著者
黒澤 崇浩 水谷 圭一 笹生 拓児 有坂 憲行 宮本 健宏 阪口 啓 荒木 純道
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SR, ソフトウェア無線 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.41, pp.73-80, 2010-05-13
被引用文献数
1

近年,無線マルチホップ中継ネットワークが接続性や柔軟性などの利点から注目を集めており,センサネットワークやユーティリティーネットワークなどへの応用が期待されている.この無線マルチホップ中継ネットワークをセカンダリシステムとして運用する場合,プライマリシステムと周波数共用を行わなければならない.周波数利用効率を高めるためには,スペクトラムセンシングによりプライマリの電波使用状況を認識し,セカンダリの使用する帯域を割り当てる必要がある.本研究では、950MHz帯アクティブ系小電力無線システムにおいてFFTを用いたスペクトラムセンシング機能を設計し,MIMO中継プロトタイプハードウェアに本機能を実装したので報告する.
著者
吉野 一 太田 勝造 西脇 与作 原口 誠 松村山 良之 加賀山 茂 宮本 健蔵
出版者
明治学院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、実定法の言語分析を通じて法的知識の論理構造を明らかにするとともに、それに基づいて、実際に即して法的正当化の推論を行なう法律エキスパートシステムの基礎を確立することを目的とする。原理と方法の解明と実証を行なうために、AIワークステーション上に知識ベースと推論機構ならびに最小限のインターフェースからなる実験用のプロトタイプを作成する。三年間の研究において上記の研究目的はほぼ達成された。すなわ、(1)法的知識の構造については、ウィーン売買条件(一部)および民法(一部)の条文を法規範文単位に要件・効果の内的構造において解明するとともに、諸法規範文間の論理的結合関係を明かした。その際とくに法の適用を制御する推論の知識構造を法規範文とその効力を規定しているメタ法規範文の関係として解明した。(2)法律知識ベースとしては、上記分野において、上記原理に基づいて、法規範文とメタ法規範文を複合的述語論理式で表現し、サンプルシステムをAIワークステーションPSI-II上に作成した。(3)法的推論機構としては、a)適用すべき法規範文を決定する推論を、上記法的メタ法規範文を適用した演繹的正当化の推論として構成し、そのための法的メタ推論機構を完成した。また、b)この推論過程を理解・説明するためのユーザフレンドリーな説明機構を作成した。さらに、c)有限なルールを用いて多様な事件に対して法的解決を与えるための拡大解釈や類推適用の工学的モデルを、法的シソ-ラスの構造にしたがった仮説生成の推論として計算機上実装し、その有効性および問題点を検討した。また法的概念辞書の基礎を明らかにした。上記の研究に関連する論理学的、法哲学定、法社会学的、民法学的および情報・知識工学的的基礎付けを行った。本研究によって本格的な法律エキスパートシステムの開発研究の基礎が提供されたと言える。
著者
宮本 健太郎
雑誌
第43回日本神経科学大会
巻号頁・発行日
2020-06-15

