著者
田中 聡 山神 眞一 金井 秀作 甲田 宗嗣 長谷川 正哉 島田 昇 大塚 彰
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1000-E1000, 2006

【はじめに】<BR> 調整力とは,体力の四大要素(筋力・持久力・柔軟性・調整力)の一つであり,平衡性,敏捷性,巧緻性などをいう.この調整力は加齢により低下するだけでなく,近年児童における低下が懸念されている.今回,我々は調整力を高めることを目的としたバランスボードの開発に関わる機会を得たので,その紹介と効果の検討について報告する.<BR>【バランスボードの概要と機能】<BR> 鉄製のパイプフレームにハンドルと全方向に傾斜可能な合板製の不安定板から構成される.不安定板には一般的なゲームコントローラの十字キー機能を持たせ,ハンドルには押しボタンの機能を持たせている.十字キー機能は,不安定板内部(底面)に不安定板の傾斜角度を計測する検出器を設置し,板の傾きによるアナログ出力をUSBインターフェイスを介してコンピュータにON信号として出力される.その出力により十字キーの8方向全てのON・OFF信号を出力することが可能である.また,専用のトレーニング用ゲームソフトを内蔵したコンピュータを搭載し,ユーザーにあわせたゲームを提供できる.内容は画面上で「射撃ゲーム」,「ボールを上下左右のカーソルを使用して外に出さないようにする」,「箱を傾けて玉をゴールに導く」,「敵の弾を避けながら相手を撃つ」などである.この装置によるトレーニングは,軽くハンドルを握り不安定板上に立ち,画面を見ながら素早く不安定板を操作することと,ハンドルのスイッチを押すことが要求される.<BR>【トレーニング効果の検討】<BR> 男子大学生8名(平均年齢22.7歳,平均身長175.6cm,平均体重66kg)を対象に,本装置を使用してトレーニング中の下肢筋活動をNECメディカルシステムズ社製筋電計サイナアクトにて記録した.被検筋は全員右側の脊柱起立筋,中殿筋,半膜様筋,大腿直筋,長腓骨筋,腓腹筋,前脛骨筋,母趾外転筋とした.解析は,キッセイコムテック社製BIMUTAS2を使用し同一ゲーム課題遂行時の安定した筋活動を用いて3秒毎に積分値(IEMG)を算出し,3回の平均値をトレーニング中の筋活動の指標とした.また各筋の3秒間における等尺性最大随意収縮時の積分値を100%として正規化し,%IEMGを比較した.統計学的処理は分散分析,多重比較を用い有意水準は5%未満とした.<BR>【結果と考察】<BR> トレーニング中の筋活動は,母趾外転筋が有意に高く41.2%を示し,以下腓腹筋(29.2%),長腓骨筋(21.5%),前脛骨筋(17.9%)と下腿筋の活動が大きく,次いで脊柱起立筋(16%),中殿筋(11.3%),半腱様筋(8.8%),大腿直筋(5.3%)の順であった.<BR> 本装置はゲームを利用していることで楽しみながら平衡性,敏捷性,巧緻性に対するトレーニングと併せて下肢筋を中心とした筋力トレーニングも可能であると考えられた.<BR>
著者
田中 雄一 田中 聡久 京地 清介 小野 峻佑
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は主に大規模センシングデータ処理の高速化手法や次元削減手法に関する研究を行った.以下簡単に成果の概要を述べる.1) 大規模行列の特異値縮退処理の高速化大規模時空間センシングデータを数理的に表現する際には,センサ数x計測回数のサイズを持つ行列が用いられることが多い.センサ数や計測回数が増えるに連れて行列サイズは爆発的に増加するため,行列の処理にも大きな計算コストがかかるようになる.行列を特異値分解し,その特異値を操作(縮退)することは様々な信号処理アルゴリズムの一部で利用されているが,特異値分解は一般に非常に計算量が多い.本年度はチェビシェフ多項式近似と行列のスパース性を利用した特異値縮退の高速化に取り組んだ.結果として,縮退の精度を保ちつつ,最大5倍程度の高速化を達成した.本成果は信号処理分野の一流論文誌である IEEE Trans. Signal Processing へ掲載された.2) マルチモーダルデータの次元削減手法センシングの際,同一計測地点で様々な属性のデータを計測することが多い.例えば気温・気圧等の環境データが最たるものである.このマルチモーダルデータを信号のスパース性を利用して次元削減を用いて圧縮することができれば,大規模センシングデータの効率的な表現が可能となる.従来手法ではチャネルごとに次元削減を行う手法が主流であり,チャネル間の相関をうまく利用できなかった.本年度はコンピュータビジョンで利用されている画像の色モデルである Color Lines をマルチモーダルデータの次元削減に利用することで,新しい視点からのマルチモーダルデータ圧縮に取り組んだ.結果として,PCA等の従来手法と比較し,同圧縮率で最大10 dB 以上のS/N比改善を達成した.本成果は IEEE GRSS のフラッグシップ国際会議である IGARSS 2017 で発表した.
著者
河本 尋子 重川 希志依 田中 聡
出版者
Institute of Social Safety Science
雑誌
地域安全学会論文集 (ISSN:13452088)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.29-37, 2013

