著者
山田 剛史 杉澤 武俊 村井 潤一郎
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Suppl., pp.53-56, 2008-02-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1

本研究では,心理統計のテスト項目データベースの開発を試みた.本システムはWebブラウザからアクセスでき,複数のキーによる項目検索が可能である.また,データベースに項目特性値の情報を持たせる場合の問題点として,これらの指標は集団依存性が非常に強い可能性が挙げられる.これを検討するため,複数の大学で共通のテストを実施し比較した.その結果,基礎的な問題については集団によらず類似した値を取るが,発展的な問題については受験者集団によりかなり異なる値となった.このことから,データベースに載せる情報として項目特性値のような量的な情報だけでなく,質的な情報についても検討すべきであることが示唆された.
著者
村井 潤一郎 山田 剛史 杉澤 武俊
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Suppl., pp.9-12, 2009-12-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
3

心理学関連学科において,心理統計教育は重要な意味を持っている.そこで,心理統計教育の現状把握のため,質問紙を用いた全国調査を行った.調査票を全国の担当教員に送付し,授業の担当教員,その授業を受ける学生,双方からデータを収集し分析した.基本統計量に基づき考察した結果,学生が力がつくと思っている授業,教員が実際に行っている授業それぞれの特徴が明らかになった.これらの結果の,心理学以外の統計教育への適用可能性も示唆された.
著者
山田 剛一 森 辰則 中川 裕志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.2431-2439, 1998-08-15
参考文献数
12
被引用文献数
2

情報検索においては, 検索対象の規模が拡大するにつれ, 検索精度の向上がより強く求められてきている.そこで本論文では, 複合語をまとまりとして扱う手法と, 単語の共起情報を用いる手法を統合することにより, 探索システムの精度向上を図ることを提案する.複合語は全体で1つの概念を表現しており, まとまりとして扱うことが望ましいが, 複合語どうしマッチさせる場合には部分的なマッチングを考慮する必要が生じる.このマッチングを行い文書をスコア付けする手法を考案した.さらに, 単語が複合語を構成せず共起する場合もスコアに反映させるため, 共起情報を利用する手法と組み合わせ, 評価実験を行ったところ, 単語の重みに基づく手法, およびそれに共起情報を加える手法のいずれよりも良い探索精度が得られることが確認できた.
著者
山田 剛史 森 朋子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.13-21, 2010
参考文献数
26
被引用文献数
7

本研究では,大学生の汎用的技能獲得における正課と正課外が果たす役割について学生の視点から検討することを目的として,卒業を目前に控えた大学生657名に調査を行った.主な結果は次の通りである.(1)大学生の汎用的技能を捉えるために精選した項目群に関する因子分析の結果,35項目8因子(F1批判的思考・問題解決力,F2社会的関係形成力,F3持続的学習・社会参画力,F4知識の体系的理解力,F5情報リテラシー,F6外国語運用力,F7母国語運用力,F8自己表現力)が抽出された.(2)正課・正課外の差異に関するt検定の結果,正課は正課外に比してF5とF6が,正課外は正課に比してF2,F3,F4,F8が有意に高い値を示した.(3)学部系統別の正課・正課外による差異に関する分散分析の結果,正課と正課外は汎用的技能獲得において異なる役割を果たしていることが示され,目的養成学部やGPプログラム取得による効果が示唆された.
著者
高橋 智子 山田 剛史 小笠原 恵
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.49-60, 2009-05-30
被引用文献数
1

本研究では、過去40年にわたって「特殊教育学研究」に掲載された一事例実験の研究を対象に、各研究で用いられた処遇の効果についての総括的なレビューを行うことを目的とした。第1巻から第43巻より51の論文を抽出し、3種類の効果量(PND,Busk and Serlin(1992)の効果量、Center,Skiba,and Casey(1985-86)の効果量)を用いて、年齢、障碍種、標的行動ごとに研究結果の統合を行った。その結果、年齢、障碍種、標的行動によって効果の大きさが異なる可能性が示された。年齢においては13〜18歳で、障碍種では自閉症カテゴリで、標的行動では対人スキル・机上学習で処遇の効果が全体的に大きいことが示唆された。
著者
山田 剛 中西 健 鵜山 治 飯田 竜也 杉田 實
出版者
社団法人 日本腎臓学会
雑誌
日本腎臓学会誌 (ISSN:03852385)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.581-586, 1991 (Released:2010-07-05)
参考文献数
19

