著者
林 美沙 中川 幸延 遠山 知子 平野 亜由子 佐藤 彩子 瀬口 道秀 杉本 麗子 東山 真里
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.123, no.9, pp.1787-1796, 2013

インフリキシマブが奏効した乾癬に伴う難治性ぶどう膜炎の2症例を報告する.54歳,男性.28歳時に乾癬性紅皮症と診断されたが,不十分な治療により皮疹のコントロールは不良であった.38歳時に右眼ぶどう膜炎を,45歳時に左眼ぶどう膜炎を発症した.プレドニゾロンの内服で加療されるも難治であり右眼は失明に至った.2010年乾癬の皮疹,及びぶどう膜炎のコントロールが不良のため,インフリキシマブを開始した.治療開始後より皮疹,及びぶどう膜炎の症状は速やかに改善した.経過中に軽度の眼症状の再燃を認めるも,インフリキシマブを増量することで眼症状は改善した.34歳,女性.19歳時に乾癬を発症し,外用治療にて経過良好であった.2010年,産後より急速に体幹の皮疹の増悪を認め,多発関節炎が出現した.ステロイド軟膏とビタミンD3軟膏の外用,及びメトトレキサートの内服を開始するも難治であり,右眼のぶどう膜炎と視神経炎も発症した.インフリキシマブを開始し,皮疹,関節炎,及びぶどう膜炎は速やかに改善した.経過中に関節症状とぶどう膜炎の再燃を認めたが,インフリキシマブ,及びメトトレキサートを増量することで経過良好である.当院で経験した乾癬に伴うぶどう膜炎5例及び過去の報告症例から,ぶどう膜炎発症の危険因子,及びTNFα阻害剤の有効性につき若干の考察を加えて報告する.乾癬に伴うぶどう膜炎は難治で時に失明に至るため,免疫抑制剤に対し効果が得られない症例には,TNFα阻害剤は有効な治療として考慮すべきである.
著者
桑原 宏始
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.12, 1970

ランゲルハンス細胞(L細胞)は1868年,Langerhansによつて人表皮内に見出された樹枝状細胞であるが,その後,人健康真皮をはじめ慢性尋麻疹,貨幣状湿疹,紅皮症,尋常性白斑患者の真皮,毛ハV脂腺系,口腔粘膜上皮,子宮腟部上皮,L.S.(Letter Siewe Disease),Pityriasis Rosea,Reticulum Cell Sarcoma,肺および骨の病的組織球,家兎胎児胸腺,幼若マウス脾臓,リンパ節,胎生75日アカゲザルの頭皮などで観察されている.以上の如く,L細胞の分布は広範囲に及び,さらにL細胞の微細構造,組織化学的検索から,L細胞の由来について,最近Mesenchymal cell説が有力視されつつある.しかもHashimoto,Wolff らを中心にHistiocytosis Xに見られるBirbeck顆粒保有細胞との関連からL細胞は組織球系の貪喰細胞であるとする考えが近年有力となりつつある.しかし著者は,電顕的観察結果からみて,本細胞が間葉系由来の細胞であるにしても,単なる組織球とは異なり,胸腺細胞と同様網内系特にLymphoreticularな細胞で,免疫機構に関与しているものと考え,既に2回に亘つて報告した.このリンパ網内系細胞由来説は著者のほか,既にRanvier,Andrew,Bilinghamらにより指摘されている.著者は最近種々の皮膚疾患におけるリンパ節の電顕的観察を行ない,今まで観察できなかつた興味ある所見に遭遇し,L細胞の機能について2~3検討したので,再びその知見をここに報告する.
著者
北村 弥 吉岡 順子 坂本 邦樹 吉岡 章
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.11, pp.505, 1974 (Released:2014-08-25)

健康な母親より,難産で仮死状態で生れた女児に,生後3日目から背部に脂肪織硬結が多発し,組織像も定型的な新生児皮下脂肪壊死であった症例を報告した.ただし,液状物質をいれた嚢腫様構造をとることが本症例の特徴であり,これを分析の資料とし,その成績は,これまでの患部脂肪織の脂肪酸構成とは逆に,オレイン酸が著しく増加していることを知った.とくに治療を行うことなく,約3ヵ月にて完治した.本症の本邦報告例を62例まで集めることが出来た.1924年の中川の最初の記載より10年間は4例,次の20年間に1例の報告にすぎなかったが,1954年から1963年までの10年間には24例,それ以後今日までの10年間に33例と報告例は急増している.このうち記載の明らかな48例について文献的考察を試みた.
著者
大山 勝郎 植原 俊夫 野原 稔弘 野村 茂 荒尾 龍喜
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.14, pp.1677, 1986 (Released:2014-08-08)

