著者
白石 浩介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.119-146, 2016 (Released:2021-08-28)
参考文献数
29

2014年4月における消費増税に伴う価格転嫁について検討した。税制は増税分の価格への転嫁を予定しているが,企業は税抜き価格を操作することにより,転嫁不足や過剰転嫁ができる。従来の分析では消費者物価指数(Consumer-Price-Index:CPI)が対象とされたが,CPIは価格が7日間以上持続した定価データである。実勢価格に近いとされるPoint-of-Sale(POS)データを用いた分析を試みた。 POS価格の推移をみると,多くの品目において消費税は転嫁されている。しかし,品目別の価格変化率にはばらつきがあり,転嫁不足,過剰転嫁となった品目の存在が示唆される。POS価格とCPIを比較したところ,POS価格はCPIを上回る価格変動を示しており,販売者は定価では税制どおりの価格転嫁を実施しつつ,特売価格では品目ごとに異なる価格設定を実施した可能性がある。POS価格を被説明変数とし,価格変化に影響する要因群を説明変数とする回帰推計の結果から,市場が寡占状況にあると転嫁されやすいが,企業や販売店は付加価値を圧縮することにより転嫁を抑制していることがわかった。
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-61, 2018-02-28

本研究では,スーパー系列が互いに異なる4 店舗が販売した食料品関連の4 商品(①しょう油750ml,②乾めん150g 5 パック入り,③牛乳パック1L,④食パン6 切れ)について,2014 年2-6 月における日次価格を調べることにより,2014 年4 月の消費増税における消費税の帰着を検討した。得られた知見は以下の通りである。第1 に,消費税の転嫁においては,過剰転嫁,完全転嫁,過小転嫁のいずれもが発生する。4 商品の転嫁傾向はそれぞれ異なっていた。消費税の転嫁は,これまで全ての商品において完全転嫁が想定され,この想定の下で消費税の逆進性などが評価されてきたが,再考の余地がある。第2 に,消費税の転嫁の操作においては特売価格が用いられることが多い。定価に比べて特売価格は伸縮的に調整されており,これが課税の帰着を左右している。主として定価データを採録している消費者物価指数(CPI)だけでは,消費税の転嫁を判断することは難しく,政策情報の充実が望まれる。第3 に,消費増税により一時的な過剰転嫁が発生する。増税前の駆け込み需要を契機として税抜き価格が下落と上昇を繰り返しており,税制が予定する以上の価格の上昇が増税直後に生じる。新たに施行された消費税転嫁対策特別措置法が,これを助長した可能性がある。第4 に,消費増税により価格の粘着性が変化して,それが消費税の転嫁に影響した可能性がある。価格改定の活発化は税抜き価格を引き下げて過小転嫁を招き,一方,価格改定の不活発化は価格を引き上げて過剰転嫁を招く方向に作用した可能性がある。
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
Institute of Economic Research, Hitotsubashi University
巻号頁・発行日
2012-08

学校や大学を卒業した後の初職が非正規雇用などでBad Start (BS) だった人は、その後の職業遍歴や収入等も劣後する結果、年金受給見込額も低く、Bad Finish (BF) になる傾向がある。これはBS・BF問題と呼ばれ、近年、イタリアをはじめとするヨーロッパ各国において関心が高まりつつある。本稿では、ねんきん定期便を活用した「くらしと仕事に関する調査(LOSEF)」(2011年11月時点における30~49歳層のパネルデータ)を用いて、日本におけるBS・BF問題の実態を調べ、次の6つの事実を新たな知見として確認した。まず、①最近、日本では生年が遅くなるにつれてBS割合が高まる傾向があり、2011年時点で30歳代前半層のBS割合は男性32%、女性40%にまで上昇していた。そして、②初職が正規雇用 (Good Start, GS) であると、男性の場合、その後も正規として就業しつづける確率がきわめて高い。一方、BSであっても、男性の場合、35歳までに正規雇用に変わる人が少なくない。ただし、女性の場合、23歳以降の正規化がほとんど観察されないなど、男性との違いが著しい。次に、③2011年時点において30歳代の人びとは「親の世代より豊かになれない」と思っている人が過半を占めていた。また、④生活水準が10年後に向上すると思っている人は高々25%にすぎず、10年後においても向上しないと思っている人が多数派だった。⑤BSであっても、初職に雇用期限の定めがないと正規化する確率が高く、逆に公立機関で職業訓練を受けると正規化する確率が却って低くなっていた。最後に、⑥2011年時点で30歳代前半のBS世代に着目すると、60歳時点における厚生年金への加入年数が25年未満となって低年金になる確率は男性50%、女性90%程度になると推計された。
著者
白石 浩介
出版者
名古屋市立大学
巻号頁・発行日
2018-03-26

