著者
岩佐 真宏 クリュコフ アレクセイ 柿澤 亮三 鈴木 仁
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.66-72, 2002-10-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
6 6

アジア(ロシア•日本•ラオス)産ハシブトガラスの種内変異(地域変異)について,ミトコンドリア遺伝子チトクロームb(336塩基対)を用いて調査した。塩基配列を基に作成した近隣結合系統樹では,主に4つの地域変異グループ,1)ロシア極東地域-沿海州およびサハリン北部,2)サハリン南部および九州までの日本列島,3)奄美大島,4)ラオス,が得られた。この4つの遺伝子型によるグループは,既報の形態変異によるグループ(亜種分類)とほぼ一致していた。ハシブトガラスにおいては,海峡などによる地理的隔離•島嶼形成が遺伝子流入の妨げにはなっておらず,特に陸続きであるはずのサハリン北部•南部間で明瞭な異なる遺伝子型グループが観察されたことは,両者の個体群形成の歴史が,同じ島でありながら異なることを示唆するものであった。
著者
松下 典正 鈴木 隆文 鈴木 仁呂衣 古川 達也 重松 恭祐
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.1079-1083, 2010 (Released:2010-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

直腸癌に対する腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術の術中体位が原因と考えられる左腕神経叢障害を経験した.症例は46歳女性.排便時出血を主訴に来院.下部消化管内視鏡検査にて肛門縁より約10cmの直腸に径2cm大のI型直腸癌を認め腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術を施行した.術中体位は頭低位約20度,右低位約20度とし両側上腕は70-80度外転として両側肩支持器を肩鎖関節上に置いた.手術時間は6時間25分,術中4回ほど体動を認め麻酔深度の調節が必要であった.麻酔覚醒時より患者から左上腕の位置覚,運動覚,触覚異常の訴えあり.診察の結果術中体位異常によって惹起された腕神経叢障害と診断して運動療法,低周波刺激療法,ビタミンB12製剤投与を行った.腹腔鏡手術では開腹手術と異なった術中体位をとることがあり,近年腹腔鏡下手術術中体位が原因と考えられる神経障害の報告が散見される.それら神経障害に対し対策を講じる目的で文献的考察を加え報告する.
著者
石川 広明 安井 香奈子 桶田 善彦 野村 誠 渡辺 武士 三上 裕嗣 鈴木 仁 尾野 精一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.969-971, 2013 (Released:2014-04-10)
参考文献数
3

60歳,男性が頭痛,嘔吐,意識障害で入院となった.血液検査でTSH 99.099μIU/mlの上昇と,FT3 1.60pg/ml,FT4 0.58ng/dlの低下を認めた.また抗サイログロブリン抗体,抗TPO抗体の上昇を認めた.粘液水腫性昏睡と考え,甲状腺ホルモンの補充療法を実施したが症状の改善はみられなかった.その後血清中抗N末端αエノラーゼ抗体の上昇が認められたことより橋本脳症の合併を考え,ステロイドパルス療法を行ったところ,症状の速やかな改善を認めた.
著者
鈴木 仁
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-23, 2016-01-15

本論は、昭和期に内地で広まった郷土教育運動を背景に、「外地」樺太における郷土研究・郷土教育の活動をまとめた。内 地では、文部省により昭和五年度からの十二年度までに、師範学校への研究設備施設費の補助や、講習会の開催が実施され、 民間団体の郷土教育連盟による普及啓発が、各地の学校、教職員に影響を与えた。そこには、明治期からの地方(郷土)研 究の実績を教育への実践に取り入れ、郷土愛からの愛国心涵養の目的があった。「外地」である樺太は、教育行政を樺太庁が担っており、文部省の補助は適用されていないが、教職員は独自の郷土教育活動を模索している。他の「外地」が、郷土教育において重要視された「地域性」と、愛国心涵養を目指した「同化」との矛盾を抱えているのに対し、住民の九割以上が日本人(内地人)である樺太では、内地と同じく日本人子弟を対象とした教育政策がとられていた。だが、日本人移民の入植が広がることで新に社会が形成された樺太には、内地のような「郷土史」や、郷土研究の蓄積を有しておらず、郷土教育では樺太の「郷土像」を作り上げることが課題となる。本論は、第一節で樺太における郷土研究と郷土教育の活動についてまとめ、第二節では郷土教育の教授方法の一つである「郷土読本」について、編纂の記録や残された資料を事例に取り上げた。第三節では郷土史としての樺太史の研究と顕彰、教育への導入について、豊原中学校・樺太庁師範学校の校長となった上田光の発言、事績から、「郷土像」の形成過程を考察している。
著者
石倉 透 鈴木 仁士 松浦 孝紀 大西 英生 中村 利孝 上田 陽一
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.315-321, 2012-12-01

生体にとって疼痛に対する生理的防御反応は極めて重要である.我々はアルギニンバゾプレッシン(arginine vasopressin: AVP)を緑色蛍光タンパク(enhanced green fluorescent protein: eGFP)で標識したAVP-eGFPトランスジェニックラットおよび神経活動の指標として汎用されているc-fos遺伝子産物であるFosタンパクを赤色蛍光タンパク(monomeric red fluorescent protein 1 : mRFP1)で標識したc-fos-mRFP1トランスジェニックラットを作出し,侵害受容反応を可視化することに成功した.これらを用いて疼痛ストレス負荷時におけるAVP系の生理的役割を解明することを手がかりに,作業関連疼痛の新たな病態解明を目指している.これまでの遺伝子改変動物を用いた侵害受容反応に関する知見を述べる.
著者
鈴木 仁一 山内 祐一 堀川 正敏
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.292-298, 1977-10-01

β-ブロッカーが循環器系心身症の愁訴改善に有用であるとの報告は1965年にすでになされているが, われわれは, 精神薬理学的実験によって, その作用機序を解明することにした。実験対象は冠不全 5,NCA 5,本態性高血圧症 2,陳旧性心筋梗塞 1 の合計13例で, いずれも発症または経過に心理的要素が重大な影響をもつ心身症例である。これらの患者に, われわれの考案した鏡映描写試験により心理的ストレスを与えると, 動悸, 前胸部不快感などの自覚症状が発生するだけでなく, 血圧の上昇, 心拍数の増加, 心電図上で不整脈, ST-T異常が起こり, しかもその異常は尿中カテコールアミンの排泄増加および血中カテコールアミンの指標としてのFFAの増加と正の相関を示す。そこで鏡映描写試験前にβ-ブロッカーを内服させて前処理をしてみたところ, 自覚症状は発生せず, 血圧上昇, 心拍数増加は推計学的に有意の差で阻止され, 心電図にも異常所見は現われなかった。しかし, 尿中カテコールアミンおよび血中FFAは非処置群と同様に増加していた。以上のことにより, β-ブロッカーは心理的原因によって起こる循環器系異常を, 生体が生理的に反応してくる以前に, β-受容体の段階で阻止できることを明らかにすることができた。