タバコによる皮膚障害については,タバコ原料工場従事者に皮膚炎が生じた報告例は多いが,タバコ耕作者の報告例は少ない.著者らは,タバコ耕作者にアンケート調査を実施し,150名より回答があった.その結果,タバコにかぶれることを知っている人は多く,タバコによる皮膚炎を起こしたことがあるのは36名で女性に23名と多い.芽がき期や収穫期のタバコに触れる作業が多い時期に多発する.次に,Nicotiana tabacum黄色腫の新鮮葉について,抽出,分離を行った.その結果,TN-1と仮称する化合物が得られ,各種スペクトルにより,化学構造はセンブラン骨格を有するジテルペノイドと判明した.TN-1を用いて,パッチテストを実施し,患者が陽性反応を示し,刺激性よりもアレルギー性皮膚炎が疑わしい.
著者
高橋 久 石井 富夫 田辺 和子 池田 平介 山本 勝義
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, 1975

サリチル酸は経皮吸収率の良い物質として早くからその尿中排泄を指標として経皮吸収の研究に使用せられて来た.その吸収は角層を変性せしめるためとも,経毛嚢的とも言われるが,未だ解明され七いない. 今回ブタの皮膚に 14C 標識サリチル酸を貼布し,液体 scintillation counter と autoradiography によりその皮膚内分布を検討した結果,この物質は経毛嚢的に吸収され易いことが明らかとなった.著者等の一人高橋はかつてサリチル酸等の諸物質と毛髪との親和性について報告し,サリチル酸も相当高度に毛髪と親和性のあることを確認したが,今回のサリチル酸の経毛嚢吸収は,こうした本物質と毛髪との親和性によるものか,或は本物質が毛嚢内の皮脂に溶解するためにおこるものかは今後の検討にまたねばならない.
著者
古江 増隆 山崎 雙次 神保 孝一 土田 哲也 天谷 雅行 田中 俊宏 松永 佳世子 武藤 正彦 森田 栄伸 秋山 真志 相馬 良直 照井 正 真鍋 求
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1795-1809, 2009

[目的]我が国の皮膚科受診患者の皮膚疾患の頻度,性別,年齢分布,気候との関連性などを多施設大規模調査によって明らかにすることを目的とした.[方法]全国の大学病院76施設,病院55施設,診療所59施設(計190施設)において,2007年5月,8月,11月,および2008年2月の各月の第2週目を目安に,その週のいずれか1日を受診した初診・再診を問わず外来,および入院中の患者全てを対象に,「性別」,「年齢」,「診断名」を所定のマークシート調査に記録した.各調査期間における調査協力施設地域の気温,および湿度に関するデータは,気象庁・気象統計情報を使用した.[結果]4回の調査すべてに協力いただいた170施設(大学病院69施設,病院45施設,診療所56施設)から回収した67,448票を解析した.上位20疾患を列挙すると,その他の湿疹,アトピー性皮膚炎,足白癬,蕁麻疹・血管浮腫,爪白癬,ウイルス性疣贅,乾癬,接触皮膚炎,ざ瘡,脂漏性皮膚炎,手湿疹,その他の皮膚良性腫瘍,円形脱毛症,帯状疱疹・疱疹後神経痛,皮膚潰瘍(糖尿病以外),痒疹,粉瘤,尋常性白斑,脂漏性角化症,薬疹・中毒疹の順であり,上位20疾患で皮膚科受診患者の85.34%を占めた.疾患ごとに特徴的な年齢分布を示した.性差が明らかな疾患が存在した.気温や湿度と正負の相関を示す疾患が存在した.[結語]本調査によって21世紀初頭の皮膚科受診患者の実態を明らかにし得た.本調査が今後も定期的に継続されることで,社会皮膚科学的視野にたった皮膚疾患の理解が深まると考えた.
著者
赤松 浩彦 Christos C. Zouboulis Constantin E. Orfanos
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.47, 1992 (Released:2014-08-12)

