著者
森田 正輝 永吉 由香 木村 淳志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0121, 2012

【はじめに、目的】 ランニングやボールキック等により、脛骨前方移動量(以下、移動量)が増加するという諸報告がある。しかし、それらは単的な運動にすぎず、実際のスポーツ活動中に測定した報告は無い。また、前十字靱帯(以下、ACL)損傷が試合・練習の後半で発生しやすいという報告もあり、その原因の解明は意義があることだと考える。今回、女子バスケットボールにおいて、ACL損傷についての教育を受け予防トレーニングを行っているチームと教育・トレーニングを行っていないチームに対して練習中の移動量を経時的に測定し練習量と移動量の関係を中心に調査することでACL損傷予防を検討した。【方法】 高校女子バスケットボール部のチームC(19名・平均年齢15.9±0.7歳)とチームN(14名・平均年齢16.5±0.5歳)の2チームに所属する部員で、当日の練習に全て参加し、且つ膝に愁訴の無い者を対象とした。測定は、利き足・非利き足の移動量をロリメーター(日本シグマックス社製)にて3回ずつ測定した。以上の測定を、練習前・練習中間・練習後(以下、前・中・後)にそれぞれ実施した。チームCは当院スタッフが帯同し、ACLについての講義を受け予防トレーニングを行い3年間ACL損傷が発生していない。チームNはACLについての知識が無く予防トレーニングも行っておらず3年間で2例2膝のACL損傷が発生している。当日はこの2チームが4時間半の合同練習を行った。得られた測定値はWilcoxon符号付順位和検定を用い有意水準を5%未満として統計学的処理を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し、参加に同意を得て行った。【結果】 チームCの利き足は、前4.39mm・中5.31mm・後5.42mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.60)、非利き足は、前4.16mm・中5.41mm・後5.66mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.27)であった。チームNの利き足は、前4.14mm・中5.31mm・後5.55mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.37)、非利き足は、前4.33mm・中5.29mm・後5.61mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.08)であった。いずれのチームにも同様の結果が得られた。【考察】 移動量はACLの緊張だけでなく関節包・筋などの軟部組織の柔軟性も関与している。バスケットボールに多いダッシュ・ターン・ジャンプ動作は、膝関節に前後方向・回旋ストレスを与え、それらに対し直接的なストレッチとなることで、軟部組織の柔軟性が向上し、移動量の増加が認められたと考える。しかし、どちらのチームも同様の結果であったにも関わらずチームCにはACL損傷が発生していないことから、選手に対しACLについての教育や予防トレーニングを行うことが重要であることを示唆している。また、今回の研究では練習中間までの移動量の増加が著しく、中間からは時間経過とともに起こる上昇はゆるやかになるが、頭打ちにはならなかった。試合・練習の後半に受傷が多いという報告もあり、移動量の増加がこの一因となっている可能性が示唆されるため、これを念頭に置いて予防トレーニングをする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 我々理学療法士としてはACL再建術後等の患者に対し動作指導を行う際に、疲労を起こさないように配慮することが多い。しかし、今回の研究結果により練習・試合の後半を見越しての確実な動作を獲得するためのアスレチックリハビリを実施し、競技復帰を許可することの重要性を示した。

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著者
木村素衛 著
出版者
弘文堂
巻号頁・発行日
1942
著者
木村 裕一
出版者
学習院大学
雑誌
学習院大学人文科学論集 (ISSN:09190791)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.183-200, 2008

