著者
玉森 聡 石黒 祥生 廣井 慧 河口 信夫 武田 一哉
雑誌
情報処理学会論文誌コンシューマ・デバイス&システム(CDS) (ISSN:21865728)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.33-46, 2019-05-24

名古屋大学COIでは,高齢者が元気になるモビリティ社会の実現を目指した研究開発を進めている.高齢者が「いきいきした生活」を送るために,外出や他者とのコミュニケーションを継続的に行うことが重要である.我々は高齢者の外出促進を目的として,スマートフォンを利用した個人適応型行動認識とチャットアプリケーションを開発した.これは,高齢者の行動を逐次認識し,蓄積されたデータを活用して地域のイベントなど外出につながる情報を,チャット対話を通じて高齢者に提示する外出促進チャットアプリケーションである.本論文では,愛知県豊田市にて10名の実験協力者に対し実証実験を行い,実環境下での行動認識結果の報告およびアプリの実現可能性や製品化に向けての問題点の確認を目的としている.この実証実験から,アプリに導入した個人適応学習型行動認識について,実環境下で特定の行動「テレビの視聴」の認識が最大46%の精度で可能であることが分かった.この認識結果に基づいたチャットが行える一方で,行動認識上の問題点として,周囲の環境音が大きく精度に影響を与え,チャットのやりとりの阻害原因になる.それゆえ,誤った認識結果に基づくチャットをできるだけ減らす必要があり,より多くの高齢者の外出促進を行うには年齢や忙しさに応じた会話内容や提示内容,提示手法の検討も必要であることが分かった.
著者
武田 一馬 川西 康友 平山 高嗣 出口 大輔 井手 一郎 村瀬 洋 柏野 邦夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 A (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.J106-A, no.3, pp.58-69, 2023-03-01

本研究の目的は,多数の人物の視行動を分析することで,観衆が注目している複数の注目対象の位置の推定と,それらが注目されている度合(被注目度)を定量化することである.被注目度を推定する典型的な方法として,観衆の視線を推定し,その視線と物体の位置を対応付けることで,被注目度を推定することが考えられる.その場合,機器を設置するコストや手間をふまえると,観衆全体を一度に撮影した映像から視線を推定することが望ましい.しかし,このようにして撮影した映像から切り出した顔画像の解像度は観客ごとに撮影した場合と比べて小さく,視線推定精度は低い.そこで本論文では,低解像度でも比較的推定しやすい顔向きの時系列データを入力とし,これらを時空間的に統合することで,観衆が複数の注目対象を注視する状況下で注目対象の位置と被注目度を同時に推定する手法を提案する.提案手法の有効性を確認するため,アイドルのライブ公演を模したデータセットを構築し,注目対象の位置及び被注目度の推定精度を評価した.実験結果から,提案手法により比較手法と比べて被注目度の推定精度が向上することを確認した.
著者
勅使河原 三保子 伊藤 克亘 武田 一哉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.291, pp.39-44, 2005-09-09
被引用文献数
1

本研究では日本のアニメにおける善玉と悪玉の音声の比較を行った.不快感情を表すことが多い悪玉の声は, 不快感情が持つ音声的特徴を反映するという仮説が立てられ, Laverの声質記述の枠組みを用いた受聴による分析により, 悪玉の声には咽頭部分の狭めまたは拡張が聴覚的に認められた.咽頭部分の狭めやそれに伴う調音的特徴は, 不快感情を表す音声に予測された特徴であった.日本語母語話者を対象とした聴取実験において, 咽頭部分の形状について対比させた刺激音を用い, 咽頭部分の形状が人物の印象(外見, 性格, 感情)を左右することが確認された.
著者
高木 絢加 武田 一彦 御堂 直樹 駒居 南保 山口 光枝 永井 成美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.49-58, 2013 (Released:2013-05-23)
参考文献数
32
被引用文献数
4 3

【目的】温かい飲食物摂取後の,「体の温かさ」や体温の変化を検討した報告は少ない。本研究の目的は,温度の異なるスープをサンプルとして,飲食物の温度が摂食者の主観的温度感覚と深部・末梢体温に及ぼす影響を調べることである。【方法】前夜から絶食した若年女性20名に,異なる日の朝9時に,65°Cスープ摂取,対照として 37°Cスープ摂取,スープ摂取なし(ブランク)の3試行をランダムな順序で実施した。26°Cの実験室で検査衣を着用した安静状態の被検者の,サンプル摂取10分前から摂取65分後までの主観的温度感覚,深部体温(鼓膜温),末梢体温(手先温,足先温),心拍数を測定した。スープ摂取後には嗜好調査を実施した(大変おいしい[10点]~大変まずい[0点])。【結果】嗜好得点は,65°Cスープでは37°Cスープより有意に高かった。摂取後の鼓膜温,足先温,心拍数の変化量は,65°Cスープ, 37°Cスープ,ブランクの順に高値で経時変化した(Sample effect, Sample×Timeとも有意)。各測定時点の多重比較からは,65°Cスープでは,主観的温度感覚は摂取直後で 37°Cスープやブランクと比べて有意に高値であること,鼓膜温は摂取20分後まで,足先温は摂取15分後まで 37°Cスープと比べて有意に高値であることが示された。【結論】37°Cスープとの比較から,65°Cスープ摂取後の鼓膜温や足先温の上昇はスープの温度の影響を受けていると考えられた。3試行の結果から,飲食物に含まれるエネルギー基質や美味しさなどの要因に加え,飲食物の温度自体も主観的温度感覚や体温に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
武田 一樹 留場 宏道 安達 文幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RCS, 無線通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.555, pp.139-142, 2007-02-28
被引用文献数
2

