著者
中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.560-585, 2005-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
71
被引用文献数
6 2

本稿は,金沢市と横浜市の高校を卒業した女性のライフコースについて,高校卒業時および最終学歴修了時の進路決定のプロセスとそれ以降の就業にみられる差異を把握し,そうした差異をもたらすメカニズムを明らかにする.金沢対象者は,学校側の積極的な介入の下で進学先を決定していた.そのことは,自分が学んだ分野と就職したい分野の葛藤に悩む学生を生んだ反面,教員や看護士の職に就く者を増やし,結婚後の就業率を高める一因となっていた.さらに金沢対象者では,結婚・出産後も女性が働きやすい環境にも比較的恵まれている.横浜対象者が通った高校では,進路について教師からの働きかけはほとんどなかった.そのため生徒は就職時の有利不利はあまり考慮せずに,進学先を決定していた.就職についても,民間企業を中心にイメージを重視した就職活動を行った.こうした進路決定は,現実との齟齬による離職を生んだ.これに加え,横浜対象者は家事や育児と両立しながら就業を継続することが難しい環境にある.このように,個人のライフコースは,地域が付与する固有の可能性と制約の中で,過去に規定されつつ,形成されてゆくのである.
著者
中澤 高志 由井 義通 神谷 浩夫 木下 礼子 武田 祐子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.95-120, 2008-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
9 6

本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
著者
神谷 浩夫
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-237, 2002
被引用文献数
1

これまで日本の医療に関する研究では,社会的な平等性の重視が日本の医療の特色であると指摘されてきた.しかし空間的な観点からみると,自由診療制度を採用している日本では医療資源の地域的な不均衡が生じている.本稿では,精神科診療所の立地パターンを把握し,近年における大都市で精神科診療所が急増している背景とその意味を明らかにしようと試みた.まず,日本の戦後における精神医療の変遷を概観し,現在の精神医療制度が形成されてきた過程を考察した.戦後の日本では「社会防衛」の観点から低コストで患者を収容するために民間精神病院が大量に建設され,その多くは市街地から離れたところに立地した.精神医療が次第に開放医療,地域医療へと向かう中で精神科診療所も増えていったが,それはターミナル駅周辺の地域に開設されることが多かった.1980年代後半に入ると,診療報酬制度の度重なる改訂によって次第に精神科診療所の経営が安定するようになり,診療所の開設が相次ぐようになった.開設された診療所の多くは,従来のターミナル駅指向,駅周辺の商業ビル指向,商業地区.繁華街指向というパターンを強めるものであり,その背景には,利便性を重視して立地する診療所側の要因とともに,通院していることを周囲に知られたくないという匿名性を優先する患者側の要因も存在していた.こうした診療所立地の傾向は,アメリカにおいて精神病退院患者が都市計画規制の緩やかなインナーシティに集積している傾向と類似していた.
著者
内藤 明美 森田 達也 神谷 浩平 鈴木 尚樹 田上 恵太 本成 登貴和 高橋 秀徳 中西 絵里香 中島 信久
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.255-260, 2021 (Released:2021-08-24)
参考文献数
20

【背景】医療において文化的側面への配慮は重要である.本研究は沖縄・東北を例に首都圏と対比させ国内のがん医療・緩和ケアにおける地域差を調査した.【対象・方法】沖縄,東北,首都圏でがん医療に携わる医師を対象とした質問紙調査を行った.【結果】553名(沖縄187名,東北219名,首都圏147名)から回答を得た.地域差を比較したところ,沖縄では「最期の瞬間に家族全員が立ち会うことが大切」「治療方針について家族の年長者に相談する」「病院で亡くなると魂が戻らないため自宅で亡くなることを望む」などが有意に多く,東北では「特定の時期に入院を希望する」が有意に多かった.東北・沖縄では「がんを近所の人や親せきから隠す」「高齢患者が治療費を子・孫の生活費・教育費にあてるために治療を希望しない」が多かった.【結論】がん医療・緩和ケアのあり方には地域差があり地域での文化や風習を踏まえた医療やケアに気を配る必要がある.
著者
神谷 浩夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100198, 2012 (Released:2013-03-08)

