著者
鈴木 奈央 米田 雅裕 内藤 徹 吉兼 透 岩元 知之 廣藤 卓雄
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.2-8, 2008-01-30
被引用文献数
6

福岡歯科大学では,口臭クリニック受診患者に対して初診時に自己記入式の口臭問診票を用い,口臭の診断と治療に役立てている.本研究では,これまでに得られた回答結果をまとめて臨床診断別に分類し,患者の自覚症状や生活習慣について検討した.その結果,仮性口臭症患者では,口臭を意識したきっかけが「自分で気づいた」である者が真性口臭症患者に比べて多く(ρ<0.05),また口臭を意識するために社会生活や対人関係に支障をきたしている傾向が認められた.口腔内自覚症状では,口腔由来病的口臭患者に歯肉出血や齲蝕などの歯科的項目に高い訴え率が認められ,仮性口臭患者では「痛い歯がある」や「変な味がする」など感覚的な訴えが特徴的に認められた.生活習慣に関する質問では,仮性口臭症患者に集中できる趣味をもたない者が多くみられ(ρ<0.05),また半数以上が口臭以外にも身辺に悩みがあると回答した(ρ<0.05).さらに仮性口臭症では「あなたのまわりに口臭の強い人はいますか」という質問に対して「はい」と答えた者が真性口臭症よりも少なく(ρ<0.01),仮性口臭症患者には実際の口臭を知らない者も多いことが示唆された.今回口臭問診票の結果を検討したところ,臨床診断別に特徴のある回答が得られ,これらが患者情報の把握と口臭の診断や治療計画に役立つことが明らかになった.
著者
瀧口 徹 カンダウダヘワ ギターニ ギニゲ サミタ 宮原 勇治 平田 幸夫 深井 穫博
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.513-523, 2008-10-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,発展途上にあって多宗教,多民族国家の一つであるスリランカにおける社会経済的要因と糖分摂取,歯磨き習慣,フッ化物歯磨剤および定期的歯科受診の4つの歯科保健行動との関連を分析することである.対象の西プロビンスは同国の9省(プロビンス)のうち管内の市町村間で最も社会経済的多様性がある.スリランカ国のうち最も都市化した西省の21小学校の12歳児男女949名が無作為抽出され,無記名自記式質問票を担任の監督のもと各家庭に配布し回収した.性別,地域差,民族,父母学歴,職業,収入,児童数,因子分析による社会経済的6因子,歯科保健情報源,および定期的歯科受診の10分類の要因系と前述の4種類の歯科保健行動との関連を多重ロジスティック回帰分析により分析し4つの歯科保健行動の要因系の違いを比較した.その結果,オッズ比が2.0以上を示した要因はタミール族がショ糖含有食品を制限していることが最大オッズ比(exp(-B)=5.44)を示し,次いでオッズ比が大きいものは最多民族であるシンハラ族のフッ化物歯磨剤使用(2.34)および歯科保健情報源としてのテレビ(2.32),生活必需品充足度(因子分析第1因子)と食間でのショ糖添加(2.16),シンハラ族の定期的歯科受診(2.11)であった.高有意性(p<0.001)を示す関係は6つあり,女性の歯磨き励行,生活必需品充足度と食間でのショ糖添加,ショ糖添加紅茶飲用およびフッ化物歯磨剤使用,定期的歯科受診と食事時・食間のショ糖追加摂取および歯磨き励行との関係であった.また2つ以上の歯科保健行動にかかわる指標は,民族,父親の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の4つであった.以上,本研究により性差,民族,父の学歴,生活必需品充足度および定期的歯科受診の5つが歯科保健計画策定,キャンペーンや活動に際して注目すべき要因であることが示された.
著者
大西 正男 尾崎 文子 吉野 富佐子 村上 淑子
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.158-162, 1981 (Released:2010-03-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1 14

100匹のWister純系鼠を5群に分け, 全群に同一う蝕誘発食餌6PMVを与えたが, 飲物としてコントロール群には脱イオン水を, 残りの4群には同一フッ素濃度 (10ppm) のNaF溶液, 茶の浸出液とその稀釈液を与えた。30日のう蝕期間で, 茶投与群はNaF溶液群よりも効果的なう蝕抑制をもたらした。抑制率は茶の稀釈度に反比例した。茶は多くの生物学的活性物質を含みまたう蝕予防に好ましい物理化学的性質をもつていると考察された。
著者
松沢 栄
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.138-151, 1974 (Released:2010-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
5