平成29年度
著者
星野 健 大竹 真紀子 唐牛 譲 白石 浩章
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Introduction:Recently, it has been suggested that water ice might be present in the lunar polar region based on spectral measurements of artificial-impact-induced plumes in the permanently shadowed region, and remote sensing observation of the lunar surface using a neutron spectrometer [1], [2] and visible to infrared spectrometer [3]. In addition to the scientific interest about the origin and concentration mechanism of the water ice, there is strong interest in using water ice (if present) as an in-situ resources. Specifically, using water ice as a propellant will significantly affect future exploration scenarios and activities because the propellant generated from the water can be used for ascent from the lunar surface and can reduce the mass of the launched spacecraft of lunar landing missions.However, currently it is unclear if water ice is really present in the polar region because of the currently limited available data. Therefore, we need to learn that by directly measuring on the lunar surface. If there is water ice, we also need to know it’s quantity (how much), quality (is it pure water or does it contain other phases such as CO2 and CH4), and usability (how deep do we need to drill or how much energy is required to derive the water) for assessing if we can use it as resources. Therefore, JAXA is studying a lunar polar exploration mission that aims to gain the above information and to establish the technology for planetary surface exploration [4]. JAXA is also studying possibility of implementing it within the framework of international collaboration with Indian Space Research Organisation (ISRO).Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Landing site selection:Considering the mission objectives and condition of the lunar polar region, we listed the following parameters as constraints.- Presence of water- Surface topography- Communication capability- Duration of sunshineAs a first trial of the landing site selection, sunshine is simulated using digital elevation models to obtain the sunlight days per year and the number of continuous sunshine periods at each site. Also, slope and the simulated communication visibility map from the Earth are created. These conditions can be superimposed to select the landing site candidate.Current status:Recently, we finished joint mission definition review (JMDR) with ISRO, in which JAXA provide a launch rocket and a rover while ISRO provide a lander system. Related to the instruments which will be carried on the rover or the lander, JAXA selected several candidate instrument study teams for accelerating development of these instruments. In this presentation, we are going to introduce current status of the mission planning.References:[1] Feldman W. C. et al. (1998) Science, 281, 1496-1500.[2] Sanin A. B. et al. (2017) Icarus, 283, 20-30.[3] Pieters C. M. et al. (2009) Science, 326, 568-572.[4] Hoshino T. et al. (2017) 68th IAC, IAC-17-3.2B.4.
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-37, 2017