The present study, as a case study of the Great East Japan Earthquake, examined external assistance of response activities in a major disaster. Regarding external assistance in disasters, considering both sending and receiving the assistance is essential. In our analysis, interview data of responders were adopted. They were conducted to municipal and prefectural officials from both affected and unaffected areas. Based on their point of view, we examined practical assisting activities by external teams, receiving activities in an affected local government, and problems and lessons from their response.
著者
門口 直仁 田中 聡 宮本 典文 山本 創一 喜多村 泰輔
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.715-719, 2015-12-28 (Released:2015-12-28)
参考文献数
9

目的:ICUにおいて,プロポフォール注射液は鎮静薬として繁用されているが,その投与による静脈炎の発生が臨床上問題となる。そこで,プロポフォール注射液投与による静脈炎の発生状況を調査した。方法:2012年9月から12月までに救命救急センターにおいてプロポフォール注射液が末梢静脈から2日間以上持続投与された症例を対象とした。結果:調査期間中の対象患者は41名で,静脈炎が発生した患者は19名(46.3%)であった。投与時間と平均投与速度が静脈炎発現の有意な因子であり,投与時間77時間以上,投与速度3.44mg/kg/hr以上で静脈炎が高頻度に発現していた。考察:プロポフォール注射液による静脈炎は添付文書上では頻度不明とされているが,今回の調査では46.3%と高頻度に発生していた。静脈炎の発生および重症化を防ぐため,投与時間,投与速度の確認と頻回な穿刺部位モニタリングの必要性が示唆された。
著者
木立 雅朗 田中 聡
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

京都の伝統工芸について民俗調査・考古学的調査を行った。戦時中の信楽焼の陶器製地雷について聞き取り調査と現地踏査、京焼関連の近代資料の調査、桐箱製造業者の聞き取り調査、和鏡製造業社の聞き取り調査と近代資料の調査などを行った。また現代窯業遺跡の発掘調査と民俗調査を行い、近現代考古学の方法論を模索した。調査した伝統工芸は、アジア太平洋戦争において積極的な役割を果たし、それが戦後復興にも反映していることを確認した。
著者
工藤 晴也 田中 聡子 楠八重 有紗 藤原 俊 クラウディア テデスキ チェッティ ムスコリーノ アントネッラ ラナルディ 宮田 順一
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

世界遺産であり5世紀に作られた初期キリスト教モザイク、ガッラ・プラチディア廟モザイク壁画の保存・修復を目的とする現状調査及び修復事業を行った。壁の構造、モザイク制作技法、材料の科学分析において研究成果をあげることができた。また、修復事業によって劣化箇所の補修及び全体の洗浄を行い保存環境の向上に務めると共に作品鑑賞の環境を改善した。研究成果は最終年度にイタリア文化会館において展覧会及びシンポジウムを開催し、広く国民に公開した。
著者
竹原 徹郎 巽 智秀 疋田 隼人 田中 聡司 坂根 貞嗣
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肝細胞株にパルミチン酸を投与するとRubiconの発現上昇を伴うオートファジー抑制を認めた。Rubiconを抑制するとパルミチン酸投与によるアポトーシスと脂肪蓄積は軽減した。Rubiconの発現増加はパルミチン酸投与によるRubiconの分解抑制が生じることによるものであった。高脂肪食摂取マウスにおいてもRubiconの発現増加を伴うオートファジーの亢進を認めた。肝細胞特異的Rubicon欠損マウスでは高脂肪食によるオートファジー抑制が改善し、肝脂肪化とアポトーシスが抑制された。ヒトの脂肪肝検体においてもRubiconの発現増加が確認された。
著者
田中 聡
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,高齢者を対象として仮想環境内で行う運動療法装置(VRスポーツ)を使用し,身体機能と認知面に及ぼす相乗効果について検討した.健常大学生を対象に安全性と効果的な映像コンテンツの検証を行ったのち,介護老人保健施設利用者を対象にレクリエーションとして3ヶ月間VRスポーツを行った.その結果,VRスポーツ群は下肢筋量(体重比)が平均1.1%と僅かに増加し,HDS-Rにおいては開始時18.3点から終了時20.7点と改善傾向を示したが,対照群と有意差は認めなかった.今後の課題として,高齢者では明瞭な視覚目標の設定と簡単なルール作りが重要と考え,新たな視覚映像を開発していくことが必要である.
著者
立木 茂雄 林 春男 重川 希志依 田村 圭子 木村 玲欧 山崎 栄一 上野谷 加代子 柴内 康文 牧 紀男 田中 聡 吉富 望 高島 正典 井ノ口 宗成
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

