- 著者
-
伊藤 剛
中村 佳博
- 出版者
- 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
- 雑誌
- 地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.4, pp.383-396, 2021-10-13 (Released:2021-10-20)
- 参考文献数
- 33
- 被引用文献数
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栃木県足利市名草には,足利岩体と呼ばれる黒雲母花崗閃緑岩が分布する.本論では,この黒雲母花崗閃緑岩とその周辺のジュラ紀付加体足尾テレーン構成岩類の記載を行う.黒雲母花崗閃緑岩は,等粒状組織を示す.主要構成鉱物は石英,斜長石,カリ長石,黒雲母である.周辺の足尾テレーンの構成岩類である泥岩やチャートは,黒雲母花崗閃緑岩の貫入によって明瞭な接触変成作用を被り変成泥岩や変成チャートとなっている.また,足利岩体から1.5 km以上離れた地点のチャートから,放散虫化石が得られた.1試料からはPseudoristola sp.やArchaeospongoprunum sp.が得られており,その年代は前期ジュラ紀のプリンスバッキアン期~トアルシアン期前期を示す.また,別の1試料からは,主にジュラ紀から白亜紀に産出する放散虫である閉球状ナッセラリアが得られた.炭質物を多く含む泥質岩を対象に炭質物温度計を利用した変成温度推定を試みたところ,岩体の北縁部と南縁部の2試料からそれぞれ385 °C及び513 °Cの変成温度が得られた.足利岩体の南北で変成温度が大きく異なっており,岩体の貫入角度の違いによる影響が考えられる.また,足利岩体から南西に約1 km離れた試料から291 ± 15 °Cの変成温度が得られたのに対し,足利岩体から北西に1.3 km以上離れた試料からは,より高温の362 ± 16 °Cの変成温度が得られた.地下に伏在する岩体や既に削剥されて現存しない岩体の存在が示唆される.