<p>1) 本稿では、個人住民税において配偶者控除を見直す場合の増減税効果、および所得税と個人住民税の双方において配偶者控除を同時に見直す場合の増減税効果、の2つを推計した。本稿は所得税のみの見直しを考察した高山・白石(2016)の続編である。</p><p>2) 利用したデータは『国民生活基礎調査』(2013年実施)であり、2012年分の所得データを使用した。個人住民税は2013年の制度を前提とした。ただし、その均等割部分は等閑視した。制度見直しに当たって、全体として増減税同額(税収中立)になるように配慮した。</p><p>3) 高山・白石(2016)では、専業主婦を「収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻」と定義していた。本稿では、その定義を最狭義に変更し、夫が被用者であり、かつ「収入を伴う仕事をしていない家事専業の妻」に限定した。ただし、参考計数として高山・白石(2016)と同じ定義をした専業主婦の場合についても推計結果を掲載している。</p><p>4) 個人住民税を単独で見直す場合の主要な推計結果は次のとおりである。</p><p> ① 配偶者控除(配偶者特別控除を含む。以下、同様)を廃止すると、年間6600億円の税収増となる。全体として61%の世帯で税負担の増減はない。税負担が増えるのは39%の世帯であり、妻が専業主婦の世帯ないし非正規で就業している共働き世帯がその中核を占めている。税負担増は平均で年間3万2000円であり、世帯年収が高くなっても、この金額はほとんど変わらない。</p><p> ② 33万円の配偶者控除を廃止し、同額の夫婦控除(所得控除方式:世帯年収600万円までの所得制限つき)を導入すると、全体として15%の世帯が負担増、12%の世帯が負担減となる。負担増が負担減を世帯数で上回っており、所得税の見直し結果とは逆である。負担増が相対的に多いのは、世帯年収600万円以上の専業主婦世帯、および妻が非正規で就業している世帯年収700万円以上の世帯である一方、妻が正規で就業している共働き世帯では負担減組が多数派となる。</p><p> ③ 配偶者控除を廃止し、3万3000円の夫婦税額控除(世帯年収600万円までの所得制限つき)に移行しても、その効果は上記②で述べた所得控除方式の夫婦控除を導入したときと、全く変わらない。個人住民税が10%の比例税だからである。</p><p> ④ 個人住民税が累進税率を採用していれば、夫婦税額控除への移行で負担減組の方を負担増組よりも多くすることができる。</p><p> ⑤ 2017年度税制改正法は所得税と同様、パート主婦特権を中間所得層に限って拡大・強化する性格を有している。</p><p>5) 所得税と個人住民税を同時に見直す場合の主要な推計結果は以下のとおりである。</p><p> ① 所得控除方式の夫婦控除(所得税38万円、個人住民税33万円)に世帯年収制限(所得税800万円、個人住民税600万円)つきで移行する場合、税負担減となる世帯は15%、税負担増世帯14%となり、前者の方が後者より若干ながら多い。さらに、世帯年収400万円以上700万円未満の中間所得層では減税組が増税組を世帯数で圧倒する一方、年収700万円以上では逆に増税組の方が多くなる。また専業主婦世帯では増税組が減税組よりも多い一方、妻が正規または非正規で就業している世帯では総じて減税組の方が増税組よりも多い。</p><p> ② 夫婦税額控除(所得税3万8000円、個人住民税3万3000円)に世帯年収制限(所得税670万円、個人住民税600万円)つきで移行する場合においても、減税組(30%)が増税組(12%)を世帯数で圧倒する。この点は妻の働き方が違っても、質的に変わりがない。また、世帯年収100万円以上700万円未満の中低所得層では減税組の方が増税組より多い。所得税のみを見直す場合と同様に、所得税・個人住民税の双方を同時に見直す場合においても、「負担増=多数派」説「中間所得層=負担増」説は、いずれも事実に反していることが確認された。</p>
著者
白石 浩章 山田 竜平 石原 吉明 小林 直樹 鈴木 宏二郎 田中 智
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.283-288, 2012-09-25
参考文献数
15

多点ネットワークを構成して火星表層環境および内部構造を観測するペネトレータミッションを提案する.現在の火星内部で生じているダイナミクスを反映する地震活動度と熱的状態を調査するとともに,地球型惑星の分化過程を反映する地殻-上部マントル構造と固体内部から表層および大気層への物質輸送過程に関する知見を得ることを目的とする.ペネトレータモジュールは突入速度300m/secで火星表層下2〜3mに潜り込むプローブ本体に,耐熱シールドと空力減速機構の役割をする膜面展開型柔構造エアロシェルを統合することで小型軽量なシステムを構成する.周回衛星から分離された4機のペネトレータは,火成活動の可能性が指摘されるElysium地域に最大300km間隔のネットワークを構成して地震観測や熱流量観測を行う.一方,柔構造エアロシェルには圧力計,温度計,磁力計,カメラを搭載して大気突入時のモニタリングを行う.
著者
仲内 悠祐 佐藤 広幸 長岡 央 佐伯 和人 大竹 真紀子 白石 浩章 本田 親寿 石原 吉明
雑誌
日本地球惑星科学連合2021年大会
巻号頁・発行日
2021-03-24

Smart Lander for Investigating Moon (SLIM) project will demonstrate a “pin-point” landing within a radius of 100 m on the lunar surface. It will be launched in FY2022. The SLIM aims “SHIOLI” crater (13.3º S, 25.2º E) to derive the detailed mineralogy of the olivine-rich exposures to investigate the composition of the lunar mantle or deep crustal material, and understand their origin. The Multi Band Camera (MBC) is the scientific instrument on board SLIM lander to obtain Mg# (= molar Mg / (Mg + Fe)) of lunar mantle materials. The MBC is composed of a Vis-InGaAs imaging sensor, a filter-wheel with 10 band-pass filters, a movable mirror for panning and tilting, and an autofocus system. The MBC observes the boulders and regolith distributed around the lander. Since various distances to the objects are expected from a few meters to infinity, the MBC is equipped with an auto-focus (AF) system. The MBC uses the jpeg compression technique. An image with maximum sharpness taken in a best focus position will have the largest image file size after JPEG compression. Using this characteristic, the AF algorithm is designed to automatically find the focus lens position that maximizes the image file size after jpeg compression. Our AF system has been tested using the Engineering Model of MBC (MBC-EM). The imaging target is a picture of lunar surface obtained by previous spacecrafts and basaltic rocks from Hawaii. Our results suggest that the amount of initial movement is important parameter. In the presentation, we will show the results of AF system, and MBC operation plan.
著者
白石 浩之
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.206, pp.1-37, 2017-03-31