1.本発表の目的 発表者はこれまで,海外で働く若い現地採用の日本人女性を中心に調査を実施してきた.1980年代初頭のバブル崩壊以降,国内労働市場は二極化が進展する一方,これまで以上に流動化が進んだ.それと同時に,海外で働くことが大きなブームとなった.こうしたブームを支えたのは,現地採用で雇用される未婚の女性であった.最近では,現地採用として海外で就職する日本人は女性だけでなく男性にも広がりつつある.そこで本研究では,シンガポール,サンフランシスコ,ホーチミンで実施したこれまでの調査をふまえながら,2011年2月にバングラデシュで行った現地で働く日本人若者の調査結果を報告する.2.バングラデシュの特徴 バングラデシュは世界の最貧国のひとつに数えられることが多く,海外からの民間投資額も多いわけではない.むしろODAなど政府関連の援助による投資が主流である.そのため2010年の外務省海外在留邦人数調査統計によれば,バングラデシュに住む日本人は569人,そのうち長期滞在者が504人,永住者が65人である.長期滞在者の内訳は,民間企業関係者が101人,同居家族が20人,政府関係職員が131人,同居家族が66人,その他が97人,同居家族が58人となっている.つまり民間企業関係者よりも政府関係職員の方が多い.近年日系企業の進出が活発化していると言われているが,その水準は低位に留まっている. 一方,シャプラニールやマザーハウスに代表されるように日本人によるNGOや社会的企業の活動がバングラデシュで活発に繰り広げられている.さらに,グラミン銀行やBRACなどマイクロクレジットが世界的に注目されるようになり,BOPビジネスも脚光を浴びるようになっている.2010年には,ユニクロがグラミン銀行と提携してソーシャルビジネスを開始し,安い賃金を生かした縫製産業が成長を遂げつつある.3.調査結果の概要 当該国において日本企業の進出が進むには,日本への送金が可能となる制度枠組みの整備が重要である.ダッカで実施した現地調査では,16人の男女から話を聞くことができた(表1).ヒアリング結果を要約すれば,①高学歴の人が多い,②未婚の男性が多い,NGOや社会的企業などの職に就いている人が多い,といった特徴が浮かび上がった.なお,その他の詳細な結果については,当日に報告する.
著者
神谷 浩夫
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.221-237, 2002 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
3

これまで日本の医療に関する研究では,社会的な平等性の重視が日本の医療の特色であると指摘されてきた.しかし空間的な観点からみると,自由診療制度を採用している日本では医療資源の地域的な不均衡が生じている.本稿では,精神科診療所の立地パターンを把握し,近年における大都市で精神科診療所が急増している背景とその意味を明らかにしようと試みた.まず,日本の戦後における精神医療の変遷を概観し,現在の精神医療制度が形成されてきた過程を考察した.戦後の日本では「社会防衛」の観点から低コストで患者を収容するために民間精神病院が大量に建設され,その多くは市街地から離れたところに立地した.精神医療が次第に開放医療,地域医療へと向かう中で精神科診療所も増えていったが,それはターミナル駅周辺の地域に開設されることが多かった.1980年代後半に入ると,診療報酬制度の度重なる改訂によって次第に精神科診療所の経営が安定するようになり,診療所の開設が相次ぐようになった.開設された診療所の多くは,従来のターミナル駅指向,駅周辺の商業ビル指向,商業地区.繁華街指向というパターンを強めるものであり,その背景には,利便性を重視して立地する診療所側の要因とともに,通院していることを周囲に知られたくないという匿名性を優先する患者側の要因も存在していた.こうした診療所立地の傾向は,アメリカにおいて精神病退院患者が都市計画規制の緩やかなインナーシティに集積している傾向と類似していた.
著者
浅見 泰司 神谷 浩史 島津 利行
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.69, pp.187-199, 1999-09

道路ネットワークを分類する実験結果から、道路ネットワークの知覚的認知度指標を構築した。特にグリッドパターン特性と放射パターン特性を記述できるG指標とR指標を提案した。分析の結果、道路ネットワークパターンを記述する上で本質的な要素として、道路の平均幅員と平均ノードオーダーが重要であることが示された。Perceptive similarity of road networks is expressed by distance measures based on the experiment to classify networks. Several indices are calculated to explain the distance measure, among which G-index and R-index are proposed to express the extent of grid pattern and radial pattern. The average width of roads and the average order of nodes are found to be essential factors to explain the difference in road network patterns.
著者
由井 義通 若林 芳樹 中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.139-152, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

