須の儀礼的アイテムであり,それは単に感情的に悲しいから自然と号泣するというレベルではなく,「突」すなわち意識的に大声を発することが必要となる。それは単に声を出すだけに留まらない。『礼記』檀弓篇下に「騨踊,哀之至也」とあるように,胸を叩く「騨」や足踏みをする「踊」は,葬儀における最も深い哀悼の意の表現とされた。しかし,それに続けて「有算,為之節文也」とあるように,その表現の度合いは必ず適切に調節されねばならない。母が死んだため子供のように泣く者を見ての孔子の言「哀別哀臭,而難馬纏也。夫薩,為可博也,為可継也,故実踊有節」(『礼記』檀弓篇上)からもわかるように,巽も踊もあくまでも後々まで伝えられるべき礼であるため節度が必要とされた。しかし日本においては,節度ある(あるいはコントロールされた)「突き」は却ってわざとらしいものとしてネガティヴに捉えられる。それはあくまでも表出されることを慎まれる,つまりは音声として公に発せられない方が節度があると見倣されるのである。 民俗学者柳田囲男は,昭和15年8月7日「国民学術協会公開講座」での講演をもとに昭和16年8月に上梓されたエッセイ「沸泣史談」で,日本人が近年大人も子供もめったに泣かなくなったことに着目し,その原因について考察している。柳田によれば,言語を唯一の表現手段と考えがちな「学問の化石状態」下にあって,「泣く」という行為が言葉を用いるより簡明かつ適切な自己表現手段であったことが忘れられ,このような思考は「新たに国の進路を決しなければならぬ当代に於ては,殊に深く反省して見るべき惰性又は因習」(1)である。この国で少なくとも人前でおおっぴらに泣くことが悪徳であるかのように言われ始めた時期を柳田は中世以降と推察し,こうした行為が社会から排斥されるようになったのは,江戸時代の義太夫等に聴かれる働笑の声のように,泣くことが表現方法として非常に有効であり「乱用の弊」があったからとも考えられるとした。そもそも「男は泣くものではない」といった教訓は逆に「女ならば大人でも泣くべし」という理解が人口に胎灸していたからだというのである。大人による表現としての泣きの用途として柳田が挙げているのは,「デモンストレエション(demonstration)」と「ラメンテエション(lamentation)」である。前者は,夫婦喧嘩の際等で,大きな声を立てることによって周囲の注意を喚起し,第三者の公平な判断を味方につけようとする用途であり,後者は神や霊を送る時の方式で,いわゆる儀礼的泣きである。たとえば三月の節句での雛送り(流し雛),盆の十五日の魂送り,あるいは葬式における「泣き女」といった風習からも看取されるように,泣きは,行事に欠かせない慣習的約束事であった。盆や葬式においては,死者との別れといった感傷を伴うため,実感がこもった心からの泣きとの区別がしにくいわけだが,柳田によれば,そこに言語的混同が生じた原因がある。つまり,忍び泣きと呼ばれるナク(「涙をこぼす」「悲しむ」「哀れがる」等)と,表現手段としてのナクとは単語が同じでも全く別種のものであるとされる。
著者
Tatsunori Nakagawa Yuki Tsuchiya Shingo Ueda Manabu Fukui Reiji Takahashi
出版者
Japanese Society of Microbial Ecology · The Japanese Society of Soil Microbiology
雑誌
Microbes and Environments (ISSN:13426311)
巻号頁・発行日
pp.ME18103, (Released:2018-12-01)
被引用文献数
16

Nitrous oxide (N2O) is a powerful greenhouse gas; however, limited information is currently available on the microbiomes involved in its sink and source in seagrass meadow sediments. Using laboratory incubations, a quantitative PCR (qPCR) analysis of N2O reductase (nosZ) and ammonia monooxygenase subunit A (amoA) genes, and a metagenome analysis based on the nosZ gene, we investigated the abundance of N2O-reducing microorganisms and ammonia-oxidizing prokaryotes as well as the community compositions of N2O-reducing microorganisms in in situ and cultivated sediments in the non-eelgrass and eelgrass zones of Lake Akkeshi, Japan. Laboratory incubations showed that N2O was reduced by eelgrass sediments and emitted by non-eelgrass sediments. qPCR analyses revealed that the abundance of nosZ gene clade II in both sediments before and after the incubation as higher in the eelgrass zone than in the non-eelgrass zone. In contrast, the abundance of ammonia-oxidizing archaeal amoA genes increased after incubations in the non-eelgrass zone only. Metagenome analyses of nosZ genes revealed that the lineages Dechloromonas-Magnetospirillum-Thiocapsa and Bacteroidetes (Flavobacteriia) within nosZ gene clade II were the main populations in the N2O-reducing microbiome in the in situ sediments of eelgrass zones. Sulfur-oxidizing Gammaproteobacteria within nosZ gene clade II dominated in the lineage Dechloromonas-Magnetospirillum-Thiocapsa. Alphaproteobacteria within nosZ gene clade I were predominant in both zones. The proportions of Epsilonproteobacteria within nosZ gene clade II increased after incubations in the eelgrass zone microcosm supplemented with N2O only. Collectively, these results suggest that the N2O-reducing microbiome in eelgrass meadows is largely responsible for coastal N2O mitigation.
著者
松原 哲
出版者
日本私法学会
雑誌
私法 (ISSN:03873315)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.57, pp.225-231, 1995-04-20 (Released:2012-02-07)
著者
服部 剣仁矢
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-193, 2018-03-25