1904年に最初の稿(いわゆる「A 稿」)が成立したフランツ・カフカの『ある戦いの記録』は、他の代表的な作品と比べそれほど注意を払われてこなかった。分析されたとしても、もっぱら注目されてきたのは、枠物語として展開されている「太った男」および「祈る男」の部分のみであった。その際この枠物語は、同時代の「言語危機」現象を背景とした現実に対する認識論的批判や、あるいは「書かれたもの(エクリチュール)」の自律的運動性と結び付けられることで、物語の文脈から切り離されて読まれてきた。本論で試みるのは、このようにして一部が切り離されて読まれてきたこの作品を、全体的なコンテクストを考慮に入れながら読み直していく作業である。とりわけ注目しているのは、この作品の最後のシーンで繰り広げられる自傷行為である。作中で展開される枠物語において、言語とその指示対象とのあいだの関係は、恣意的に変更可能なものとして撹乱される。身体は確固とした実体的存在としてではなく、知覚を前提とした記録行為によって構成されるものとして現れてくる。また、事物や世界は名づけによって(再)構成可能なものとして描かれている。そして、枠物語をはさんで本筋の物語の登場人物である「私」と「知人」のあいだの関係は変化する。枠物語以前の「私」による言語行為は、「知人」による直接的な身体行為によって阻害されてしまう。しかし枠物語を通じて、「私」の言語行為は「知人」の身体的行為と同等の確実さを持つように描かれている。この関係を再度撹乱してしまうのが「知人」による自傷行為である。自傷行為は言語によらない行為であり、言語行為が決して到達することのできない限界点を提示する。言語行為によって展開されてきたはずのテクストが、最終的には言語によらない行為によって破綻し、終焉するという構造は、この作品における最も重要な特徴である。しかしこのような構造は、決して単純に同時代的なコンテクスト、すなわち「言語危機」と結び付けられるものではない。「言語危機」現象の例として挙げられる数々の言説において、「危機」は最終的には、芸術的表現という言語行為によって克服される、あるいはそれを前提とした演出にとどまっている。それに対し、カフカのこの作品において「危機」は言語と行為のあいだの架橋不可能な断絶を、危機の表現の(不)可能性を指し示しているのではないか。その意味で、『ある戦いの記録』はカフカ研究においてのみならず、文化的現象としての「言語危機」を分析する際の新たな視点を用意してくれるテクストとして、非常に重要であるということができる。
著者
榎本 一紀 松本 直幸 木村 實
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.89-94, 2013

絶え間なく変化する自然環境のなかで,雑多な情報から必要なものを判別し,過去の経験や現在の状況に照らし合わせて,将来の目標を見据えた最善手を打つことは,人間やその他の動物にとって,配偶者や食料,金銭などの報酬を効率よく得るために,また,危険や損失を回避するために必須である。ドパミン細胞は中脳の黒質緻密部,腹側被蓋野などに集中して存在し,線条体や前頭葉,大脳辺縁系などの広範な脳領域に投射しており,報酬を得るための意思決定や行動選択に関わる神経システムにおいて,重要な役割を担っている。過去の研究から,ドパミン細胞の活動は,刺激の新規性や,動機づけレベルなどと同時に,報酬価値情報を反映することが報告されている。ドパミン細胞は条件刺激に対して放電応答を示して,期待される報酬の価値を表現し,また,強化因子に対する応答は報酬の予測誤差を表現する。最近,筆者らはニホンザルを用いた研究によって,ドパミン細胞の活動が,学習によって,長期的な将来報酬の価値を表現することを明らかにした。この研究では,サルに複数回の報酬獲得試行を経てゴールに到達することを目標とする行動課題を学習させ,課題遂行中のドパミン細胞の活動を電極記録した。ドパミン細胞は,条件刺激(各試行の開始の合図となる視覚刺激)と,正または負の強化因子(報酬獲得の有無を指示する音刺激)に対して応答し,その応答の大きさは,目前の1試行だけの報酬価値ではなく,目標到達までの,複数回の報酬価値を表現していた。これらの活動は,強化学習理論に基づく一般的な学習モデルによって推定した報酬予測誤差(TD誤差)によってよく説明できた。また,このような報酬価値の表現は課題の学習初期には見られず,課題の構造に習熟してはじめて観測できることが確かめられた。以上のことから,ドパミン細胞は長期的な将来報酬の情報を線条体や前頭前野などに送ることで,意思決定や行動選択を制御していると考えられる。この結果は,目先の利益にとらわれず,目標に向かって意志決定や行動選択を行う脳の作動原理解明につながることが期待される。
著者
上出 櫻子 木村 恵美 小林 牧人
出版者
公益財団法人 平岡環境科学研究所
雑誌
自然環境科学研究 (ISSN:09167595)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-4, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
11