厳しい周波数選択性フェージング環境下のシングルキャリア(SC)伝送では,周波数領域等化(FDE)を用いても残留符号間干渉(ISI)によりビット誤り率特性が著しく劣化してしまう.筆者らはこれまでFDE に,Tomlinson-Harashima precoding(THP)を組み合わせることで残留ISIを抑圧し,厳しい周波数選択性フェージング環境下でも優れた伝送特性が得られることを明らかにしてきた.更なる伝送品質の改善には,誤り訂正符号化との併用が不可欠である.ターボ誤り訂正符号化では,ビット尤度の計算が必要である.本報告では,THPとFDEを用いた場合のビット尤度の計算法を示すとともに,ターボ符号化SC伝送へのTHPとFDEの適用効果を明らかにしている.
著者
大橋 宏正 北岡 教英 原 直 武田 一哉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.219, pp.59-64, 2010-10-01

音声を連続音声認識システムにより常時認識することによって得られる認識単語列からその場の雰囲気に適切な音楽・楽曲を提案し,再生するシステムを構築した.楽曲を説明するテキストより構築された文書ベクトル空間と,楽曲の音響特徴量を表現する音響ベクトル空間の対応付けを利用することで,大語彙音声認識によって得られた音声認識単語列を音響ベクトル空間へとマッピングする.また,大語彙音声認識ではカバーできない固有名詞などのキーワードをワードスポッティングで認識する.本稿ではシステムの概要と基本的な性能評価の結果と実際の雑談音声への応用に向けた予備実験結果を示す.楽曲のレビューを読み上げた音声を認識した結果による楽曲検索結果と,レビューのテキストを用いた結果との比較により,テキストではMRR値1で検索できたものが,音声認識性能はWER70.55%,ワードスポッティング性能はF値31.58%でもMRR値0.83と比較的良い結果を得た.また,今後の雑談認識の応用の予備的実験を行い,雑談書き起こしからの例を示した.
著者
武田 一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.294-306, 1998-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49

日本の太平洋沿岸の砂礫質海浜における後浜上限を地形と海浜植物を用いて六つのタイプに分類し,その高度BH(平均海面からの高さ)と海浜堆積物の粒径Dとの関係を検討した.その結果,D<10mmの範囲ではDが大きくなるにつれてBHも大きくなるが,D>10mmの範囲ではDが大きくなるにつれてBHが小さくなること,また,バー海岸のBHはバーなし海岸のBHよりも小さくなることを見出した.後浜上限高度は暴浪時に波が遡上する最大の高度Rmaxに一致するが,Rmaxは暴浪時の波の規模だけではなく,バーの波に対するフィルター効果,汀線砕波波高を規定するステップの規模,および礫の消波効果と関係する.これらの諸要素はDと密接に関連するために,BHもDに大きく左右されることが分かった.
著者
高木 絢加 岸田 菜々 鈴木 麻希 武田 一彦 木村 理恵 永井 成美
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.165-173, 2016 (Released:2017-01-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

【目的】我々は,温スープ摂取後の安堵感の上昇にはスープの嗜好性が,体温上昇にはスープの温度が関連することを若年女性において見出したが,スープ中のナトリウム(Na)の影響の程度は不明であった。本研究の目的は,日常で摂取している容量のNaが嗜好性・安堵感や主観的温度感覚,深部・末梢体温の上昇に及ぼす影響を,スープと食塩のみを除いたスープ(食塩無スープ)を用いた実験により明らかにすることである。【方法】前夜から絶食した若年女性12名に対し,スープ(Na 440 mg)摂取,食塩無スープ(Na 61 mg)摂取,スープ摂取なし(ブランク)の3試験を異なる日の朝9時より無作為な順序で行った。サンプル(65°C,150 ml)は5分間で摂取し,直後に嗜好調査を行った。深部体温(鼓膜温),末梢体温(手先温・足先温),心拍数は,摂取10分前から65分後まで測定し,安堵感と主観的温度感覚は質問紙で6回測定した。【結果】スープでは食塩無スープと比べて嗜好得点が有意に高く,摂取後の足先温(曲線下面積:AUC)も有意に高かった。重回帰分析より,足先温上昇に嗜好得点が関連していることが示された。安堵感,主観的温度感覚,心拍数の各AUCは,両スープともにブランクより高かったがスープ間での差はなかった。【結論】スープに含まれるNaは,食塩としてスープの嗜好性を高め,摂取後の足先温上昇に関与することが示唆された。一方,両スープ摂取後の安堵感,主観的温度感覚,鼓膜温,心拍数は類似した経時変化を示したため,本研究で用いたサンプルのNa濃度の影響は限定的だと考えられる。
著者
武田 一哉
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-111, no.3, pp.1, 2016-05-14

