著者
山下 博樹
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR GEOGRAPHICAL SCIENCES
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-19, 1993 (Released:2017-04-27)
参考文献数
27
被引用文献数
2

近年,多くの研究者によって指摘されている大都市圏の構造変化に関して,東京大都市圏周辺部への都市諸機能の集積,さらにそれらが顕著にみられる周辺中核都市の成長に着目し,1975年〜1985年の変化について考察をおこなった。個々の周辺中核都市の特性を解明するに際して,通勤・通学流動,物品販売機能の集積状況,および業務管理機能の集積状況を明らかにした。その結果は次の通りである。(1)東京への通勤・通学人口率をみると,周辺部への高等教育機関移転の結果,とりわけ通学人口率の相対的低下が進んだ。(2)通勤・通学人口率から周辺中核都市は,その人口吸引の特性によって4つの類型に分類できる。また人口吸引力に優れた機能の集積が,大都市圏周辺部において周辺中核都市を成長させている。さらにかかる都市の成長にともない人口流動現象が複雑化してきた。(3)小売商業力指数から判断して,都心部での水準維持に対して,周辺部では全体的に平準化が進み,地域格差が縮小した。また東京への通勤・通学率がおおむね30%以下と高い周辺部内帯では,東京の近郊都市としての性格を強めた結果,上記の指数の低下傾向が認められた。(4)上場企業の支所オフィスは,東京区部へ一極集中すると同時に県域統括レベル支所オフィスの周辺中核都市への著しい集積がみられた。さらに下位の都市でもその立地増加が確認された業種もある。かかる状況から,大都市圏における周辺中核都市のもつ機能は重要性を増大しつつあると言える。したがって,そうした動向は大都市圏における構造変化の一断面であると規定できる。
著者
山下 博樹 藤井 正 伊藤 悟 香川 貴志
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16〜17年度の2年間における本研究課題では、リバブル・シティとしての評価が高いカナダ・バンクーバーとオーストラリア・メルボルンにおける公共交通網を基軸とした都市圈整備に関する現地調査を実施し、わが国における都市圈整備の方向性を検討することを目的とした。その研究成果の概要は、次の通りである。1.バンクーバー都市圈では、1970年代からの取り組みをベースにしたGVRDによる"Livable RegionStrategic Plan"を基に、公共交通網の再整備と結びついたコンパタトで高密度な街づくりが郊外タウンセンターで実践され、利便性の高い日常生活拠点として整備されている。2.メルボルン都市圈では、1990年代から取り組んできた市街地拡教化防止のための土地利用規制に加えて、2002年に第定されだMelbourne 2030"による持続可能な都市圈整備の取り組みがスタートし、郊外のディストリクト・センターを中心に公共交通でもアクセズ可能で、多様な機能集積による利便性の高い中心地形成が進められている。3.これらの両都市圈での詳細な土地利用調査や公共交通網整備の状況などから、21世紀の持続可能な都市整備方針としてのリバブル・シティの特性の一端を明らかにすることができた。4.わが国でのリバブル・シティ形成の可能性は、東京、大阪など公共交通網の発達した大都市部では高い実現性を有するが、反面、過密な人口密度などによる弊害をどのように緩和するか等の新たな課題が生じる。地方都市部では、低い人口密度とモータリゼーションにより、持続可能な市街地整備の必要性が一層高まっているが、その状況はむしろ悪化しつつある。高齢化の進展などに対応したバリアフリー化などの視点からの再整備が有効であると考えられる。
著者
山下 博樹
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100004, 2013 (Released:2014-03-14)

1.はじめに   大都市圏での都心回帰の進展、都市計画法改正による郊外の大規模集客施設の原則開発禁止など、コンパクトなまちづくりに向けた動きが進むなか、地方都市の中心市街地の活性化は依然遅れていると言わざるを得ない。中心市街地が抱える多くの課題の根本原因は、モータリゼーションを背景とした交通結節性の低下と、居住人口の郊外化による人口減少・高齢化の進展の影響が大きいと考えられる。そのうち、後者に対応する「まちなか居住」の推進に取り組む、あるいは検討する自治体が増えている。本報告では地方都市における「まちなか居住」に関連する課題を整理し、各自治体が取り組む支援策の特徴と問題点を明らかにしたい。 2.大都市での都心居住と地方都市のまちなか居住  東京など一部の大都市では、バブル崩壊後の地価下落、企業・行政の遊休地放出、不良債権処理にともなう土地処分などによりマンション開発の適地が増加した。