日本の女性を取り巻く社会的・経済的状況は過去数十年の間に急激に変化した.そうした変化の一端は,働く女性の増加を意味する「労働力の女性化」に現れている.とりわけ大都市圏ではシングル女性が増大しているが,それは職業経歴の中断を避けるために結婚を延期している女性が少なくないことの現れでもある.この傾向は,1986年の男女雇用機会均等法の成立以降,キャリア指向の女性の労働条件が改善されたことによって促進されている.その結果,日本の女性のライフコースやライフスタイルは急激に変化し,多様化してきた.筆者らの研究グループは,居住地選択に焦点を当てて,東京大都市圏に住む女性の仕事と生活に与える条件を明らかにすることを試みてきた.本稿は,筆者らの研究成果をまとめた著書『働く女性の都市空間』に基づいて,得られた主要な知見を紹介したものである.取り上げる主要な話題は,ライフステージと居住地選択,多様な女性のライフスタイルと居住地選択,シングル女性の住宅購入とその背景である.
著者
パン ティ ビン 神谷 浩夫 朴 順湖
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.69-94, 2013-05-28

近年,結婚のために韓国に移住するベトナム人女性が急増している。ベトナム人女性結婚移民者の渡韓が母国の家族の経済状況を改善したことは,すでにベトナムにおける多くの研究で明らかにされている。しかしながら,ベトナム人女性結婚移民者自身の韓国での経済状況に関する研究は少ない。そこで本稿では韓国在住のベトナム人花嫁の経済状況に関する調査をおこなった。最初にベトナムと韓国の間の結婚移動の実態を明らかにし,次いで韓国での豊かな生活に対するベトナム人花嫁の期待と実際の彼女たちの韓国での生活の違いを明らかにする。渡韓以前,ベトナム人女性結婚移民者は自分自身の経済状況を改善し,また母国の家族を支えるためにも韓国で豊かな経済状況を獲得することを期待している。しかしながら,彼女たちが結婚した韓国人の夫の多くは社会-経済的に韓国社会の最下層の階級に属しているため,ほとんどのベトナム人女性結婚移民者は渡韓後に経済的な困難に直面していることが明らかとなった。最後に,ベトナム人女性結婚移民者自身が韓国における自分たちの経済状況をどのように評価しているのかを分析した。彼女たちの声からは,期待したほど母国の家族に送金できないため,多くのベトナム人女性結婚移民者が韓国での経済状況に失望していることが明らかとなった。韓国におけるベトナム人女性結婚移民者の経済状況の改善と結婚生活の安定には,夫の一定の所得水準に加えて,彼女たちの語学力の向上と適切な就業機会が必要であると考えられる。
著者
原田 慎一 藤田(濱邊) 和歌子 神谷 浩平 佐武 紀子 徳山 尚吾
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.130, no.5, pp.707-712, 2010-05-01 (Released:2010-05-01)
被引用文献数
2 3

本総説は、“Biological and Pharmaceutical Bulletin” 誌に掲載された後、取り下げとなった内容と同一か、密接に関連する図表やデータを含んでいることから、編集委員会は本総説を撤回することに決定しました。The Editorial Committee of the Pharmaceutical Society of Japan (February 18, 2020)
著者
神谷 浩
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.191-195, 1993-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

歯肉の発赤, 腫脹, 疹痛, 出血, 排膿などの炎症症状が著明に認められる炎症型 (実熱証型) 歯周疾患の急性発作期に対し, 清熱作用を持つ黄連解毒湯と排膿散及湯の投薬目標 (証) を想定し投薬を行った。黄連解毒湯の証は, 歯肉が腫脹し発赤の程度が強い歯周炎, あるいは歯肉発赤と出血が認められる歯周炎と想定した。排膿散及湯の証は, 歯肉が腫脹しているが発赤の程度が弱い歯周炎, あるいは排膿が認められる歯周炎と想定した。黄連解毒湯, 排膿散及湯とも各10症例に投与し, 良好な結果が得られた。炎症型 (実熱証型) 歯周疾患の急性発作期において, 想定した投薬目標 (証) で, 黄連解毒湯と排膿散及湯のエキス剤が有効であると考えられた。
著者
神谷 浩夫 池谷 江理子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-35, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
6 6

