著者
今井 顕 濱嵜 朋子 笠井 幸子 粟野 秀慈 邵 仁浩 安細 敏弘 朴 永哲 宮崎 秀夫 竹原 直道
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.574-584, 2003-10-30

この研究の目的は,韓国人の歯列弓と口蓋の形質の特徴を明らかにすることである.研究には韓国人学生(18〜32歳)から得られた209組(男性105人,女性104人)の上下顎模型を用いた.得られた計測値について,男女間およびこれまでわれわれが報告してきた12集団との比較検討を行った.その結果,韓国人はほとんどの計測項目において有意な性差が認められた.また,男女ともに中央アメリカに住むヒカケ族と多くの項目において有意な差を示した.さらに,韓国人の口腔の形質人類学的住置づけを明らかにするために,クラスター分析,近隣結合法,多次元尺度構成法を行った結果,韓国人は男女ともバリ島民,台湾高山族やヒカケ族よりも日本人,台湾在住の中国人に近いということが明らかとなった.
著者
金子 正幸 葭原 明弘 伊藤 加代子 高野 尚子 藤山 友紀 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.26-33, 2009-01-30
被引用文献数
6

平成18年度より,地域支援事業の一環として口腔機能向上事業が実施されている.本調査の目的は,口腔機能向上事業が高齢者の口腔の健康維持・増進に与える効果を検討し,今後の事業展開のための指針を得ることである.対象者は65歳以上の高齢者で,基本健康診査を受診し,厚生労働省が示す特定高齢者の選定に用いる基本チェックリストの「半年前に比べて固い物が食べにくくなりましたか」「お茶や汁物等でむせることがありますか」「口の渇きが気になりますか」の3項目すべてに該当する55名である.対象者に対して,口腔衛生指導や集団訓練としての機能的口腔ケアからなる口腔機能向上事業を,4回または6回コースとして3ヵ月間実施した.口腔衛生状態,口腔機能およびQOLについて事業前後の評価を行った.その結果,反復唾液嚥下テスト(RSST)積算時間は,1回目:事前7.5±5.6秒,事後5.6±3.1秒,2回目:事前16.2±9.7秒,事後12.4±6.9秒,3回目:事前25.7±14.7秒,事後19.4±10.9秒と改善がみられ,2回目,3回目について,その差は統計学的に有意であった(p<0.01).口腔機能についてはその他のすべての項目について,統計学的に有意な改善がみられた.本調査より,新潟市における口腔機能向上事業は,高齢者の摂食・嚥下機能をはじめとした口腔機能の維持・増進に有効であることが認められた.
著者
米永 哲朗 新谷 裕久 小澤 亨司 福井 正人 徳竹 宏保 可児 徳子 可児 瑞夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.325-334, 1998-07-30
被引用文献数
1

病院内での快適な環境を構築するための改善の指針を得ることを目的として,外来患者に対し病院環境衛生に関するアンケート調査(診療室,待合室)を実施すると同時に,待合室の環境測定を行った。分析項目は,1.アンケート調査による快適性の検討,2.アンケート調査結果と環境測定値との関連性についてである。次のような結果が得られた。1.病院の環境衛生に不満を感じているものは少なく,総合評価で快適と感じているものの割合は診療室30.4%,待合室25.5%であった。快適と感じているものの割合の経時的推移は,月・時間により14.6〜38.2%の変動が認められ,7月,3月の午前に高く,5〜9月の午後に低いことが示された。2.数量化II類による快適性の判別的中率は高い精度(診療室93.3%,待合室91.6%)であり,快適性を弁別する因子は,診療室では高いほうから順に衛生状態,明るさ,騒音であり,待合室では明るさ,衛生状態,騒音の順位であった。3.待合室における環境測定値とアンケート回答には,温度,湿度,騒音ならびに明るさの因子については高い関連性が認められた。また患者の感覚に基づく快適な環境の推定値は,年間を通じて気温21.2〜25.0℃,気湿33.2〜41.5%,騒音58.9dB以下,照度750〜937 Lxであることが示唆された。4.待合室の快適性の判別分析による簡便なモニタリングに,照度ならびに騒音の環境測定値を用いることの有用性が示唆された。以上の結果,快適性の経時的推移,弁別因子ならびに数値目標が示され,より快適な病院環境を構築するうえでの指針が得られた。
著者
安藤 雄一 高徳 幸男 峯田 和彦 神森 秀樹 根子 淑江 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.248-257, 2001-07-30
被引用文献数
14