手用歯ブラシを用いて刷掃するとき, その歯みがき圧と歯みがき動作の回数には個人差が認められる。そして, このような個人差は, 歯みがき圧および歯みがき動作の回数が, 歯ブラシや歯みがき動作に付随する種々の因子によって変動することに基因している。ところが, 同一個人でも, 誤った歯みがき方法で刷掃している場合はもちろん, 正しい方法によってみがいていても, 歯ブラシを長期間使用していると, 歯ブラシの毛が変形してそのかたさや歯ざわりが変わる。また, 歯みがき圧は歯ブラシの毛のかたさや歯ざわりによって変動するので, 歯ブラシの毛の変形は歯みがき圧に影響を及ぼし, その結果, 歯垢清掃効果をも左右することになる。そして, 歯ブラシの使用回数の増加に伴う歯ブラシの毛の変形度は, 歯みがき圧および歯みがき圧×歯みがき動作の回数と相関性がある。したがって, 歯ブラシの使用回数が増加すると, 一般に歯垢清掃効果率は低下する。また, 歯ブラシが新しいうちは, 各個人の歯みがき動作の巧拙は現われにくいが, 使用日数が多くなつて, 古くなってくると, 巧拙が認められるようになる。だから, 各個人の歯みがき動作の巧拙による歯垢清掃効果の優劣をなくするためには, 新しい歯ブラシを使用すべきである。なお, 歯垢清掃効果率が100%である被検者においては, 歯みがき圧と歯みがき動作の回数とは逆比例すること, および歯垢清掃効果率は上顎前歯部で高く, 上顎および下顎の左右側臼歯部舌面においては低いという現象は, 新しい歯ブラシでみがくときでも, 古くなった歯ブラシで刷掃するときでも認められる。以上のように, 歯垢清掃効果率を高めるためには, 新しい歯ブラシを使用すること, および歯みがき方法を変えるか, あるいは歯垢清掃効果率の低い部位を意識して刷掃するかすることが必要である。また, 著者の実験結果から判定して, 歯垢清掃効果の効率のよい歯ブラシの使用期間は, 1日1本の歯ブラシを3回使用するとして, 3・3・3方式における歯みがき時間では約13日間, 著者の実験における至適歯みがき時間によってみがくとすると, 約1週間である。
著者
山田 孝良 立松 憲親 内藤 清 鈴木 健夫
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.117-124, 1966 (Released:2010-10-27)
参考文献数
21

Significance of changes in the teeth especially Hutchinson and Fournier teeth among student of schools for the blind and deaf was reported from our Department about 10 years ago. In order to assess the recent situation, 124 students were examined in a school for the blind concerning the intraoral state from an odontological point of view.Abnormalities in the development and morphology of the teeth, degree of carious state, pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, presence of deposition around the teeth, and relationship with diseases of the eye were investigated. No difference was found between students in the school for the blind and other healthy subjects concerning the degree of carious state, alveolar pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, and deposition around the teeth. In 4 students Hutchinson and Fournier teeth were noted simultaneously, while Hutchinson teeth alone were noted in 1 and Fournier teeth alone were seen in 8. Among those, congenital complete or almost complete blindness was seen in 8 and acquired complete or almost complete blindness was seen in 5, indicating a pronounced decrease as compared with the result of 10 years ago.
著者
葛西 礼衣 福井 誠 栁沢 志津子 片岡 宏介
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.173-177, 2022 (Released:2022-08-15)
参考文献数
6

