著者
赤川 学
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.20-37, 2005-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2

「男女共同参画が実現すれば, 出生率は上がる」.これは現在, もっとも優勢な少子化言説である.本稿ではリサーチ・リテラシーの手法に基づいて, これらの言説と統計を批判する.第1に, OECD加盟国の国際比較によると, 女子労働力率, 子どもへの公的支出と出生率のあいだには, 強い正の相関があるようにみえる.しかしこのサンプルは, しばしばしばしば恣意的に選ばれており, 実際には無相関である.第2に, JGSS2001の個票データに基づく限り, 夫の家事分担は子ども数を増やすとはいえない.第3に, 共働きで夫の家事分担が多い「男女共同参画」夫婦は, 子どもの数が少なく, 世帯収入が多い.格差原理に基づけば, 彼らを重点的に支援する根拠はない.第4に, 政府は18歳以下のすべての子どもに, 等しく子ども手当を支給すべきである.それは, 子育てフリーライダー論ではなく, 子どもの生存権に基礎づけられている.現在の公的保育サービスは, 共働きの親を優先している.親のライフスタイルや収入に応じて, 子どもが保育サービスを受ける可能性に不平等が生じるので, 不公平である.もし公的保育サービスがこのような不平等を解決できないなら, 民営化すべきである.最後に, 子ども手当にかかる財政支出は30歳以上の国民全体で負担しなければならないが, この支出を捻出するには, 3つの選択肢がありうると提案した.その優先順位は, (1) 高齢者の年金削減, (2) 消費税, (3) 所得税, である.この政策により, 現行の子育て支援における選択の自由の不平等は解消され, 年金制度における給付と拠出の世代間不公平は, 大幅に改善される.
著者
白波瀬 佐和子 盛山 和夫 ホリオカ チャールズ・ユウジ 杉野 勇 上野 千鶴子 武川 正吾 赤川 学 中田 知生 村上 あかね
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、日本の急激な人口高齢化が社会の階層構造に及ぼす影響を、社会調査データによって実証的に明らかにすることにあった。そこで本研究では、2010年に50~84歳を対象にした「中高年者の生活実態に関する全国調査」(有効サンプル6,442ケース)を実施し、2年後にはその3,193ケースについて追跡調査を行った。高齢期の階層は、所得や仕事内容、資産といった経済的要因のみならず、だれと暮らすか(世帯構造)と密接に関連していた。
著者
佐藤 健二 赤川 学 出口 剛司 祐成 保志 東 由美子 米村 千代 中筋 由紀子 野上 元 宮本 直美 佐藤 雅浩 武田 俊輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は日本の社会学の調査史における従来の方法を再検討し、新たな方法論的枠組みを提出することにある。社会学史は伝統的に近代社会に対する理論を寄せ集めたものに過ぎず、フィールドワークや質問紙調査などを通じた経験的な観察がどんな社会認識を生みだしてきたかは無視されてきた。この研究は、ことばだけでなくモノや空間やメディアによって認識される社会を含む、新たな理論的・方法論的枠組みを提出する。さらに、新たなコンピュータ技術や映像メディアをデータの収集・整理のプロセスで使いこなす方法論的な枠組みをも展望する。こうした試みは、社会学の研究および教育に大きな貢献をなすであろう。
著者
赤川 学
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.79-93, 2005-03-15
著者
赤川 学