本稿は台形様石器の様相について検討した論稿である。このことについては佐藤宏之によって『台形様石器研究序論』が発表されており,該期の研究において姶良Tn火山灰降灰以前の石器群の解明が期待された。その後28年が経過し,全国的に台形様石器を出土する遺跡が広がった。とりわけ関東地方では層位的にも型式学的にも対応可能になり,あわせて台形様石器の機能・用途について使用痕研究や実験研究等により深みを増しつつある。筆者は該期の台形様石器について型式学的研究から見直そうと思う。先行研究では台形様石器は横長剥片を主たる素材とする点が強調されていたが,縦長剥片を素材とした例も看過できない。またペン先形ナイフと称された基部調整尖頭石器は東日本に卓越し,九州地方は僅少の分布状況を呈している。先端が尖状という点,基部加工のナイフ状石器と台形様石器が相互に影響して独自に製作されたものであろう。台形様石器は素材の切断を介して外形を作り出す。刃部の両縁は側縁加工と平坦剥離,とりわけ錯向剥離を顕著に用いる。このように形成された台形様石器の形態は6類に区分される。①水平刃で基部が尖基のもの。②水平刃で平基のもの。③水平刃で平基であるが,側縁が末広がりになり刃部と交わる部位が角状を呈すもの。④斜刃で尖基のもの。⑤斜刃で平基のもの。⑥縦長剥片の端部を切断して用いたもので構成される。台形様石器は関東地方で相模野B5層や武蔵野Ⅹ層下部まで遡り,立川ローム層において最古級を呈す。B4層,Ⅹ層上部からⅨ層は台形様石器が最も卓越し,Ⅰ~Ⅴ類の台形様石器が認められる。その終焉は黒色帯層の相模野B3層・武蔵野Ⅶ層の時期で縦長剥片を切断によって分割し,側縁加工を施したⅥ類の台形様石器が目立ってくる。北関東地方では台形様石器の石材が遺跡毎で差異があり,地域差的な様相を呈す。Ⅶ層以降に卓越する二側縁加工を主体としたナイフ形石器文化期以前の台形様石器文化が広く発達するのである。
著者
白石 浩介
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.184-199, 2009 (Released:2022-07-15)
参考文献数
10

年金分析のためのマイクロシミュレーション・モデルの開発に関する研究である。公的年金制度を取り巻く状況は厳しく,改革案を数量面から検証していく計量モデルが求められている。ダイナミック・マイクロシミュレーション技法の年金分野への応用に関する基礎的研究を行い,わが国においてもマイクロシミュレーションを用いた年金分析が可能であることを示した。本研究では新タイプのモデルであるPENMODの開発を構想し,その作成に着手した。PENMODにおけるライフイベント分析においては,個票ごとに生死,婚姻,就業(年金の加入タイプ),賃金,引退,年金裁定に関するシミュレーションを行い,年金推計に必要となる加入記録と受給記録を作成する。これにより個人の就業履歴に応じたきめの細かい年金推計が実現し,基礎年金に対する国庫負担額の傾斜配分やスウェーデン方式として知られる所得比例年金など,これまで分析が困難とされてきた政策シナリオの検討が可能となる。
著者
高山 憲之 白石 浩介
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.38-100, 2017