To explore and survive in an unpredictable, volatile world with multiple alternatives available, people and other animals, such as macaque monkeys, need to estimate uncertainty before making a decision. However, the neural mechanism to enable proactive metacognitive judgements based on evaluation of uncertainties is unknown.In our first study on humans with functional neuroimaging and transcranial magnetic stimulation, we newly invented a prospective metacognitive matching task. In the task, participants were required to estimate their performance (`subjective probability') to classify the direction of ambiguous motion in random-dot kinematogram task. Then they compared this subjective probability with the probability of reward offered by the alternative external cues (`environmental probability') and chose the better probability option in prior to performing the motion classification. Activity in several frontal and parietal areas reflected both subjective and environmental probabilities during perceptual decision making. Anterior lateral prefrontal cortex (alPFC, area 47), however, tracked evidence relating to subjective probabilities both when a choice was taken and when it was rejected. Moreover, fMRI signals in alPFC modulated by subjective probability predicted prospective metacognition performance and ability. These observations suggest that alPFC plays a critical role to assess one's own cognitive skills and mental states proactively to take an optimal choice in the future.In our second study on monkeys with functional neuroimaging and targeted pharmacological intervention, we previously found that the dorsal prefrontal and frontopolar cortices confer decision confidence on experience and ignorance, respectively, during a serial-probe recognition memory task (Miyamoto et al., 2017, Science 355(6321); Miyamoto et al., 2018 Neuron 97(4)). We have newly found that the inferior parietal lobule (area PG) contributes to integrate these confidence read-outs and execute a strategically optimal decision making for post-decision wagering based on self-reflection of performance in the precedent memory task.These human and monkey studies converge to suggest that higher-order processes to proactively evaluate subjective uncertainties are implemented in primate neural networks. The neural mechanism would be essential to convert metacognition into action.
著者
宮本 健太郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会九州支部会報 (ISSN:02853507)
巻号頁・発行日
no.14, pp.49-52, 1959-12-08

一般に,種馬鈴薯をやや高温下に貯蔵すると,常温貯蔵のものに較べ,その休眠は早くおわるといわれている。ところが,加温処理をする時期とよっては,その休眠明けは早くなるが,処理時期によっては逆に,却って,休眠明けがおくれる試験結果をえたのでここに之を発表する。
著者
宮本 健弘 笠原 禎也 高田 良宏 松平 拓也 林 正治 松木 篤 上田 望
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.306-309, 2018-12-08 (Released:2018-12-21)
参考文献数
4
被引用文献数
1

近年のオープンサイエンスの活発化に伴い, 人間と機械の双方に可読性を持つリポジトリシステムの需要が高まっている. このような背景から, 本研究では, 国立情報学研究所が開発したWEKO を用いて, 金沢大学環日本海域環境研究センター及び同国際文化資源学研究センターのデータリポジトリの構築を行っている.従来, WEKO へのコンテンツの一括登録には, Windows でのみ動作するソフトウェアが必要であった. 我々は, ICT に精通しているとは限らないデータ所有者が, リポジトリ上のデータ管理を行えるように, OS に非依存なブラウザからファイルをアップロードするだけでコンテンツの一括登録に加え, メタデータやコンテンツの追加登録・更新等が可能なデータ管理システムを構築した. 特に更新機能では, 「更新フラグ」属性を用いて, コンテンツの世代管理とその公開方法の制御を可能にした. 本稿では両センターのデータリポジトリと構築したデータ管理システムの概要を述べる.
著者
今高 城治 塚田 佳子 藤澤 正英 宮本 健志 萩澤 進 山内 秀雄 平尾 準一 有阪 治 George Imataka Keiko Tsukada Masahide Fujisawa Kenji Miyamoto Susumu Hagiwara Hideo Yamanouchi Jun-ichi Hirano Osamu Arisaka 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 獨協医科大学小児科学 Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine Department of Pediatrics Dokkyo Medical University School of Medicine
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.161-165, 2009-10-25

当院で臨床的に脳死状態と判定してから長期間の入院経過をたどった3小児例を報告した.脳死判定の基準は,平成11年度・厚生省「小児における脳死判定基準」を参考とした.国内の小児脳死症例調査の蓄積は十分ではないが,小児の脳死では長期間の経過をたどる例が多く問題視されている.現在,当院の小児病棟には,長期の臨床的脳死児を管理するための終末期医療に適した病床環境がなく,一般の急性期入院児と同室で長期脳死児の管理を行っている.当院の小児病棟に終末期ケアの可能なベッドが一日でも早く確保されることが望まれる.We herein report three pediatric cases that stayed at ourhospital for a long period of time after they were determinedto be clinically brain death. The "Criteria for the diagnosisof brain death in children" issued by the Ministry ofWelfare in 1999 was referred to for determining braindeath. Although a sufficient number of pediatric cases ofbrain death in Japan has not yet been accumulated, one ofthe problems has been that many pediatric cases of braindeath involve a long-term course. The pediatric ward ofour hospital currently does not have an environment suitablefor end-of-life care to manage pediatric cases sufferingfrom long-term clinical brain death, so child patients withlong-term brain death are currently being managed togetherwith general pediatric cases of acute-phase hospitalization.It is hoped that terminal-phase beds that enable longtermtreatment and management will be secured in thepediatric ward of our hospital as soon as possible.
著者
宮本 健弘 笠原 禎也 高田 良宏 松平 拓也 林 正治 松木 篤 上田 望
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.337-342, 2017-12-02 (Released:2018-02-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