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、近代日本におけるセクシュアリティ(性、性欲)に関する言説が、いかに形成され変容したかを、一般向け性啓蒙書を中心とする豊富な一次史料をもとに、言説分析・歴史社会学の手法を用いて分析している。本研究の主要な知見は、以下の通りである。第一に、19世紀に西洋社会で沸騰した、「オナニー有害論」の言説が、近代日本社会に輸入・定着・消滅する過程を分析した。オナニーに関する医学的言説は、「強い」有害論/「弱い」有害論/必要論の三つからなっており、「強い」有害論全盛期(1870-1950)、「弱い」有害論全盛期(1950-60)、必要論全盛期(1970-)という経過をたどることが示された。そして、(1)「強い」有害論から「弱い」有害論への変化の背景に、「買売春するよりはオナニーの方がまし」とする「性欲のエコノミー問題」が存在したこと、(2)「弱い」有害論から必要論への変化の背景に、「性欲=本能論から性=人格論へ」という性欲の意味論的転換が存在したことを明らかにした。第二に、近代日本における「性欲の意味論」が、「性欲=本能論」と「性=人格論」の二つからなることを示した。前者は「抑えきれない性欲をいかに満足させるか」という「性欲のエコノミー問題」を社会問題として提起し、この問題に人々がどう解決を与えるかに応じて、個別性行動に対する社会的規制の緩和/強化が定まることを論じた。また性=人格論には、フロイト式のそれとカント式のそれが存在し、この二つはときに合流したり(純潔教育)、ときに拮抗・対立したりする(オナニー中心主義とセックス中心主義)ことを示した。最後に1970年代以降、あらゆる性の領域において、愛や親密性を称揚する親密性のパラダイムが、行為の価値を定める至高の原理となりつつあることを確認した。
著者
数土 直紀 赤川 学 富山 慶典 盛山 和夫 金井 雅之 伊藤 賢一 樽本 英樹
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本プロジェクトは、期間中に合計12回の研究会を学習院大学において開催した。また、研究会での成果を、海外を含む各種学会・会議において発表報告をした。研究会での報告内容は、次の通りである。(1)「ウォルト・ディズニーの思想」、(2)"Evolution of Social Influence Networks in Unanimous Opinion Formation"、(3)「Social Capital概念の適用可能性」、(4)「階層意識上の性-権力」、(5)「Dunkan WattsのSmall Worldシミュレーションを応用して」、(6)"Independence of Protestantism and Capitalism"、(7)「規範性のメタ理論的考察」、(8)「『社会構造のモデル樽築』」、(9)"Evolution of Distributive Justice in Social Influence Networks"、(10)「政治的権力の正当性からの独立性」、(11)「後期ハーバーマスの展開の体系的分析」、(12)「都市型公共空間における不関与の規範の形成」、(13)「損害賠償額が上昇するメカニズム」、(14)「シミュレーションということ:く社会>の理解/記述/創出」、(15)「構成主義と構成されざる現実」、(16)「利他的な行為者はゲームをどうみているか」、(17)"Escape from Free-riders"、(18)「倫理的判断の不偏性」、(19)「ロマンティック・ラブの日本的受容〜『主婦の友』に見る「愛」と「恋愛」の変遷〜」、(20)「社会移動表における非対角セルの分析」、(21)「社会運動への動員における紐帯の効果」、(22)「メディアと「信頼」」。最終年度は、プロジェクト期間中に参加者が議論を基にした論文を収録し、計13本、約280ページの報告書を作成した。
著者
赤川 学
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3/4, pp.81-95, 2006-03-28

読売新聞「人生案内」欄を素材として,「資料に向かい合う作法」としてのセクシュアリティの歴史社会学を実践する.第一に,1935~95年に掲載された身上相談を,見田宗介が用いた分類を修正しつつ,10年おきに量的分布の変遷を調べた.恋愛と結婚に関する悩みは漸減する一方,自己の性格や心に関する悩みが増加していた.第二に,性に関する悩み(身下相談)は,どの時期にもみられる「普遍的な悩み」,処女・純潔のように,ある時期以降消失する「可変的な悩み」,親密なパートナーとの関係に発生する「関係性の悩み」,自己の身体や性的欲望に関連する「個体性の悩み」等に分類される.第三に,身下相談では女性投稿者の比率が漸増しており,そこでは,「関係性の悩み」が突出して語られやすい.逆にいえば性を,自己の身体や欲望に関連づけるような語りが,隠蔽される傾向が確認された.