人と環境の相互作用の視点から災害脆弱性をとらえ、地理情報システ ム(GIS)の活用により、平時における災害時要援護者の個別支援計画の策定や、災害時におけ るり災情報と支援策の重ね合わせによる支援方策の最適化等に資する標準業務モデル群を開発 した。開発成果は東日本大震災被災地および被災地外の自治体で実装した。併せて、東日本大震 災の高齢者・障害者被害率と施設収容率との間に負の相関関係があることを見いだした。
著者
田中 聡 小林 郁夫 岡 秀宏 宇津木 聡 安井 美江 藤井 清孝 渡辺 高志 堀 智勝 竹内 正弘
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.10, pp.694-700, 2004-10-20

難治性の悪性グリオーマに関しては高レベルの治療上のevidenceは少ない.1997年より,広義のグリオーマ90例(low grade glioma 12 例, GradeIII glioma 30 例, glioblastoma multiforme 42 例,medulloblastoma 6例)に対してACNU耐性遺伝子であるMGMTのRT-PCRによる検出に基づいた103回の個別化補助療法(individual adjuvant therapy ; IAT)を行った.手術により摘出した-70°C凍結検体よりtotal RNA を抽出し,最初の51回は通常のRT-PCR,最近の52回はreal-time RT-PCRに代表される定量的RT-PCRによるMGMTmRNAの検出・定量を行った.MGMTの発現量が少なかった68回はACNUを,MGMTが高発現であった35回は白金製剤を治療の中心に用いた.ACNUを用いた治療群と白金製剤を用いた治療群との問に治療成績の有意差は認められなかった.全体の有効率(partial response + complete response率)は53.3%, glioblastoma 42例の2年生存率は51.1%であった.2002年4月以降にreal-time RT-PCRの結果に基づいてACNU-vincristin-interferon-β-radiationまたはcis-platinum-etoposide-interferon-β-radiationによる補助療法を行ったGradeIIIとglioblastomaで,年齢3歳以上70歳未満, Karnofsky's performance scale が50以上の初発20症例の有効率は60.0%であった.IATが高レベルのevidenceを獲得するためには,症例を選択し,統一された治療法によるrandomized controlled trialを行う必要がある.
著者
吉井 暢彦 和田 隆広 塚本 一義 田中 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.397-404, 2004
被引用文献数
5

Appropriate exercises are important to maintain the health. In this paper, we develop the virtual reality snowboard system for whole body exercise and rehabilitation. Users can continue exercises pleasantly since the virtual reality snowboard system has amusement. In addition, we propose a methodology to provide the appropriate exercise corresponding to the personal condition by using the proposed virtual snowboard system. In the training, the longitudinal and lateral distances of sets of the flags and torque exerted on the board are controlled based on the user's conditions. Finally, we will show the effectiveness of our proposed method by measuring the heart rates, oxygen uptake and EMG signal of upper and lower limbs. It is shown that the exercise strength is enough for the training and the strength can be controlled by changing the positions of flags and torque by measuring the heart rates, oxygen uptake and EMG signals of upper and lower limbs while playing snowboard.
著者
田中 聡
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

マウス始原生殖細胞の形成に関わるニッチェを構成する環境要因としては、BMPシグナル及びWntシグナルが考えられているが、その作用機序の詳細に関しては不明な点が多く残されている。生殖細胞の形成不全を示すDullard欠損マウス胚の解析から、BMPシグナルでなく、Wntシグナルに依存して生殖細胞の形成不全が生じることが明らかとなった。DullardによるWntシグナル活性の適正量の調節には、Dishevelled 2を介したcanonical Wntシグナルの制御機構の存在が考えられた。以上より、Wntシグナル活性の適正量の調節が、マウス生殖細胞形成に重要であることが明らかとなった。
著者
河田 惠昭 田中 聡 林 春男 亀田 弘行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