We described a patient with the milk-alkali syndrome induced by the ingestion of small amount of milk (200 ml/day) and ice cream (145 g/day) and the administration of small dose of absorbable alkali (magnesium oxide 2.0 g/day) for the treatment of chronic constipation. The present case shows not only triads, i, e., hypercalcemia (s-Ca 14.3 mg/dl), metabolic alkalosis (s-HCO3- 37.4 mEq/L), and renal insufficiency (s-Cre 2.3 mg/dl) but also hypernatremia (s-Na 161 mEq/L) and hypertonic dehydration after the frequent episodes of elevated body temperature. The milk-alkali syndrome has been defined as the hypercalcemia with a metabolic alkalosis from a high amount of calcium intake and long term administration of absorbable alkali in any form, usually as calcium carbonate for the treatment of peptic ulcer. As the present case could be distinguished from any other cases previously reported with regard to the amount of calcium (0.4 g/day) and alkali (36 mEq/day) intake and the clinical situations that induced the syndrome, we compared the present case with the previous reports, calculating the amount of calcium and alkali intake from milk and absorbable alkali. After the introduction of the H2 blockers for peptic ulceration, the most cases with milk-alkali syndrome had provoked by the smaller amount of calcium than previously reported, which were associated with the treatment of relatively large amount of alkali (50-150 mEq/day), suggesting the role of sustained metabolic alkalosis for the development. In the present case the metabolic alkalosis induced by hypertonic dehydration and enhanced by absorbable alkali intake also could cause an increase of renal tubular reabsorption of calcium and a decrease of ionized calcium which might produce increased secretion of parathyroid hormone followed by vitamin D3 activation and increased Ca absorption from the gut. The metabolic alkalosis might be essential to the development of the milk-alkali syndrome without a high calcium and absorbable alkali intake.
著者
中谷 和彦 山田 剛史 柴田 知範
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

ハンチントン病などの神経変性疾患ではゲノム上のCXGリピート配列の異常伸長が発症原因となる。本提案研究では、提案者が創製したミスマッチ塩基対を認識する低分子化合物が示した、異常伸長したリピート配列への結合と、in vivo での短縮効果から見出した2つの核心的学術的問い、「CAGリピートDNAが形成するCAG/CAG部位に分子NAが結合することにより、どのような生体反応が誘起されたのか?」と「分子NAとNCDはなぜ、そしてどのように2:1複合体を形成するのか?」について、統合的な理解の獲得とより高い短縮効果を示す化合物創製への展開を目指す。
著者
山田 剛一 中川 裕志
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.57-58, 1996-03-06

話し言葉を扱おうという研究が増えている。話し言葉の特徴として挙げられる現象はいくつかあるが、その一つに、助詞の省略(脱落)と呼ばれているものがある。例えば、次の文では「私の発表」という名詞句の後ろに助詞が存在しない。(1)私の発表何番目でしたっけ?特にかしこまった場面でなければ、話し言葉では、このような無助詞の名詞句が頻繁に現れる。既存の書き言葉の文法を持った解析システムでは無助詞を扱うことはできないので、何らかの助詞を補って、書き言葉での適格文にする必要がある。しかし、本当に助詞が省略されていて、それを補わなければならないのだろうか。
著者
土筆 勇都 福原 知宏 山田 剛一 増田 英孝
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.209-210, 2018-03-13

若い女性を中心に,SNSで共有することを目的とした写真撮影が流行している.「インスタ映え」という新語もでき,SNS上で話題となっている人気の場所を調べ,そこへ行って見栄えのよい写真を撮影するSNS利用者も多い.しかし,SNS上で見つけた写真の場所を探す場合,写真からその撮影場所を特定することは容易でない.本研究では,Twitterから収集した画像付きツイートを用いて.テーマパーク来場者の楽しみ方を分析し,それを用いてお薦めスポットを推薦することを目的としている.手始めに,テーマパーク内の場所やキャラクタを対象とし,CNNを用いた画像の自動分類を行った.
著者
石井 志昂 山田 剛史 中原 敬広 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45033, (Released:2021-09-27)
参考文献数
1