本研究では,1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤によるブラッシング後60分間の唾液中フッ化物イオン濃度の経時測定を行い報告するものである.歯磨剤には市販1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤を,そしてこれまで複数の報告があるが,参考として現在広く用いられている950 ppmの市販フッ化物配合歯磨剤による経時測定も行った.ブラッシング直後の洗口については,行わない場合ともしくは25 mLによる超純水による洗口を行う場合とした.ブラッシング直前およびブラッシング直後,5分,10分,15 分,30分,60分後の計7回の安静時唾液を4分間採取し,唾液中に含まれるフッ化物イオン濃度を測定した.1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤では,洗口なしの場合,ブラッシング直前の唾液中フッ化物イオン濃度と比較してブラッシング10分後までは有意に高いフッ化物イオン濃度が認められた.また,洗口ありの場合,ブラッシング直後にのみ有意に高いフッ化物イオン濃度が認められた.また1,450 ppmと950 ppmフッ化物配合歯磨剤の比較では,洗口なしの場合,ブラッシング直後の唾液にのみ950 ppmフッ化物配合歯磨剤よりも1,450 ppmフッ化物配合歯磨剤が有意に高い唾液中フッ化物イオン濃度を認め,ブラッシング5分以後は有意な差は認められなかった.
著者
筒井 昭仁 中村 寿和 堀口 逸子 中村 清徳 沼口 千佳 西本 美恵子 中村 譲治
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.341-347, 1999-07-30 (Released:2017-11-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2

社会人の歯科的問題の程度を企業の生産性および経済面から把握することを目的とした。福岡市に本社を置く電力供給に関連する大型電気機械を製造する企業の工場部門の全従業員421名を対象とした。年齢は20〜65歳に分布していた。質問紙の配布留置法により過去1年間の歯科的問題に関連した1日休,半日休,遅刻・早退,作業効率の低下の情報を収集した。これらの情報から労働損失時間を算出し,さらに金額にも換算することを試みた。質問紙回収率は96%であった。工場全体で歯科的問題に関連する労働損失経験者は22%で,全損失時間は年間1,154時間,日数換算で144日であった。1人平均労働損失時間は年間2.85時間であった。この労働損失は生産高ベースで約1,200万円,生産コストベースで約800万円,人件費ベースで約400万円の損失と算定された。一企業を単位に歯科的問題に関連した欠勤や生産性の低下を把握,収集したとき社会・経済的損失は多大であることがわかった。DMFTやCPIなどの客観的指標にあわせてこれらの情報を明らかにすることは,労使双方に強いインパクトを与えるものであり,産業歯科保健活動の導入,展開に寄与するものであると考える。
著者
片岡 宏介 吉松 英樹 栁沢 志津子 三宅 達郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.13-20, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
23

ヒト成人の皮膚総面積の200倍以上を占める粘膜の表層では,常に細菌やウイルスといったさまざまな病原体が体内への侵入を試みている.それに贖う手段として,非特異的防御バリア(自然免疫機構)と特異的防御バリア(獲得免疫機構)が粘膜部では作働している.粘膜ワクチンは,病原体の侵入門戸である粘膜面に病原体由来の抗原と免疫賦活化剤(アジュバント)を直接投与することにより,自然免疫機構を効率良く誘導し,異的防御バリアの主体となる抗原特異的分泌型IgA抗体を産生することを可能とする. われわれはこれまで,加齢の影響を受けにくい鼻咽腔関連リンパ組織(NALT)の樹状細胞をターゲットに,サイトカインFlt3 ligand発現DNAプラスミドとCpGオリゴデオキシヌクレオチドを併用した経鼻ダブルDNAアジュバント(dDA)システムの構築を行い,高齢者にも応用可能な粘膜ワクチンの開発を目指してきた. 本稿では,経鼻dDAシステムが抗老化作用を有すること,また感染症のみならずNCDs発症を防ぐ経鼻ワクチンへの応用の可能性について,われわれの最新の知見を紹介する.近い将来,本粘膜ワクチンが,感染症だけでなくNCDsをも制御することで,わが国の「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」という国家課題の克服と,世界的に進行する超高齢社会における高齢者のQOL向上に寄与できるツールとなり,口腔保健医療サービスの充実に貢献できればと考える.
著者
井上 直彦 郭 敬恵 伊藤 学而 亀谷 哲也
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.90-97, 1981 (Released:2010-03-02)
参考文献数
17