成人を対象とした歯科健診は低受診率による選択バイアスが生じやすいことから,1999年度に行われた第4回新潟県歯科疾患実態調査では,従来の歯科健診のみによる方式から,あらかじめ調査対象者全員に質問紙を配布して歯科健診を行う方式に切り替えた。本論文では,歯科健診の受診率と質問紙の回答率,健診受診者と非受診者の特性を比較することにより,新たに採用した調査方式の有用性を評価することを目的とした。調査地区は,新潟県内14保健所に1〜2地区を割り当て,23地区を抽出した。調査対象者は,対象地区内に在住する1歳以上の全住民3,561名とした。歯科健診の受診率は35.3%と低く,年齢・性差が大きかった昿質問紙の回収率は83.2%と高く,年齢・性差は小さかった。質問紙の各項目について健診受診の有無別に比較した結果,自己評価による現在歯数は60〜70歳代で受診者のほうが多かった。これは,歯科健診のみによる従来型の調査方法を採用し,受診率が今回のように低い場合,高齢者の現在歯数が過大評価されることを示唆している。また,歯科健診の受診者は,非受診者に比べて,口腔の自覚症状を有する割合が高く,歯科医院を早めに受療し,歯石除去経験のある割合が高かった。以上より,今回新たに採用した調査方式は,対象集団の実態を正しく示すために有用と考えられた。
著者
千葉 潤子 小澤 雄樹 坂本 征三郎
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.305-314, 2001-07-30

ヒトの唾液分湯量は種々の全身性疾患により影響されるが,これらの疾患に対する罹患性はヒト白血球抗原(HLA)のクラスII遺伝子の多型により影響されることが知られている。そこで,この研究の目的はHLAの遺伝子型が唾液分泌量に影響するのか否かを調べるために,唾液分泌量とHLA対立遺伝子型の発現頻度との相関を明らかにすることである。HLA-DRB1,HLA-DQA1,HLA-DQB1の各対立遺伝子型を,親戚関係にない日本人105名(男性78名,女性27名),平均年齢20.5歳(18〜28歳)の健康な青年を被験者とし,ポリメラーゼ連鎖反応一シークエンス特異性オリゴヌクレオチドプローベ法(PCR-SSOP)を用いて分析した。パラフィンワックスでの刺激唾液量を測定し,被験者を各々0.7ml/min 以下,0.7〜2.0ml/min,2.0ml/min以上の3群に分類した。0.7ml/min以下群でのHLA-DRB1*0901,HLA-DQA1*0301,HLA-DQB1*0303の対立遺伝子頻度は2.0ml/min以上群のそれらに比較して統計学的に有意に高かった(各々p=0.015,OR=6.33;p=0.0053,pc=0.042,OR=14.17;p=0.0062,OR=7.92)。これに対して,2.0ml/min以上群のHLA-DRB P0802,HLA-DRB1*1302,HLA-DRB1*1501,HLA-DQA1*0102の対立遺伝子頻度は0.7ml/min 以下群に比較して統計学的有意に高かった(各々p=0.04;p=0.04;p=0.04;p=0.0024,pc=0.019,OR=0.06)。以上の結果から,HLAクラスII対立遺伝子,もしくはこれに連鎖している遺伝子が唾液分泌に関与していることが示唆された。
著者
安藤 雄一 葭原 明弘 清田 義和 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.263-274, 2001-07-30
被引用文献数
10

