- 著者
-
松沢 栄
- 出版者
- Japanese Society for Oral Health
- 雑誌
- 口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.2, pp.138-151, 1974 (Released:2010-03-02)
- 参考文献数
- 10
- 被引用文献数
-
5
手用歯ブラシを用いて刷掃するとき, その歯みがき圧と歯みがき動作の回数には個人差が認められる。そして, このような個人差は, 歯みがき圧および歯みがき動作の回数が, 歯ブラシや歯みがき動作に付随する種々の因子によって変動することに基因している。ところが, 同一個人でも, 誤った歯みがき方法で刷掃している場合はもちろん, 正しい方法によってみがいていても, 歯ブラシを長期間使用していると, 歯ブラシの毛が変形してそのかたさや歯ざわりが変わる。また, 歯みがき圧は歯ブラシの毛のかたさや歯ざわりによって変動するので, 歯ブラシの毛の変形は歯みがき圧に影響を及ぼし, その結果, 歯垢清掃効果をも左右することになる。そして, 歯ブラシの使用回数の増加に伴う歯ブラシの毛の変形度は, 歯みがき圧および歯みがき圧×歯みがき動作の回数と相関性がある。したがって, 歯ブラシの使用回数が増加すると, 一般に歯垢清掃効果率は低下する。また, 歯ブラシが新しいうちは, 各個人の歯みがき動作の巧拙は現われにくいが, 使用日数が多くなつて, 古くなってくると, 巧拙が認められるようになる。だから, 各個人の歯みがき動作の巧拙による歯垢清掃効果の優劣をなくするためには, 新しい歯ブラシを使用すべきである。なお, 歯垢清掃効果率が100%である被検者においては, 歯みがき圧と歯みがき動作の回数とは逆比例すること, および歯垢清掃効果率は上顎前歯部で高く, 上顎および下顎の左右側臼歯部舌面においては低いという現象は, 新しい歯ブラシでみがくときでも, 古くなった歯ブラシで刷掃するときでも認められる。以上のように, 歯垢清掃効果率を高めるためには, 新しい歯ブラシを使用すること, および歯みがき方法を変えるか, あるいは歯垢清掃効果率の低い部位を意識して刷掃するかすることが必要である。また, 著者の実験結果から判定して, 歯垢清掃効果の効率のよい歯ブラシの使用期間は, 1日1本の歯ブラシを3回使用するとして, 3・3・3方式における歯みがき時間では約13日間, 著者の実験における至適歯みがき時間によってみがくとすると, 約1週間である。