歯と顎骨の不調和 (discrepancy) の, 齲蝕に対する病因性を検討する目的から, いくつかの時代に属する日本人古人骨について, 齲蝕の調査を行った。そのうち, 今回は主として後期縄文時代における齲蝕の実態について報告し, すでに発表した鎌倉時代, および厚生省による1975年の実態調査の結果と対比して考察した。齲蝕有病者率からみるかぎり, 縄文時代の齲蝕は, 鎌倉時代よりも少く, 現代よりはるかに少いが, 齲歯率, 喪失歯率, 重症度別分布などからは, むしろ現代人に近い商い頻度と, 重症度をもっていたことが知られた。これに対して, 鎌倉時代は, 日本人が齲蝕に悩まされることが最も少なかった時代であったと考えることができる。縄文時代には, discrepancyの程度がかなり低かったことは, すでに著者らが報告したが, 今回の調査における, 歯の咬合面および隣接面の咬耗の様式からも, このことが確かめられた。そして, 齲蝕の歯種別分布の型からみても, この時代の齲蝕は, 口腔内環境汚染主導型の分布であると考えられた。これに対して鎌倉時代および現代における齲蝕は, それぞれ, discrepancy主導型, および複合型の分布と解釈された。以上の他, 縄文時代および鎌倉時代の食環境についても若干の意見を述べたが, これらを含めて, 今後検討すべき課題は数多く残されているように思われる。
著者
飯島 洋一 田沢 光正 宮沢 正人 長田 斉 稲葉 大輔 片山 剛
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.43-50, 1985 (Released:2010-10-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

フッ素洗口ならびに飲料水由来のフッ素が, 乳歯エナメル質へのフッ素取り込み量にどのような影響を与えるかを健全脱落乳歯135歯を用いてフッ素洗口経験年数別あるいは飲料水中フッ素濃度別に検討した。フッ素洗口 (F: 500ppm, pH6.0, 5回/週) を経験した乳歯エナメル質表層1μmにおけるフッ素濃度は, 洗口経験年数が1年から4年に増加するに従い4,300ppmから7,300ppmへと増大し, 非洗口群 (飲料水中フッ素濃度0.1ppm未満) に比較して統計学的に有意に高いフッ素濃度であった。フッ素洗口経験年数を重ねることによるフッ素濃度の上昇傾向は, 1μm層に限られ, 5μm層では対照群のフッ素濃度に比較して統計学的に有意の差は認められなかった。一方, 飲料水由来のフッ素の影響を受けたと思われる乳歯エナメル質フッ素濃度は, 飲料水中のフッ素濃度が1.0ppm以上の場合, 表層1μmのフッ素濃度が10,000ppm前後と著しく高く, 内層40μmにおいても対照群に比較して明らかに高いフッ素濃度を示していた。また1.0ppm以上の群は5μm層以上40μm層にいたるすべての層で対照群あるいは洗口群に比較して統計学的に有意に高いフッ素濃度であった。これに対し, フッ素濃度0.3ppmの群は5μm層では対照群に比較して統計学的に有意の差を認めることが出来なかった。1.0ppm以上の群で表層5μmから内層40μmにいたるまで対照群に比較して一定の高い濃度勾配を示したことは, 乳歯の萌出前・萌出後に獲得されるフッ素の影響によるものと思われる。
著者
大岡 貴史 拝野 俊之 弘中 祥司 向井 美恵
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.88-94, 2008-04-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
28
被引用文献数
17

口腔機能は,摂食・嚥下機能や構音機能など,生活の質の維持・向上,コミュニケーションをはじめとした社会生活を営むうえで重要な役割を担っている.本研究では,在宅高齢者の機能減退に伴う摂食・嚥下機能および構音機能の低下に対して,機能低下の進行を予防するために高齢者自身が行える口腔機能向上における新たな介護予防システムを構築することを目的に,口腔体操が口腔機能の向上に与える効果を検討した.特定高齢者および要支援高齢者計23名(男性4名,女性19名,平均年齢77.9±6.5歳)を対象として,器具を用いない口腔体操および口腔ケアを含む口腔機能向上プログラムを自宅にて約3ヵ月継続して実施した.この介入前後に摂食・嚥下機能および構音機能の改善効果について評価を行い,口腔機能の変化について検討を行った.その結果,口唇閉鎖力および音節交互反復運動の回数に著明な改善がみられた.また,反復唾液嚥下テスト(RSST)においては,介入前の評価で3回の嚥下が行えなかった対象者で明らかな嚥下回数の向上が認められ,初回嚥下までの時間も有意に短縮された.これらより,特定高齢者および要支援高齢者が自宅にて日常的に行える簡便な口腔体操の実践により,摂食・嚥下機能,構音機能をはじめとした口腔機能の向上が得られる可能性が示唆された.
著者
Donald M. BRUNETTE 八重垣 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.536-543, 2011-10-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
3

