著者
成田 光生
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.11, pp.2823-2830, 2013-11-10 (Released:2014-11-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

マイコプラズマは自立増殖可能な最小生物であり,菌体内ではプラスミドのような外来の遺伝子が機能しない,リボソームのオペロンが1組しか存在しない,など様々な生物学的特性を有する.このためマイコプラズマの薬剤耐性菌には耐性機構がリボソームの遺伝子変異のみである,感受性菌よりも増殖が遅い,などの特徴がある.その治療に関しては耐性菌を作らぬよう,成人におけるキノロンの使用は極力控えられることが切に望まれる.
著者
中根 俊成 安東 由喜雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1571-1578, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
22

アセチルコリン(acetylcholine:ACh)は中枢・末梢両方の神経系で作用する神経伝達物質である.アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)もまた中枢・末梢両方の神経系に存在する.これまでAChRに対する自己抗体は重症筋無力症における筋型AChR(神経筋接合部)に対する自己抗体が最も知られており,抗体介在性の自己免疫疾患の代表として疾患の病態解明が進められてきた.今回,我々はそれ以外の2種類のムスカリン性AChR(muscarinic AChR:mAChR)とニコチン性AChR(nicotinic AChR:nAChR)に対する抗体の臨床研究の現況について,脳炎・脳症の視点から触れた.特に後者では,自律神経節に存在する神経型nAChR(本稿ではこれをganglionic AChR(gAChR)と称する)における広範な自律神経障害と自律神経系外の症状としての中枢神経症状と内分泌障害について述べた.
著者
友杉 直久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.2450-2457, 2016-12-10 (Released:2017-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
2

ヘプシジンは,鉄代謝制御の中心的役割を担っているペプチドホルモンである.ヘプシジンは,血清鉄量,肝細胞内の鉄量,腸上皮での吸収鉄量などの変動で刺激され,血清鉄濃度の恒常性を保つように,また,体が鉄過剰に陥らないように作用している.腎性貧血では,エリスロポエチン(erythropoietin:EPO)産生能の低下に伴う造血機能の低下が発端となるヘプシジンの上昇や,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis-stimulating agent:ESA)や鉄製剤による治療時のヘプシジン発現異常は,いずれも血清鉄濃度の恒常性を保つためのフィードバック反応である.ESA投与量に左右されるFas/FasLを介した生存のシグナルや,EPO受容体に対するESAの持続的作用不足が誘因となるネオサイトライシス(赤血球崩壊)の病態は,ヘプシジンの反応で捉えることができる.腸管での鉄吸収量は,ヘプシジン濃度で決定される.このような病態は,血清ヘプシジン-25が測定できるようになり,容易に推測できるようになった.
著者
加藤 将 渥美 達也 小池 隆夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.10, pp.2401-2406, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
9

全身性エリテマトーデスの治療は従来からステロイド薬による非特異的な治療が中心であったが,近年,免疫抑制薬や生物学的製剤を用い,効果的で副作用の少ない治療が試みられている.全身性エリテマトーデスの関節炎の特徴は「非破壊性関節炎」と表現され,関節リウマチの「破壊性関節炎」とは多くの点で対照的である.このような対照的な病態を理解することは関節炎全般の診療をより深いものにすると考えられる.
著者
白石 正
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.8, pp.1916-1922, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
14

消毒は滅菌と異なり全て微生物を殺滅することはできず,感染を生じない程度に数を減らすことと定義されている.滅菌は加熱およびガスなどを利用するため生体に適用できず,このため消毒薬が微生物数を減らす手段として使用される.消毒薬は,抗微生物スペクトルの相違によって高・中・低水準の3つに分類されている.高水準消毒薬は,最も広い抗微生物スペクトルを有するが,人体に使用できず,内視鏡類などの医療器具が対象となる.中水準消毒薬は,比較的広い抗微生物スペクトルを有し,生体,環境などに使用できる.低水準消毒薬は,狭い抗微生物スペクトルであるが安全性は高く,生体,環境の消毒に使用される.これらの消毒薬は,それぞれ特性を有し消毒対象(生体,器具,環境)によって使い分けられている.
著者
長瀧 重信 芦澤 潔人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.86, no.7, pp.1215-1221, 1997-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
4

情報が錯綜しているチェルノブイリ原子力発電所事故の健康に対する影響について1990年から現地で医療調査に従事して来た経験をもとに紹介する. 10年目に明らかに臨床的に確認された健康傷害は134名の急性放射線症(28名が3カ月以内に死亡)と800名の小児甲状腺癌(3名が死亡)だけである.被曝線量に不確的要素が多いために放射線傷害の調査は続行中であるが, 4~5年で癌の発症が100倍以上になったことは前代未聞であり,現地の癌の発生を予防するためにも一般的な癌発生の機序の研究にも国際的な協力体制が望まれる.
著者
南 学
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.718-724, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
10

冠動脈疾患など心血管病の予防にスタチンを中心とした脂質低下療法が重要であることはいうまでもない.積極的脂質低下療法による,より大きなイベント抑制効果やプラーク退縮効果が報告され,特に高リスク群でベネフィットが大きいと考えられる.スタチン治療後の残存リスクやスタチン不耐性の高リスク症例は,既存治療におけるアンメット・メディカル・ニーズであり,PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬などによる今後のエビデンスが期待される.
著者
張替 秀郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.7, pp.1383-1388, 2015-07-10 (Released:2016-07-10)
参考文献数
6