本研究は,ベイズ統計学に基づくデータ分析を学習可能な,統計ソフトR を用いた心理統計の自習用Web 教材の試作,及び評価を行った.教材評価は,(1)学習者の教材学習状況,(2)R,及びベイズ統計学に対するイメージの変化,(3)学習後のインタビュー調査から行った.結果より,本研究で試作したWeb 教材の学習によりR を身近に感じるようになるとともに,コードを書きながら学習可能な点に対し肯定的な意見が得られた.一方,学習を行った参加者の約半数が教材の最後まで学習を終えることができず,教材の導入部分や章ごとの問題量について課題が示唆された.
著者
山田 剛史 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,心理統計担当教員間で共有できるテスト問題の項目データベースの開発を行うことであった。具体的な成果は,(1)これまでの研究成果(基盤研究(C)課題番号:17530478)を発展させ改良を加えた,心理統計テスト項目データベースの開発,(2)データベースのユーザビリティについて,全国の心理統計の講義を担当する大学教員を対象にした試験的運用,基礎データの収集を計画した,といったことをあげることができる。
著者
渡辺 健 山田 剛良 高橋 史忠
出版者
日経BP社
雑誌
日経エレクトロニクス (ISSN:03851680)
巻号頁・発行日
no.1010, pp.107-109, 2009-08-10

DVDレンタル大手「TSUTAYA」は2008年末,視聴期間を限定しない「セルスルー配信」対応の動画ダウンロード・サービスを始めた。HD動画をBlu-ray Disc(BD)などに書き出せる世界初のサービスだ。米映画会社との交渉責任者が,舞台裏を語った。(聞き手は本誌副編集長 山田 剛良,高橋 史忠)(写真:加藤 康) ハリウッドと交渉を始めたのは,2006年のことです。
著者
今井 茂雄 久野 裕明 山田 剛 前田 拓也 高麗 寛紀
出版者
無機マテリアル学会
雑誌
無機マテリアル (ISSN:2185436X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.283, pp.451-456, 1999-11-01 (Released:2011-03-07)
参考文献数
14

The silver-doped ceramics is the whitewares coated with low-temperature lime zinc glaze containing silver, and has bactericidal activity. In this study, the mechanism of the bactericidal action of the silver-doped ceramics against bacteria, mainly Escherichia coli K12 W3110, was investigated. The silver-doped ceramics had high bactericidal activity when it was irradiated by visible light. Since the eluted silver ions from the surface of ceramics were not detected by ICP measurement and the supernatant had no bactericidal activity, it was proved that the eluted silver ions do not contribute to the bactericidal action of the ceramics. The bactericidal activity was extremely inhibited in the presence of radical scavengers such as L-cysteine, L-alanine or I-. After the silver-doped ceramics was removed from the cell suspension irradiated for 60 min, the bactericidal activity was still maintained, and was inhibited by L-cysteine. The silver-doped ceramics also had bactericidal activity against Bacillus subtilis ATCC6633.These results suggest that the bactericidal action of silver-doped ceramics is caused by the hydroxyl radical which is generated on the surface of the ceramics by light irradiation and is converted to a living radical in bacterial cells.
著者
難波 一能 中西 左登志 山田 剛 伊藤 守弘
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.413-418, 2013-04-20 (Released:2013-04-22)
参考文献数
19