<p>本稿では、給与所得者として20年以上、勤務した実績を有し、2012年度末の年齢が56~69歳の男性1253人を対象として、年金と高齢者就業の関係を分析している。主な使用データは世代間問題研究プロジェクトが2012年に実施したパネルデータ「くらしと仕事に関する中高年インターネット特別調査」である。分析によって得られた主要な知見は以下のとおりである。</p><p>(1)2012年度における法定の年金受給開始年齢は男性の場合、定額部分が64歳、報酬比例部分が60歳であった。本稿で分析の対象とした男性にとっては報酬比例部分だけで月額10万円前後(平均値)の年金を受給することができたので、定額部分64歳受給開始にもかかわらず、60歳から年金を受給しはじめた人が多かった。ただ、60歳時点では失業給付(求職者給付)を、まず受給し、その受給期間が満了した後から年金を受給しはじめた人も少なくなかった。</p><p>(2)2012年12月時点における年金受給率は60~64歳層で64%、65~69歳層では89%であり、総じて高齢になるほど年金受給率は高くなっていた。</p><p>(3)60歳以降、減額なしで老齢年金を受給する人が圧倒的に多かった。2012年12月時点で60~64歳層の場合、在職により老齢年金が減額されていた人は9%、全額支給停止となっていた人は12%にすぎない。65歳以上では、在職者が減る一方、在職による減額がはじまる屈折点も28万円超が65歳から比較的高めの47万円超に変わるので、減額つきの在職老齢年金受給者や全額支給停止者はきわめて少なくなっていた。</p><p>(4)2012年12月時点で56~59歳だった人については正社員または役員の割合が50%超となっていたが、60歳だった人の正社員割合は24%、さらに61~64歳層では11%、65~69歳層では、わずか2%であった。一方、60~64歳層の非正規就業者割合は約4分の1、無職者42%となっていた。なお、60歳であった人の失業者割合は22%となっており、この年齢層だけ失業者割合が異常に高かった。</p><p>(5)2012年4月時点における厚生年金保険加入率は60歳で50%割れとなっていた。さらに、61~64歳では24%弱、65歳11%弱、66~69歳4%弱と、その加入率は高齢になるほど低くなっていた。</p><p>(6)同時点で厚生年金保険に加入していた人の総報酬月額は56~60歳層で平均50万円前後であったが、61~65歳層30万円台、さらに66~69歳層20万円台であった。ただし、60~64歳で厚生年金保険に加入していた在職者の80%前後が「総報酬月額+年金受給月額」の合計額を28万円以下に調整し、減額なしで年金を受給していた。</p><p>(7)次に、コーホート別の加齢効果を調べたところ、まず、56~59歳時点の正社員割合は、かつて80%であった(または80%に近かった)が、1948年度生まれの世代から低下しはじめ、1952年度生まれ(2012年度には60歳)になると60%強になっていた。60歳を超えるとともに、いずれの世代でも正社員割合は30%前後あるいは、それ以下へ急減しており、被用者だけに限定すると、正規の人より非正規の人の方が総じて多かった。そして、64~65歳時点では無職者が過半数を占めるようになっていた。</p><p>(8)総報酬月額の中央値は、いずれの世代においても59歳時点で50万円以上となっていたが、61歳時点では30万円台または、それ以下に低下していた。ただ、その分布のばらつきは比較的大きく、61歳以降においても月額47万円超の人が30%以上いた(ゼロデータは除いている)。</p><p>(9)いずれの世代においても年金受給率は加齢とともに上昇しており、総じて62歳時点で50%を超え、65歳時点で80%超となっていた。とくに、1949~1951年度生まれについては定額部分に係る法定の受給開始年齢が65歳になっていたにもかかわらず、60歳受給開始者が40%台を占め、さらに61歳時点の年金受給率は60%台に上昇していた。これらの年金受給率は、1948年度生まれ以前の世代のそれより10%程度あるいは、それ以上高かった。</p><p>(10)年金受給者に着目すると、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳に据えおかれていたときに関するかぎり、定額部分に係る法定の受給開始年齢が段階的に65歳へ引き上げられても60歳から年金を受給しはじめた人が最も多かった。ちなみに、定額部分の法定受給開始年齢引き上げにぴったり合わせて実際に年金を受給しはじめた人は受給者の4分の1あるいは、それ以下にとどまっていた。</p><p>(11)他方、報酬比例部分に係る法定の受給開始年齢が60歳から61歳に引き上げられたとき、該当する厚生年金加入歴20年以上の男性は、その過半が60歳時にも厚生年金に加入していた。そして60歳から老齢年金を受給しはじめる人の割合は激減した。報酬比例部分の受給開始年齢引き上げは多大な雇用促進効果と年金受給開始先送り効果の2つをもっていたことになり、定額部分の受給開始年齢を引き上げたときとは明らかに違っていた。</p><p>(12)60歳時点に関するかぎり、在職によって年金給付が減額される、または全額支給停止となる人が、かつては多かった。ちなみに1948年度以前に生まれた世代の場合、その割合は60%台であった(全額支給停止者を含む)。しかし、1949年度以降に生まれた世代の場合、その割合は50%前後あるいは、それ以下になっていた。その割合は61歳以降、加齢にともなって急激に低下し、65歳時点では10%未満までダウンしていた。</p><p>(13)2012年12月時点で年金を受給していた60~69歳の男性について受給開始前後の就業状況等を調べた結果によると、まず、受給開始1年前の時点では正社員ないし役員が48%、非正規就業20%、失業中8%、無職者17%等であったが、受給開始直後には正社員ないし役員が17%となり、30%近いダウンとなる一方、無職者が36%、失業中15%、非正規就業25%へと、それぞれアップしていた。さらに受給開始2年後になると、正社員ないし役員は10%まで減る一方、無職者割合は48%へ上昇していた。受給開始直前に正社員ないし役員であった人に限定すると、受給開始直後も正社員ないし役員にとどまった人は3分の1にすぎず、無職者27%、失業者17%(無職者と合わせると40%超)、非正規就業21%へと就業状況が大きく変わっていた。</p><p>(14)就業状況が変わると週あたり労働時間も変わる。年金受給開始1年前には労働時間40時間以上の人が52%を占めていたが、年金受給開始直後には27%へと、ほぼ半減していた一方、労働時間ゼロが52%となった。年金受給開始とともに労働時間を減らしたり、勤務を辞めてしまったりした人が、それなりに多く、就労を抑制したり、早期引退を促進したりする効果が年金受給にあることが、パネルデータによって計量的に確認された。</p><p>(15)年金受給開始1年前の総報酬月額および「その他の月収」(報酬や週30時間未満の勤務から得られた賃金等)と、年金受給開始1年後の「年金+総報酬月額+その他月収」の合計額を比較すると、年金受給開始後、大幅に収入を減らした人が圧倒的に多かった。ちなみに、後者の前者に対する割合は20%未満の減が6%、20%以上40%未満の減8%、40%以上60%未満の減18%、60%以上80%未満の減25%、80%以上の減19%となっていた。</p><p>(16)実際に年金受給を開始した年齢が60~64歳であり、かつ年金受給開始直後においても総報酬を手にしていた人に限定すると、受給開始1年前の総報酬月額は15万円未満の人が13%、30万円未満40%であったが、受給開始直後になると、総報酬月額15万円未満の人は40%となっていた。そして、受給開始直後における「総報酬月額+年金給付(基本月額)」の合計額は20万円未満が21%、20万円以上28万円以下が31%、28万円超40万円未満29%、40万円以上10%となり、20万円以上28万円以下のところに、それなりの塊りがあった。総報酬月額と年金給付月額の合計額を28万円以下に制御し、年金を減額なしで受給するために総報酬月額を下方に調整した人が30%弱に及んでいた。</p><p>(17)生存時間解析をした結果によると、総じて、老後資金に余裕があったり、就業継続によって稼得が期待される賃金が従前賃金の60%未満であったりすると、早めに就労を停止し、年金を受給し始める傾向がある。さらに、無配偶者の方が有配偶者より就労を早期に停止する確率が高い。</p>
著者
宅見 央子 中村 弘康 福田 真一 松田 紫緒 小城 明子 大野 友久 白石 浩荘 米谷 俊 藤島 一郎 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.183-191, 2009-12-31 (Released:2020-06-28)
参考文献数
35