机の前の本棚の目に着く場所に 2 つの学位論文を置いている.一つは学生時代の指導教官であった池谷和夫先生の論文 「形成振動板に関する研究」 もう一つは,若手教員時代の上司であった板倉文忠先生の論文 「統計的手法による音声分析合成系に関する研究」 だ.共に電電公社の研究所で執筆された 2 つの論文である.物理数学の集大成のような前者と,確率数理を駆使した後者.おなじ 「音学」 の論文でありながら,この 2 つの論文のアプローチには,12 年間という出版年の違い以上に本質的な違いがある.物理学としての音学から,情報学としての音学へ,我々はそんな変化の中で音学を研究して来たのだ.そして思い返せば,この音学の変化こそ,データサイエンスという巨大なパラダイムシフトの前兆であったのだ.
著者
澤田 結基 武田 一夫 川辺 百樹 藤山 広武
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.853-863, 2011-10-25 (Released:2012-01-17)
参考文献数
12
被引用文献数
4 8

We conducted an experimental geotour, which was monitored by professional nature guides, to improve our geotour plan and guiding techniques. We asked the nature guides to fill out a questionnaire and give advices to improve the geotours. The experimental geotours were conducted at the Shikaribestu volcano group and Shikaribetu Lake in central Hokkaido, Japan. We explained the geological history of the volcano group and the mechanism of cold talus slopes filled with ice, in as simple terms as possible. However, the nature guides judged our geotours to be “rather difficult”, indicating that our plan and interpretation need to be improved. Based on the results of questionnaires and comments from the nature guides, we propose some ideas to improve the geotour in general: (1) Eliminate technical terms where possible in the explanations; (2) Use clear figures and pictures in explanations; and, (3) Make a story to connect all the geosites included in a tour. To improve guidebooks: (1) Use bird's-eye view map or other 3D maps instead of contour maps to make it easy to understand the landform; (2) Add glossary of technical terms and scale of geologic time; and, (3) Send the guidebook to participants before the geotour. These ideas may help to deepen the participant's' understanding and to achieve high-level of satisfaction among participants.
著者
尾崎 晃 草川 高志 西脇 由博 マルタ ルーカス 宮島 千代美 西野 隆典 北岡 教英 伊藤 克亘 武田 一哉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.10, pp.2118-2128, 2010-10-01
被引用文献数
3

人間の行動を真に理解するためには,行動を記録すると同時に心的状態を知る術も同時に記録する必要がある.更にこのようなデータが大量に必要となる.そのような研究のための第一歩として,自動車実走行環境における自動車挙動を含む運転操作信号,生体信号などのデータを同期測定・記録する機器を作成した.様々な運転環境の負荷を調査するため,平静の運転をはじめ,標識や看板などを見る,イヤホンを通じて英数字を聞いて発音する,携帯電話でナビゲータと会話をする,そしてコンピュータと音声対話を行う4種類のタスクを自動車走行中に実施している.運転行動を測定するため,アクセルペダル踏力,ブレーキペダル踏力,ステアリング操作角,走行位置,車速,加速度,車間距離を収録する.また生体信号を測定するため,心拍数,皮膚電位,発汗量のセンサを搭載している.運転手と交通状況は,四つのビデオカメラと全方位カメラによって動画として記録する.運転手とナビゲータの声は,携帯電話と車内に配置されたマイクロホンで計12チャネル録音する.これらのマルチモーダルデータは同期して収録できる,2008年末までに,357名の被験者を募集して実験走行を行った.走行環境,運転行動,発話内容などに応じて詳細なラベルを定義し,実験後に運転データへ手作業で付与した.更に,このデータベースを用いた研究例を挙げ,データベース活用による今後の人間行動理解の可能性を示した.
著者
寺西 真聖 筒井 和詩 武田 一哉 藤井 慶輔
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.3G4OS15b05, 2022 (Released:2022-07-11)

サッカーは22人の選手とボールが複雑に相互作用する競技である。サッカーの攻撃選手の定量的評価については、ボール保持状態に関する研究が多く、数は少ないがボール非保持状態に関する研究も行われている(例えば[1] Spearman et al. 2018)。しかし、ボールを保持せず、受け取らない攻撃選手の評価が難しく、典型的な(あるいは予測された)動きと比べて、どのように動いたことが得点機会の創出に寄与するかを明らかにすることが難しい。本研究では、軌道予測により生成された基準となる動きを実際の動きと比較して、オフボールの得点機会を創出する選手を評価する。提案手法では、まず正確に選手間の関係性をモデル化し長期軌道予測が可能な、グラフ変分再帰型ニューラルネットワークを用いて軌道予測を行う。次に、ボール非保持状態を評価する既存手法[1]の実データの値と軌道予測の値の差に基づき、基準となる予測された動きと比べて、どのように動いたことが得点機会の創出に寄与したかを評価する。検証では、Jリーグの全18チームとの得点との関連やある1試合の例を用いて、提案手法の評価が直観に合うことを示す。