近年, 世界では「オープンサイエンス」の動きが盛んになっている. これに伴い, データ公開システムの重要性は年々増加しており, 機械可読性を持ち, 人間と機械双方にとって便利なリポジトリシステムの需要が高まっている. しかし, 研究機関独自に開発されたデータ公開システムの多くは, 汎用性や利便性, システム間連携の面で問題を抱えているのが現状である. これらの背景から本研究では, 「JAIRO Cloud」などで実績がある国立情報学研究所開発のWEKO を用いて, 金沢大学内の環日本海域環境研究センター及び国際文化資源学研究センターのデータリポジトリの構築を行っている. 構築に当たっては, 研究データを広く社会に公開する目的に加え, 研究データを保有する研究者らがリポジトリの管理に精通していなくとも, 自ら登録, 修正などを行える環境の整備を進めている.
著者
宮本 健市郎
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.141-150, 1998-06-30
被引用文献数
1

本稿の目的は、(1)フレデリック・リスター・バークの教育思想において自発性の原理が形成される過程を精査すること、(2)自発性もしくはダイナミズムの意味の変化に焦点をあてて、児童研究と進歩主義教育との関係を解明すること、である。 1899年から1924年まで、サンフランシスコ州立師範学校の初代校長を務めたフレデリック・リスター・バークは、児童研究運動と進歩主義教育運動との重要なつながりを代表している。彼は、児童研究運動の父G.S.ホールの弟子であり、1920年代の進歩主義教育に大きな影響力を与えたカールトン・W・ウォシュバーンおよびヘレン・パーカーストの恩師であったからである。 バークは1890年代の半ばにクラーク大学で心理学を学んで、G.S.ホールの賞賛者になった。彼は、子どもは完全な自由を与えられれば自然と人類の発展を繰り返すと信じ、子どもの内部の力がその発展を導くと考えた。したがって、幼稚園のカリキュラムはその発展の過程に、すなわち遺伝的な順序に、基づかなければならないと彼は主張した。 バークは1898年に、カリフォルニア州サンタバーバラ公立学校の教育長に就任した。彼は児童研究と反復説に深く心酔していたので、サンタバーバラの公立幼稚園にフリープレイを導入した。フリープレイはいかなる障害もなく自然に発達するための機会を子どもに与えると考えたからである。バークとサンタバーバラ公立学校のスタッフは、子どもの自由で自発的な活動を良く調べ分類する実験をおこなった。この実験から、思いがけずバークが発見したことは、子どもの自発的な活動はただ下等な人類の繰り返しではなく、子どもの創造的な表現を含んでいるということであった。 この実験の後、バークは子どもの発達に関してホールとはかなり異なった見解に到達した。ホールが子どもの生まれつき、すなわち遺伝的に決定された発達を信じていたのに対して、バークは子どもの発達を方向づける環境と創造的表現の重要性に気がついたのである。 1899年にバークはサンフランシスコ州立師範学校の初代校長に就任した。彼は画一的一斉授業をやめて、子どものダイナミズムを開発するための個別教育法を創案した。ダイナミズムは自発性や内部の力だけでなく、子どもの創造性を含んでいると考えられていた。サンフランシスコ州立師範学校でバークの下で働いていたカールトン・ウォシュバーンは、バークの個別教育法を学んで、後にそれを修正し、ウィネトカ・プランと名付けた。当時アメリカ合衆国のすべてのモンテッソーリ学校の監督者であったヘレン・パーカーストは、バークの個別教育法を真似て、ドルトン・プランを発明した。 児童研究を通して、バークは子どもは自然と遺伝に応じて教育されるべきであることを学んだ。しかし、彼は自然と遺伝をあまりに強調する反復説の決定論的見方を変更した。子どもの自発的な活動と思考の中に創造的な衝動があることを発見したからである。彼はそれをダイナミズムと呼んだ。
著者
木島 隆秀 武藤(砥上) 若菜 萩野 光香 徳田 和彦 小山 雄二郎 宮本 健史
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.509-516, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
24

