著者
大津留 晶 山下 俊一
出版者
日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.1271-1276, 1999-07-10
参考文献数
5

副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)は,悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の原因物質として発見された. PTHrPのN端は副甲状腺ホルモン(PTH)と高い相同性を有し,いずれも共通のPTH/PTHrP受容体に結合し,作用を発揮する.しかし,副甲状腺より分泌され,血中カルシウムレベルを調節するホルモンであるPTHに対し, PTHrPはあらゆる臓器の様々な細胞より,時に応じて分泌され,生理的には主にパラクライン・オートクライン的に作用している.事実その受容体は全身に幅広く分布している.このためPTHrPの生理作用は不明な点が数多くあったが,発生工学的手法などの発展に伴い骨・軟骨系の新知見を始め,その機能の実態が徐々に明らかにされつつある.
著者
高橋 麻衣子 鈴木 啓司 山下 俊一 甲斐 雅亮
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.118, 2008

哺乳類細胞における主要なDNA損傷修復経路として非相同末端結合修復(NHEJ)と相同組換え修復(HR)が知られ、NHEJは主にG1期で、HRはS期からG2期で働くことが知られている。最近、NHEJ修復経路の中にさらに複数の経路が存在し、少なくともDNA-PKcs/Kuに依存した経路とartemisを必要とする2経路があることが明らかになってきた。しかしながら、これら修復経路がどのような役割分担をしているのかは依然不明である。そこで本研究では、制限酵素を細胞内に直接導入して同じ形状のDNA切断末端を誘導するという系を用い、DNA切断末端の構造依存的な修復経路の役割分担を検討することを目的とした。G0期に同調した正常ヒト二倍体細胞に、制限酵素(Pvu II、100 U)をエレクロポレーション法を用いて細胞内に導入し、DNA二重鎖切断の誘導を抗53BP1抗体を用いた蛍光免疫染色法により検討した。その結果、まず制限酵素導入後1時間の段階で、約90%の細胞の核内に53BP1フォーカスが誘導されるのを確認した。その内、核全面に分布するタイプや計測不能な多数のフォーカスを持つ細胞が60%程度存在し、残りの約20%の細胞は、3〜20個程度が核内に散在するフォーカスのタイプ(タイプIIIフォーカス)であった。制限酵素導入後時間が経つにつれてタイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合が増加し、DSBの修復が確認できた。次に、artemis依存的な修復経路を阻害するために、ATM阻害剤KU55933を処理した結果、タイプIIIフォーカスを持つ細胞の割合は処理の有無により顕著な差はみられなかったが、artemisを阻害した細胞では核あたりのフォーカス数はより多かった。以上の結果から、ブラントエンドタイプの切断末端が、その修復にartemisの活性を必要とすることが明らかになった。
著者
芦澤 潔人 難波 裕幸 井原 誠 奥村 寛 山下 俊一
出版者
(財)放射線影響研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

放射線誘発甲状腺がんについて、DNA修復機構の関連に注目して検討した。1.SNP解析1)P53遺伝子のArg/Argの発現が、放射線誘発の甲状腺がんにおいて有意に低下していた。2)ATM多型:ATMは、p53の構造や活性の重要な制御因子の一つである。(1)エクソン39,G5557A多型:(1)放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんは、放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんと比べ、Aアレルが優位に増加していた。(2)放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(3)自然発症の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(2)イントロン22多型:IVS22-77C/Tについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。(3)イントロン48多型:IVS48+238C/Gについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。3)MDM2多型:MDM2 SNP309T/Gを解析したが、特に関連なかった。4)XRCC1多型:XRCC1エクソン9Arg280His多型とXRCC1エクソン10Arg399Gln多型を検討したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。5)XRCC3多型:XRCC3 Thr241Met多型:放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんはコントロールと比べて優位にMetアレルが増加していた。6)MTF-1多型:検討中である。2.甲状腺癌細胞でのDNA-PK活性:ヒト甲状腺癌細胞でDNA-PK活性の差がみられた。DNA-PKcsのみがDNA-PK活性と正の相関を示した。甲状腺癌細胞の放射線感受性は細胞種で異なるが、DNA-PK活性を阻害するウオルトマニン処理を行うと生存率はほぼ同じなり、DNA-PK活性によって生存率が決定されると考えられる。
著者
高橋 達也 深尾 彰 藤盛 啓成 山下 俊一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