Japanese medaka (Oryzias latipes) is known to deposit fertilized eggs on aquatic substrates in shallow waters. In order to examine the influence of water depth on embryonic development of fertilized eggs of an orange-red variety and wild medaka, we observed fertilized eggs for 18 days and compared the hatching rate and the hatching time at different water depths of 5, 30, and 65 cm. The hatching rate was lower at 65 cm depth than at 5 cm depth and the hatching time was longer at 65 cm depth than at 5 cm depth with both the orangered variety and the wild medaka. These results indicate that deep water is not suitable for the embryonic development of medaka and suggest that preservation of natural conditions in shallow waters of rivers and ponds is important for conservation of wild Japanese medaka.
著者
木村 英明
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.183, 2016 (Released:2020-08-08)

人類が誕生して以降、地球環境はめまぐるしくその姿を変え、人類の進化に大きな影響を与えてきた。「常春の大地」にあこがれる文明人・古代ギリシャ人の壮大な極北への冒険は、想像を絶する酷寒の自然に阻まれるが、それよりもはるか悠久の昔の氷河時代に人類がこの極北に入り込み、豊かな生活を繰り広げていたことが知られている。人類のダイナミックな移動、交わり、変遷を北海道の考古学を軸に据えつつ紹介したい。 1.氷河期の極北に挑むホモ・サピエンス マンモスが、地下に棲むモグラとして生きながらえてきたことを極北の民が語りついできた。マンモスは真に絶滅したのであろうか? 今から3万年ほど前の大昔、私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスが、北方ユーラシアに広がり、やがて日本列島やアメリカ大陸に足跡を残す。氷河期の酷寒の地で、マンモスの牙を巧みに利用する驚くべき技の持ち主たちが、北海道に及んだ可能性を追う。 2.黒曜石はるかな旅 人類は、道具を製作し、巧みに使いこなす類い稀な生物である。700万年間に及ぶ長き人類進化の歴史も、道具の発達に支えられてきたと言えよう。道具にふさわしい石材を求めて、人びとははるかな旅を続けてきた。北海道のオホーツク海に近い遠軽町・白滝赤石山(標高1147m)は、天然の火山ガラス、黒曜石の日本最大級の産地で、日本ジオパークに認定されているが、原産地の様子とともに、本州やサハリン・シベリアにまで運ばれる黒曜石と先史時代の人類の営みを紹介したい。 3.縄文時代のおしゃれと死への祈り 人類が人類である理由のひとつに、死者を埋葬する行為を上げることができよう。埋葬は、いつ始まったのか? 何故、わざわざ埋葬するのか? また、埋葬された人々には、当時の服装やおしゃれの姿を残す貴重な事例が知られているが、縄文人のおしゃれはどのようなものであったのか? 北海道にのみ分布が知られている巨大で、計画的な竪穴式集団墓を始め、恵庭市カリンバ遺跡で発掘された貴重な合葬墓の例に見られる埋葬の様子を紹介しつつ今から3000年ほど前の縄文人の他界観、優れたファッションの一端を探る。 4.北に広がるヒトとモノの交流 縄文時代以後、本州の稲作農耕文化から切り離された「停滞する北海道の文化」というイメージが広く、また長い間にわたって固定化されてきた。しかし、続縄文時代以降も、狩猟、漁撈を主体とした自律的な経済・文化を繁栄させてきた。一方で、本州からの強い文化的影響を受け、さらには北方の人々との交わりを通して独自の文化的変容を遂げてきた。続縄文や擦文文化、オホーツク文化の住居構造や道具、装身具などの変遷を通してその実態を探る 5.日本列島での人類進化史をめぐる論争と現状 アウストラロピテクス・アフリカヌスの化石を発見した人類学者・R.ダート博士が、人類は「殺し屋のサル」であると称した。事実、世界史に刻まれる民族・人種間の争いは枚挙にいとまがない。とすれば、人類の未来は無きに等しい。 日本列島に目を転ずると、アイヌ復権に向けて事態は大きく改善されつつある昨今であるが、日本人とは何か、アイヌ人とは何か、奥深い理解なくしての表面上の国策のみではなお心もとない。講演のまとめとして、明治期以来、人類学者、民族学者、言語学者などによって繰り広げられてきた「人種論争」の今日的到達点はいかなるものであるか、北海道の考古学の立場から展望する。 略歴 史学博士、ロシア科学アカデミー名誉博士。1943年、札幌市生まれ。1967年、明治大学大学院修士課程文学研究科修了。札幌大学文化交流特別研究所助手、文化学部教授、同大学大学院文化学研究科教授、同学部長・研究科長等を歴任、2008年に退職。国内を始め、イラク、ロシア等での考古学調査に従事。現在、白滝ジオパーク交流センター名誉館長、ロシア科学アカデミー考古学・民族学研究所特別研究員他。著書『マンモスを追って』(一光社)、『シベリアの旧石器文化』(北海道大学図書刊行会)、『まんがでたどる日本人はるかな旅』(監修、NHK出版)、『北の黒曜石の道―白滝遺跡群』(新泉社)、『氷河期の極北に挑むホモ・サピエンス』(雄山閣)他。
著者
板垣 喜代子 木村 綾子 渡部 菜穂子 福士 理沙子 浅田 一彦
出版者
弘前医療福祉大学紀要編集委員会・弘前医療福祉大学短期大学部紀要編集委員会
雑誌
弘前医療福祉大学・弘前医療福祉大学短期大学部紀要 (ISSN:24350915)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.25-37, 2021-03-29