さらに、都市計画法で高層住居誘導地区が導入され、それによる容積率等の規制緩和によって増加した超高層マンションを都心においても手ごろな価格帯で取得可能になったこと、都心居住の利点が見直されてきたことなどによって、都心部で居住人口が増加に転じてきた。   他方、地方都市では中心市街地の人口空洞化への対策として、まちなか居住の推進が課題になっている。地方都市においても中心市街地でのマンション開発は2000年代に比較的多くみられたが、依然として強い戸建て志向と郊外での安価な住宅供給により、相対的に地価の高い中心市街地ではこうしたマンション開発地区以外は人口の減少・流出が続いていることが多い。   大都市の都心部、地方都市の中心市街地のいずれにおいても、それぞれの郊外に比べて日常生活の利便性は相対的に低く、とりわけ買い物難民に代表されるモータリゼーションに対応できない高齢者世帯は負担が大きく、公共交通の利便性が低い地方都市ではより深刻な状況にある。また、首都圏の一部の地域では、大手流通企業の新業態として、小商圏に対応したミニスーパーが立地展開されるなど、都心部の買い物環境は改善されつつある。 3.地方都市のまちなか居住の課題  地方都市の中心市街地は、大都市の都心部とは異なり、中山間地並みに高齢化が進展している。そのため、人口再生産の機能が極めて低く、周辺からの流入人口の増加に期待せざるを得ない。たとえば、鳥取県では年間約3,000人の人口が減少しているが、そのうち自然増減によるマイナスはおよそ1割で、それ以外は若年層を中心とした社会減である。つまり、進学や就職などを機会に県外に流出する人口が多く、県内のこうした機能が脆弱であることを示している。県庁所在地レベルの都市であれば中心市街地には一定のオフィス立地がみられるが、それ以下の都市では中心市街地の就業先としては商業施設や医療機関などが中心となり、多くの就業が期待できる製造業の多くは郊外立地であるために、多くの地方都市では郊外での居住の方がむしろ職住近接となる場合が少なくない。近年では、郊外でも工場の閉鎖などが相次ぎ、地方都市の雇用環境は極めて厳しい。  地方都市の中心市街地における商店街の衰退は言うまでもなく、公共交通の脆弱さも深刻化している。そのため、中心市街地に居住するメリットは、比較的整備されている医療機関や図書館など公共施設への近接性、古くからの街並みなど郊外にはない文化的な雰囲気など限定的で、相対的にリバビリティは低い。4.まちなか居住推進支援策の特徴と課題  地方都市の自治体は、中心市街地の居住人口減少の影響として、空き家・空き地、駐車場などの低未利用地の増加とそれによる税収の減少、コミュニティ活動の停滞、防犯上の課題などへの対応が新たに必要となっている。こうした課題解決のために、まちなか居住推進のための支援策が多くの自治体で導入されつつある。大別すると、①賃貸・売買など空き家等の情報提供、②持家取得のための支援、③賃貸住宅入居のための家賃補助、④中古住宅の流通促進等のためのリフォーム補助などである。こうした支援策を講じている複数自治体へのアンケート調査の結果、人口規模の大きい金沢市などでは多彩な支援メニューを用意して対応しているのに対し、人口規模の小さい自治体では主にリフォームへの補助が多く利用されていた。これは流入人口による住宅取得ニーズが影響していると思われる。また、多くの自治体の取り組みは国の財源(社会資本整備総合交付金)に依存したもので、そうした都市では事業の継続性が低いことなどが明らかとなった。   本研究は、平成24年度鳥取市委託研究調査「他都市まちなか居住施策実績調査」の成果の一部である。
著者
山下 博樹
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨 2008年 人文地理学会大会
巻号頁・発行日
pp.507, 2008 (Released:2008-12-25)

1.はじめに アラブ首長国連邦のドバイは,近年の急速かつ特徴的な都市開発と人口増加,とりわけ世界の富裕層らを対象としたリゾート開発によって日本でもしばしば取り上げられ,注目を集めている。一見,奇抜とも思える数々の都市開発プロジェクトは,他都市の追従を許さないドバイのユニークな魅力となっている。 他方,こうした都市開発はいわゆるバブル経済の賜物であり,長続きはしないのではないかという指摘は現地でも耳にすることが出来る。また,急速な都市開発と人口増加によってさまざまな問題も出現し始めている。 本報告では,かかるドバイの都市開発の特徴とその方向性などから都市としての持続可能性,住み良さなどについて検討してみたい。 2.ドバイの都市開発 今日のドバイの経済発展の基盤となっているのがいくつもの経済特区である。中東最大規模の港湾に隣接し,1985年にオープンしたジャバル・アリー・フリーゾーンには国内外約6,000の企業が進出しているほか,航空関係企業,IT関係企業,報道期間,中古車業者などをそれぞれ専門にした特徴的な経済特区も設置されている。