マーシャル諸島共和国は、34の環礁と火山島が太平洋中部に点在して構成されている島国である。ここでは、合衆国によって1946-58年の間に66回の核兵器実験が行われた。多くの住民は放射性ヨードやセシウムなどを含んだ放射性降下物を呼吸器あるいは消化器からを体内に取り込んだ。この体内からの放射線被曝(内部被曝)による晩期障害として甲状腺がん罹患増加が予測された。そこで1993年から、現地住民の甲状腺検診を開始し4762名の被曝住民のコホートを確立した。そのコホートのベースライン情報を用いた横断研究では、(1)生年がビキニ水爆実験(1954年)以前の年齢層では甲状腺がん有病率が1.5%と極めて高値である、(2)甲状腺がん有病率は被曝推定線量と関連が認められる可能性があるという結果を得た。しかし、低線量被曝晩期効果としての甲状腺がん有病率と被曝量との関連について統計学的に明確な結論を得ることができなかった。この原因の一つが、放射線被爆量推定の精度の低さと考えられた。そこで、本研究ではこのコホートの個人別甲状腺放射線被曝量を推定した。現在のところ、(1)1954年のブラボー実験で被曝したロンッゲラップ環礁住民の被曝線量を基にした簡易推定、(2)各環礁の残留放射性セシウム量を基にした被曝線量率を考慮しないモデルによる推定、(3)各環礁の残留放射性セシウム量を基にした被曝線量率を考慮したモデルによる推定を行った。(1)の推定を用いた研究結果では約5cGyを超える被曝量の集団では明瞭な線量反応関係が得られた。(2)、(3)の推定を用いたモデルでは統計学手に有意ではないが放射線被曝量と甲状腺がん有病率の間に両反応関係を認めた。今後、追跡で得られた総死亡と甲状腺がん罹患を用いた検討を行う予定である。
著者
山下 俊一 大津留 晶 光武 範吏 サエンコ ウラジミール 難波 裕幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

甲状腺がんの発症分子機構を解明する為に、手術がん組織ならびに培養細胞を用いた発がんに関連する細胞内情報伝達系異常と遺伝子不安定性の詳細を明らかにすることを研究目的としている。BRAF遺伝子との相互関連分子であるARAFやRAPA1、GNAQなどの点突然変異の有無を検索し、いずれも異常がないことを証明した。さらに遺伝子導入発がん誘発候補遺伝子群の探索成果からはARAF異常の関与をin vitroでは証明したが、in vivoサンプルではその異常は見出されなかった。染色体再配列異常や点突然変異の蓄積による細胞死や細胞死逸脱機構について解析し、DNA損傷応答と細胞周期調節機序の関連について研究成果をまとめた。放射線誘発甲状腺乳頭癌のSNPs解析は不安定かつ不確実なデータの為、現在症例数を増やしその正否を確認中であるが、甲状腺特異的転写因子の一つである染色体9番目のFOXOE1(TTF2)のSNPs関連遺伝子異常がチェルノブイリ放射線誘発がんでも関連することを証明した。さらに遺伝子多型に関するSNPs解析結果をDNA損傷応答関連遺伝子群において取り纏め一定の相関を見出すことができた。以上に対して、甲状腺進行癌の分子標的治療の臨床応用は遅々として進まない現状である。p53を標的とする治療法の有用性は証明されたが、他の細胞増殖情報伝達系を標的とする有効な分子標的薬は臨床治験が実施されず欧米の情報に依存している。グリベックを中心に放射線照射療法との併用効果について臨床治験を進め進行癌、未分化癌の一部に有効性を証明した。
著者
山下 俊一 高村 昇 難波 裕幸 伊東 正博
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

チェルノブイリ事故後に急増した小児甲状腺がんの放射線障害の起因性を明らかにするために、チェルノブイリ周辺地域(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)における分子疫学調査を行った。特に、分子疫学を行うためにの基礎として甲状腺および末梢血液より核酸(DNAおよびRNA)抽出法について検討した。1)ベラルーシのミンスク医科大学と長崎大学は姉妹校を結び小児甲状腺がんの診断技術の研修を行っている。ベラルーシのゴメリを中心として、小児甲状腺がん患者についてのCase-Control Studyを行い、甲状腺がん症例220例、Control(年齢、性別)をあわせたもの1320例を抽出して現在調査を行っている。2)患者の核酸を永久保存するための基礎検討として、ベラルーシから持ちかえった抹消血液からのDNA抽出検討を行った。その結果、血清を除き生理食塩に血球を希釈して持ちかえることで、4℃の場合と室温保存と差がなく3週間後でも高品質のゲノムDNAを抽出することが可能であった。さらにDNA資料の半永久保存のための試みとしてLone-Linker PCR法について検討している。3)甲状腺腫瘍組織からRT-PCR法によりcDNAを増幅して、放射線により誘導される遺伝子異常の一つと推測されているRet/PTC遺伝子の解析を行った。旧ソ連邦の核実験場であったセミパラチンスクで発症し手術を受けた甲状腺組織を用い、RNAを抽出しRet/PTC1,2,3の異常が認められるかどうかについて解析した。その結果、Ret/PTC3の異常が高頻度で見られ、被爆とこの遺伝子異常の関連性が示唆された。この結果はLancettに掲載された。