まず、時間帯ごとの総数死者数および負傷者数の時間変化については、NHKの生活活動調査結果による在宅率などを用い、かつ阪神・淡路大震災のデータを適用して、6つの原因によるものを推定した。その結果、各原因別に時間帯ごとのピークが見出せたほか、被害者総数としては、午前8時前後に最大のピークがあるほか、昼食時や夕方のラッシュアワー時にも大きくなることが見出され、また、兵庫県南部地震が起こった午前5時46分は決して幸運な時間帯でないことが明らかとなった。ついで、被害極限の方法については、間接被害に大きく分けて経済被害と人的被害があり、後者は人命の社会的価値の喪失として位置付けられることを示し、総被害学の評価方法を提案することができた。まず、経済被害としては、阪神・淡路大震災による兵庫県の電力使用料とGRPとの関係から、およそ2兆円と推定され、現象的には復興がすでに終わっていることを示した。また、人的被害の定量化では、平均寿命とGRPとの相関と交通事故による死者、重傷者、軽傷者への保険金支払いなどのコストの比較を用いて、阪神・淡路大震災を解析したところ、およそ2兆円になり、かつこの瞬間的な影響が18年間継続し、その間の総被害額がおよそ10兆円に達することを見出した。したがって、人的被害を軽減することが総被害額を大きく減らすことにつながるという論理が証明され、被害極限には自主防災組織による人命救助の役割が大きいことを見出した。これらのデータをGISに載せ解析することを可能としたが、これまでの町丁目単位ではなく各家屋単位での計算が可能なように次世代GISを開発することを試み、その構築に成功した。これによって、被害者数などを推定しようとすれば、現状の地震動による地盤のゆれの特性(加速度や速度)の評価がまだまだ改良の余地があることを見出した。
著者
林 春男 河田 恵昭 BRUCE Baird 重川 希志依 田中 聡 永松 伸吾
出版者
京都大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

平成17年12月10日〜18日、平成18年3.月18日〜27日の2回に渡って、1)米国の危機管理体制、2)被害の全体像、3)災害対応、4)復旧・復興に関する現地調査を行い以下のような知見を得た。調査対象機関は以下の通りである。(1)連邦:連邦危機管理庁・米国下院議会、(2)ルイジアナ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、ルイジアナ復興局、(3)ミシシッピ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、州復興担当事務所、(4)ニューオリンズ市:災害対策本部、都市計画局、(5)レイクビューコミュニティー、(6)在ニューオリンズ日本総領事館。(1)3つの災害:ハリケーン・カトリーナ災害として一括りで語られている災害は1)ハリケーン・カトリーナ、2)ニューオリンズの堤防決壊、3)ハリケーン・リタという3つの事案の複合災害として捉える必要があり、2)の事案は想定外であり、その事が今回の災害対応に関する大きな批判に繋がっている事が明らかになった。(2)危機対応システム:2001年の同時多発テロ以降の危機管理システムの見直しによりDHSの外局とされたFEMAの災害対応の失敗が大きな問題となっているが、その一方で新たに導入されたNRP(国家危機対応計画)、NIMS(国家危機対応システム)が上手く機能した。(3)応急対応期の活動:NRPに規定されるESF(危機支援機能)に基づき自治体の災害対応支援が行われた。被災者に直接支援を行うIndividual Assistance並びに被災自治体に対する支援を行うPublic Assistance共、現地に設置されたJoint Field Officeにおいて連邦政府直轄で業務が行われた。(4)復旧・復興期の活動:ルイジアナ州は復興事業を行う新たな機関Louisiana Recovery Authorityを設置し、復興計画の策定を行っており、住宅再建支援に最大15万ドルが支出される事がほぼ決定された。
著者
河田 惠昭 田中 聡 林 春男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

プレート境界型巨大地震として南海地震を取り上げ,これによる地震・津波災害の被害軽減策を危機管理の立場から考究した.まず,南海地震津波が広域に西日本太平洋沿岸を襲い,臨海大都市で大きな被害を起こす恐れがあることから,最終年度に大阪市を取り上げ,そこでの氾濫シミュレーションを実施し,氾濫水の特徴を見いだした.すなわち,大阪市北区梅田地区を対象に,M8.4の南海地震を想定し,地震動によって堤防が沈下し,その部分から津波が市街地に流入したという条件の下でシミュレーションを行った.その結果,氾濫水の市街地氾濫は面的に広がるために浸水深の距離的減少が大きいために,津波の場合が破堤点と地下空間の距離が短く,地下空間への浸水量は洪水の氾濫の場合よりも大きくなることがわかった.そこで,津波や高潮氾濫の被害軽減を図る危機管理上の項目を,2000年東海豪雨災害を参照して整理した.その結果,高潮氾濫の場合には路上浸水が始まり,床下浸水,床上浸水,地下空間浸水というような時系列によって被害が段階的に進行し,それぞれに対して防災対策が存在することを明らかにした.一方,津波氾濫を想定した場合,まず地震が起こることが先行するから,二次災害対策として津波防災が存在することがわかった.したがって,地震とのセットで防災対策を立てる必要があり,しかも高潮に比べて時間的余裕があまりないので,選択的に対策を進めざるを得ないことを指摘した.さらに,津波,高潮災害の危機管理上,最大の問題は超過外力に対してどのような考え方を採用するかということである.そこで,受容リスクと受忍リスを新しく定義して対処する方法を提案した.これらを参照して,浸水ハザードマップを防災地理情報システム上で展開する場合に情報を集約するプログラムを開発し,その有用性を明らかにした.