こうした経済特区の特徴は,_丸1_外資100%の会社設立が可能,_丸2_現地スポンサーが不要,_丸3_資本・利益の100%本国送金が可能,_丸5_外国人労働者雇用の制限がない,などである。 また,交通拠点として西郊のジュメイラ地区には経済特区の拠点となるジャバル・アリー港のほか,首長国第2の空港の建設も予定されている。ドバイの代表的な大規模プロジェクトなどは表1に示したように,観光や商業施設のほか,住居としても利用されるものが多い。住居の多くは富裕層の別荘や投資目的で購入されているものも多く,現在の都市開発がバブル経済によるものだとの指摘の原因にもなっている。 3.ドバイ都市開発の持続可能性 急速に発展したドバイには現在その歪みとも言うべき様々な都市問題が発現している。そうした諸問題に対する首長国の取り組みは次のようになっている。 乾燥地に位置するドバイが,100万人を超える人口を維持する上での最大の課題は水や食糧の供給であるが,水は海水の淡水化や安価なミネラルウォーターによって,また食糧は農業が活発な隣国オマーンなどからの輸入によって賄われている。 また,急速な人口増加に対するインフラの整備は万全とは言えない。とりわけ現在市内の公共交通はバスとタクシーのほか,アブラと呼ばれるクリークを往来する渡し船であり,自家用車依存により市内は交通渋滞が顕著である。その解決策として橋の増設や有料ゲートの設置,さらに2005年からは中心市街地と西郊,空港を結ぶドバイ・メトロの建設が進められている。 都市としての住み良さ向上のポイントとして首長国政府が重視している点のひとつにイスラム教の信仰の保証がある。とりわけ夏季の酷暑のなかモスクへの移動負担を軽減するために,現在市街地では500m毎にモスクの建設が進められている。 以上のように,近年世界的に注目を集めているドバイであるが,その都市開発の特徴は他の欧米日の諸都市には比較可能な都市が見当たらない独特のものであり,またリバブル・シティとしても住み良さに対する独自の価値基準がもたれているなど,都市地理学の研究対象としても当面は目の離せない都市であろう。 本研究を行うにあたり2008年度科学研究費補助金基盤研究(C)「我が国におけるリバブル・シティ形成のための市街地再整備に関する地理学的研究」(研究代表者 山下博樹)の一部を使用した。
著者
山下 博樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

1.はじめに<br> 持続可能な市街地への再生に取り組む都市が増えるなか、常にそのトップランナーとして住みよい都市のあり方を模索し続ける都市としてバンクーバーを挙げられる。バンクーバー都市圏政府(Metro Vancouver, 旧GVRD)による長年の取り組みは、1996年に策定された『Livable Region Strategic Plan』(以下、LRSP)をはじめとする一連の広域戦略計画による。これまでバンクーバーでは、最大の中心地となるダウンタウンのほかに、規模の異なる2タイプの郊外核を計画的に配置し、公共交通網の拡充と一体的に整備してきた。1990年代以後の人口増加などのために、2000年代後半より都市圏の成長管理の反作用が深刻化している(山下 2010)。こうした課題を改善すべく2011年7月に策定された新しい計画『Metro Vancouver 2040』(以下、MV 2040)では、広範になった都市圏を大きく東西に2分割し、ダウンタウンと並ぶ新都心の整備を図ろうとしている。本報告では、MV 2040の概要と2009年冬季オリンピック後の郊外を中心とした地域で急速に進んでいる公共交通指向型開発の特徴について紹介したい。<br><br>&nbsp;2.「メトロ・バンクーバー2040」の都市圏再編プラン<br> MV 2040での主な変更点・特徴は、次の通りである。<br>①上述したように都市圏を大きく東西に2分割し、旧来のダウンタウンを西の都心に、これまで南東郊サレー市の中心として計画に位置づけられながら、十分に機能集積がされていなかったサレー・センター(MV 2040ではサレー・メトロセンター)をフレーザー川以東の新都心に位置づけている。<br>②この間の郊外化の進展に対応して下位の郊外核となるコミュニティ型タウンセンターが従前の12ヵ所から17ヵ所に増加した。<br>③これまで対象外であった空港、大学、病院などの公共的施設も、公共交通網に結節されるべき主要施設として位置づけられた。<br>④郊外化が顕著であった南郊には、オリンピック開催にむけてリッチモンド・シティセンター及び国際空港とダウンタウンを結ぶスカイトレイン・カナダ線が新設された。同様に東郊には財政的課題により着工が遅れていたエバーグリーン線が2016年夏の完成を目指して、2012年1月に着工した。<br> 以上のような新たな取り組みにより、LRSP期間の末期に顕在化した成長管理対象地域の内外での公共交通や中心地整備上の地域格差が緩和され、人口増加の中心であったこれらの地域でのリバビリティ向上に大きく貢献することが予測される。<br><br>&nbsp;3.