高次脳機能障害のリハビリテーションには、レクリエーションが含まれる。 本研究の目的は、高次脳機能障害とレクリエーションの効果に関する文献検討を行い、レクリエーションの効果の明確化と対象者への効果的な介入方法を考察することである。 2020年5 ~11月に、医学中央雑誌、KAKEN、J-stage、CiNii、PubMedの検索エンジンにて、キーワードをレクリエーションとして抽出・絞り込みを行い、2001~2020年に発行された34論文を検討した。対象者の年齢は子どもから高齢者であり、脳外傷、脳卒中、脳血管性とアルツハイマー型認知症を含む認知機能障害及び失語症患者が対象とされ、健常者とレクリエーションの効果に関する比較実験も報告された。 結果から、脳外傷者はレクリエーションを通して笑い、楽しいと感じて、前頭前野を刺激して対象者の認知機能を向上させ、自らの病状の自覚を促し対人関係の改善につながる効果があると報告された。二重課題の効果は、認知症の高齢者が椅子に座り指を折りながら数を数える論文と、脳卒中患者間の実験で歩行と転倒認知運動の干渉を軽減させるという論文があった。一方で、脳卒中患者と健常者の歩行と二重課題の比較実験で脳卒中患者は前頭前野の活性が優位に低かった報告があり転倒のリスクが示された。 高次脳機能障害者の多様性を考慮し安全で適切なレクリエーションを実施することで、前頭前野を刺激し認知機能と身体機能及び社会性も維持、改善する可能性が示唆された。
著者
木村 一裕 清水 浩志郎 伊藤 誉志広 呉 聲欣
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
no.17, pp.973-980, 2000
被引用文献数
1

車いすの走行環境に関して, 縦断勾配や横断勾配, 段差など, 個別の課題に関する研究は行われているが, これらの多様な交通抵抗が連なっている実際の歩行空間に関する評価は行われていない。本研究では, 実際のルートにおいて車いす走行実験を行うことで, 車いす利用者にとって, 走行する時に縦断勾配などの物理的要因だけではなく, 道路横断などの心理的要因もかなり負担を感じていることを明らかにすることができた。また段差や縦断勾配, 横断勾配はその値が大きくなるにつれて負担ウェイトが指数的に増加することが明らかとなった。
著者
廣瀬 聰明 野中 伸介 上野 栄和 木村 重治 吉本 正太 道家 孝幸 杉 憲 岡村 健司
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.883-887, 2011 (Released:2011-12-21)
参考文献数
12
被引用文献数
4