Testosterone(以下Tと略す),5α-dihydrotestosterone(以下DHTと略す)の皮脂腺の増殖に及ぼす影響を,人の大腿部より分離した皮脂腺を組織片培養して得られた脂腺細胞を用いて検討した.その結果,Tは濃度依存性に脂腺細胞の増殖を抑制し,一方DHTは僅かながら増殖を促進することがin vitroで判明した.皮脂腺が多数の内分泌因子によって支配されていることは周知の事実であり,個々の内分泌因子がどのように皮脂腺に影響を及ぼしているかは大変興味深い点である.この組織培養法は,個々の内分泌因子の皮脂腺に及ぼす影響を細胞レベルで,しかも定量的に扱える点で非常に優れた実験手段であると考えられた.
著者
栗山 幸子 青島 正浩 戸倉 新樹
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.126, no.7, pp.1263-1271, 2016-06-20 (Released:2016-06-18)
参考文献数
15

発汗低下を主訴に最近当科を受診し,特発性後天性全身性無汗症または減汗性コリン性蕁麻疹と診断した7例について,温熱発汗テスト,アセチルコリン皮内反応テスト,組織学的検討を行い,ステロイドパルス療法を行った.全例男性で体表面積の63%以上が減汗であり,6例が点状膨疹を伴っていた.無汗部位は下腿に,低汗部位は上肢・体幹に主に認められた.治療後,全例で発汗回復部位が現れ,同低汗部位に一致して点状膨疹が出現した.減汗性コリン性蕁麻疹は無汗部位ではなく低汗部位に生じ易いことを裏づけた.
著者
児浦 純義 太良 光利 徳永 正義
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.1333, 1991 (Released:2014-08-11)

IFN-γ吸入療法の奏効したKi-I陽性ATLの1例を報告した.症例は56歳,男性で,HTLV-I抗体陽性,皮膚腫瘤はCD2,CD3,CD4,CD25並びにCD30を発現した大型リンパ球の増殖を示した.PCR法で腫瘍細胞にHTLV-I Provial DNAを証明した.治療として,IFN-γ吸入療法を実施し,皮膚腫瘤の消褪をみとめるとともに,併発していた汎発性白癬もほぼ治癒した.文献的見地から,Ki-I抗原の意義について述べるとともに,あわせてKi-Iリンパ腫にも言及した.又,IFN-γ吸入療法の意義を述べた.
著者
市川 竜太郎 伊藤 絵里子 寺尾 浩 福田 英三
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.1527-1532, 2008-07-20 (Released:2014-12-03)

2004年10月から2005年10月までの1年間で消化性潰瘍に対するヘリコバクター・ピロリ(HP)除菌療法中もしくは療法後に多形紅斑型薬疹を呈した症例を5例経験した.5例中4例は3製剤(ランソプラゾール(60mg/日),アモキシシリン(1,500mg/日),クラリスロマイシン(400mg/日)の1日服用分を1シートにまとめた組み合わせ製剤(商品名:ランサップ®)によるものであった.5例中3例(アモキシシリン2例,クラリスロマイシン1例)でDLST陽性,1例(アモキシシリン)でパッチテスト陽性を示した.もう1例はいずれの検査にても陰性であり原因確定は出来なかったが臨床経過よりHP除菌療法による薬疹と診断した.
著者
岩澤 真理 寄藤 和彦 戸井田 敏彦
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.11, pp.2165-2171, 2009

コンドロイチン硫酸・鉄コロイド注射液(以下ブルタール<sup>®</sup>)は鉄欠乏性貧血の治療に使用される鉄コロイド製剤である.我々は成田赤十字病院皮膚科外来にて,平成18年3月から5月にかけて,ブルタール<sup>®</sup>による薬疹4例を経験した.従来原料として使用していたウシ由来のコンドロイチン硫酸ナトリウムを,平成17年11月サメ由来品に変更後より副作用報告が急増した.平成18年7月よりブルタール<sup>®</sup>の自主回収が実施され,被害の増加は防がれたが,原因は解明されていない.今回我々は,ブルタール<sup>®</sup>の材料に使われたコンドロイチン硫酸を分析し,その結果,ウシ由来のコンドロイチン硫酸は4位に硫酸基が結合したN-アセチルガラクトサミン(CSA)が主たる成分であり,サメ由来のコンドロイチン硫酸は6位の硫酸基が結合したN-アセチルガラクトサミン(CSC)が主たる成分であった.ヒトのコンドロイチン硫酸はCSAが主成分であることが知られており,硫酸化度,分子量などの構造の変化により薬疹を生じた可能性を推測した.
著者
出村 光一 久保 縁
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, 1961