上腕骨骨幹部の病的骨折を有する高齢がん患者に対し,骨折部の安定性を保持しながら日常生活動作(以下,ADL)および生活の質(以下,QOL)を高める事を目的に,3Dプリンタ製肘継手を用いた上肢スプリントを作業療法士にて作製した.上肢スプリントを用いた結果,除痛や装着アドヒアランス向上,ADLならびにQOL向上に寄与する事が可能であった.患者の予後や活動性,使用期間などを適切に考慮し本スプリントを装着する事は,患者の更なるADLやQOL向上の一助となりうる.
著者
宮本 健市郎
出版者
Japanese Educational Research Association
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.141-150, 1998

本稿の目的は、(1)フレデリック・リスター・バークの教育思想において自発性の原理が形成される過程を精査すること、(2)自発性もしくはダイナミズムの意味の変化に焦点をあてて、児童研究と進歩主義教育との関係を解明すること、である。 1899年から1924年まで、サンフランシスコ州立師範学校の初代校長を務めたフレデリック・リスター・バークは、児童研究運動と進歩主義教育運動との重要なつながりを代表している。彼は、児童研究運動の父G.S.ホールの弟子であり、1920年代の進歩主義教育に大きな影響力を与えたカールトン・W・ウォシュバーンおよびヘレン・パーカーストの恩師であったからである。 バークは1890年代の半ばにクラーク大学で心理学を学んで、G.S.ホールの賞賛者になった。彼は、子どもは完全な自由を与えられれば自然と人類の発展を繰り返すと信じ、子どもの内部の力がその発展を導くと考えた。したがって、幼稚園のカリキュラムはその発展の過程に、すなわち遺伝的な順序に、基づかなければならないと彼は主張した。 バークは1898年に、カリフォルニア州サンタバーバラ公立学校の教育長に就任した。彼は児童研究と反復説に深く心酔していたので、サンタバーバラの公立幼稚園にフリープレイを導入した。フリープレイはいかなる障害もなく自然に発達するための機会を子どもに与えると考えたからである。バークとサンタバーバラ公立学校のスタッフは、子どもの自由で自発的な活動を良く調べ分類する実験をおこなった。この実験から、思いがけずバークが発見したことは、子どもの自発的な活動はただ下等な人類の繰り返しではなく、子どもの創造的な表現を含んでいるということであった。 この実験の後、バークは子どもの発達に関してホールとはかなり異なった見解に到達した。ホールが子どもの生まれつき、すなわち遺伝的に決定された発達を信じていたのに対して、バークは子どもの発達を方向づける環境と創造的表現の重要性に気がついたのである。 1899年にバークはサンフランシスコ州立師範学校の初代校長に就任した。彼は画一的一斉授業をやめて、子どものダイナミズムを開発するための個別教育法を創案した。ダイナミズムは自発性や内部の力だけでなく、子どもの創造性を含んでいると考えられていた。サンフランシスコ州立師範学校でバークの下で働いていたカールトン・ウォシュバーンは、バークの個別教育法を学んで、後にそれを修正し、ウィネトカ・プランと名付けた。当時アメリカ合衆国のすべてのモンテッソーリ学校の監督者であったヘレン・パーカーストは、バークの個別教育法を真似て、ドルトン・プランを発明した。 児童研究を通して、バークは子どもは自然と遺伝に応じて教育されるべきであることを学んだ。しかし、彼は自然と遺伝をあまりに強調する反復説の決定論的見方を変更した。子どもの自発的な活動と思考の中に創造的な衝動があることを発見したからである。彼はそれをダイナミズムと呼んだ。
著者
宮本 健市郎
出版者
教育哲学会
雑誌
教育哲学研究 (ISSN:03873153)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.95, pp.38-43, 2007-05-10 (Released:2009-09-04)
参考文献数
8