本調査は,地域に在住する成人における歯の喪失の発生率とリスク要因について評価することを目的としている。調査対象は新潟県I町における成人歯科健診受診者で,分析対象はベースライン調査(1997年)を受診した有歯顎者724名のうち,3年後に行われた追跡調査を受診した269(男性128,女性141)名である。ベースライン時の平均年齢は60.6歳(SD = 12.8)であった。歯の喪失の有無に関して,個人単位および歯単位で分析し,ベースライン時における口腔診査と質問紙調査との関連についてロジスティック回帰分析を行った。調査期間中に喪失した歯はベースライン時に口腔内に存在していた歯の4.9%で,喪失が認められた対象者は48%,一人平均年間喪失歯数は0.33本であった。歯の喪失リスクに関するロジスティック回帰分析の結果,個人単位の分析では,現在歯数が10〜27歯・未処置う蝕を保有・口腔の自覚症状がある・過去1年以内に歯科医院を受診・歯間清掃具を使用していない人たちは,歯を喪失しやすいことが示された。一方,歯単位の分析では,智歯,未処置歯,クラウン(単冠)装着歯,ブリッジ支白歯,動揺歯,鈎歯が喪失しやすいことが確認された。
著者
工藤 貴之
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.154-174, 1995-04-30
被引用文献数
6

東京都内のF小学校および埼玉県内のN小学校を対象に歯科健診資群について,1学年時のう蝕状況から6学年時の永久歯う蝕の予測およびハイリスク群の検出を行い検討し,以下の結論を得た。1) 11歳時DMFT(11-DMFT)が3歯以下群を陰性としたスクリーニングテストのROCカーブに比べ11-DMFTの有無,6歳から11歳までのDMFTの増加数(6-11&lrtri;DMFT)の有無について行ったスクリーニングテストの方が識別能力に優れていた。2)6歳時臼歯部のdmft(6-M-dmft)をスクリーニングの基準とし,6学年時の永久歯う蝕の有無について行ったスクリーニングテストでは5歯以上群がう蝕ハイリスク群となった。同様に6歳時dft (6-dft)を基準とした時も,5歯以上群がう蝕ハイリスク群となった。また,6学年時の永久歯う蝕の増加の有無についてのスクリーニングテストでも同様の結果となった。3)11-DMFTが4歯以上群を知るためのスクリーニングテストでは,6-M-dmft,6-dftとも6歯以上群がう蝕ハイリスク群となった。4) 11-DMFTを目的変数としたとき,危険率1%以下で有意な重回帰式を得た。5)6-11&lrtri;DMFTを目的変数としたとき,危険率1%以下で有意な重回帰式が得られた。以上より1学年時のう蝕状況から6学年時のう蝕経験歯数,増加う蝕経験歯数の予測は十分可能であることが示唆された。
著者
河村 誠 笹原 妃佐子 岩本 義史
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.151-157, 1997-04-30
被引用文献数
8

喪失歯数に関する患者の主観的評価の妥当性を検討する目的で,一般歯科医院に来院した40歳以上の患者145名(男性74名,女性71名)に質問紙調査と口腔診査を実施した。その結果,以下の点が明らかになった。1. 喪失歯数(実際の喪失歯数)と患者の年齢との間に正の相関関係が認められた(r=0.397,n=145 ; p<0.001)。しかし,喪失歯数は個人間のバラツキが大きく,患者の年齢から喪失歯数を推定することは困難であった。2. 自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の関係は,2次回帰式で表現するのが適当と考えられた(R=0.832, n=137 ; p<0.001)。また,喪失歯数が中程度の者では,実際よりも喪失した歯の数を少なめに報告していた。3. 40歳代の患者に比べ,60歳以降の患者では喪失歯数を実際より少なめに報告する傾向が強かった(p<0.01)が,性差はみられなかった。以上のことから,自己申告された喪失歯数と実際の喪失歯数の間には,ある程度違いはあるものの,患者の報告から喪失歯数を推定することの妥当性が確認された。また,このような患者のセルフチェックは8020運動を推進する上で有用であることが示唆された。
著者
忠津 佐和代 木村 浩之 森田 一三 中垣 晴男
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.188-199, 2003-07-30
被引用文献数
4

