- 著者
-
金菱 清
植田 今日子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.386-401, 2013 (Released:2014-12-31)
- 参考文献数
- 15
- 被引用文献数
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本稿の目的は, 宮城県の各被災地の人びとの営みから, 排除することのできない災害リスクを抱えながら生活を再構築していく技法に学ぶことで, 災害リスクへの適応実践のあり方を示すことにある.今回の東日本大震災でとりわけ津波の被害が甚大であった現場で見えてきた災害との向き合い方の方向性は, 大きくは2つある. 1つは, 被害の大きかった場所から撤退したり, 津波による物理的損失を未然に防ぐことで日常生活に支障をきたさない状況を目指す方向性である. もう1つは, 生活をともにするコミュニティの維持・継続を目指した先に, 物理的なダメージの緩衝のみならず被災後も派生してくる生活困難や孤立, 精神的ダメージといった複合的な災害リスクを包括的に低減することを目指す方向性である. 後者の方向性のあり方を, 本稿では「災害リスクの包括的制御」と呼んでおきたい.災害リスクと向き合うとき, 災害パターナリズムによる災害リスクへの対処法は, 結果としてリスクの締め出しと引き換えに生活弱者を生み出すのも致し方なしという社会的排除の性格を強く帯びる. それに対し, 本稿が提示するコミュニティに備わる災害リスクの包括的制御は, もっとも不利な人が生きていくための社会的セイフティネットの役割をもつ. 事後的にしか対処できない派生的な被災の実態に対して, 包括的制御アプローチは, 災害発生時のみならず災害後も居座り続ける複合的な災害リスクを縮減することに寄与していることを実証する.