鉄は酸素運搬に必須の元素である.体内で利用される鉄のほとんどは,老廃化しマクロファージで処理された赤血球由来の再利用鉄であり,少量の鉄が食事から供給される.鉄関連貧血で最も頻度が高い貧血は鉄欠乏性貧血であり,その主たる原因は月経,消化管出血などの鉄喪失,成長や妊娠による需要の増大である.最近,これらの原因が同定されない鉄欠乏性貧血の発症にHelicobacter pyloriが関与しているとの知見が得られている.
著者
荒田 仁 髙嶋 博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1542-1549, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
9

一部の自己免疫性脳症と精神疾患は臨床徴候が類似することが多く,しばしば誤って診断されている.従来の神経診察法のみで正確に診断することは難しく,脳がびまん性に障害された場合の神経徴候を理解するという視点が必要である.見極めるためには詳細な問診と神経診察が重要であり,SPECT(single photon emission computed tomography),甲状腺自己抗体ならびに抗GluR抗体測定が診断に有用である.
著者
江口 忠志 竹之内 盛志 樋口 直史 鈴木 智 長岡 可楠子 砂川 恵伸 八重樫 牧人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.981-988, 2021-05-10 (Released:2022-05-10)
参考文献数
10

62歳,男性.アルコール性肝硬変,門脈血栓症に対してダビガトランを約5年間内服していた.来院2週前より肉眼的血尿,1週前より間欠熱・労作時の息切れが出現し,採血で著明な腎機能障害と胸部CT(computed tomography)でびまん性のすりガラス影を認めた.膠原病・血管炎や感染症と鑑別を要したが,腎生検にて抗凝固薬関連腎症(anticoagulant-related nephropathy:ARN),臨床所見から肺胞出血と診断した.抗凝固薬を内服中の患者の肺腎症候群では,ARN及び肺胞出血を疑う必要がある.
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.8, pp.1837-1844, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

線維筋痛症は実際には比較的頻度が高いにもかかわらず,これまで本邦ではあまり注目されてこなかった原因不明の機能性リウマチ性疾患である.本例では身体の広範な部位の慢性疼痛とこわばりを主症状とし,その他に多彩な身体,精神・神経症状を伴い解剖学的に明確な部位の圧痛を認める以外,身体所見,臨床検査,画像検査上明らかな異常を認めず,機能性身体症候群の一つに含まれ,診断は操作的であり,抗うつ薬や抗てんかん薬が治療の中心となる.
著者
鹿児島 崇 山﨑 善隆 坂口 幸治 久保 惠嗣 杉山 広 齊藤 博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.975-977, 2014-04-10 (Released:2015-04-10)
参考文献数
6

ウェステルマン肺吸虫はモクズガニやサワガニを生食することでヒトに感染する.今回,姉妹の感染例を経験した.両名ともプラジカンテルの投与で軽快した.国内で販売されている淡水産のカニの肺吸虫感染率は決して低くなく,加熱なしで淡水産カニを喫食する際には十分な注意が必要と考えられる.また本例はいずれも外国人であり外国人診療においては食習慣の違いによる感染症にも留意する必要があると考えられた.
著者
山崎 雅英 朝倉 英策 尾崎 由基男
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.12, pp.2974-2982, 2008 (Released:2012-08-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

凝固・線溶系血液検査は出血性素因・周術期止血管理とともに,日本人の死因の1/3を占める血栓症の早期発見・治療において重要である,凝固時間の延長が見られる場合には,クロスミキシング試験をおこない,凝固因子欠乏と循環抗凝血素の鑑別を行う.凝固・線溶活性化の最も簡便な指標はFDP,D-ダイマーであり,これらが異常高値を示した場合にはTAT,PICなどの分子マーカーを測定することにより病態解析が可能である.血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断にはADAMTS-13活性測定が有用である.
著者
山村 隆
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1539-1541, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
7
著者
田中 逸
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.931-937, 2013 (Released:2014-04-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

生理的な日内リズムは視交差上核の中枢時計と全身の末梢時計が同調して形成されている.エネルギー代謝もこのリズムで規定され,栄養学に日内リズムの概念を組み込んだ学問領域が時間栄養学である.糖尿病の食事療法は1日のエネルギー量と栄養バランスが適正でも,遅くて多い夕食や夜食,1日2食で遅くて多い朝昼兼用食などは時間栄養学的に不利と思われる.時間栄養学の視点に立った個別的な食事療法は血糖改善に有用である.
著者
大林 正人 田中 誠一 小町 裕志
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.153-154, 2008-01-10
参考文献数
9

麻痺肢の擬人化とは,麻痺肢に対してあたかもそこに人格が宿ったかのようにふるまう症候である.今回68歳の右視床出血の女性患者において,入院数日後から麻痺を認めた左上肢に対して「てっちゃん」と名づけて話しかけるという特異な行動を認めた.意識障害や認知機能異常は認められず,身体失認が軽度認められる程度であった.擬人化は長期にわたり持続した.<br>

19 0 0 0 OA 2.肥満症と炎症

著者
菅波 孝祥 小川 佳宏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.989-995, 2011 (Released:2013-04-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肥満を中心として発症するメタボリックシンドロームの基盤病態として慢性炎症が注目されている.最近,マクロファージを中心とする免疫担当細胞が肥満の脂肪組織に浸潤し,アディポサイトカインと総称される生理活性物質の産生異常を招来することにより,メタボリックシンドロームの病態形成に中心的な役割を果たすことが明らかになってきた.本稿では,肥満の脂肪組織に浸潤するマクロファージに焦点を当てて,脂肪組織炎症の分子機構に関する最近の知見を概説する.