8020達成に向けて,口腔・歯科の健康度・健康習慣をチェックする簡便な方法として,地域住民を対象に開発された「歯の健康づくり得点」質問票の職域への活用の有効性を検討する基礎資料とするため,某社従業員459名に「歯の健康づくり得点」と,全身の健康指標となる「森本の健康習慣」得点などのチェックを併せて行い,以下の結果を得た.1.「森本の健康習慣」得点を判定基準3段階でみると,不良なライフスタイルを示す「O〜4点]が77.8%と多かった.2.「歯の健康づくり得点」の判定基準3段階でみると,「良好」の16点以上の者は28.0%,「中間」11〜15点は46.5%,「よくない」10点以下は25.8%であった.3.同得点の合計得点で,労働属性を含む10属性別で有意差のみられたのは,「労働形態」別であった.4.同得点の項目ごとで2群間に有意差のみられた属性は,性別,年齢別,仕事の内容別,労働形態別,通勤手段別,持病の有無別であった.5.同得点と「森本の健康習慣得点(除喫煙)」との順位相関係数は0.361(p<0.001,N=444名)で,有意な相関性が認められた.6.同得点の各項目ごとに「はい」,「いいえ」別の「森本の健康習慣得点(除喫煙)」を求め検定を行った結果,全10項目のうち7項目の良好な回答群で,「森本の健康習慣得点(除喫煙)」が有意に高かった.以上の結果の考察から,「歯の健康づくり得点」は,事業場における口腔・歯科健康度・健康習慣チェック票として有用である可能性が示唆された.
著者
三藤 聡 宗永 泰一 三谷 信行 岡田 政久 森下 真行
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.34-41, 2004-01-30

尾道市において,個々の幼児の状況に応じた効果的な歯科保健指導を行うため1歳6ヵ月見健診と3歳児健診の情報を結びつけたシステムの構築を行った.データ入力に光学的な読みとり装置を採用することにより,アンケートおよび歯科健診結果の入力が容易に行われるようにした.また,アンケートおよび歯科健診結果を入力することによって,経年的なデータの蓄積と迅速な歯科保健指導票の出力が同時に可能となるような新しいコンピュータソフトを関発した.歯科保健指導票は1歳6ヵ月見健診時のアンケート結果を入力することにより,個々の改善すべき生活習慣を出力するものとした.このシステムによって1歳6ヵ月見健診時に歯科保健指導を実施したところ,限られた時間内に個々の状況に応じた指導が可能であった.このシステムでは,歯科保健指導票を出力するためのデータの入力が,同時に次の年度の1歳6ヵ月見健診時のアンケート結果と3歳児健診時の歯科健診結果の関係を調査するためのデータの集積ともなっているため,経年的なう蝕に影響する要因の変化への対応が可能である.また,尾道市に限らずどの地域においても利用可能であると考えられた
著者
中道 勇 谷川 文紹 水越 弘 原田 修成 池田 寿人 得能 昭夫 立浪 徹 斎藤 進 原田 昭博 清田 築 富山 悟
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.200-210, 2003-07-30
被引用文献数
5

富山県歯科医師会成人・産業歯科保健部では,昭和63年に会員の約7割で構成する「事業所健診協力医制度」を発足させ,歯科健診と歯科保健指導を通じて,事業所における口腔保健の向上と健康管理を推進することを目的として,歯科保健活動を本格的に行ってきた.14年間継続的に歯科保健活動を実施してきた大規模事業所における歯科保健行動および口腔保健状況などの継時的推移について検討を加えたところ,以下の結果が得られた.1.歯科保健活動の長期実施事業所では,1日の刷掃回数2回以上,1回の刷掃時間3分以上行う者の割合が増加するなど,14年間に歯科保健行動の変容がみられた.2.1人平均現在歯数,歯周疾患の処置の必要度は変わらないものの,1人平均未処置歯数と喪失歯数が減少し,1人平均処置歯数が増加するなど,口腔内状況が改善した.3.歯科医療費や受療件数は,歯科保健活動を実施すると一時的に増加するものの,長期的には医療費全体に占める歯科医療費の割合は4〜6%程度減少した.以上のことから,事業所における歯科保健活動を継続的に実施することによって,歯科保健行動や口腔保健状況が改善されることが示唆され,歯科医療費の節約ができることが推測された.
著者
森田 学 小椋 正之 恒石 美登里 渡邊 達夫 岡田 真人 宮武 光吉 梅村 長生
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.786-793, 1999-11-30
被引用文献数
3