本稿の目的は,各地域における就業する女子と就業していない女子の比率(すなわち就業率ないし労働力率)が,他の地域と比較してどれほど差があるかを考察することにある。そのためにまず,第二次大戦後から現在に至る女子就業率の推移を市郡別データを基に概観して都市部と農村部における女子就業率の動向を明らかにし,これを受けて都道府県別の女子労働力率の差異の分析を行なった。なお,時系列の考察では就業率,地域差の考察では労働力率という異なった指標を用いた。本来,労働力率という単独の指標で分析を統一することが望ましいが,産業別・年齢別の労働力データが得られないため,就業率を用いることとした。 1955年から1985年の間の女子就業率の変動を,市部と郡部に分けて考察した結果, 1955年には市部の女子就業率は郡部に比べてかなり低かったが, 1985年の両地域の差異はかなり縮小したことが明らかとなった。年齢別女子就業率の特徴としては,いわゆるM字型プロフィールが1955年から1985年の間にかなり鮮明となると同時に,市部と郡部でプロフィールの形状に差がなくなりつつある点が明らかとなった。これは,市部で中年層の就業率が大幅に上昇し,郡部では中年層以外の年齢層の就業率が低下したことに起因する。産業分野別の就業者割合の変化をみると,卸・小売業,サービス業従業者の比率が上昇した点は郡部・市部ともに共通しているが,製造業従業者比率の増大は製造業が地方へ分散したたあに市部よりも郡部で大きかった。年齢別には,市部・郡部ともに15~19歳の年齢層で女子就業率が大幅に低下したが,これは,高校・大学進学率の上昇に原因があると推測された。また,パートタイム・アルバイト就業が女子就業のかなりの部分を占めていることも,データから裏付けられた。 次に, 1985年における女子労働力の地域的変動を説明するために,都道府県別女子労働力率を従属変数,女子労働力の需要と供給に関する11変数を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行なった。その結果得られた回帰方程式では, 15~24歳の年齢層と他の年齢層とでは女子就業率の地域的変動を説明する要因が大きく異なっていた。また,35~44歳や45~54歳の年齢層では,農家世帯比率が女子労働力率の地域差を説明する最大の要因であったが,15~24歳の年齢層ではとび抜けて寄与率の高い要因は見い出せなかった。既往の研究と比較すると,回帰式の決定係数が低い結果となった。その理由は,日本の国全体でみて1985年には農業就業者がかなりの水準まで低下したたあと推測される。また,若年層と高年齢層では供給要因以外にも労働市場の需要要因が地域の女子労働力率の高低に対して影響を及ぼしていることも明らかとなった。今後,さらに女子就業の地域的変動を詳しく分析するためには,パートタイム就業者やアルバイト就業者といった就業形態の違いも考慮に入れた分析も必要だろう。
著者
神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.39, 2006