1951年にWilkinsonは,chronic vesicular impetigo of the trunkという表題で,高令の婦人にみられた2症例を報告している.即ち躯幹,大関節屈側面に膿,水疱性の皮疹が群生し,次第に遠心性に拡大して連圏状,或いは不規則地図状になり,皮疹はやがて結痂を形成する.病変はその辺縁部に於て殊に著明である.自覚症状は特記すべきものではなく,全身状態も良好である.組織学的所見としては,角層下に水疱形成があつて,その中に多核白血球を入れる.真皮に軽度の炎症々状をみるが,その他に特記すべき所見は無い.水疱内容の培養を行つて,その1例にStaph. aureusを証明している.治療としてはD.D.S.或いはsulfapyridineが効果的であつたが,再発の傾向があつた.この報告に対してSneddonは,彼が矢張り全く同様の症例を1947年の国際医学会の席上に供覧したが,同席せる皮膚科医諸氏,何れもその診断を附するのに困難を覚えたことであつた,と追加発言した.その後1956年にSneddon and Wilkinsonは,この様な症例を6例集めて観察し,これ等は,在来の分類では,その位置付けが困難である,一つの独立疾患に属するものと見做さるべきであるとなし,そのclinical entityに対してsubcorneal pustular dermatosis(S.P.D.)なる名称を用いて詳細に報告した.かくして独立疾患としての本症の輪廓が次第に明かになるや,その後は相次いで類似症例の報告がみられ,現在に至る迄に欧米では27例,本邦では我々の症例の他に去る1959年9月の東京地方会に於て,横浜警友病院から1例の供覧患者が報告されている.我々の症例も1959年10月の第23回東日本連合地方会,並びに第155回日本皮膚科泌尿器科学会新潟地方会に於いて報告されたものである.
著者
野波 英一郎
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, 1958

著者は皮膚電気生理学的現象一般に就て概説し,此の方面の主な文献を整理したのち,勝木式皮膚直流電気抵抗器を用い,亜鉛―水銀アマルガム電極によつて健常者及び各種皮膚疾患々者に就て皮膚直流電気抵抗を測定した.健常皮膚に於て皮膚電気抵抗発生部位は恐らく表皮透明層乃至顆粒層と考えられ,此の部の連続性が断たれると抵抗は著しく低下する.健常人に於て,室温18~22℃では身体部位的に顔面,腋窩,手掌,足蹠は爾余の諸部位に比し,抵抗値が極めて低く,左右対称部位では抵抗値が殆ど等しい.1日中時刻的には抵抗は昼間に低く,夜間睡眠時に最高,季節的には夏季高温時には温熱性発汗部位の躯幹,四肢の抵抗は低下するが,腋窩,手掌,足蹠の如き所謂精神性発汗部位では殆ど変動せず,身体部位差は消失する.局所加温は抵抗を低下させるが,鬱血は抵抗に影響しない.ピロカルピンは抵抗を低下,アトロピンは上昇させるが,アドレナリンは抵抗に著しい影響を与えない.ヒスタミン及び生理的食塩水膨疹局所の抵抗は高い.各種皮膚疾患の病変部電気抵抗を当該個体の対称健常部及び健常成人の同一部位の夫れと比較するに,湿疹,膿皮症,痒疹,紅皮症,乾癬,エリテマトーデス,水疱症,火傷,多汗症の病変皮膚では抵抗低く,蕁麻疹,鞏皮症,皮膚萎縮,レントゲン皮膚炎,癩,睡眠剤中毒疹,瘢痕の夫れは抵抗高い.発疹の種類との関係では紅斑,丘疹,水疱,糜爛の如く表皮変化を伴うものは抵抗低く,膨疹,皮膚萎縮,瘢痕の如く表皮破壊のないものでは抵抗が高い.一般に病変部は発汗が減退しており,病変部及び対称健常部局所にピロカルピン発汗試験を行うと,対称健常部は著明に発汗し,抵抗が著しく低下するのに対し,病変部は発汗せず,抵抗も変動しない.紅斑,丘疹,水疱,膿疱,糜爛面で抵抗の低いのは,表皮の肉眼的乃至超肉眼的の破壊の存在する為で,膨疹,皮膚萎縮,瘢痕等に抵抗が高いのは表皮の破壊がなく,所謂electrical barrierの連続性が保たれると共に,発汗が減少又は欠如している為と考えられる.癩,睡眠剤中毒疹の抵抗の高値も同様の原因に帰することができる.即ち皮膚電気抵抗は表皮の状態と発汗に大きく支配され,疾患別の特殊性よりも皮疹別に意味を有すると考えられる.而して表皮に破壊のない場合,皮膚電気抵抗の面から病変局所の発汗機能を窺うことが出来ると共に,之等皮膚病変の病勢の状態を知ることが出来る.本論文の要旨は昭和30年4月2日第54回日本皮膚科学会総会,昭和31年5月5日第55回日本皮膚科学会総会並びに昭和31年10月13日第19回日本皮膚科学会東日本連合地方会に於て発表した.
著者
慶田 朋子 川上 理子
出版者
Japanese Dermatological Association
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.41-50, 2006