The objectives of this study were to determine the usefulness of a newly-developed distal fibular axial view radiography modified method for depicting avulsion fracture of the lateral malleolus in children from a functional anatomy viewpoint. Conventional radiography was applied to sixty-nine avulsion fracture suspected ankles of 67 children. Average age and standard deviation at injury were 8.00 and 1.46, respectively. We compared the ability of the modified method to detect avulsion fractures of the lateral malleolus with those could not be depicted using the conventional method, and noted that 42 avulsion fractures (60.9%) could be depicted using the conventional method. We applied the modified method to 27 joints that the conventional method had diagnosed as normal. Of these, the modified method detected 13 avulsion fractures (48.1%). In conclusion, the modified radiography method made it possible to depict avulsion fracture of the lateral malleolus in cases that resisted detection by the conventional method.
著者
山森光陽 岡田涼 納富涼子 山田剛史 亘理陽一# 熊井将太# 岡田謙介 澤田英輔# 石井英真#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 2010年代に入って,教育心理学の分野でもメタ分析に対する関心が高まっている。日本では深谷 (2010),岡田 (2010),小塩他 (2014)によって,メタ分析による研究知見の統合が行われている。海外の教育心理学関係主要雑誌(Br. J. Educ. Psychol., Child Dev., Contemp. Educ. Psychol., Educational Psychologist, Educ. Psychol. Rev., J. Educ. Psychol., Learning and Individual Differences, Learning and Instruction)でも,2010年以降メタ分析を用いた論文数が急増しており,2018年では10月時点で28本にのぼっている。メタ分析による知見の統合には,ある介入の平均的な効果の提示が可能であることや,研究間差異を検討することで対象や条件による効果の違いを検討できることといった利点が認められる。 系統的レビューと呼ばれるメタ分析による知見の統合は,記述的レビューと異なり,統合対象とする研究文献探索の方法と分類基準を明示することが求められるなど,その手続きが精緻であることも関係し,レベルの高いエビデンスと捉えられ,その知見が流通することが多い。What works (U.S. Department of Education, 1986) に代表される,研究知見に基づく推奨される教育的介入のガイドラインは,1980-90年代は記述的レビューに基づいた内容であるのに対して,2000年代以降は系統的レビューの結果が反映されるようになってきた。さらに,2010年代には複数の系統的レビューのメタ分析(メタ・メタ分析,スーパーシンセシス)によるガイドラインが示されるようになってきている。 教育研究における複数の系統的レビューのメタ分析として広く知られているものに,Visible learning (Hattie, 2009)がある。学習者,家庭,学校,教師,教育課程,指導方法の各要因の下位138項目について,学力に与える影響のメタ分析の結果のスーパーシンセシスを行い,各々が学力に与える平均的な効果を効果量dによって示し,その効果の大小に対して理論的説明を行った。このスーパーシンセシスの対象一次研究数は延べ52,450本,延べ対象者数は8,800万人以上である。そして,スーパーシンセシスの方法やその内容は,イギリスやドイツをはじめとした諸国で,社会的な影響が大きいことが報告されている。 メタ分析による研究知見の統合の影響は,教育心理学をはじめとした教育研究の分野内に対してのみならず,教育政策,学校経営にまで及ぶと考えられる。国内では最近,平明に読めるメタ分析の入門書が複数出版されたことも契機となり,メタ分析による知見の統合を行う研究の本数が今後増加することが見込まれる。そして,研究知見の統合に取り組むに当たっては,研究分野内への影響のみならず,研究分野外への波及効果にも関心を払う必要があるだろう。このような現況を踏まえ,研究分野の内外に対して,「知見の統合は何をもたらすのか」を議論する。教育心理学におけるメタ分析研究の概況岡田 涼 教育心理学では,学力や動機づけ等の学習成果に影響を及ぼす要因やその先行要因を明らかにすることを目指すことが多い。得られた知見を教育実践や教育政策に反映させようとする場合,研究知見の信頼性や一般化可能性が重要となる。従来,研究知見の一般化を図るために行われてきた記述的レビューに比して,メタ分析は,複数の研究知見をもとに効果の程度を推定することで,より精度の高いエビデンスを得ることができる。同時に,個々の研究知見がもつ特徴を分析対象とすることで,平均的な効果だけでなく,効果の程度に影響する要因を検討することも可能となる。 このような特徴に鑑み,様々な研究テーマに関するメタ分析研究が増えてきている。国内でも,その報告数は増えてきており,注目度が高まっているといえる。学会によっては,執筆要項にメタ分析研究に特化した記載方法の指示が加えられたり,投稿の手引きでメタ分析研究の引用を推奨する記載をしている例もあり,メタ分析を受け入れる素地ができつつある。 