We performed arthroscopic rotator cuff repair (ARCR) for all rotator cuff tears. The purpose of this study was to evaluate the clinical results of ARCR using double-row technique. We retrospectively studied 64 patients (65 shoulders) who had received ARCR using double-row technique and who were followed up for more than 2 years. The patients were 30 males and 35 females. The mean age at operation was 65 years old (range, 44-86). The mean postoperative follow-up period was 25 months (range, 24-36). The clinical results were assessed using JOA scores and MRI by Sugaya's classification. Tear size was small tear in 9 shoulders, medium in 36, large in 12, and massive in 8. The mean JOA total score was significantly improved from 66 points preoperatively to 96 points postoperatively. Postoperative MRIs showed 20% re-torn cuff in all cases, especially, 40% in large and massive tears. In 45 shoulders which had MRI taken regularly, re-tear by MRI was revealed within 3weeks: none, at 3 months: 4 shoulders, at 6 months: 1shoulder, at 1 year: 4 shoulders, and 2 years: none. In this study, the clinical results of ARCR using double-row technique was mostly satisfactory. But JOA score in no tear group (97points) was better than re-tear group (92points). So we have to consider the methods to prevent re-tear after ARCR.
著者
権藤 洋一 木村 穣 福村 龍太郎 牧野 茂
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

初年度の成果是正も含め、発生初期の高変異率や停止コドン抑制の新たな分子機構など学会などで発表した。2019年度はさらに大きな目的である遺伝的背景の異なる条件下での自然変異大規模WGSデータを得た。これまでマウスゲノム参照配列である世界標準系統C57BL/6Jを中心に解析してきた。今回ゲノム配列が1%以上も異なる日本産MSM/Ms系統の大規模解読を完了した。数世代の兄妹交配で変異を蓄積したMSM系統親の小規模解析から変異率の20%減少が示されていたので、今回、継代が進みさらに蓄積された同腹6個体のWGSを完了しビッグデータを得た。また6匹の雌雄両親ゲノムも解読し「拡張トリオ解析」を実現した。予備実験では兄妹交配蓄積のためマルコフ過程に基づく変異率推定値しか得られなかったが、親子間で直接大規模検出することも可能となったため高精度な変異解析が実現する。またマルコフ過程に依存した変異率推定の実験実証にも成る。MSM系統の極めて高い発がん抵抗性が、自然変異率20%減少がその一因となることを直接実験証明することにつながる。もう1つの大きな目的である構造変異structural variation (SV)の高精度検出においても、2つの全く新しい技法によって網羅的大規模解析が実現した。ひとつは、BioNano社の Saphyrシステムを用いた数Mbpの1分子長鎖全ゲノムマッピングwhole genome mappinng (WGM)データを得た。また、もうひとつはMGI社のsingle tube long fragment reads (stLFR)データである。いずれも、これまで解析してきたC57BL/6Jの同じマウスゲノムDNAを用いたデータであり、すでに得ているイルミナshortreadだけでなく、PacBioやNanoporeデータとも直接比較解析可能となり、単にSV検出に留まらず、すでに得ている参照配列の見直し6000候補箇所の実証にもつながる。
著者
木村 悟朗 草間 俊宏 榎田 順一
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1151-1153, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

本研究は,紫外線領域を含む有色LED照明および白色LED照明へのユスリカ類の飛来量を明らかにするために,野外試験を行った。紫外線領域を含む有色LED照明(UV+blue, UV+green,およびUV+green+blue)3種と白色LED照明(UV+white)1種,合計4種の光源を使用し,各照明へのユスリカ成虫の飛来量を比較した。ユスリカ成虫はUV+green+blueにもっとも多く飛来し,次いでUV+green, UV+white, UV+blueの順であった。本研究で使用したLED照明に飛来しているユスリカ類は主に可視光領域,特に緑>黄緑>青の順に反応していると考えられた。さらに,紫外線領域を含まない防虫有色LED照明のユスリカ類に対する効果についても追加試験を行った。市販されている防虫有色LED照明である黄色LED照明(yellow)と緑色LED照明(green),および白色LED照明(white)の合計3種の光源を使用し,各照明へのユスリカ成虫の飛来量を比較した。各調査日のwhiteを1とした場合の防虫LED照明の相対飛来量を算出した。whiteに対するyellowの相対飛来量は0.2±0.3(n=3)であった。一方,whiteに対するgreenの相対飛来量は0.8±0.4(n=3)であった。これらの結果から,ユスリカ類の防虫には黄(yellow)が有効であると考えられる。