本研究の目的は,①健康成人30 名,②試験食品であるビスケットの摂食・嚥下に問題のない一般高齢者20 名,③リハビリテーション科外来通院中の脳血管障害後遺症患者11 名(以下,「リハ患者」)に一般のクリームサンドビスケット(以下,一般品とする)と,口どけのよいクリームサンドビスケット(以下,低付着性品とする)を摂食させ,摂食時の咀嚼回数・時間,嚥下回数・時間の観察評価と,自由嚥下後の口腔内残留量を測定することにより,安全性および日常の食生活への応用の観点からビスケットの物性と摂食・嚥下機能との関係を検討することである.健康成人と高齢者の咀嚼回数および,全3 群の咀嚼時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.対象者間の比較においては,一般品と低付着性品の両方で,リハ患者と高齢者の咀嚼回数および咀嚼時間は健康成人に比べて有意に多かった.また,健康成人と高齢者の嚥下回数,および健康成人の嚥下時間においては,一般品に比べて低付着性品が有意に低値を示した.健康成人では,一般品と低付着性品の口腔内残留量に差がなかったが,高齢者とリハ患者では,一般品に比べて低付着性品の口腔内残留量が有意に少なかった.健康成人と高齢者では「口の中での付着」「口どけのよさ」などにおいて,一般品と低付着性品に有意な差がみられ,低付着性品のほうが高い評価を得た.摂食・嚥下機能の低下しているリハ患者や高齢者は,一般品と低付着性品のいずれにおいても,咀嚼回数・時間を健康成人より増加して対応していた.しかし,口腔内残留量は健康成人より有意に多かった.以上の結果より,低付着性品は,高齢者などの咀嚼・嚥下機能低下者に適した食品であり,咀嚼・嚥下機能低下者には,口腔内に残留しにくい食品の提供が重要であることが示唆された.
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-60, 2019