論文を読むあるいは作成するための,論文の価値判断の指針を解説した.論文の構成要素には,まず「読者(あなた)」が最上位にあり,そしてタイトル・著者・掲載雑誌の位置づけ,要旨(抄録),はじめに,研究方法と材料,結果,考察,結論などの因子がある.そのうえで,読者側からは「読者の印象に残る重要な情報」,そして「読者が個人的に学んだ明確で重要な情報」などの因子がある.読者は,その論文に,どの程度興味を持つことができるか,そして読む価値があるかを,判断しなければならない.そこで,要旨を注意深く読み,「読者が,論文を読む目的」を見つけることが必要となる.「タイトル・著者・掲載雑誌の位置づけ」では,論文に重要な新情報が記載されている可能性や,掲載雑誌のランクなどがわかる.要旨にはいくつかの構成要素があり,要旨を読み,「問題点や新知見」を見つけて論文を続けて読む理由とする.「はじめに」では,探求的で仮説に基づいた研究か否か判定し,研究方法と材料では,読者が実験結果の有効性を確かめ,実験を再現するのに十分な情報を得ることができる.結果では結論の基礎となるデータを十分に知り,考察では「論理のある確固とした結論」にしようとの著者の意図を知ることもできる.一方,「はじめに」で記載された仮説の答えを「結論」で明確に知ることができる.
著者
近藤 武 笠原 香 中根 卓 樋口 壽英 藤垣 佳久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.144-150, 2004-04-30 (Released:2017-12-22)
参考文献数
5

わが国の水道水のフッ素基準値は,0.8 mg/l 以下である.しかし,宝塚市は中等度の斑状歯の発生抑制を目的として,国の基準より低い0.4〜0.5 mg/l 以下で給水している.この基準の妥当性は,この濃度の飲料水を出生時から摂取した児童・生徒の,中等度の斑状歯所有率の減少によって証明される.今回,宝塚市水道局から公表されている,水道水中フッ素濃度の経過と,宝塚市教育委員会から公表されている児童生徒の歯科健診結果から調査した.管末のフッ素濃度は昭和55年度(1980)以降平成12年度(2000)まで,年平均濃度は暫定管理基準を超える濃度はみられなかった.昭和56年度(1981)から63年度(1988)の間に出生した児童・生徒について,斑状歯所有率の経過をみると,平成8年度(1996)では5.3%であったが,平成12年度(2000)には2.3%と減少した.むし歯のない者の割合についてみると,経年的に増加がみられたが,全国的にも同様の傾向がみられたことから,その関係ははっきりしなかった.
著者
岩坪 〓子 鈴木 恵三 今西 秀明
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.242-250, 1991-07-30 (Released:2010-10-27)
参考文献数
26

We made an oral survey of the Tibetans in three quite different areas and got interesting results. The comparative study was made in Karakoram (1974), North-west Nepal (1983), and Yunnan province, China (1989).1) In Karakoram, North-west Nepal, the number of cases of decidous tooth caries was extremely small. On the other hand, it was very great in Yunnan province.2) The eruption age of permanent teeth was quite similar in the three Tibetan areas. Japanese teeth change from deciduous teeth to permanent teeth at a younger age.3) In Yunnan province, the inhabitants had many decayed teeth in the upper front jaw, and few at lower front jaw. The number of decayed deciduous molars was large as in the Japanese.4) Caries surfaces: In Yunnan province, the number of cases of proximal and distal surface caries was great compared with that on occlusal and labiolingual surfaces. Caries in Yunnan province may be closely related to the manner of carbohydrate intake.
著者
清水 都 小島 美樹 井下 英二 真田 依功子 大森 智栄 倉田 秀 森崎 市治郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.241-250, 2022 (Released:2022-11-15)
参考文献数
30