1.問題の所在<BR> グローバル化の進展によって,より安価な賃金コストの地域に生産拠点を移転させ,グローバル市場において優位性を確保しようとする動きが活発になりつつある.こうした生産拠点の海外移転は労働力が非可動的であることを想定している.もちろんこれは,他の生産要素に比べた相対的なものである.実際には,地域間で賃金格差が大きい場合にも労働力は移動する.けれども,労働力の国際移動は素材や製品の輸出入と比べると規制が大きい.<BR> 東南アジアへの日本企業の進出は1970年代ころから活発化し,それにともない海外へ赴任する日本人の数も増大していった.海外で働く日本人の多くは,男性従業員が妻と子供を同伴するスタイルをとっていることが多い.一方1990年代半ばから,海外で働くことが20代の独身女性の間でブームとなっている.とりわけ,香港やシンガポール,上海など東南アジア諸国で働く女性が増加しているものと思われる.そこで本発表では,東南アジアで働く日本人女性に着目し,シンガポールで働く独身女性が増えた理由を検討する.<BR><BR>2.分析の手順<BR> 企業の海外進出にともなう人口移動の実態を明らかにし,海外で働く日本人独身女性が増えた理由を検討するためには,その前に日系企業の進出状況が東南アジアでどのように進んだのかを明らかにしておく必要がある.<BR> 次に,東南アジアに滞在する日本人の動向を把握することで,シンガポールにおける日本人女性が就いている職業に関して予察的な考察を試みる.海外で働く日本人に関しては,労働力調査といった国内で利用可能な労働力に関する各種統計が利用できないため,多面的に推測を積み重ねる方法をとらざるを得ない.<BR> 最後に,東南アジア諸国において日本人が働く際に大きな影響を与える就労ビザの発給方針についても整理しておく.<BR><BR>3.結果の概要<BR> 地域オフィスが形成される過程やその役割に関して考察した鍬塚(2001)は,シンガポール地域オフィスは販売管理業務あるいは現地の合弁製造会社に対する本社サービスの提供にあることを明らかにした.世界都市としてのシンガポールの機能はこうした中枢管理機能に負っている部分が大きく,日系企業の事業所もほぼこうした原理に則っている.日系企業の進出状況を業種別の現地法人で見てみると,シンガポールでは製造業が4分の1を占めるに過ぎないのに対して,マレーシアやタイでは製造業がほぼ半数を占めている.<BR> 図1は,シンガポールにおける長期滞在者の推移を示したものである.本人(男)の人数は,日系企業の現地法人に勤務する駐在員の数に相当すると考えることができる.本人(女)の人数は,男性に比べると圧倒的に少ないことから,量的な面では家族を同伴する駐在員の人数に比べれば,シンガポールで働く(おそらく独身の)日本人女性はごく少数である.それでも,1990年代に入ってから増えていることが読み取れる.<BR> その他の検討結果については,当日に報告する予定である.<BR><BR>文献<BR>鍬塚賢太郎 2001. 日本電機企業の東南アジア展開にともなうシンガポール地域オフィスの形成とその役割. 地理学評論 41A-3, 179-201<BR>Thang, L. L., MacLachlan, E., and Goda, M. 2002. Expatriates on the margins: a study of Japanese women working in Singapore. Geoforum 33, 539-551.
著者
柴原 弘明 戸倉 由美子 伊勢呂 哲也 惠谷 俊紀 池上 要介 神谷 浩行 橋本 良博 岩瀬 豊 植松 夏子 今井 絵理 西村 大作
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.514-517, 2012 (Released:2012-05-22)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【緒言】ミルタザピンはノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)で, 5-HT3受容体拮抗作用をもち, 嘔気を改善する先行研究が報告されている. 【症例】38歳, 女性. 遠隔転移を伴う進行腎がんに対し, スニチニブとオキシコドンを投与した. 経過中に出現した難治性嘔気・嘔吐に, ミルタザピン1.875 mg/日を開始した. 開始翌日に嘔吐は消失し, 2日目に3.75 mg/日へ増量したところ, 3日目には嘔気も消失した. 消化器症状でスニチニブとオキシコドンを中止することなく治療を続行できた. ミルタザピン15 mg/日の投与量では眠気が出現することがあるが, 今回の低用量投与で眠気はみられずに消化器症状の改善が得られた. 【結論】ミルタザピンの低用量投与は, スニチニブとオキシコドン併用時の難治性嘔気・嘔吐に対して, 有効な選択肢の1つであると考えられる.
著者
若林 芳樹 神谷 浩夫 由井 義通 木下 禮子 影山 穂波
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.65-87, 2001-04-28
参考文献数
64
被引用文献数
4