妊娠中にみられる皮膚病変の傾向を調べるために,過去5年間に皮疹を主訴に聖母病院皮膚科を受診した妊婦614人について,疾患別にRetrospectiveな統計学的調査を行った.結果は湿疹・皮膚炎群が約半数(52%)を占め,各種感染症があわせて22%,痒疹・蕁麻疹群が15%,皮膚腫瘍が7%であった.これらを別の観点で分類すると1)妊娠による生理的な変化が2例(0.3%),2)妊娠に特異的な皮膚病変が57例(9.6%),3)もともとある皮膚疾患の妊娠による変化が41例(6.6%),4)妊娠と無関係な皮膚疾患が妊娠中に出現したものが517例(84.2%)であった.今回の統計の結果,妊婦の皮膚疾患のほとんどが湿疹・皮膚炎群を主として日常診療上しばしばみる皮膚疾患であり,妊娠が関連する皮膚疾患は15%程度であることが確認できた.その治療に関しては妊娠中であることから制限を受けるため,妊婦における湿疹,痒疹などの瘙痒性疾患の治療は,外用剤が中心となる.それで不十分な場合に,妊婦でも可能な内服薬についても考察を加えた.
著者
北村 浩之 井関 宏美 三家 薫 堀尾 武
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.108, no.11, pp.1465, 1998 (Released:2014-08-19)
被引用文献数
1

分娩に際してゴム手袋を使用した医師の内診を受け,アナフィラキシーショックをおこした29歳女性の症例を報告する.内診直後より,全身に痒み,紅斑,膨疹を生じ,悪心,嘔吐,血圧低下,胎児徐脈を認め緊急帝王切開にて出産した.精査の結果,腟粘膜より吸収されたラテックスによるアナフィラキシーショックと判明した.ラテックスの水溶性蛋白によるIgE-mediated allergyにより引き起こされる即時型アレルギーは多彩な症状を示し,なかでもアナフィラキシーショックのような重篤な症例も多数報告されている.本症が分娩中に起こることは,母体のみならず胎児にも大きな影響を及ぼすためその予防は重要な課題である.分娩中の発症は,海外では数例の報告をみるが本邦ではわれわれが調べ得る限り第1例であったので報告する.
著者
多田 讓治
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.977-984, 2005-06-20 (Released:2014-12-10)
被引用文献数
1

皮膚感染防御の観点から,常在菌叢はその最前線のバリアを担っており,皮脂膜という限られた環境の中で生存しつつ,病原菌からの防御壁として選ばれた細菌群と言える.一方では,免疫不全状態の患者が増加している今日,常在菌による日和見感染症も重要な問題となっている.常在菌叢の感染防御機序とともに皮膚細菌感染症の起炎菌として最も多い黄色ブドウ球菌に関する感染機序についてもさらなる検討が必要である.
著者
古木 春美 水足 久美子 前川 嘉洋 野上 玲子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.847, 1992 (Released:2014-08-12)

既往歴として肝硬変,糖尿病,及びアルコール依存症を有する,55歳男子の両下腿に生じた,Aeromonas sobriaによる壊死性筋膜炎の1例を経験した.発症前に生食した魚介類からの経口感染の可能性が考えられた.