ポスト・オリンピックの公共交通指向型開発 <br> 2009年の冬季オリンピック開催にむけた前述のカナダ線建設とダウンタウンでの新駅建設などが2000年代後半のバンクーバー都市圏の主要プロジェクトであった。その間、凍結されていた市街地再整備がオリンピック終了に伴って近年再開された。それらの事業の共通点は、都市圏の幹線交通網であるスカイトレインの駅やその周辺で公共施設などの建設が行われていることである。現在進行中の主な事業として次のものが挙げられる。<br>①MV 2040で東郊の新都心として位置づけられたサレー・メトロセンターには、これまで駅前に商業施設と大学のサテライトキャンパスによる大型複合施設が立地していたが、LRSPで同じ位置づけにあった他の広域型タウンセンターと比較してもその機能集積は脆弱であった。しかし、この複合施設に隣接して2011年9月に市立図書館が完成し、現在市役所も建設中であり、当該地区への機能集積が急速に進められている。<br>②ダウンタウンの都市圏の地理的中心から大きくずれる問題点を補うために、1980年代に計画的に整備されたメトロタウンは都市圏最大の商業集積を形成してきたが、郊外化が東郊で顕著であることなどからMV 2040ではサレー・メトロセンターに新都心の座を譲ることになった。メトロタウンでは現在、駅前の大規模ショッピングセンターに隣接して立地していた2棟の超高層オフィスビルの隣りに3棟目のオフィスビルが建設中で、これまで弱点であったオフィス集積の強化が進められることになった。<br>③都市圏で最も早く市街地が形成されたニュー・ウェストミンスター市のダウンタウンは、スカイトレイン駅に隣接しているものの沿道の建物老朽化などにより商店街は寂れていた。老朽化した映画館などの再開発が計画されるとともに、スカイトレイン駅ではスーパーや各種店舗からなる駅ビルの建設が進められている。&nbsp;<br>
著者
山下 博樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.280-295, 1991-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2

The cities of Hachioji and Machida, located in the western suburb of Tokyo, have developed with the expansion of the Tokyo metropolitan area. But the two cities have different histories. Hachioji city was a stage town (shuhubamachi) in the late feudal period, and developed into a central city in the Tama area after the Meiji Restoration. Machida does not have such a long history; it deve-loped as an urban area only after the opening of the national railways' Yokohama Line and the private Odakyu Line in the late. The author analyzed the processes of change in the central business district (CBD) structure of the two cities, using such indicators as the change in functional accu-mulation, location of multi-storied buildings, and change in floor use for each function, with the comparison being made between 1981 and 1987. The following are a few results in the differences of changes of CBDs in the two cities. 1) The differences in the function of CBDs in the two cities can be explained by differences in the process of accumulation. Hachioji has experienced a shift of the core of its CBD from Koshu-kaido highway to Hachioji station, and its CBD has been differentiated functionally. But in Machida, because the CBD developedd near the station of the Odakyu Line, various functions already existed there. The survey also shows a reductive tendency in the area which serves some functions of the CBD (Figs. 1-3, Tables 1-4). 