現代の日本において教育哲学が果たすべき役割を考えると、まず、教師が教育目的に関する議論ができる状況を作り出すことが必要である。あらゆる教育実践には、名目上にすぎないものであっても、かならず教育目的が存在している。だが多くの場合、教師はそれを自覚しないか、自覚できない状況に陥っている。この無自覚の教育実践を自覚化し、批判することが、教育哲学の役割である。だが、理念派のように、教育目的の自覚・批判を教師の教養に委ねるならば、教育哲学の課題は、結局は教師の人格の問題に帰着する。教育の目的についての考察が必要であることを強調すればするほど、理念派の立てた教育目的が、ひとりひとりの教師の教育実践から乖離していく。このときに必要なのは、教室での自分自身の教育実践から出発する現場派の教育哲学である。それは大学院の研究者によって与えられるものではなくて、教師が自分自身の教育実践のなかでつくりあげるものである。
著者
宮本 健市郎
出版者
教育哲学会
雑誌
教育哲学研究 (ISSN:03873153)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.92, pp.117-124, 2005-11-10 (Released:2009-09-04)

二〇〇二年の学習指導要領によって導入されたばかりの総合的な学習の時間 (総合学習) が危機に瀕している。総合学習を学力低下と直結させる思考の短絡さをあらためて論ずる必要はないだろう。だが、そのような短絡的な発想にもとついて教育政策が進められている現実を見ると、一世紀以上をかけて作り上げられてきた総合学習の理論が一般には理解されていないことを痛感させられる。この点で研究者の努力の不足は認めざるをえない。このような時に、キルパトリックの教育思想にかんする日本で初めての本格的な研究書が公刊されたことの意義は大きい。言うまでもなく、キルパトリックは、アメリカ進歩主義教育の中でデューイに次いで重要な思想家であり、教育実践上の指導的立場にあった。彼の開発したプロジェクト.メソッドは総合学習の典型であり、大正期から昭和初期に構案法として、我が国でも実施されたことは周知のことである。にもかかわらず、彼に対する評価はわが国では必ずしも高くない。彼の思想はデューイ理論の通俗化とみなされ、プロジェクト・メソッドの実践は反知性主義として批判されることが多い。彼の思想の本格的な研究がほとんどなされないままに、低い評価が与えられ続けてきたのが実情ではなかっただろうか。佐藤隆之氏は、先行研究を丹念に参照しながら、キルパトリックのプロジェクト・メソッド論に焦点を絞って、キルパトリックの思想とプロジェクト・メソッドの論理を解明する。そして、「理想への投企」として、プロジェクト・メソッドの意義を見出すのである。著者はプロジェクト・メソッドを現代の総合学習に直結させて論じてはいないが、プロジェクト・メソッドは現代の総合学習の一つのモデルであるから、著者がプロジェクト・メソッドの可能性を明示したことは、著者の意図を超えて、総合学習を否定しようとする日本の現状にたいする批判にもなっている。その意味では、本書は現状への問題提起の書であり、総合学習に関心をもつ人々には待望の書である。