著者
木下 華子 山本 聡美 堀川 貴司 渡邉 裕美子 陣野 英則 山中 玲子 梅沢 恵
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

日本には、古都や古代寺院の遺構、あるいは絵画資料・記録・伝承等に描かれた荒廃した町並みや建造物など、古代以降、文学・美術・芸能に多くの廃墟表象を見いだせる。本研究では、文学・美術・芸能を専門とする複数の研究者を組織し、日本古代・中世における廃墟を、上述の多様な視点から総合的に分析する。また、研究会・シンポジウム・出版などを通じ、廃墟論の学術的フレームと議論の場を創出する。東日本大震災以降、廃墟は物理的にも精神的にも私たちの間近に存在する。古代・中世の人々が廃墟と共存した有様を解明することで、現代社会における、廃墟を内包した新たな文化創造の論理的基盤を獲得することを最終的な目標とする。
著者
山本 聡美
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.121-144, 2021

<p>近代的疾病観においては、病を健全な身体の対極にあるものと捉え、加療を通じて健常なる状態へ近づけることに価値が置かれる傾向にある。一方、古代・中世日本においては、これとは異なる疾病観が存在していた。特に仏教の教義や実践において、病には、人間の存在の根源に関わる現象としての重要な意味が見出されていた。病を生存への脅威として排除するのではなく、これと折り合い、場合によっては、秩序ある社会を構築する梃子として肯定的に捉えていくことさえなされた。</p><p>本稿では、平安時代末期の浄土僧、永観による「病は善知識なり」との成句に着眼する。善知識とは、仏教における発心や成道への導き手を指す。通常、多くの修行を積んだ高徳の僧を言うが、悟りに至るきっかけとなる人物や事物を広く指す言葉でもある。「粉河寺縁起絵巻」に描かれた病に発心の契機としての肯定的な意味を読みとくことからはじめ、そのような疾病観が形成された歴史的経緯を、古代日本における造像の伝統から明らかにする。</p>
著者
山本 聡美
出版者
九州大学大学院比較社会文化研究院
雑誌
障害史研究
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-13, 2021-03-25

近代的疾病観においては、病や障害を健全な身体の対極にあるものと捉え、加療を通じて健常なる状態へ近づけることに価値が置かれる傾向にある。一方、古代・中世日本においては、これとは異なる疾病観、障害観が存在していた。この点について仏教を中心とした宗教思想から論じた池見澄隆は、近代以前の日本における病気観に、大別して「治病」と「病の受容」の二つの対処があったと指摘する。前者には祈祷や医療があるとし、後者を「病に、正の価値を見出し積極的に意義づけて受けとめようとする姿勢」と換言した上で、その極地ともいうべき事例として、平安時代末期の浄土僧、永観(一〇三三~一一一一)による「病は善知識なり」との成句に着眼する。 / 善知識とは、仏教における発心や成道への導き手を指す。通常、多くの修行を積んだ高徳の僧を言うが、悟りに至るきっかけとなる人物や事物を広く指す言葉でもある。天永二年( 一一一一)、三善為康編『拾遺往生伝』所収の永観伝においては、「病」という本来なら修行の妨げともなり、出家受戒が許されないこともあり得る身体の状態そのものが「善知識」と位置付けられており、疾病や障害に「正の価値」が与えられている。このことを手掛かりに、本稿では「法華経変相図」「病草紙」「一遍聖絵」「粉河寺縁起絵巻」「法華経曼荼羅図」など、経絵や仏教説話画に描かれた病や障害のモチーフを分析し、そこに、人を発心への誘う善知識としての「正の価値」が生じている実態を明らかにする。 / 論述にあたっては、まず『妙法蓮華経』譬喩品や普賢菩薩勧発品、『大般涅槃経』梵行品などに説かれる因果応報観に基づく疾病観がいかにして絵画化されているのかという観点から図像を分析する。その上で、平安末期から鎌倉時代にかけて、施療を通じた病者救済に尽力した永観、一遍、忍性といった僧侶らの実践を通じた図像解釈を試みる。 / 以上の考察を通じて、本稿では、「病者救済場面」として一義的に理解される傾向にある病者の図像について、「病や障害を契機とした発心の表徴」という新たな解釈を提示する。中世仏教説話画を通じ、現代とは異なる論理で構築されていた、中世日本における病や障害との共生の思想を浮き彫りにすることを目指す。Modern perspectives on disease and disability are considered antithetical to a healthy body and there is a tendency to place value on bringing the body closer to a healthy state through medical treatment. On the other hand, in ancient and medieval Japan, a different perspective on disease and disability existed. IKEMI Choryu, who has discussed this from the point of view of religious thought centered on Buddhism, points out that they were, broadly classified into two measures, "treatment of the disease" and "acceptance of the disease", in Japan before the modern period. The former is said to have included prayers and medical care, while the latter is referred to as "an attitude of finding positive value in the disease, considering it meaningful, and actively trying to accept it." As an example of what should be called an extreme view, we consider the phrase "Disease is an admirable friend (J:善知識 Zenchishiki, Skt: kalyāṇa-mitra)" by Eikan (1033–1111), a Jōdo (Pure Land) monk during the late Heian period. / Zenchishiki refers to a method guiding religious awakening or spiritual enlightenment in Buddhism. Usually, it refers to a noble priest who is highly trained, but it is also a word that broadly refers to a person or thing that leads to enlightenment. In Eikan's biography included in Shūi-Ōjōden edited by Miyoshi no Tameyasu in Ten'ei 2 (1111), Zenchishiki is defined as a view of "disease" that would usually interfere with training, and as a bodily state that may not allow one to receive religious precepts and become a priest. A "positive value" was also attributed to disease and disability. With this as the key, this paper analyzes the motifs of disease and disability depicted in medieval Buddhist Paintings including the Illustrated Manuscript of the Lotus Sūtra, the Illustrated Scroll of Illnesses, the Illustrated Biography of the Priest Ippen, the Miraculous Origin of Kokawadera, and the Mandara of the Lotus Sūtra, that clarify the actual conditions that give birth to the "positive value" of Zenchishiki leading to a person's awakening. / In these descriptions, we first analyze the iconography in terms of the disease depicted based on the perspective of retributive justice as explained in Chapter 3: Simile and Parable and Chapter 28: Encouragement of the Bodhisattva Universal Worthy of the Lotus Sūtra, and Chapter of Brahmachary/Chapter of Bongyō-bon of the Mahāparinirvāṇa Sūtra. Furthermore, we also attempt to interpret the iconography through the practices of monks including Eikan, Ippen and Ninshō who provided relief to the sick through free medical treatment, from the late Heian to the Kamakura period. / Based on the above considerations, this paper presents a new interpretation of the iconography of a diseased person, which has conventionally been understood as primarily "situations of relief for the sick," as "a symbol of the awakening of the mind." Through medieval Buddhist imagery, we aim to highlight the idea of co-existence with disease and disability in medieval Japan built on a logic that differs from that of the modern period.
著者
田島 公 尾上 陽介 遠藤 基郎 末柄 豊 吉川 真司 金田 章裕 馬場 基 本郷 真紹 山本 聡美 伴瀬 明美 藤原 重雄 稲田 奈津子 黒須 友里江 林 晃弘 月本 雅幸 三角 洋一 川尻 秋生 小倉 慈司 渡辺 晃宏 桃崎 有一郎 北 啓太 吉岡 眞之 山口 英男 金子 拓 遠藤 珠紀 原 秀三郎 神尾 愛子 名和 修 名和 知彦 内海 春代 飯田 武彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