歯科疾患や口腔の不健康とメタボリックシンドロームとの関連が,多くの疫学研究で報告されている.本研究では,壮年期男性における口腔の自覚症状とメタボリックシンドロームおよびそのリスク因子との関連を調べることを目的とした.歯科・医科健診データを用いて,4年間の後ろ向きコホート研究を行った.42歳時点で,メタボリックシンドロームがない者3,519人,肥満(高BMI)をもたない2,574人,高血圧症(高収縮期血圧かつ/または高拡張期血圧)をもたない者2,785人,脂質異常症(高中性脂肪かつ/または低HDLコレステロール)をもたない者2,879人,高血糖症(高空腹時血糖)をもたない者3,604人を解析対象とした.これらの項目別に,46歳時点で各項目を有する者の割合を,42歳時点における口腔の自覚症状の有無で比較した.ロジスティック回帰モデルを用いて交絡要因を調整したオッズ比と95% 信頼区間を算出した.その結果,生活習慣調整モデルでは「う蝕あり」と「歯肉出血」は高血圧症と,「歯肉出血」と「歯肉腫脹・疼痛」は高血糖症と有意に関連していた.生活習慣に加えて全身状態を調整したモデルにおいても,「歯肉出血」と高血圧症,「歯肉腫脹・疼痛」と高血糖症との関連は有意であった.以上の結果より,壮年期男性において,特に歯周病に関係する症状の自覚が,メタボリックシンドロームのリスクとなる状態の発症と関連することが示唆された.
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 酒井 理恵 岩﨑 正則 角田 聡子 邵 仁浩 葭原 明弘 宮﨑 秀夫 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.76-84, 2018 (Released:2018-05-18)
参考文献数
47
被引用文献数
1

【目的】在宅高齢者を対象として簡易嚥下状態評価票(EAT-10)を用いて,嚥下状態と栄養状態の関連について明らかにすることを目的とした.【対象および方法】新潟市の85歳在宅高齢者129名を対象とした.口腔と全身の健康状態に関するアンケートを郵送し自記式にて調査を行った.調査内容は,EAT-10,現在歯数,簡易栄養状態評価(MNA-SF),主観的健康観,老研式活動能力指標,Oral Health Impact Profile-49(OHIP),嚙める食品数である.これらの因子について,EAT-10の合計点数が3点以上を嚥下機能低下のリスク有り群とし,3点未満の群との比較検討を行った.【結果】EAT-10によって,嚥下機能低下が疑われたものは52.7% であった.嚥下機能低下のリスク有り群ではOHIP 高値(p<0.001),嚙める食品数低値(p<0.001)と有意な関連がみられ,主観的健康観で“あまり健康ではない”者の割合が有意に高く(p<0.001),MNA-SFで“低栄養”の割合が有意に高かった(p=0.007).さらに,MNA-SF を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,栄養状態と嚥下機能には有意な関連がみられ,EAT-10の点数が高くなるほどMNA-SF で“低栄養のリスク有りまたは低栄養”となるオッズ比が有意に高かった (p=0.043).【結論】在宅高齢者の嚥下機能低下と低栄養状態との関連性が示唆された.
著者
田嶋 和夫 今井 洋子 田草川 博 堀内 照夫 金子 憲司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.740-750, 2000-10-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
15
被引用文献数
2

フッ化物イオンを含有する泡状製剤のハイドロキシアパタイト(HAP)に対する物理化学的研究から溶液状と泡沫状でフッ化物イオンの吸着に関して,次のことを明らかにすることができた。(1)発泡剤の界面活性剤(SDS)とう蝕予防剤(NaF)は泡沫状態で錯体やイオン対形成などの直接的相互作用をしない。(2)SDSは水分散状態におけるHAP表面にほとんど吸着しない。(3)HAP表面に対するフッ化物イオン(F-)のイオン交換吸着速度は溶液状態より泡沫状態のほうが約10倍速い。(4)人臼歯の切片を用いて,溶液状と泡状でのう蝕予防剤処置後,脱灰処理の結果,泡状のほうが予防効果が大きいことが実験的に証明された。(5)ヘテロ界面電気二重層の理論に従い,イオン交換吸着速度は泡沫状態のほうが速くなる機構を説明することができた。以上より,泡状剤型はフッ素を効率的に歯牙表面に供給できる優れた剤型であることが示唆された。
著者
渡邊 達夫 森田 学 平岩 弘 岸本 悦央
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.220-225, 1984 (Released:2010-10-27)
参考文献数
22
被引用文献数
5 5