消費税は多段階課税の仕組みであり,製造販売の過程を経て税が徐々に累増していくので,消費税の転嫁問題の検討に際しては,ある商品の最終生産者や販売者以外に税の形成に寄与した中間事業者を特定化し,その影響について知ることが望ましい。本研究では産業連関分析における価格モデルと生産額モデルを用いて消費税の構造を分析した。価格モデルを用いると,消費税率の引き上げに伴う消費税額の増加をその商品の製造販売に関与した産業別に分解することができる。産業連関分析では「産業別付加価値率×逆行列係数」という算式により税込み価格を推計する。この算式を要素ごとに分解すれば,それが各産業の寄与度となり,そこから消費税分を取り出せば税の転嫁を知ることができる。総務省2011年表に基づく推計結果によると,多くの商品では消費税額の4割強は最終生産者である自産業に由来する。商品の製造販売のために用いられる原材料の種類が多くても消費税の構成という観点からみると,限られた産業が消費税を累増させている。この少なさは消費税の過剰転嫁や過小転嫁をもたらす。消費税のユニット・ストラクチャー分析とは,産業連関分析における生産額モデルを用いて,ある商品の生産に起因する直接間接の生産過程において,中間財・サービスから最終製品に至る段階までに転嫁される消費税額を推計するものである。ここでも自産業に対する転嫁が多くを占めるが,それ以外に転嫁される消費税も少なくない。最終製品の生産者に中間品を納入する1次サプライヤーは,多くの消費税を転嫁している。転嫁対策が必要とされるゆえんである。
著者
白石 浩介
出版者
拓殖大学地方政治行政研究所
雑誌
拓殖大学政治行政研究 = The journal of politics and administration (ISSN:24239232)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-60, 2019-02-28

消費税は多段階課税の仕組みであり,製造販売の過程を経て税が徐々に累増していくので,消費税の転嫁問題の検討に際しては,ある商品の最終生産者や販売者以外に税の形成に寄与した中間事業者を特定化し,その影響について知ることが望ましい。本研究では産業連関分析における価格モデルと生産額モデルを用いて消費税の構造を分析した。価格モデルを用いると,消費税率の引き上げに伴う消費税額の増加をその商品の製造販売に関与した産業別に分解することができる。産業連関分析では「産業別付加価値率×逆行列係数」という算式により税込み価格を推計する。この算式を要素ごとに分解すれば,それが各産業の寄与度となり,そこから消費税分を取り出せば税の転嫁を知ることができる。総務省2011年表に基づく推計結果によると,多くの商品では消費税額の4割強は最終生産者である自産業に由来する。商品の製造販売のために用いられる原材料の種類が多くても消費税の構成という観点からみると,限られた産業が消費税を累増させている。この少なさは消費税の過剰転嫁や過小転嫁をもたらす。消費税のユニット・ストラクチャー分析とは,産業連関分析における生産額モデルを用いて,ある商品の生産に起因する直接間接の生産過程において,中間財・サービスから最終製品に至る段階までに転嫁される消費税額を推計するものである。ここでも自産業に対する転嫁が多くを占めるが,それ以外に転嫁される消費税も少なくない。最終製品の生産者に中間品を納入する1次サプライヤーは,多くの消費税を転嫁している。転嫁対策が必要とされるゆえんである。