根管治療(抜髄・感染根管処置)に関する歯科医療費と診療行為の内容を調査した。昭和55,58,60年,平成2,6年の厚生省社会医療診療行為別調査に用いられた歯科診療報酬明細書のデータのうち,病院,一般診療所分を除いた歯科診療所分のデータを対象とした。各年の対象とした件数は,それぞれ16,145,8,831,18,028,17,165,18,294件であった。歯髄炎や歯根膜炎を主傷病名とする歯科診療報酬明細書の割合は経年的に減少し,平成6年では12〜14%であった。また,根管治療にかかわる点数の合計も年々減少しており,平成6年では,1件あたり平均117点で,総点数の8.3%であった。平成6年の歯科診療報酬明細書について根管治療にかかわる点数を検討したところ,以下の知見が得られた。1)根管治療は40歳,50歳台で最も頻繁に行われていた。また,20歳台では,ほかの年齢層と比較して,3根管歯の抜髄頻度が高いことが認められた。2)根管治療点数の占める割合が最も高い年齢層は20〜29歳であり,総点数の11%であった。しかし,老人医療においては,その割合は約4.0〜5.0%と,全年齢層中,最も低かった。3)抜髄あるいは感染根管処置に始まり根管充填で終わる一連の検査,処置を包括化し,推定点数を算出した。その結果,推定点数の最頻値は,電気的根管長測定検査,麻酔抜髄(あるいは感染根管処置),0回または1回の根管貼薬処置の後に,加圧根管充填した場合の合計点数に等しかった。4)本調査は,1ヵ月の診療報酬明細書を扱い,比較的簡単な症例のみが抽出されていることから,今後数カ月にわたる追跡の必要性が示唆された。
著者
内藤 真理子 鈴鴨 よしみ 中山 健夫 福原 俊一
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.110-114, 2004-04-30
被引用文献数
9 3

口腔疾患は,局所的な疼痛や咀聯機能障害を招くだけではなく,心理社会的,経済的に影響を及ぼす一要因として看過できないものである.近年,これらの視点から検討を行ううえで必要となるQOL尺度の重要性は増している.そこで,心理社会面の反映に優れ,かつ対象集団や状況に応じて補完項目やほかの尺度の併用を考慮できる包括的口腔関連QOL尺度開発を目的として,General Oral Health Assessment Index(GOHAI)日本語版作成に着手した.原作者から日本語版作成の許可を得た後,翻訳者による尺度の順翻訳を開始した.順翻訳された項目を基に,フォーカス・グループを通して討議を行い,暫定版尺度を作成した.この暫定版を使用して地域住民を対象にパイロット・スタディを実施し,その結果から質問紙の再検討を行った.質問文の長さや表現の難解さ,逆転項目の存在が問題点として示されたことから,可及的にオリジナルに忠実であるように配慮しながら,暫定版に修正を加えた.さらに,レイアウトや字体に関する検討を完了した後,逆翻訳作業を行った.原作者による逆翻訳の確認および最終的な了承を得て,GOHAI日本語版Version 1.0を完成させた.
著者
渋谷 耕司
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.778-792, 2001-10-30
被引用文献数
15