2) The differences in shape between the two CBDs can also be observed from a survey of the locations of multi-storied buildings. In Hachioji, the density of those buildings which were located on the three main streets stretching away from the station in 1981 has increased since 1981, and there is now a cluster of them in front of the station. In Machida, the number of multi-storied buildings which could be seen in the core of the CBD has increased in area surrounding it. The difference in the process of forming the CBD in the two cities reflects the differences in building use in the two CBDs (Fig. 4, Table 5). 3) The cluster analysis for changes in floor use reveals the degree of the functional areal differ-entiation in each of the CBDs. In Hachioji, three kinds of clusters can be recognized separately: offices, personal services, and parking and vacant lots. In Machida, the cluster which changed to office use is dominant. The comparison between present and previous functions of each floor in the buildings of the two CBDs shows the difference in the CBD development processes (Fig. 5). Those differences can be explained by both the historical background and the CBD development processes. Hachioji experienced functional areal differentiation in the shift of its CBD core. But Machida developed into a satellite city after the railroads opened in the Meiji period. As a result, the functions in the CBD have accumulated differently.
著者
山下 博樹 藤井 正 伊藤 悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.125, 2005

1.はじめに 成熟時代を迎えた欧米をはじめとする多くの先進諸国では、20世紀に拡散・肥大化した都市地域をいかに持続可能なかたちに再構成するかが、都市政策の主要テーマのひとつとなりつつある。オーストラリア第2の都市であるメルボルンでもその都市圏の市街地は拡大の一途をたどり、住居・商業施設などの郊外化が進展した。しかし、そのような状況の中、メルボルンが位置するビクトリア州政府は都市圏の無秩序で拡散的な拡大を防ぐために、1970年代より郊外核となるアクティビティ・センターと都心の一体的な整備・開発を行ってきた。本報告では、地域住民の日常的な生活行動と関わりの深いショッピングセンターの立地動向より、メルボルン都市圏の地域構造の一端を明らかにする。さらに、アクティビティ・センター開発の特徴について述べる。2.ショッピングセンターの立地展開 メルボルン都市圏の人口336.7万人(2001年センサス)は、メルボルン市を中心にやや東に偏って分布している。その結果、主要なショッピングセンターの立地もそれに類似した傾向を示している。