本研究は,量的研究法と質的研究法とを組み合わせたマルチメソッドのアプローチを用いて,東京大都市圏における30歳代シングル女性世帯の居住地選択の傾向とそれを取り巻く状況を分析したものである。既存の統計類とアンケート調査結果を用いた量的分析の結果,シングル女性世帯の居住地選択の特徴として,利便性を重視して都心周辺部を指向すること,所得階層によって就業・居住状態に違いがみられること,住宅の探索・契約をめぐって種々の制約を受けていること,などが明らかになった。こうした量的分析による知見を裏付け,より詳細な居住地選択の実態を探るために,グループ・インタビューを行い,質的分析を加えた。その結果,彼女らが都心周辺部を指向する理由は,単なる利便性だけでなく,帰宅時の安全性への配慮や住み慣れた地域への選好が影響していること,住宅の契約をめぐる制約の強さは勤務先や所得によって異なること,などが明らかになった。
著者
神谷 浩夫
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.247-258, 1983-12-20 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
4
著者
内藤 明美 森田 達也 神谷 浩平 鈴木 尚樹 田上 恵太 本成 登貴和 高橋 秀徳 中西 絵里香 中島 信久
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.255-260, 2021

<p>【背景】医療において文化的側面への配慮は重要である.本研究は沖縄・東北を例に首都圏と対比させ国内のがん医療・緩和ケアにおける地域差を調査した.【対象・方法】沖縄,東北,首都圏でがん医療に携わる医師を対象とした質問紙調査を行った.【結果】553名(沖縄187名,東北219名,首都圏147名)から回答を得た.地域差を比較したところ,沖縄では「最期の瞬間に家族全員が立ち会うことが大切」「治療方針について家族の年長者に相談する」「病院で亡くなると魂が戻らないため自宅で亡くなることを望む」などが有意に多く,東北では「特定の時期に入院を希望する」が有意に多かった.東北・沖縄では「がんを近所の人や親せきから隠す」「高齢患者が治療費を子・孫の生活費・教育費にあてるために治療を希望しない」が多かった.【結論】がん医療・緩和ケアのあり方には地域差があり地域での文化や風習を踏まえた医療やケアに気を配る必要がある.</p>
著者
ネスミス キャシー ラドクリフ サラ 山元 貴継[訳] 神谷 浩夫[訳]
雑誌
空間・社会・地理思想 (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.4, pp.94-108, 1999

近年盛んになりつつある女性と自然、環境をめぐる言説は、環境フェミニズムあるいはエコズムという総称でくくられる。現境問題に対する地理的アプローチを発展させるために、環境フェミニズムによって提起された諸問題に対する批判的検討が行なわれる。地理学の読者に対して環境フェミニズムの原理を手短かに紹介したのち、将来の地理学的研究のための三つの領域が概述される。それは、第1に自然と文化、ジェンダー、第2にグローバルな開発と環境とのジェンダー化された関係、第3にジェンダー化された景観とアイデンティティの問題である。とくに、フェミニズム地理学と文化地理学的考察は、環境フェミニズムのアプローチの将来的な発展に対して重要な扉になると主張される。
著者
神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.413-426, 1984-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
52

Consumer behavior research stimulated by the development of cognitive behavioral approach has accumulated many empirical studies, having close relation to such established fields as spatial interaction studies and the central place theory. Recent trends in this field suggest that spatial behavior is influenced by spatial and temporal constraints and that preference structure behind the behavior is not intrinsic to individuals. In the light of this argument, the focus of the study is placed on the constraints-oriented spatial choice process. The purpose of the paper is to propose a store choice model which includes the concept of constraints and to test its validity. First, through the descriptive analysis in Section III, consumers' patronage patterns for various facilities (including grocery store, pharmacy, post office and bank) are examined. The data are gathered through the self-reporting about these facilities by housewives living in Nagoya City. In Section IV the proposed model is operationalised and applied to the grocery store choice. In this model, the choice process is divided into two components. One expresses the process of constructing individual's choice set. The other indicates the process of choosing the best alternative among the choice set. And the standard ellipse is used as the choice set to delineate the activity space where consumers usually keep contact. The form of the choice function is multiplicative. When we introduce the activity space ellipse, we could explain the observed behavior better than without employing the ellipse. At the next step, we subdivid the population into subgroups according to their socio-economic status. This subdivision is repeated in terms of the ownership of private vehicle and the housewife's working status. After the population is divided, the activity ellipses are changed respectively and then applied to the grocery choice model. This time the explanable results were not obtained. The defficiency of the activity ellipse may be due to the discrepancy between the actual travel mode used and the household's ownership reported, and also due to the shape of ellipse.