徹底した歯口清掃によって, 歯の動揺が改善することはよく知られている。そこで今回は, どのような動揺歯が改善されやすいかを検討した。外来患者114人を対象とし, 2週間毎の来院時には, 徹底した歯口清掃と歯間部の清掃を主目的とした刷掃指導を行った。動揺度の測定は, 初診時, 4週間後, 8週間後に行った。その結果, 4週間後には50%の, また8週間後には56%の動揺歯において改善が認められた。また, 歯の動揺は, 患者の性別, 年齢, 動揺の程度, 歯の解剖学的形態等の宿主因子とは関係なく改善されることが示唆された。位置的関係では, 8週間後において右下1/2顎の歯の動揺の改善が, 他と比べて有意に低いことが示された。歯種別に検討したところ, 左下第一大臼歯が最もよく改善され, 右上第一小臼歯が最も悪いことが示された。
著者
秋山 理加 濱嵜 朋子 岩﨑 正則 角田 聡子 片岡 正太 茂山 博代 濃野 要 葭原 明弘 小川 祐司 安細 敏弘 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.136-146, 2021 (Released:2021-08-15)
参考文献数
37

わが国では,年々超高齢者数が増加している.健康度の高い在宅超高齢者の食生活の実態を把握することは健康寿命延伸の有益な知見になると考えられる.そのため著者らは,在宅超高齢者を対象として,食事パターンを同定し,栄養素摂取量,栄養状態および嚥下状態との関連について明らかにすることを目的として本研究を行った. 新潟市の91歳在宅高齢者86名を対象として,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ),簡易栄養状態評価(MNA-SF),簡易嚥下状態評価票(EAT-10)による調査を行った.食品群別摂取量から主成分分析を行い,食事パターンを同定し,それらと栄養素摂取量の関連を検討した.さらに,各食事パターンと食に関連する因子,MNA-SFおよびEAT-10との関連を比較検討した. 主成分分析の結果,4つの食事パターンが同定された.それぞれの主成分得点三分位によって栄養素摂取量を比較したところ,肉,魚,野菜類の摂取量が多く,ご飯,パンが少ない「副菜型」では,高得点群ほどたんぱく質やビタミンDなどの栄養素摂取量が多く,栄養状態も良好な者が多かった.また,MNA-SFで低栄養と判定された群では対照群と比べて嚥下機能低下のリスクのある者の割合が有意に高かった. さらに,「副菜型」の食事パターンでは居住形態や共に食事をする人の有無との関連も示唆された.
著者
嶋崎 義浩 齋藤 俊行 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.192-197, 2006-04-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
2

老人保健法による歯周疾患検診を想定し,歯周ポケット保有者をCPIを用いた部分診査法で検出する有効性を検討することを研究目的とした.対象は,九州大学病院口腔ケア・予防科受診患者のうち20歯以上歯がある者とした.全顎の歯周ポケット診査結果から4mm以上の歯周ポケットを1歯以上もつ歯周ポケット保有者をCPIコードを用いて検出した場合と,全顎診査法によって検出した場合との一致率を求めた.その結果,CPI代表歯10歯の診査で個人コード3以上を歯周ポケット保有者として検出した場合,全顎診査法との一致率は97.2%であった.老人保健法による歯周疾患検診の基準と全顎診査法との一致率は88.9%であった.検査を簡略化するために臼歯部4分画のなかで第二大臼歯だけを対象とした方法では,全顎診査法との一致率が93.1%であった.また, CPI代表歯10歯の診査でCPIコード3以上の分画数と歯周ポケット4mm以上の歯数との関係を調べたところ,コード3以上の分画数が増えるに従って歯周ポケット保有歯数が増え,CPIの結果から歯周疾患の広がりの程度を示すことができた.これらのことから,CPIを用いた歯周ポケット保有者の検出は,全顎診査法との一致率が高いことが示唆された.また,実際の検診で時間的な制約がある場合には,CPIをさらに簡略化できる可能性が示唆された.