- 著者
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金水 敏
- 出版者
- 国立国語研究所
- 雑誌
- 国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.3, pp.108-121, 2015-02
疑問文の研究の視点を整理した上で,衣畑(2014a, 2014b),野村(2001),高宮(2003)等に沿って日本語疑問文の歴史的変化の方向性やその動機づけ等について概観する。衣畑(2014b)によれば,前上代においては,焦点位置に「か」を置くという原則だけで疑問文形成の説明ができたが,上代に肯否疑問文の焦点位置に「や」も置かれるようになり,中古には疑問詞疑問文と肯否疑問文を区別する方向性が強められたとする。本稿では,なぜ肯否疑問文の領域に「や」が進出してきたのかという問いを立て,その説明のためには「か」と「や」の機能の違いに着目すべきであるということを主張する。さらに衣畑(2014b)では,中世にいったん疑問詞疑問文から「か」が消えたとするが,竹村・金水(2014)では中世末期のキリシタン資料で「か」文末の疑問詞疑問文が一定量存在することを示している。本稿では,竹村・金水論文で示された「ぞ」文末疑問詞疑問文と「か」文末疑問詞疑問文の性質の違いを踏まえ,「リスト表現」という形式の発達,および間接疑問文の発達という観点から,この新しい「か」文末疑問詞疑問文の起源についての仮説を提示する。