一方で,メタ分析には,公表バイアスや一般化の水準の問題など,伝統的に指摘されてきた課題もある。また,メタ分析を行うためには,一次研究のレベルで必要な情報が報告されていることや,データベースが整備されていることなど,いくつかの前提条件もある。国内においてメタ分析研究が増えるに伴って,メタ分析研究の質が問われるようになることが予想される。 本発表では,まずメタ分析の考え方について簡単に触れ,メタ分析を用いた近年の教育心理学研究の動向を紹介する。その後,メタ分析の利点と限界を提示し,以降の発表につなげていきたい。一事例実験のためのメタ分析 山田剛史 様々な学会誌で特集号が組まれるなど(例えば, Developmental Neurorehabilitation, Vol.21(4), 2018; Research in Developmental Disabilities, Vol.79,2018; Journal of School Psychology, Vol.52(2),2014),近年,一事例実験(single-case experimental design)のメタ分析に注目が集まっている。一事例実験のメタ分析では,研究結果の統合の手続きとして,1)データの重なりの程度に基づく効果量(PND, NAP, Tau-Uなど)を利用する方法,2)平均値差に基づく効果量を利用する方法,3)ノンパラメトリック手法を利用する方法(randomization testsなど),4)マルチレベルモデルを利用する方法,など様々な方法が提案されている。こうした様々な提案がなされているが,メタ分析の手続きとしてスタンダードとなるものは未だ確立されていないのが現状である。 本報告では,平均値差に基づく効果量として,Hedges, Pustejovsky, & Shadish(2012)により提案され,Pustejovsky, Hedges, & Shadish(2014)で拡張された,ケース間標準化平均値差BC-SMD(Between-Case Standardized Mean Difference Effect Size,PHS-dとも呼ばれる)に注目する。 近年,BC-SMDを効果量として用いた一事例実験のメタ分析が数多く報告されるようになってきた。BC-SMDは,一事例実験研究の結果と群比較実験研究の結果を比較できる効果量として注目されている。Remedial and Special Education, Vol.38(2017年)の特集号を紹介しながら,BC-SMDを用いた一事例実験のメタ分析の実際について紹介する。教育研究的含意のある調整変数を推しはかる—外国語学習における明示的文法指導の効果—亘理陽一 言語形式に焦点を当てた文法指導の効果は,習得のメカニズムを研究する立場のみならず,教室での実践的課題としても長く議論が交わされてきた。Norris & Ortega (2000)は,1980年から98年までに出版された250超の論文の内,基準を満たす40研究の明示的指導(k = 71)の効果量の平均(d = 1.13)が,19研究の暗示的指導(k = 29, d = 0.54)を上回ることを示し,第二言語習得・外国語教育研究におけるメタ分析研究の嚆矢となった。 一方この研究では「明示的」と定義される範囲が漠然としており,その中身に関する意味のある調整変数は,後継のメタ分析においても明らかになっているとは言い難い。Watari & Mizushima (2016)は,Norris and Ortega (2000)を含む4メタ分析研究および日本の主要学会誌を対象とするメタ分析研究2本の182論文を対象とする再分析を行い,直後テストの結果において,暗示的指導との直接比較を行った45研究の明示的指導(k = 79)の効果量がg = 0.43 [0.28, 0.57]であり,形態論的・統語論的側面よりも,音韻論的側面や語用論的側面をターゲットとし(Q(3) = 8.68, p < .05),意味論的・機能的側面までを解説内容とする方が効果が大きいこと(Q(2) = 6.36, p < .05),さらに総括的な規則提示が高い効果をもたらしうる可能性などを示した。 しかし因果推論という観点で見れば,ここには説明変数・結果変数の関係や共変量の調整に問題の多い一次研究が多数含まれている。実験デザイン・測定法の異なる研究が混在し,メタ分析に必要な記述統計の報告不備すら依然指摘される現状(Plonsky, 2014)にあっては,知見の統合のメリットは限定的にならざるを得ない。今後は,関連他分野の研究者の協力も得て,共通尺度の開発も含め,統合に耐えうる一次研究の蓄積が求められることになると考えられる。エビデンスに基づく教育研究の社会的・学術的影響熊井将太 「エビデンス」という言葉が教育研究の領域でも存在感を高めてきている。実証的な知見に依拠した「授業の科学化」という要求は何も目新しいものではないが,今日の「エビデンス」運動の特殊性は,一方ではRCTやそのメタ分析といった特定の研究方法を頂点として学問的知見を階層化しようとする方向性に,他方では事象のあり方を客観的に明らかにする「説明科学」を超えて,そこで得られた因果的な知見をより直接的に利用可能なものにしようとする方向性に見出すことができる。このような「エビデンス」運動の特質は,必然的に従来の教育実践研究を担ってきたアクターと競合関係を作り,相互批判を生み出すこととなる。その中では,教育研究におけるメタ分析の有効性や課題とは何か,あるいはメタ分析から得られた知見の活用可能性と危険性とはいかなるものかが問われている(例えば,杉田・熊井(印刷中)など)。 本発表では,世界的に大きな反響を巻き起こしたJohn HattieによるVisible learning (Hattie, 2009)およびVisible learning for teachers (Hattie, 2012)を素材に上記の問題を考えてみたい。Hattieの研究をめぐる議論で興味深いのは,元来規範的なアプローチを主流としてきたドイツ語圏の国々において英語圏以上に議論が活性化していることである。加えて,Hattieの研究は,例えばバイエルン州のように,学校の質保障や外部評価の基準として政策的に受容されているところもある(熊井, 2016)。ドイツ語圏の議論と日本における教育実践研究の動向を見渡しながら,教育実践の複雑性の軽視や教育目標・内容論の欠如といった課題を指摘しつつ,他方で批判者側の「閉じこもり」の問題に言及したい。付 記このシンポジウムはJSPS科研費(基盤研究A:17H01012)の助成を受けた。