首都大学東京, 2018-03-25, 博士(文学)
著者
土佐 朋子
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.77-94, 2017

『懐風藻』所収の大津皇子臨終詩には、複数の類型詩が指摘されている。場面および詩句の構成と表現において、強い類型性が確認されるそれらの臨刑詩は、人々の想像力が生み出す稗史の中に発生し伝承されたと考えられる。個別具体的な生と死のありようが捨象されて用いられる汎用性の高さから、特定個人の臨刑詩の継承ではなく、臨刑詩すべてに先行して、刑死者の最期を飾る決まり文句が存在し、知識人の悲劇を語る口承文芸の中で繰り返し活用され、再生産されたものと推定される。
著者
増田 知之 小関 美咲 邵 宇晨 加藤 隼平 山中 敏正
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. EC, エンタテインメントコンピューティング = IPSJ SIG technical reports (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.9, pp.1-5, 2018-03

近年,スマートフォンの普及により,誰もが手軽に自撮りできるようになり,その自撮りした写真をアプリで加工し ( 「盛り」 と呼ぶ),ソーシャル ・ ネットワーキング ・ サービスにアップすることが流行している.「盛り」 の要素の 1 つである 「色味」 には性差が存在することが報告されたが,他の要素については不明である.そこで本研究では,盛りの要素の中で最も代表的な要素である 「目」 に着目した.20 代平均顔の目に対して盛りを段階的に施し,20代の男女55名を対象に,その盛る量 (加工量) と魅力度の関係を調べた.その結果,目に盛る量と魅力度評価には,性別や生活環境 ・ 地域の違いで有意な差がみられなかった.以上の結果より,目に盛る量に関しては,性別・ 生活環境を問わず日本の若者に共通した感性が存在することが示唆された.
著者
佐藤 将
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1.研究目的と分析方法<br>これまで都心部での地価の高さから郊外部に住居を構える子育て世帯が多かったが,バブル経済の崩壊以降は都心近郊に居住する子育て世帯が多くなり,居住選択の多様化がみられるようになった.このように住宅すごろくが変化する中でこれまでの進学・就職時点での居住地選択の研究に加え,子どもを出産した時点での居住地選択を把握する必要もでてきた.報告者はこれまで出生順位ごとの子どもの出産時点での居住地分析から子育て世帯のライフコースごとの居住地動向の把握に努めたが,全体での把握に過ぎず,さらに属性を分解して分析を進める必要が出てきた. そこで本発表では首都圏の対象は特別区に通勤・通学するする人の割合が常住人口の1.5パーセント以上である市町村とこの基準に適合した市町村によって囲まれている市町村とし,その上で0歳児全体を分母とした子どもを出産した時点での核家族世帯数を出生順位別かつ子育て世帯を専業主婦世帯と共働き世帯に分けて市区町村ごとに分析し,居住地選択の地域差について検討した.<br>2.分析結果<br>第1子出産時点の居住地分布について専業主婦世帯では都心中心部で低い一方,特別区周辺の市区において高いことがわかった(図1).共働き世帯では都心中心部で高く,さらに中央線,南武線,東急東横線沿線地域においても高いことがわかった(図2).第2子出産時点の居住地分布について専業主婦世帯では第1子の専業主婦世帯で高かった地域に隣接した地域において高く,共働き世帯では都内および郊外周縁部において高いことがわかった.<br>3.まとめ<br>分析結果を踏まえて出生順位ごとの居住地選択選好の特徴を考察する.第1子出産直後の専業主婦世帯は久喜市,茅ケ崎市と都心から距離がある地域でも高いことから子育て環境を重視した居住地選択をしているといえる.一方,共働き世帯は都心または都心アクセスの容易な沿線が高いことから,交通の利便性,都心への近さを重視した居住地選択をしているといえる.第2子出産直後の専業主婦世帯は第1子と比較して居住地選択が類似あるいは隣接地であることから第1子を出産直後から居住またはより良い住宅環境を求め,近隣から引っ越してきた世帯が多い地域であるといえる.共働き世帯は都心,郊外周縁部ともに職住近接を要因とした居住地選択をしているといえる. このように専業主婦世帯と共働き世帯にわけて居住地選択を見ることで子育て世帯の地域ごとの特徴をつかむことができた.
著者
須永 哲思
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.415-426, 2015