東京大学史料編纂所閲覧室で東山御文庫本、陽明文庫本、書陵部蔵九条家本・伏見宮家本など禁裏・公家文庫収蔵史料のデジタル画像約100万件を公開した。高松宮家伝来禁裏本・書陵部所蔵御所本の伝来過程を解明し、分蔵された柳原家本の復原研究を行い、禁裏・公家文庫収蔵未紹介史料や善本を『禁裏・公家文庫研究』や科学研究費報告書等に約30点翻刻・紹介した。更に、日本目録学の総体を展望する「文庫論」を『岩波講座日本歴史』22に発表し、『近衞家名宝からたどる宮廷文化』を刊行した。
著者
高野 信治 山本 聡美 東 昇 中村 治 平田 勝政 鈴木 則子 山田 嚴子 細井 浩志 有坂 道子 福田 安典 大島 明秀 小林 丈広 丸本 由美子 藤本 誠 瀧澤 利行 小山 聡子 山下 麻衣 吉田 洋一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、欧米では前近代をも射程に身心機能の損傷と社会文化的に構築されたものという二つの局面を複合させて障害を捉え、人種、性(身体上)、民族の差異よりも、障害の有無が人間の区別・差別には重要とされる。日本では、かかる視角の研究はなく、障害は近代の画期性が重視される。しかし福祉問題の将来が懸念されるなか、比較史的観点も踏まえた障害の人類史的発想に立つ総合的理解は喫緊の課題だ。以上の問題意識より、疾病や傷害などから障害という、人を根源的に二分(正常・健常と異常・障害)する特異な見方が生じる経緯について、日本をめぐり、前近代から近代へと通時的に、また多様な観点から総合的に解析する。
著者
山本 聡美 山本 悠介 近藤 裕子 廣瀬 倫也 北島 治 鈴木 孝浩
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.311-314, 2015-05-15 (Released:2015-08-19)
参考文献数
5

全身麻酔下に帝王切開術が予定された脊髄性筋萎縮症患者において,ロクロニウム筋弛緩とスガマデクスによる拮抗効果を評価した.挿管量としてロクロニウム1mg/kg投与後89.5分でポストテタニックカウント(post-tetanic count:PTC)は2に達した.その時点でスガマデクス4mg/kgを投与したところ,75秒で四連反応比は対照値に回復した.本症例ではロクロニウムへの感受性は増大していたが,スガマデクスにより迅速に回復が得られた.
著者
山本 聡美
出版者
金城学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

中世日本で外来の十王図像が移入され和洋化するプロセスについて、作品調査と文献の分析を通じて考察した。本研究期間内に計9件の作品調査を実施した他、写真などを用いた画像資料の収集を行った。特に日本製十王図の多くに描きこまれる本地仏の組み合わせに着目し、調査結果を分析した。その結果、制作年代の遡る作例ほど組み合わせに多様性があり、また本地仏として大日如来を描く事例が多いという傾向が浮かび上がってきた。また、現存作例の和洋化が著しく進む13世紀後半~14世紀にかけての、仏書や日記・記録類に着目、仏事で十王図が懸用された事例を分析した。その結果、宮中や幕府関係の逆修・追善供養での懸用と軌を一にしながら、十王図と本地仏の組み合わせが決定され、日本的十王図への変容が促されたことが明らかとなった。以上の成果の一部は、『国宝六道絵』(共著、中央公論美術出版、2007年)などの出版物として公刊している。