特別な歯科疾患のない健康な成人男性の呼気あるいは口腔内気体(口気)中の臭気成分の分析ならびにその主成分の発生要因について検討した。1.口臭の強さが異なる健常な成人男性の呼気から15種類の低級脂肪酸,揮発性窒素化合物あるいは揮発性硫黄化合物(VSC)が検出された。そのうち,不快臭がある呼気および口気にはVSCのうちメチルメルカプタン(CH_3SH)が常に認知閾値に対して高濃度で存在し,かつ官能評価値(不快度)の高低とよく対応したことから,これが不快臭の主要な成分であることが確認された。2.呼気,口気および唾液気相に含まれるVSCの組成を比較検討した結果,不快臭すなわちCH_3SHの主な発生部位が口腔であること,また,唾液,歯垢,舌苔の培養実験の結果から,これらの発生には主に嫌気性微生物が関与していること,その基質としてL-メチオニンが重要であることが示された。さらに,口腔各部位の清掃によるCH_3SHの産生能低下の比較結果から,舌背が主要な発生部位であることが知られた。3.CH_3SH産生への関与を明らかにするため,口腔微生物17菌属42菌種71菌株を調べたところ,歯列病関連細菌であるPorphyromonas,FusobacteriumおよびSpirochetesに高い産生能が認められた。また,主要な舌苔常在菌の1つであるVeillonellaの一部も高い産生能を示し,健常人における口臭の発生に密接にかかわっていることが示唆された。
著者
相澤 文恵 岸 光男 南 健太郎 米満 正美
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.189-197, 2000-04-30
被引用文献数
7

1997年5月,宮城県内の某高等学校の生徒529名を対象に口臭,歯科保健行動,一般的保健行動,口腔関連の自覚症状に関する質問紙調査を実施し,口臭が心配になる頻度と状況にかかわる要因を分析した。自分の口臭が心配になることが「よくある人」は全体の11.4%おり,男女間に有意差は認められなかった。また,自分の口臭が気になる状況は「対話中」カ1最も多かった(46.7%)。さらに,対語中に自分および他人の口臭が気になるのは男子より女子に多く,女子のほうが口臭を強く意識する傾向にあることが示された。また,対話中に自分の口臭が心配になる人は,歯や歯ぐきの痛みや口腔内の乾燥感など,口腔関連の自覚症状を強く感じていることが示された。このことを男女別に分析した結果,男子では関連が認められるのに対して,女子では認められなかった。このことから,女子生徒においては口臭への意識と他の口腔状態の自覚とは独立している可能性が強いと考えられた。一方,口臭に対する意識と口腔診査の結果との関連を無作為に抽出した125名について分析した結果,口臭に対する心配が頻繁にある人のPMAおよびDTは,ときどきある人のものに比べて有意に低いことが示された。以上のことから,この年代においては口臭に対する心配には性差があり,口腔に対する関心度が高い人ほど口臭に対する心配が強い傾向にあると考えられた。したがって,口腔に対する過度の関心が自臭症のリスク要因の1つではないかと考えられた。
著者
竹木 幸恵 福田 雅臣 丹羽 源男
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.192-203, 1997-04-30
被引用文献数
3

う蝕予防を実践する際の重要な項目として,食事内容の改善があげられる.その場合,ショ糖摂取状況を把握することはう蝕の発生リスクを評価するうえで貴重な情報となる.このための方法としてアンケート調査が用いられてきたが,客観性に乏しい.そこでアンケートにかわるショ糖摂取状況の評価法として,唾液中の細菌の産生するショ糖分解酵素であるシュークラーゼに着目した.本研究では,唾液中シュークラーゼ活性の測定によるショ糖摂取状況の客観的評価を目的とし,男性65名,女性107名を対象に唾液中シュークラーゼ活性の測定条件の確立,およびショ糖摂取状況との関連性について検討し,以下の結果を得た. 1. 唾液中シュークラーゼ活性の測定条件として,全唾液1mlあたりショ糖100mgを添加し,37℃にて90分間のインキュベートが適切であった. 2. 採取直後および4℃にて24時間保存後の唾液中のシュークラーゼ活性を比較したところ,両者のシュークラーゼ活性に有意な差はみられないことから,保存唾液による測定も可能であった. 3. 唾液中シュークラーゼ活性は,各種食品のうちショ糖含有で,日頃習慣的に摂取される食品の摂取頻度と有意な相関が認められた. 4. 唾液中シュークラーゼ活性は,因子分析により細菌性因子および宿主性因子から独立した食餌性因子として抽出された.以上の結果から,唾液中シュークラーゼ活性はショ糖摂取頻度を反映しており,う蝕活動性試験として応用可能であることが示唆された.