&emsp;本稿では、郷土教育全国協議会・桑原正雄と歴史教育者協議会・高橋磌一の間で1950年代後半に行われた論争について、1950年代前半の小学校社会科教科書の共同執筆に具体化されていた提携関係が対立的な論争へと進展していく過程・要因を、チンドン屋をめぐる教材に着目しながら検討した。そして、桑原が主張した「郷土教育」とは、親の社会生活の個別具体性・多様性を重視する側面と、それを資本の働きという生活に内在する構造連関として系統化する側面を、同時に両立しようとする試みであったことを明らかにした。
著者
加藤 諦三
出版者
金子書房
雑誌
児童心理 (ISSN:0385826X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.1008-1014, 2018-08
著者
大槻 知明
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.24-29, 2017-06-01 (Released:2017-06-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

総人口の1/4以上が65歳以上の日本では, 高齢者の一人暮らしも多い. 高齢者も安心して暮らせる安全・安心な社会の実現は, 日本の喫緊の課題である. 65歳以上の高齢者の事故発生場所は, 住宅が最も多いことが知られている. 家庭内での見守りは, 生活空間での見守りであり, 特にプライバシーの保護が重要である. そのため, カメラなどの導入は好ましくない. プライバシーを保護しつつ家庭内での見守りを実現する技術として, 近年, 電波による見守り技術が注目されている. 電波による見守り技術は, 電波センサとも呼ばれている. 電波センサは, 人の存在や人の行動による電波伝搬の変動に基づき人の存在や人の行動を検出する. 電波センサは, カメラのような映像によるプライバシー侵害の心配がないため, 家庭への導入が期待されており, これまでに種々の電波センサが報告されている. 本稿では, 代表的な電波センサの幾つかを紹介する.
著者
片岡 義晴
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.297-317, 1993-12-31

本稿は, 高級茶とされる玉露の主産地構造の変容を, 福岡県黒木町の集落共同製茶を事例として, そこで顕在化している問題点の検討によって明らかにすることを目的とする. 1970年代後半以降, 茶価格が低迷する中で, これまで形成されてきた主産地は変容をせまられ, 茶生産農家の対応は分化し, 同時にこれまでの主産地化を一方で支えてきた共同製茶も変化せざるをえなくなっている. まず第1に, これまで玉露生産の基盤となってきた摘採労働力が不足し, 農家はせん茶生産に移行せざるをえなくなっている. しかしせん茶拡大にはある程度の面積規模が必要とされるが, 山間地に位置する同町では規模拡大が可能な農家と, 不可能な農家が生まれ, さらに茶価格の低迷によって農家経営は分化している. そのタイプは, 茶拡大型, 他作目移行型, 停滞型, 兼業依存強化型, 老齢化衰退型に分類できる. 第2に, こうした分化が, せん茶生産移行と機械摘採の一般化, 茶樹品種の統一化などとあいまって, 加工期間の短期化と大量化をもたらし, これまで玉露加工を前提とした共同製茶工場設備との矛盾を生み, 分化しつつある農家間の利害対立は激化している. こうした中で小規模農家の一部は農業部門維持をあきらめ共同製茶から脱退し, また茶拡大農家の一部も生産拡大をより確実にするため, 集落の農家により構成される共同製茶から脱退し, 従来の集落共同製茶は分解していった. 第3に, しかし加工労働力不足とその高齢化によって, 残存農家による共同製茶維持も困難になりつつある. とはいえ, 茶拡大型農家にとっても茶専業で農業経営可能な面積規模はなく, 大半の農家にとっては, 共同製茶工場は農家経営上欠くことのできない存在である. こうした分化した農家が共同製茶を必要とすればするほど, 共同製茶工場の矛盾はそれだけ大きくならざるをえなくなっている.