都市圏内に立地するショッピングセンターは、156カ所でその総売場面積は約255万_m2_である。メルボルン都心部に立地するのは10カ所、約13万_m2_に過ぎず、商業施設立地の郊外化が顕著である。売場面積が8.5万_m2_を超えるスーパーリージョナル型は4カ所、5万_から_8.5万_m2_のメジャーリージョナル型は12カ所となっている。ショッピングセンターの立地は、1970年代以後急速に進められたが、90年代後半よりその新規立地は減少傾向にある。3.アクティビティ・センターの開発 アクティビティ・センターの開発構想は、1970年代にさかのぼる。アクティビティ・センター開発の目的は、鉄道などの公共交通利用を基本とした、小売、サービス、オフィスなどの土地利用のミックス化と就業空間の形成である。その背景には公共交通利用の促進や職住接近などによる持続可能性の高いまちづくりがある。アクティビティ・センター開発の基本的な特徴は次のようにまとめられる。_丸1_アクティビティ・センターの開発は基本的には州が基本方針を立て、各自治体がそれを実行している。_丸2_その財源の確保は、基本的にはケースバイケースである。_丸3_郊外間を結ぶ公共交通は、アクティビティ・センター間をバスで結ぶ形で整備を進めている。_丸4_新規のショッピングセンターの開発は、ゾーニングにより基本的にはアクティビティ・センターへ誘導される。アクティビティ・センター以外へのショッピングセンターの開発などは、各自治体が調整を行っている。_丸5_郊外型の大規模ショッピングセンターもバスなどのアクセスを増やし、公共交通体系の中に位置づけている。 本研究を行うに際し、平成16_から_17年度科学研究費補助金基盤研究(C)(1)「成熟時代における都市圏構造の再編とリバブル・シティの空間構造に関する地理学的研究」(研究代表者:山下博樹)の一部を使用した。メルボルン都市圏における主要シヨッピングセンターの立地 1:メルボルン都心部 2:スーパーリージョナル型(売場面積8.5万_m2_以上)3:メジャーリージョナル型( 〃 5万_から_8.5万_m2_)4:リージョナル型( 〃 3万_から_5万_m2_) 資料:『Shopping Centre Directory Victoria & Tasmania (PROPERTY COUNCIL OF AUSTRALIA 刊)』より作成
著者
山下 博樹
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-19, 1993
被引用文献数
1

近年,多くの研究者によって指摘されている大都市圏の構造変化に関して,東京大都市圏周辺部への都市諸機能の集積,さらにそれらが顕著にみられる周辺中核都市の成長に着目し,1975年〜1985年の変化について考察をおこなった。個々の周辺中核都市の特性を解明するに際して,通勤・通学流動,物品販売機能の集積状況,および業務管理機能の集積状況を明らかにした。その結果は次の通りである。(1)東京への通勤・通学人口率をみると,周辺部への高等教育機関移転の結果,とりわけ通学人口率の相対的低下が進んだ。(2)通勤・通学人口率から周辺中核都市は,その人口吸引の特性によって4つの類型に分類できる。また人口吸引力に優れた機能の集積が,大都市圏周辺部において周辺中核都市を成長させている。さらにかかる都市の成長にともない人口流動現象が複雑化してきた。(3)小売商業力指数から判断して,都心部での水準維持に対して,周辺部では全体的に平準化が進み,地域格差が縮小した。また東京への通勤・通学率がおおむね30%以下と高い周辺部内帯では,東京の近郊都市としての性格を強めた結果,上記の指数の低下傾向が認められた。(4)上場企業の支所オフィスは,東京区部へ一極集中すると同時に県域統括レベル支所オフィスの周辺中核都市への著しい集積がみられた。さらに下位の都市でもその立地増加が確認された業種もある。かかる状況から,大都市圏における周辺中核都市のもつ機能は重要性を増大しつつあると言える。したがって,そうした動向は大都市圏における構造変化の一断面であると規定できる。
著者
藤井 正 伊東 理 伊藤 悟 谷 謙二 堤 純 富田 和昭 豊田 哲也 松原 光也 山下 博樹 山下 宗利 浅川 達人 高木 恒一 谷口 守 山下 潤
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

まず、多核的都市圏構造の研究を整理・展望し、空間的構造の変化に関して社会的メカニズムを含め、地理学と社会学からの分析を行い、同心円的なパターンから地区の社会的特性によるモザイク化、生活空間の縮小の傾向を明らかにした。これは都市整備面では、多核の個性を生かし、公共交通で結合する多核的コンパクトシティ整備を指向するものとなる。こうした整備についても、中心地群の再編等の動向について国際比較研究を展開した。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。